それでは、第1話を始めていきます。
「ん……」
かつて住んでいた『カントー地方』の『マサラタウン』を出発してから数時間後、ガタンという大きな振動で目を覚ますと、アサヤはまだ少し眠そうに欠伸をしてから、座席に座った状態で体を上にグーッと伸ばした。そして、体が充分に解れた事を確認しながら軽く周囲を見回していたその時、窓の外に見慣れぬ景色が見え、アサヤは目をキラキラと輝かせながら運転席に座る父親に声を掛けた。
「父さん、もしかしてここが……!」
「ああ、そうだ。ここがこれから住む町、『ツキクサタウン』だ」
「『ツキクサタウン』……そっか、ここがこれから俺達が住む町なんだ……!」
目の前に広がるのどかな街の光景をアサヤはワクワクしながら眺めていたが、「……あ、そうだ……!」と独り言ちると、腰のホルダーからカルラが入ったモンスターボールを取り外し、スイッチを押してカルラを外へと出した。そして、不思議そうに小首を傾げるカルラを静かに抱き上げると、アサヤはカルラの顔を窓の方へ向けながら話し掛けた。
「カルラ、ここがこれから俺達が住む『ツキクサタウン』なんだってさ」
「チャモ……!」
「旅に出るまでの間、この町でどんな出会いがあるかは分からないけど、良い出会いがあると良いなぁ……」
「チャモ、チャモチャモ!」
「おっ、カルラもそう思うか?」
「チャモ!」
「ははっ、だよな! やっぱり出会いがあるなら、良い出会いの方が良いもんな」
ニッと笑いながらカルラと会話を交わしていたその時、ふとホルダーに付けられているもう一つのモンスターボールが目に入り、アサヤはそれを手に取った。
「そういえば……オーキド博士からプレゼントとしてポケモンを貰ったけど、結局まだどのポケモンが入ってるのか確認してなかったな」
「チャモ……チャモ、チャモチャモ」
「ん、コイツの事を早く出してやりたいって?」
「チャモ」
「たしかにそうだけど……カルラみたいな小型のポケモンじゃない可能性もあるし、とりあえず家に着いてからになるかな」
「チャモ……」
「まあ、後でちゃんと出してやるよ。俺だってコイツの事が気になるし、これから仲間になる以上、仲良くしていきたいからな」
そう言いながらアサヤはモンスターボールを再びホルダーに付けると、運転席の父親に声を掛けた。
「父さん、家には後どのくらいで着く?」
「うーん……たしかそろそろだったと思うが……」
アサヤからの問い掛けに父親が首を傾げながら答えていたその時、「……あ、見えたわよ」と助手席に座っている母親が前方を指差しながらそれに答え、アサヤとカルラは揃って身を乗り出しながら母親が指を差す先に視線を向けた。すると、そこには小さな庭がついた二階建ての一軒家が建っており、その周辺には引っ越し業者のトラックが数台止まっていた。
「……あれが俺達がこれから住む家かぁ……!」
「チャモ……!」
「まあ、前の家よりは少し小さいけど、それでも近くには特訓に最適そうな森とかポケモン博士の研究所とかがあるみたいだし、立地的には悪くないと思うぞ?」
「ポケモン博士の研究所……そういえば、この地方にもオーキド博士みたいな人がいるんだっけ」
「ええ。だから、荷物をあらかた運び終えた後、この町の探険がてら研究所にご挨拶に行ってらっしゃい。その後の事はお母さん達と引っ越し屋さん達でやっておくから」
「うん、もちろんそうするよ」
母親の言葉にアサヤがニッと笑いながら答えていたその時、車は新居の目の前で静かに止まり、運転席の父親は微笑みながらアサヤ達の方を振り返った。
「さあ、着いたぞ。アサヤ、カルラ、お前達も小さい荷物を運んだりするのを手伝ってくれ」
「うん!」
「チャモ!」
そして、アサヤ達は揃って車を降りた後、引っ越し業者達と協力しながら家具などの荷物を家の中へと運び入れ始めた。
「……よし、そろそろ良いか」
およそ一時間後、トラックの荷台に載せられた最後の荷物が家の中に運び入れられたのを見ながら父親は独り言ちると、カルラを抱き抱えながら玄関先に立っているアサヤに声を掛けた。
