それでは、早速第3話を始めていきます。
リュウガ達とそれぞれの家の前で別れた後、ユウヤはウィンを肩に乗せたままレイ達を伴って家へ向かってのんびりと歩いていた。
「ん……さっきも思ったけど、やっぱり今日は本当に良い天気だね」
『うん、だね。こんなに良い天気の日には、皆で一緒に日向ぼっこをしたいところだけど、あのアサヤの様子だとちょっと無理そうだね』
『そうだな。まあ、アサヤ達と一緒にいるのは嫌いでは無いし、それならそれでも良いけどな』
『へへっ、違ぇねぇや。にしても……本当に良いのか? 俺がお前達の家で朝飯をご馳走になっちまって……』
「うん、もちろんだよ。バトルのダメージ自体は、リュウガさんに何とかしてもらったけど、バトルで頑張ってもらった分、お腹は空いているだろうし、お礼もしたかったからね」
『……そうか』
微笑むユウヤに対して笑みを返した後、ウィンは体を軽く上に気持ち良さそうに伸ばし、ユウヤ達の事を見ながら再び笑みを浮かべた。
『んじゃあ、せっかくだしその申し出を受けるとするかな。群れの仲間達には悪ぃが、後でその分――いや、それ以上に働く事でどうにか良い事にしてもらえば良いしな』
『本当にそれで良いって言ってもらえれば良いけどね……前に群れのポッポ達から聞いたんだけど、副リーダーのあの子って怒ると結構怖いんでしょ?』
『んー……俺はそう思わないけど、確かに怖いって思う奴はいるだろうな。けどな、アイツは根は本当に良い奴なんだぜ? 困ってる奴の相談にはきちんと乗るし、仲間に対して変に強く当たる事もねぇ。だから、俺はいつも安心して群れの仲間達の事をアイツに任せられるんだ』
「……ふふ、ウィンはあの副リーダーの事を本当に信頼してるんだね」
『おうよ! 俺が求めてるのは、ただ真面目な奴とか自分の妙な拘りに囚われて他の奴を否定するような奴とかじゃなく、仲間をしっかりと想いながらきちんと纏め上げられる奴だからな。そう意味では、アイツにはリーダーとしての素質があると思ってるぜ』
『リーダーとしての素質、か……』
『まあ、俺にそれがあったから前リーダーから次のリーダーとして認められたかは分からねぇ。昔の俺は、結構やんちゃな事ばかりしてきたからな。けど、俺にとってのリーダーってのは、仲間達を従えるだけの存在じゃなく、仲間をしっかりと次の未来へと導ける、そんな存在だからな』
「仲間をしっかりと次の未来へと導ける……か。うん、確かにそういう人になら僕もリーダーになって欲しいかもしれない」
『へへっ、だろ? だから、俺は今でもそういうリーダーを目指しているんだ。確かに今も群れの仲間達からは信頼されてると思ってるし、多少は拙いところはあれどリーダーとしての責務は果たしてると思ってる。けど、俺が目指すリーダー像にはまだまだ程遠い。言ってみれば、ポケモンとしてもリーダーとしてもまだまだ俺は
「……そっか。それじゃあお互いに頑張っていかないといけないね。そういう言い方をすれば、僕も人間としてもポケモントレーナーとしてもまだまだ進化前だから。だから、目指すはメガシンカ……なんてね」
『メガシンカか……ははっ! 良いな、それ! どうせ目指すんならそれくれぇでっけぇ物の方が良いからな!』
「うん、そうだね。今回は何とかアサヤ君達と引き分ける事が出来たけど、今度もそこまで持ち込めるかは分からないし、旅に出る以上はもっと強いトレーナーとの出会いだって待ってる。だから、それくらいの心積もりでいないとチャンピオンなんてとてもじゃないけど目指せないからね」
『……だな』
ユウヤがニコリと笑うのに対し、ウィンが少しだけ寂しげに微笑んでいた時、『……ん、誰か家の前にいるな……』とレイが不審そうな声を上げ、ユウヤ達は会話を一度打ち切ってレイの視線の先に注目した。するとそこには、レイの言葉通り家のドアの前に宙に浮く何かを連れ、小さな装飾品が付いたリュックサックを背負った誰かが立っていたが、その人物はドアをノックするでも無く少し俯きながら立っているだけだったため、ユウヤはその人物の様子に小首を傾げた。
