深淵と波導の冒険者   作:片倉政実

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どうも、片倉政実です。今回から今作品の本編の投稿をさせて頂きます。今作品には、メイン主人公の他に数名のサブ主人公がいますが、この章ではメイン主人公のユウヤメインの物語を書いていきます。出来る限り皆様が読み辛さを感じないように書いていくつもりですので、応援の程よろしくお願いします。
それでは、早速第1話を始めていきます。


本章 深淵と波導の冒険者
第1話 夢と戦いの始まり


 黒い雲が空を覆い、激しい雨が降り注ぐ中、決意を胸に秘めた少年少女達は傍らに立つ『仲間』達の存在を感じつつ眼前の巨悪とその仲間を見据えた。その中である者は平和を願い、ある者は大切な者を守るための決心を固め、またある者は遠く離れた者達の身を案じ、彼らのリーダーは必ずこの巨悪を倒してみせると決意を新たにしながら己の心の波をゆっくりと静めた。そして、少年少女達は各々の仲間達に声を掛けると、眼前の巨悪を打ち倒すべく一斉に走り出し、巨悪は妖しい笑みを浮かべながら自身の仲間達に指示を出した。その瞬間、それぞれが放った攻撃が激しくぶつかり合い、彼らの視界に白い光が溢れていった。

 

 

 

 

「……う、ん……?」

 窓から射し込む眩い程の朝日と近くに棲むポッポ達の鳴き声を聞き、『ツキクサタウン』に住む一人の少年が静かに目を覚ました。少年の名前はユウヤ、『ポケモンの言葉を理解する能力』と『波導を使用できる能力』を持つ能力者であり、つい先日10歳になったばかりの新人トレーナーだ。ユウヤは体を起こしながらゆっくりと周囲を見回すと、見慣れた室内の光景や未だ寝息を立てているポケモン達の姿に安心感を覚えた後、軽く腕を組みながらとても不思議そうに首を傾げた。

「夢……か。何だかスゴいリアルな夢だったけど、一体何だったのかな……?」

 先程まで見ていた夢の内容を思い出していた時、ユウヤは自分達の眼前にいた『モノ』の存在に軽い恐怖心を抱き、静かに震える自分の手を見つめながら小さく独り言ちた。

「あれ……本当になんだったんだろう……。何だかとても冷たくて暗くて、とても嫌な感じがした……!」

 恐怖で体が震えるのを感じ、ユウヤはその震えを抑えるために自分で自分を強く抱き締めた。しかし、それでも恐怖や不安とそういった感情がユウヤの中ではグルグルと渦を巻いており、ユウヤの心はそういった物達に徐々に押し潰されそうになっていた。そして、恐怖が強くなると同時に、抱き締める力が更に強くなりかけたその時、窓の向こうから耳慣れた羽音が聞こえ、ユウヤはハッとしながら窓へ視線を向けた。すると、窓の向こうではユウヤの友達であるポッポのウィンが外側の桟に留まっており、ユウヤはその姿にホッと胸を撫で下ろしながら静かに窓へと近づき、朝の挨拶をするために内側の窓をゆっくりと開けた。

「ウィン、おはよう。今日も良い天気だね」

『おう、おはようさん。……なんか不安そうな顔してるけど、何かあったのか?』

「あ、うん……ちょっと怖い夢を見ちゃってね。それがあまりにもリアルな夢だったから、起きた後も怖くなっちゃって……」

『リアルな怖い夢、ねぇ……まあ、ただの夢だって片付ける事も出来るが、それが予知夢って奴だったら何かしらの注意が必要になるだろうな』

「予知夢……うん、そうだね。そうじゃない事を祈りたいけど、今のところは何とも言えないし……」

『確かにな……けど、お前には俺も含めて頼りになるダチも手持ちポケモンもいるし、特殊な能力もあるから、たぶん何とかなる気はするけどな』

「頼りになるって……ふふ、それは自分で言う事なのかな?」

 ウィンの言葉にユウヤがようやく笑みを浮かべると、ウィンは安心した様子でニッと笑った。

『へへっ、自分で言っても問題は無いと思うぜ? 何せ、俺はこの辺りのポッポ達のリーダー様だからな!』

「そうだね。君には今まで色々と助けてもらってるし、確かにその通りかもね」

『でも、それはお互い様だぜ? ウチの群れの奴が森のポケモンとケンカになった時やはぐれた時なんかにはお前の能力に助けてもらってたしな』

「ふふっ、そういえばそうだったね」

 すっかり笑顔を取り戻したユウヤが微笑みながら頷いていたその時、「おーい! ユウヤー!」と窓の向こうから突然元気の良い声が聞こえると、ユウヤはその声の主の元気の良さに軽く苦笑いを浮かべ、その人物を見下ろしながらそれに答えた。