「アサヤ、後は父さん達でやっておくから、お前達はその辺りをブラついてきてもいいぞ」
「うん、分かった。でもその前に……」
そう言いながらアサヤはカルラを地面に降ろすと、腰のホルダーからもう一つのモンスターボールを外した。
「そろそろコイツも外に出してやらないとな。という事で……出て来い!」
そして、モンスターボールのスイッチを押し、勢い良く上に投げ上げると、モンスターボールから青い光と共に背中に大きな種のような物を背負った緑色のポケモンが現れ、その姿にアサヤはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おっ、フシギダネか! 俺、フシギダネも結構好きなんだよなぁ……」
ニコニコと笑いながらアサヤが近付くと、フシギダネはキョトンとした表情を浮かべながら「ダネ?」と小首を傾げ、アサヤはその様子にクスリと笑ってからしゃがみ込みながらフシギダネに顔を近付けた。
「初めまして、フシギダネ。俺はアサヤ、お前の新しいトレーナーだよ。そして、こっちにいるのは相棒のカルラだ」
「チャモ!」
「ダネ……ダネ、ダネダネ!」
そして、フシギダネが目を輝かせながら嬉しそうにアサヤに体を擦り付けると、アサヤはニッと笑いながらフシギダネを優しく抱き上げた。
「ははっ、人懐っこい奴だな。さて……せっかくだから、お前にもカルラみたいにニックネームを付けたいところだけど、何か良い案はないかな……?」
その時、それを見ていた父親は何かを思いついたような表情を浮かべながらアサヤに話し掛けた。
「アサヤ、フシギダネは草タイプだから、植物に関係するニックネームはどうだ?」
「植物か……たしかにそれもありだよな。後はカルラみたいな名前にしたいから……」
そうして考え続ける事数分、「……よし、これだな」と言いながらニカッと笑うと、アサヤはフシギダネを見ながら静かに口を開いた。
「フシギダネ、お前のニックネームはリュアだ」
「ダネ……ダネ、ダネフッシャ!」
「ははっ、気に入ってくれたみたいだな。という事で、これからよろしくな、リュア」
「チャモ!」
「ダネダ!」
アサヤとカルラの声にリュアが元気よく答えると、アサヤは満足げに頷き、リュアを静かに地面に降ろした。そして、カルラとリュアの二体を交互に見た後、アサヤは楽しそうにニッと笑った。
「それじゃあ行こうぜ、カルラ、リュア」
「チャモ!」
「ダネ!」
カルラ達が嬉しそうな笑みを浮かべながら返事をした後、アサヤは父親に向かって「行ってきます!」と声を掛けてからゆっくりと歩き始めた。そして、歩き始めてから数分後、カルラと共に町の景色を楽しみながら歩き続けていたその時、前方にポッポを肩に乗せながら楽しそうな笑みを浮かべる同い年くらいの短い茶髪の少年が反対側から歩いてくるのが見え、アサヤは足を止めながら同年代の少年と出会えた嬉しさから口元を綻ばせた。
「ポッポを連れてるって事は……もしかしたら俺と同じでポケモントレーナーかもしれないし、ちょっと話し掛けてみるか!」
「チャモ!」
「ダネ!」
アサヤの言葉にカルラが大きく頷き、アサヤはこちらに向けて歩いてくる少年に声を掛けるために小走りで近付こうとしたその時、少年の様子にアサヤはある疑問を抱き、少年達を見ながら不思議そうに小首を傾げた。
「……あれ? アイツ、もしかしてポケモンと
コミュニケーションの一環として人間がポケモンに声を掛け、それにポケモンが鳴き声を上げたり頷いたりするという事はさほど珍しくは無いが、アサヤの目には少年とポッポがお互いの言っている事を理解し、まるで人間同士、あるいはポケモン同士で会話をしているように見えていたのだった。
「……でも、流石にそんなわけ無いよな。ポケモンの言葉を理解できる人間なんてそうそういるわけが無いし……」
そう自分に言い聞かせるようにしながらアサヤは独り言ちると、一度深呼吸をして気持ちを切り替えた。そして、再び少年達へ視線を向けると、今度こそ話し掛けるべく少年達の方へと走っていった。