「誰だろう……見た所、僕やミナトちゃんと同い年くらいみたいだけど……」
『だな……今まで見た事無い奴だし、もしかしたらアサヤみたいにこの町に引っ越してきた奴じゃねぇのか?』
「うーん……でもそうだとしたら、誰か保護者が傍にいるんじゃないかな?」
ウィンの言葉にユウヤが疑問の声を上げる中、レイは目を閉じながら『房』と呼ばれる器官を使って周囲の波導を探った。そしてそれを終えると、首を静かに横に振りながらユウヤに話し掛けた。
『……やはり、見慣れぬ人間の波導の気配は無いようだ。つまり、あの子がこの町に引っ越してきた誰かという可能性は低いだろうな』
「そっか……」
『どうする? とりあえず話を聞いてみた方が良いと思うけど……』
「……そうだね。あの子が誰であれ、もし困っているなら放っておけないしね」
『……分かった。だが、油断はするなよ』
「うん」
レイの言葉にコクンと頷きながら答えた後、ユウヤはその人物達の波導の様子に注意を向けながらゆっくりと近付いた。そしてすぐ近くまで来た時、出来るだけ驚かせないようにしながら声を掛けた。
「あ、あの……」
「……え?」
不思議そうに振り向いた瞬間、その人物――水色のワンピース姿の薄紫色の髪の少女の波導に怯えを表す色が浮かび、少女はギュッと握った両手を顔の近くまで引き上げながら今にも叫び出しそうな表情を浮かべた。
「だ、誰……!?」
「あ……えっと、ここの家の住人なんだけど……僕の家に何か用事だったのかな?」
「ここの……家の人……。そ、それじゃあ……シロツメ博士の甥っ子さんっていうのが、貴方……なの?」
「そうだけど……シロツメ伯母さんに一体何の――」
ユウヤが質問を投げかけたその時、家のドアがゆっくりと開くと同時に、中からとても嬉しそうな女性の声が聞こえた。
「……ふふっ、もう着いていたのね、『カルミアさん』」
「……あ、お久しぶりです、シロツメ博士。ククイ博士の研究所で画面越しにお話をして以来……ですよね?」
「ええ、そうね。途中で『ツキクサのもり』のポケモン達に襲われたりトレーナーにバトルを申し込まれたりしなかった?」
「えっと……他のトレーナーさんには会いませんでしたけど、ポケモンに悪戯されたり追い掛けられたりはしました……」
「あはは、やっぱりそうだったのね。あの森には、色々なポケモンが棲んでいるから、もしかしたらと思っていたのよ。でも、こうして無事に会えて良かったわ」
「はい……私達もです」
シロツメ博士とカルミアの間で会話が交わされる中、ユウヤは何が何だか分からない様子でシロツメ博士に話し掛けた。
「シロツメ伯母さん……この子は?」
「ああ、ユウヤ君達は初めましてだったわね。この子はカルミアさん、『アローラ地方』から来た貴方やミナトちゃんと同じ新人トレーナーよ。そして、隣にいるのはベベノムという『
「『アローラ地方』……確かポケモンジムは無いけど、ジムリーダーに相当する実力のトレーナーであるキャプテンがいて、この土地特有の姿の『リージョンフォーム』のポケモンが棲んでいるところですよね?」
「うん、その通り。流石はユウヤ君ね。それで、カルミアさんとは博士仲間のククイ君経由で知り合ったんだけど、カルミアさんがこの地方に来たのにはある理由があるのよ」
「ある理由……?」
「ええ。でも、それを説明する前に……まずはご飯にしましょうか。ユウヤ君達はもちろんだけど、カルミアさんも朝はまだ何も食べてないんじゃない?」
「え、えっと……はい。早くここに着きたかったので、一つ前の街はそのまま素通りしてきましたから……」
「そうでしょうね。という事で、まずは朝ご飯にしましょう。今からでも量の都合はつくはずだし、この話は出来るならミナトちゃんとアサヤ君にも聞いてもらいたいからね」
「「分かりました」」
『……まあ、そういう事なら』
『うん、仕方無さそうだよね』
『……やれやれ、今日は朝っぱらから盛り沢山な一日みてぇだな』