「おはよう、アサヤ君。君も朝から元気いっぱいみたいだね」

「ああ、もちろん! やっぱり『アサヤ』だけに朝から元気よく行かないとな!」

「アサヤだけにって……」

『アサヤ……俺達はそれに対してどんな反応をすれば良いんだ?』

「うーん……別にどんな反応をしてくれて良いぜ? カントーにいる友達も色々な反応をしてくれてたからな」

『色々な反応って……たしか殆どの人は苦笑いだったような気がするけど……』

「あれ、そうだっけ……?」

『……そうだよ』

 不思議そうに首を傾げるトレーナーの事をカルラはジトッとした目で見ていたが、やがて諦めたように溜息をつくと、その様子にユウヤとウィンは顔を見合わせながらクスリと笑った。アサヤは二月程前に父親の転勤についてくる形で『カントー地方』から引っ越してきた新人トレーナーであり、パートナーポケモンのアチャモのカルラと一緒にヤマトリーグへの挑戦を夢見て、日々特訓を続けるいつでも元気いっぱいな10歳の少年だ。引っ越してきた直後、アサヤが探検がてら『ツキクサタウン』を散歩していた時に偶然ウィンと話すユウヤの姿を目撃した事がきっかけで二人は出会う事となり、同じポケモンが好きな者同士二人はすぐに仲良くなった。そして、その後に偶然通り掛かったユウヤの幼馴染みであるミナトも交えて楽しく話をした事で三人は仲の良い友達兼トレーナー仲間として一緒に特訓に励むようになっていた。だがそんなある日、三人で話をしていた時、アサヤはユウヤの傍らにいたパートナーポケモン達の姿を見た際に思わず「……理想個体、か……」と言ってしまい、この世界では聞き慣れないその言葉を発したアサヤにユウヤとミナトの視線が集中した。そしてアサヤは、そのユウヤ達の反応に自分の発言が不自然な物だった事に気付き、慌ててそれを誤魔化そうとしたが、ユウヤの『波導を使う事が出来る能力』でそれを阻止され、アサヤは誤魔化す事を素直に諦め、ユウヤ達の訝しげな視線を浴びながら自分が『転生者』と呼ばれる存在だという事や転生をした事で得た『転生特典』について正直に話した。そして話し終えた後、アサヤは『転生者』というイレギュラーな存在だという事を気味悪がられるかもしれないという不安を感じ、暗い表情を浮かべながら静かに俯いた。しかし、ユウヤ達はそんなアサヤの事をしっかりと受け止めた上で受け入れると、一度顔を見合わせてニコリと笑い合ってからアサヤに心配しなくても良いと声を掛け、不安げに顔を上げるアサヤに対して親しみの気持ちを込めて優しい笑みを浮かべた。そして、それに対してアサヤは安心と信頼の気持ちを込めて微笑み、彼らは握手を交わし合った。それ以来、ユウヤ達の絆は更に深い物となり、毎日一緒に過ごす程の仲になっていたのだった。

 そしてユウヤがそんないつも通りなアサヤ達の姿を見ながら妙な安心感を覚えていたその時、アサヤは何かを思い出した様子で両手をポンッと打ち鳴らし、再びユウヤの方へ視線を向けた。

「……っと、忘れるところだった。なあユウヤ、お前やレイ達さえ良ければ今から軽くバトルしないか?」

「うーん……僕は別に良いけど、レイ達はまだ眠ってたからなぁ……」

 波導の様子からレイ達が眠っている事は分かっていたため、ユウヤはどうしたものかと思いながら軽く腕を組んだ。すると――。

『……なら、俺がユウヤと組もうか?』

 と、ウィンは翼で自分を指し示しながらユウヤにそう提案し、ユウヤはそれに対して嬉しさ半分不安半分といった表情を浮かべた。

「えっと……それは助かるけど、群れの皆のことは良いの?」

『ああ、問題ないぜ。副リーダー始め群れの奴らは、俺がいないとどうにも出来ない奴らってわけでも無いしな。それに……一度ユウヤと組んでポケモンバトルをしたいと思っていたところだったからな』

「ウィン……うん、分かった。それじゃあお願いしようかな。アサヤ君もそれで良いかな?」

「ああ、もちろん! じゃあ、カルラと一緒に『いつもの場所』で待ってるから、出来る限り早く来てくれよな!」

「うん、分かった」

 ユウヤはアサヤ達が走って行った後、ウィンに待ってもらいながら寝間着から外周用の服へ手早く着替えを済ませた。そして愛用の帽子を被り、気持ちをバトル用に切り替えていたその時、『ん……』という眠そうな声が聞こえ、ユウヤ達はクスリと笑いながら声の主の方へ顔を向けた。