「おーい、ちょっと良いかー?」
「……え?」
走りながらアサヤが声を掛けると、少年は不思議そうな声を上げながらアサヤへと視線を向け、首を傾げながらアサヤに話し掛けた。
「今声を掛けてきたのは……君だよね?」
「ああ、そうだ。向こうからお前がポッポを肩に乗せて歩いてくるのが見えたから、同じ新人トレーナーかなと思って声を掛けたんだ」
「同じって事は……君もポケモントレーナーになったばかりなんだね?」
「ああ。と言っても……まだ10歳になってないから、正式にはポケモントレーナーとは言えないし、旅には出られないんだけどな」
「ふふっ、同じだね。ところで、君の名前は?」
「ん……ああ、俺はアサヤ。父さんの仕事の都合で『カントー地方』から引っ越してきたんだ。それで、こっちは相棒のアチャモでカルラだ」
「アサヤ君にカルラだね。僕はユウヤ、この『ツキクサタウン』の出身だよ。そして、肩に乗っているのはこの辺りのポッポの群れのリーダーのウィン。僕のポケモンというわけでは無いけど、友達として色々と相談に乗ってもらったり近くにある『ツキクサのもり』のポケモンの様子を教えてもらったりしてるんだ」
「へえ……そうな──」
その時、アサヤはユウヤの話の中に妙な点がある事に気付き、その事について訊くために恐る恐る話し掛けた。
「……なあ、今そのポッポ──ウィンに相談に乗ってもらったり森のポケモン達について教えてもらったりしてるって言ったか?」
「あ、うん……信じてもらえないかもしれないけど、僕には『ポケモンの言葉を理解する能力』と『波導を使用する事が出来る能力』があるんだ」
「『ポケモンの言葉を理解する能力』と『波導を使用する事が出来る能力』……」
ユウヤの言葉にアサヤが少し驚いた様子を見せると、ユウヤはそのアサヤの様子にどこか哀しげな笑みを浮かべた。
「あはは……やっぱりそんな事をいきなり言われても信じられないよね。ゴメン、今言った事は忘れ──」
「……いや、信じるぜ。実際、他所の地方にも同じ能力を持った人もいるし、お前が嘘をついてるようには見えないからな」
「え、でも……」
「それに、初対面な上にこれから度々顔を合わせる事になるかもしれない俺に、お前が嘘をつく理由も意味も無いしな。だから、安心してくれて良いぜ、ユウヤ」
「アサヤ君……うん、ありがとう」
「どういたしまして。ところで、さっきウィンは自分のポケモンじゃないって言ってたけど、ユウヤのポケモンは今はモンスターボールの中にいるのか?」
「うん。さっき『ツキクサのもり』で特訓をしてきたばかりだから、少し休ませてるところだったんだ。けど、せっかくだから紹介させてもらうね」
そう言うと、ユウヤは腰のホルダーからモンスターボールを二つ取り出し、同時にスイッチを押すと、「レイ、フラン、出てきて」と言いながらモンスターボールを上に放り投げた。すると、投げ上げられたモンスターボールが上下に開き、中から青い光が放たれると、ユウヤの目の前に『はどうポケモン』のルカリオのレイと『ばけのかわポケモン』のミミッキュのフランが現れ、その姿にアサヤは少し驚いた様子を見せた。
「へえ……ルカリオにミミッキュか。この地方にはそんな奴らもいるんだな」
「ううん、彼らはちょっとした事情があって『アローラ地方』から来たポケモン達なんだ」
「ちょっとした事情……?」
「うん、実は──」
そして、ユウヤが話し始めようとしたその時、ユウヤは突然何かに気付いたようにハッとしながら背後を振り返ると、少し先の方からこちらに向かって近付いてくる人物達へ向けて嬉しそうに手を振った。すると、その人物もユウヤに気付いた様子で嬉しそうに手を振り返し、ニコニコと笑いながら傍らにいたポケモンと一緒に小走りで近付いてきた。そして、その人物達が近付いてくるのをユウヤ達が笑みを浮かべながら見つめる中、その人物──黒いポニーテールの少女はユウヤ達の目の前で立ち止まった後、軽く息を切らしながらも笑みを崩す事無くユウヤ達に話し掛けた。