『わーい! みんなでご飯だー!』
ルベリとシロツメ博士を除いて各々思うところはあったものの、シロツメ博士の言う事は尤もだったため、ユウヤ達は大人しくそれに従い、揃って家の中へと入っていった。
朝食後、ミナトとアサヤに研究所に来てくれるよう電話で連絡をした後、ユウヤは受話器を置きながら小さく溜息をつき、先程の朝食時の事を思い出した。カルミアの事をユウヤの両親に紹介し終えた後、ユウヤ達は朝食を食べ始めたが、その間シロツメ博士はカルミア達の事情については何も話さず、『アローラ地方』の事などを話したり、カルミア達の旅の様子について訊いたりしていたため、ユウヤ達はカルミア達の事情について訊こうと思っても中々訊けずにいたのだった。
「カルミアちゃん達がこの地方に来た理由って一体何なんだろうね?」
『さてな……だが、シロツメ博士は研究所に行ったら話すと言っていた。それなら、研究所に行くまで気にしないでいた方が良いんじゃないのか?』
『そうだけど……やっぱり気になるものは気になるというか……』
『まあな……さっき、ユウヤが話し掛けた時の怯えようからするにあまり気は強くないみたいだし、よほどの事情があるんだろうな……』
「うん、そうだね……」
カルミア達の事情についてユウヤ達が話をしていたその時、レイの『房』がピクリと動き、レイとユウヤはハッとしながら背後へ視線を向けた。するとそこには、楽しそうに笑みを浮かべるルベリの姿があった。
「君は……ルベリ、だっけ?」
『うん、そう! シロツメ博士がそろそろ出発するから呼んできてって言ってたよ!』
「……うん、分かった。ありがとうね、ルベリ」
『どういたしまして!』
とても嬉しそうに答えるルベリの姿にユウヤも笑みを浮かべていた時、肩に留まっていたウィンが少し不思議そうに独り言ちた。
『それにしても……ルベリの言葉は俺達ポケモンですら結構難しいのに、ユウヤには普通に解っちまうなんてやっぱり不思議だよな……』
「そうだね……昔からこの能力に頼ってきたけど、まだまだ謎が多いなぁ……」
『でも、ボク的には大助かりだよ? ユウヤ君のおかげでカルミアちゃん達にボクの気持ちをしっかりと伝えられるわけだしね』
『そうだな……俺とユウヤなら言葉が分からなくとも波導で大体の気持ちを感じる事は出来るが、ルベリにはそれが出来なかったからな』
『そういう事。……さてと、それじゃあそろそろ行こっか。このままみんなとお話ししたいところだけど、シロツメ博士達を待たせちゃダメだもんね』
「それもそうだね。よし……それじゃあ行こうか、皆」
『ああ』
『うん!』
『おう!』
『おー!』
ポケモン達の返事に頷きながら答えた後、ユウヤは彼らを連れてシロツメ博士達が待つ居間へ向かって歩き始めた。
シロツメ博士達と一緒に家を出た後、一度群れの仲間達の元に戻ると言うウィンと別れ、ユウヤ達は話をしながら研究所へむかってあるきつづけた。そしてそれから約十数分後、シロツメ博士の研究所が見えてくると、入り口の前には既にミナト達の姿があり、ユウヤは嬉しそうな笑みを浮かべながら走っていった。
「ミナトちゃん、アサヤ君、お待たせ!」
「……あ、ユウヤ君!」
「よっ、さっきぶ――」
片手を上げながらユウヤに答えていたアサヤの声が途切れたかと思うと、アサヤの視線はユウヤの後方にいるカルミアの傍で浮かぶルベリへと注がれ、表情は嬉しさと驚きが入り混じった物へと変わっていった。
「ベ、ベベノム!? ほ、本物……!?」
「う、うん……」
「凄え……まさか『UB』に会えるなんて……! ユウヤ、何でさっきの電話の時に教えてくれなかったんだよ……!?」
「えっと……カルミアちゃんの件はともかく、ルベリの事はあまり特筆して言う事でも無いかなと思って……」
「いやいや、『UB』なんて本当なら滅多に見られる物じゃ無いからな!? 『ウルトラホール』の先に行ったり、迷い込んだりしてくるのを待ったりするくらいしか方法は無いんだからさ!」