「おはよ、レイ、フラン」

『おはようさん、お前達』

『あ……ああ、おはよう』

『……おはよう、ユウヤ、ウィ――あれ、何でユウヤは着替えてるの……?』

「さっき、アサヤ君がバトルをしないかって言ってきてね。それで、今からウィンと一緒にバトルをしに行くところだったんだ」

『ウィンと……か。それは少し興味があるな』

『だね。ユウヤとウィンのコンビのバトルは、何だかんだでまだ見た事が無かったし、私達も何か参考になりそうな物があるかもしれないからね』

『ああ。というわけで、俺達もそれについて行かせてもらっても良いか?』

「うん、もちろん良いよ」

『へへ、俺とユウヤのコンビネーションを見て腰を抜かすなよ?』

『ふっ……それなら、そうならないように気をつけるとしようか』

『ふふ、そうだね。ウィンこそパートナーポケモンの私達に笑われないようなバトルを見せてよね?』

『おうよ!』

 ルカリオのレイとミミッキュのフランの言葉にウィンがニッと笑いながら返事をする中、ユウヤはポケモン達のそんな仲睦まじい様子に微笑み、帽子を被り直して気持ちを改めて整えた。

「よし……それじゃあ行こう、皆」

『ああ』

『うん!』

『おうよ!』

 そして、ウィンを腕にしっかりと留まらせ、ユウヤはレイ達と一緒に部屋を出た後、キッチンで朝食の準備を整えていた母親と軽く話をしてからアサヤ達が待つ『いつもの場所』へ向かうべくワクワクとした気持ちを感じながら家を出発した。

 

 

 

 

 数分後、ユウヤ達が町外れにあるバトルフィールドに着くと、先に待っていたアサヤが待ち侘びた様子でユウヤ達に声を掛けた。

「待ってたぜ、ユウヤ、ウィン! それとレイにフランもな!」

『朝からポケモンバトルとは……本当に元気な奴だな』

「へへっ、やっぱりポケモンリーグの挑戦を目指すからには、バトルをして強くならないといけないからな」

『まあ、それはそうだけど……カルラもこのバトルには乗り気なの?』

『うん、それはもちろんだよ。僕達はチャンピオンを目指してここまで頑張ってきたからね』

『チャンピオンか……それは立派な願い事だが、そのためにはまず俺とユウヤを倒さねぇとな!』

「うん……僕もアサヤ君達のようにポケモンリーグに挑戦するつもりだからね。頼まれても手加減はしないよ!」

「ははっ、手加減なんてされたら本気で怒るところだぜ? 『いい加減にしろ!』ってな!」

『……手加減されて、いい加減にしろ、か……。どうやらアサヤは今日も絶好調みたいだな……』

「あはは……さっきもアサヤだけに朝から元気にいかないとって言ってたしね」

『あ……さっきもだったんだ。最初は違和感もあったけど、今となってはアサヤの元気のバロメーターを測るための物みたいな感じだよね。ギャグを言えるだけの元気があるかどうか……みたいな』

『……それは否定できねぇな』

 アサヤのギャグについてフランとウィンが話すのを聞きながら軽く苦笑いを浮かべた後、ユウヤは気持ちを改めて整えながらレイ達に指示を出した。

「それじゃあ……レイは審判役をお願い、そしてフランは僕達のバトルを見ていてね」

『ああ、分かった。ユウヤ達なら心配はいらないと思うが、油断せずにバトルに臨んでくれ』

『ユウヤ、ウィン、頑張ってね!』

「うん、ありがとう」

『ありがとな、お前達!』

 そしてウィンを腕に留まらせたままでユウヤは位置に着くと、向かい側に立っているアサヤに声を掛けた。

「アサヤ、さっきも言ったけど手加減は一切しないからね」

「ああ、もちろんだ! ユウヤ、ウィン、お前達の絆って奴を見せてもらうぜ!」

『そしてその上で、僕達は君達に勝ってみせるよ!』

『へっ、それはこっちの台詞だぜ! ユウヤ、俺達の力をアイツらに見せてやろうぜ!』

「うん!」

 そして審判役のレイは、両者の準備が整っている事を確認すると、大きな声でユウヤ達に呼び掛けた。

『では……これからユウヤとアサヤのポケモンバトルを開始する。使用ポケモンは一体のみ、よってどちらかが先に戦闘不能になった瞬間、バトルは終了とする。改めて訊くが、両者とも準備は良いな?』

「うん、大丈夫だよ」

『俺も問題ないぜ!』

「同じく問題ないぜ!」

『いつでも始めて良いよ、レイ!』

『分かった。それでは――バトル開始!』

 その言葉と同時に、ユウヤとアサヤのバトルが幕を開けた。




第1話、いかがでしたでしょうか。他にも一人称視点でのポケモンの二次創作作品を投稿していますが、今作品は三人称視点で進めていきます。そして、今回はバトルの直前で終わりましたが、バトルまで入れるとかなり長くなると思い、バトルは次回に回す事にしました。なので、次回の投稿まで楽しみにして待っていて頂けると、とても嬉しいです。
他作品同様、今作品の投稿頻度は低めになるかと思いますが、出来る限り週1での投稿を心掛けたいと思っています。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。

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