「ユウヤ君、特訓お疲れ様。今帰るところだったの?」
「うん、そろそろお昼ご飯の時間だったからね。ミナトちゃんは?」
「私はシロツメ博士に相談したい事があって研究所に行ってきてたんだ。ところで……隣にいるのは誰?」
「ん……ああ、彼らは『カントー地方』から引っ越してきた新人トレーナーとその相棒のアチャモで、僕もついさっきここで会ったばかりなんだ」
「なるほどね」
ミナトは納得顔で頷くと、アサヤ達へ視線を移しながらニコリと笑った。
「初めまして、私はミナト。ユウヤ君の幼馴染みで、この子──ポッチャマのミナモのトレーナーだよ」
「ミナトとミナモだな。俺はアサヤ、そしてこっちはアチャモのカルラとフシギダネのリュアだ。これからよろしくな」
「うん、こちらこそよろしくね」
「チャモ!」
「ダネダネ!」
「ポッチャマ!」
アサヤとミナト、そしてカルラとリュアとミナモが笑みを浮かべながら挨拶を交わし終えたその時、突然グーッという音が辺りに響き渡ると、アサヤは苦笑いを浮かべながら頬をポリポリと掻いた。
「……すまん、俺の腹の音だ」
「ふふ、まあ仕方ないよ。さっきも言ったようにそろそろお昼ご飯の時間だからね」
「そうだね。せっかくこうして出会えた事だし、もう少し話をしたいところだけど、とりあえずお昼を食べてこないとだね」
「だな。腹が減ったままだといつ空腹で倒れるかってハラハラしちゃうからな。
その瞬間、ユウヤ達の間を一陣の風が通り抜けると、カルラは呆れ顔で首を横に振りながら軽く溜息をつき、そのままの表情でユウヤに話し掛けた。
「チャモ、チャモチャモチャモ」
「えーと……『アサヤはこういう駄洒落やジョークみたいなのが好きで、調子が良い時なんかはいつもこうなんだ』……だってさ」
「な、なるほど……あまりに突然だから、ちょっとビックリしちゃったよ」
「ははっ、すまんすまん。まあでも、これからもこんな風に駄洒落を言う事もあるだろうけど、出来るならどんなリアクションでも良いからしてくれると助かるかな。やっぱり、ノーリアクション程辛い物も無いわけだしな」
「……うん、分かった」
「まあ、どんなリアクションでも良いみたいだしね。それくらいならお安いご用……なのかな?」
「お前達……へへっ、ありがとうな! さて……それじゃあそろそろ昼飯を食うために帰るとするか!」
その言葉にユウヤ達が揃って頷いた後、アサヤ達は一度昼食を食べるためにポケモンの事や『ツキクサタウン』の事などについて話しながらそれぞれの家に向けて歩き始めた。
その日の夜、アサヤは自室の机に向かい、楽しそうに日課である日記を付けていた。
「……よし、こんなもんだな。それにしても……引っ越し初日からスゴい奴と出会ったもんだよなぁ。転生者じゃなさそうなのにポケモンの言葉が分かる上に波導が使えるなんてな……」
アサヤはユウヤの顔を思い浮かべながらそう呟いた後、部屋の隅に視線を向けた。そこには小さな寝床とそこでスヤスヤと眠るカルラとリュアの姿があり、そのカルラ達の安らいだ表情を見て、アサヤは静かにクスリと笑った。
「まあ、俺にだって『測る者』や
自信に満ちた声で独り言ちた後、アサヤは椅子から立ち上がると、スヤスヤと眠るカルラ達へと近付き、その頭を優しく撫で始めた。
「カルラ、リュア、リーグでの優勝を目指して、お互いに頑張っていこうな」
「チャモ……」
「ダニャ……」
アサヤの言葉に答えるようにカルラ達が小さく寝言を言った後、アサヤはその姿に小さく笑ってから再び机へと向かった。そして、小さく欠伸をした後、胸の奥で静かにやる気の炎を燃やしながら新品のノートをゆっくりと開き、夜が更けていく中、カルラとリュアの育成計画をノートに書き込んでいった。
第1話、いかがでしたでしょうか。今回はバトルなどは無い回でしたが、次回かその次辺りには何らかの形でバトル回を書こうと思っています。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。