「つまり……アサヤ君的にはスゴい事なんだね……?」
「そうだよ! 本当にスゴい事なんだよ!」
アサヤが大きく頷きながら目をキラキラとさせ、そのアサヤのテンションにユウヤはミナトと顔を見合わせながら共に苦笑いを浮かべていたが、シロツメ博士達がすぐ近くまで来た事を感じ取ると、クルリと振り返った。そしてシロツメ博士は、ユウヤ達の目の前でピタリと足を止めると、カルミア達を前に出しながらミナト達に微笑みかけた。
「こんにちは、ミナトちゃん、アサヤ君。突然連絡をしたのに、よく来てくれたわね」
「いえ、シロツメ博士には色々とお世話になってるので、このくらい当然です」
「そうですよ、シロツメ博士。それで……その子が電話でユウヤが言っていたアローラから来た子ですよね?」
「そうよ。カルミアさんは貴方達と同い年だし、同じ新人トレーナーでもあるから、仲良くしてあげてね」
「「はい」」
ミナトとアサヤは同時に返事をすると、少し不安げに自分達を見つめるカルミアにニコリと笑いかけた。
「初めまして、カルミアちゃん。私はミナト、ユウヤ君の幼馴染みで同じ新人トレーナーだよ。よろしくね」
「それで、俺はアサヤ。出身はカントーだけど、父さんの仕事の都合でこの地方に引っ越してきたんだ。よろしくな!」
「は、初めまして……カルミアです。出身は
「うん、よろしくね。ところで……さっき、出身は一応アローラって言ってたけど、それって……?」
「え、えっと……それは……」
カルミアが答えづらそうにしながらシロツメ博士の顔をチラリと見ると、シロツメ博士はコクンと頷きながら真剣な表情で話を始めた。
「実は……こうして集まってもらった理由というのが、それにも関係する事なのよ」
「カルミアちゃんの出身に関係する事……ですか?」
「ええ……この中で『Fall』という言葉に聞き覚えある人はいるかしら?」
「『Fall』……『ウルトラホール』を通った事がある人物を指す言葉ですけど……え、まさかカルミアがそうだって事ですか!?」
「その通りよ、アサヤ君。彼女は『ウルトラホール』を通ってこの世界に迷い込んだ『Fall』……もっとも彼女にはどんな世界に元々住んでいたかという記憶は無いみたいだけどね」
「記憶が……無い?」
ユウヤが疑問の声を上げていると、アサヤは腕を組みながら納得顔でその疑問に答えた。
「『Fall』にも実は種類があってさ、自分から何らかの方法を用いて『ウルトラホール』を通ってなった場合と迷い込んだり巻き込まれたりしてなった場合があって、カルミアの場合は後者なんだ。そして『Fall』には、『ある特性』が存在する」
「ある特性……?」
「ああ、それがベベノムのように『UB』と呼ばれる特殊なポケモンを引き寄せるという特性で、このルベリは友好的みたいだけど、基本的に引き寄せられた『UB』は攻撃的になるらしい。それで引き寄せられる理由としては、こっち側に渡ってきた『UB』が『Fall』を『ウルトラホール』だと思い込んでしまう帰巣本能による物だったはず。まあ、『ウルトラホール』を通る手段なんて本当に限られてるし、今のところ『アローラ地方』ぐらいでしか観測もされてないけどな」
アサヤが説明を終えると、カルミアはアサヤを見ながら驚愕の表情を浮かべ、シロツメ博士はニコリと笑いながらパチパチと拍手をした。
「流石はアサヤ君ね。それで、そんなカルミアさんには今のところ唯一の肉親である同じく『Fall』のお姉さんがいるんだけど、そのお姉さんが少し前に行方不明になったのよ」
「行方不明……でも、ここにカルミアちゃんが来たという事は、そのお姉さんがこの『ヤマト地方』で見つかったという事ですよね?」
「ええ、そうよ。目撃者の証言では、同い年くらいの男の子達と一緒にいたようなんだけど、目撃されたのも結構前のようだから直接そこに行ったところで今更見つかるとは思えない。そこで、さっきアサヤ君が説明をしてくれた『UB』と『Fall』の関係性を利用しながら旅をする事で、お姉さんを捜そうという事になったのよ。幸いにもこのルベリなら『Fall』にも攻撃的にはならないようだし、たとえ見つけてもお姉さんに襲い掛かる恐れは無いからね」
「お姉さんを捜すためにこの『ヤマト地方』に……」
「うん……ククイ博士やリーリエさんみたいにこっちに来てから出来た家族みたいな人達はいるけど、血の繋がりがある家族はアザレアお姉ちゃんだけだから……」
「なるほどな……確かに家族が突然いなくなったら、スゴく心配になるよな。それも唯一の肉親となれば、尚更そうだろうし……」
「そうだよね……」
事情を知ったミナトとアサヤ、そしてレイとフランが俯きながら暗い表情を浮かべる中、ユウヤだけは真剣な表情を浮かべながらシロツメ博士に話し掛けた。
「シロツメ伯母さん、ミナトちゃん達にも聞いてもらいたいって言ってたのは、僕達が旅に出た時にそのアザレアさんを見つける可能性があるからですよね?」
「ええ。一応、カルミアさん達の知り合いの国際警察の人もアザレアさんを捜してくれてるけど、誰かを見つけるなら捜してくれる人が多い方が良いからね。それにユウヤ君には波導が、ミナトちゃんには色々な人と仲良くなれるだけの力が、そしてアサヤ君にはポケモンなどについての知識がある。だから、君達を頼る事にしたのよ」
「なるほど……」
「君達が旅に出たい理由はもちろん分かってるし、この件について強制をするつもりも無いわ。けど、君達さえ良ければアザレアさんを捜すために協力をしてあげて欲しいのよ」
「シロツメ伯母さん……」
シロツメ博士とカルミアが見つめてくる中、ユウヤがミナト達と顔を見合わせると、ミナトとアサヤは答えは決まっているといった様子でコクンと頷き、ユウヤはそれに対して微笑みながら頷き返した。そしてシロツメ博士達の方へ向き直ると、ニコリと笑いながら静かに口を開いた。
「もちろん、僕達も協力させてもらいますよ、シロツメ伯母さん。困っている人や哀しんでいる人は放っておけないですから」
「……ありがとう、皆。旅をしながらの人捜しは大変だと思うけど、よろしくお願いね」
「はい、任せて下さい、シロツメ博士!」
「ドーンとサントアンヌ号――いや、サントアンヌ号はちょっとマズいから……シーギャロップに乗ったつもりで気持ちで待っていて下さいよ」
「……ふふっ。ええ、そうさせてもらうわね」
ミナト達の言葉にシロツメ博士が安心した様子で微笑むと、カルミアは嬉し涙を浮かべながら「ありがとうございます……!」とユウヤ達に深く頭を下げた。すると、ミナトは一歩前に踏み出してからカルミアの手を取り、ハッとしながら顔を上げるカルミアに対して微笑みながら首を横に振った。
「困っている時はお互い様だよ、カルミアちゃん。誰かが困っていて自分が何か手伝えるなら協力をする。これはトレーナーじゃなくても当然の事だからね」
「ミナトさん……」
「あ、それと……ユウヤ君と話す時と同じく私にも丁寧語は使わなくて良いよ。同い年の子からそういう話し方をされると、なんかちょっとこそばゆいしね。アサヤ君もそれで良いでしょ?」
「ああ、もちろんだぜ!」
「二人とも……うん、分かった。それじゃあ改めてよろしくね、ミナトちゃん、アサヤ君」
「うん、よろしくね、カルミアちゃん」
「よろしくな、カルミア!」
ミナトとアサヤがカルミアと握手を交わす中、シロツメ博士はその様子を微笑ましそうに見ていたが、やがて何かを思い出したように両手を軽く打ち鳴らした。
「そうだ……ミナトちゃん達にも来てもらった理由がもう一つあったんだったわ」
「もう一つの理由……ですか?」
「ええ。という事で、皆ちょっと中まで一緒に来てもらっても良いかしら?」
『はい』
『はーい』
揃って返事をした後、ユウヤ達はシロツメ博士の後に続いて研究所の中へと入っていった。そして忙しそうに研究を行っている研究員達と軽く挨拶を交わしながら歩き続け、シロツメ博士の研究室へと入った。すると、まず目に入ってきたのは室内に置かれた長机であり、その上にはユウヤが持っているようなポケモン図鑑とタウンマップ、そして小さなカードのような物などが置かれていた。
「これって……」
「ええ、この前から頼んでおいたミナトちゃんとアサヤ君用のポケモン図鑑と皆分のタウンマップにポケギア、それとユウヤ君達三人分のトレーナーカードよ。ユウヤ君達が旅に出たいと思って、少しずつ準備をしていたのはもちろん知っていたから、予め準備をしておいたのよ」
「シロツメ博士……本当にありがとうございます!」
「どういたしまして。さてと……それじゃあそれぞれ相談しながら自分の分を取っていってくれるかしら?」
『はい!』
ユウヤ達は目を輝かせながら返事をすると、机の前に移動して相談を始めた。そして約数分後、相談を終えたユウヤ達はそれぞれの物と決まった物達を手に取った。
「それじゃあ、僕はこの青のポケギアだね」
「それで、私はこのピンク色のポケモン図鑑とポケギアで」
「俺は赤色のポケモン図鑑とポケギア」
「そして私は、この紫色のポケギアだね」
ユウヤ達が手に取ったそれぞれの図鑑やポケギア、タウンマップを嬉しそうに眺める中、シロツメ博士はそんなユウヤ達の様子を見ながらクスリと笑った。
「うんうん……皆、よく似合ってるわ。これで明日からでも旅に出る事は出来そうね」
「ですね。ところで……ポケッチとかポケナビとかじゃなく、ポケギアにしたのは何か理由があるんですか?」
「ええ。ポケギアならたとえタウンマップが無くなってもマップカードを差せばマップが見られるし、ジョウトのようにこっちにもラジオ局があるからラジオも聴ける。それに、電話をする事でお互いに連絡も取り合えるからね。もちろん、そのためのカードは既に差してあるから、今すぐにでも使う事が出来るわ」
「何から何まで本当にありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして。それで、皆はいつから旅に出るのかしら?」
「そうですね……一応準備は進めていましたけど、明日だとちょっと早い気がするので、明後日にしようかと思います」
「私もそうしようかな……アサヤ君はどうする?」
「俺もそうするよ。お前達と一緒に旅立ちたいのもあるけど、やっぱり旅に出る前にこの町をもう一度じっくりと見ておきたいからさ」
「そう。そして……カルミアさんはどうする?」
「私……ですか?」
「ええ。お姉さんを早く見つけたいから今日出発したいというなら止めはしないけど、もしカルミアさんさえ良ければ、ユウヤ君達が旅立つのに合わせて出発したらどうかなと思うんだけど……どうかしら?」
「ユウヤ君達と一緒に……」
「お姉さんを捜すために旅をする以上、他のトレーナーとのポケモンバトルは避けられないし、旅先で様々な人と交流する時だってあるわ。でも、さっきまでの様子を見る限り、カルミアさんはあまり他の人達と話す事が得意では無いでしょ?」
「それは……そうですね……」
「だから、旅立ちの日をユウヤ君達と一緒にする事で、それまでの間にユウヤ君達とポケモンバトルの特訓も出来るし、同い年の子との交流の機会を持つ事も出来るから、誰かと話すという事の練習も出来るわ」
「な、なるほど……」
「まあ、どうするかはカルミアさんに任せるけど、カルミアさんはどうしたい?」
シロツメ博士が微笑みながら問い掛けると、カルミアは「えっと……」と少し迷った様子を見せながらルベリの方へチラリと視線を向けた。すると、ルベリはカルミアの目をジッと見つめ返し、ニコリと笑いながら大きく頷き、その様子にカルミアは「……うん、そうだよね」と微笑みながら頷き返した後、シロツメ博士の方へ視線を戻した。
「それじゃあせっかくなのでお言葉に甘えさせてもらいますね。早くお姉ちゃんを見つけたいという気持ちはもちろんありますけど、あまり焦ってしまっても仕方ないですし、自分が成長出来るかもしれないチャンスを逃してしまうのは、やっぱり勿体ないですから」
「ふふ、そうかもしれないわね。さて、と……それじゃあ滞在中は研究所の居住スペースを――」
その時、ミナトが「あ、それなら――」と何かを思いついた様子で手を上げると、全員の視線がミナトへと集中した。そしてミナトは、全員の視線を浴びながらもう一度カルミアの手を取ると、カルミアへ向かってニコリと笑った。
「ここにいる間は、私の家に泊まったらどうかな?」
「ミナトちゃんのお家に……?」
「うん! まあ、お母さん達には話をしないといけないけどね。でも、カルミアちゃんさえ良ければそうしたいと思うんだけど、どうかな?」
「う、うん……私はもちろん良いんだけど、本当に良いの……?」
「うん! 私、もっとカルミアちゃんとお話がしたいんだ。『アローラ地方』の事とかそのお姉さんの事とか他にも色々と!」
「ミナトちゃん……うん、私もミナトちゃんとお話ししたいな」
「よし、それじゃあ決定だね!」
「うん!」
ミナトとカルミアが仲良く笑い合う中、それを見ていたアサヤが少し驚いた様子でポツリと呟いた。
「何というか……ミナトって本当にすぐ誰かと仲良くなるよな……」
「うん、それがミナトちゃんの特技みたいな物だから。踏み込みすぎない程度に話をしながら少しずつ相手との距離を詰めて行く、それがミナトちゃんのやり方なんだよ」
「ははっ、なるほどな。でも、誰かとすぐに仲良くなれるのは、お前も一緒だろ? 人ともポケモンともさ」
「……ふふっ。うん、そうかもね」
そして、ユウヤとアサヤも顔を見合わせながら笑っていたその時、こちらに向かってくる二つの波導を感じ、ユウヤはハッとしながら研究室のドアの方へ視線を向けた。すると、ドアがゆっくりと開いていき、ドアが完全に開ききった瞬間にとても嬉しそうな声が研究室に響き渡った。
『わぁ……! ユウヤ、本当に来てたんだね!』
「うん、ちょっと用事でね。ホムラこそよく僕が来てるって分かったね」
『うん! さっき、研究所の人達が話してるのを聞いて、『ミカゲ』と一緒に急いでここまで来たんだ!』
ホムラと呼ばれた炎が灯った尻尾を持つオレンジ色のトカゲ型のポケモン――ヒトカゲは嬉しそうな様子で答えると、入口の陰から首回りを白い泡のような物で覆った『薄い水色』のカエル型のポケモンであるケロマツのミカゲがゆっくりと姿を現した。
『……騒がしくしてしまい、誠に申し訳ありません、皆様。ユウヤ殿がいらっしゃったと聞いた途端、脇目も振らずに走っていってしまったもので、止める暇すらありませんでした……』
「ううん、それは別に良いよ。賑やかなのは嫌いじゃないし、わざわざ会いに来てくれたのはとても嬉しいからね」
「そうそう。それに、お前達と一緒にいるのはとても楽しいしな」
『ああ、そうだな』
『ホムラもミカゲも手持ちでは無いけど、私達の大切な仲間だしね』
『皆様……ありがとうございます』
ユウヤ達の言葉でミカゲの表情は和らぎ、緊張と不安の色に染まっていた波導も徐々に安らぎと喜びの色へと変わっていった。ホムラとミカゲの二体は、ユウヤがリュウガとバトルを行った日に研究所へと送られてきた他地方の初心者用ポケモンなのだが、ミカゲは見慣れぬ人間の姿ヘの警戒心から、そしてホムラは臆病な性格から中々研究所のポケモン達や研究者達に近付こうとしなかった。しかし、ユウヤの能力やレイ達との交流を通じて徐々に心が開いていき、今ではポケモン達や研究者達とも普通に接するようになったのだった。
そして、ミカゲはホムラと共に嬉しそうな様子でユウヤの事を見ていたが、やがて不思議そうな視線を向けてくるカルミアとルベリの存在に気付くと、同じく不思議そうな様子でユウヤに話し掛けた。
『ユウヤ殿、こちらの方々は?』
「カルミアちゃんとパートナーのルベリだよ。行方不明になっているお姉さんを捜すために、別の地方から来たんだ」
『なるほど……そうでしたか』
ミカゲはユウヤの言葉に静かに頷くと、ホムラと共にカルミア達の方へ体を向け、恭しく一礼をした。
『初めまして、カルミア殿、ルベリ殿。拙者はケロマツのミカゲ、この研究所にてお世話になっているポケモンの一匹です』
『初めまして。私はホムラ、ミカゲと同じくこの研究所でお世話になっているポケモンの一匹だよ、よろしくね』
「うん、よろしくね」
『よろしくねー!』
ホムラ達がカルミア達に自己紹介をする様子をユウヤは少しだけ不安そうに見ていたが、初対面であるカルミアとルベリに対してホムラの波導や目に怯えの色が無かった事で、ユウヤは心から安心した様子でふうと息をついた。
「……ホムラがカルミアちゃん達とも仲良くなれそうみたいで本当に良かった……」
「ふふっ、そうだね」
「滞在中は何回か研究所に来る事になるだろうし、早めに仲良くなれるならそれに越した事は無いもんな」
「うん、そうだね」
ユウヤはミナトとアサヤの言葉に頷きながら答え、早速楽しそうに話し始めるポケモン達の姿にクスリと笑った。
数時間後の昼頃、研究所で仕事をするために残ったシロツメ博士や一度それぞれの家へと戻っていったアサヤ達と別れ、ユウヤ達は話をしながら家への道を歩いていた。
「……さてと、今日の午後はどんな特訓をしようかな?」
『そうだな……せっかくカルミアもいる事だし、誰かとタッグを組んでのバトルというのはどうだ?』
『あ、それ面白そうだね!』
「うん、僕も面白そうだと思う。旅先でそういうバトルをする事もあるだろうし、一度はやってみるのも良いかもしれないね」
レイの提案にユウヤはニコッと笑いながら頷き、どんなタッグでバトルをしてみたいかについて考え始めた。そして家のすぐ近くまで来たその時、『皆さん、少しよろしいですか?』という声が近くから聞こえ、ユウヤ達は少し不思議そうにしながらそちらに視線を向けた。すると、視線の先には一本の樹が植えられており、その枝に留まっているポッポの姿にユウヤは少し驚いた様子で声を掛けた。
「シエル、ウインじゃなく副リーダーの君が群れから離れてるなんて珍しいけど、どうかしたの?」
『はい、皆さんに伝えたい事がありましたので』
『伝えたい事……?』
『はい。ですがその前に……皆さん、先程明後日にこの町を旅立つという話を聞きましたが、それは本当ですか?』
「うん、そのつもりだよ」
『元々、いつかは旅に出る予定だったからな』
『そうですか……でしたら、明日まではこの町に確実にいらっしゃいますよね?』
「うん、そうだけど……」
『では……明朝、町外れのバトルフィールドまでおいで頂けますか?』
「町外れのバトルフィールド……ああ、今朝ウインにアサヤ君とのバトルで頑張ってもらった場所だね? うん、分かった」
『ありがとうございます。では、私はこれで』
そしてシエルが飛び去った後、ユウヤがそれを見送る中、フランは不思議そうに小首を傾げた。
『それにしても……明日の朝にあの場所に来て欲しいなんて、一体どうしたんだろうね?』
『さてな……来て欲しい場所がバトルフィールドだという辺り、用件もバトルに関する事なんだろうが……』
「うん……」
シエルの話の真意について腕を組みながら考えたものの、一向にそれらしい答えが見つからず、ユウヤは軽く微笑みながら組んでいた腕を戻した。
「まあ、明日になれば分かる事だし、それまでのお楽しみって事にしておこうか」
『……そうだな』
『このまま考えていてもしょうが無いし、楽しみにしてた方が何だか良さそうだしね』
「うん。という事で、まずは帰ろっか」
『ああ』
『うん!』
レイ達の返事に頷いた後、ユウヤはシエルとの会話の内容にワクワク感を覚えながら家への道を再び歩き始めた。
第3話、いかがでしたでしょうか。一応、次回でツキクサタウン内での話は終わる予定です。そして作中では言及されていませんが、ケロマツのミカゲは色違い個体となっており、その他にも『とある秘密』があります。その秘密は次回明らかになるので、次回の投稿まで楽しみにして待っていて頂けるととても嬉しいです。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。