それでは、早速始めていきます。
プロローグ 剣士達の誓い
『カントー地方』より西方にあり、ポケモンに関する言い伝えや歴史などが数多く残る地方、『ジョウト地方』。そんな『ジョウト地方』に棲息するとされる伝説のポケモン――『ホウオウ』などに関する伝承が伝えられ、奥ゆかしい和の雰囲気が漂う街、『エンジュシティ』に建つある一軒の道場の稽古場にてある一組のトレーナーとポケモン達が目を閉じた状態で並んで正座をしていた。
「…………」
「…………」
「…………」
彼ら以外の姿が無い場内の静寂と板張りの床から伝わるヒンヤリとした冷たさを感じながらも彼らはただ静かに座り続け、己の中の気持ちの乱れを正しながら雑念などを次々と消していった。そしてそうし続ける事およそ三十分、ポケモン達のトレーナーである短い黒髪の稽古着の少年は静かに目を開けると、視界を逸らす事無く傍らで正座をしているポケモン達に声を掛けた。
「……よし、そろそろ姿勢を崩して良いぞ」
「……コマ」
「ミジュ……」
少年の言葉に鋭い刃物が付いたヘルメット上の頭部と同じく鋭い刃物の両手を持つ人型のポケモン、コマタナは静かに目を開けながら返事をしたが、もう一体の腹部に『ホタチ』と呼ばれる攻撃時や硬い木の実などを割る時に使うホタテ型の道具を付けたラッコ型のポケモン、ミジュマルはとても疲れた様子で返事をすると、そのまま仰向けで板床へと寝転んだ。すると、それを見たコマタナは少し心配そうな様子でミジュマルに手を差し伸べ、ミジュマルは少し照れ臭そうな様子でその手を取り、感謝の気持ちを込めながらニコリと笑った。そして、そんな手持ちポケモン達の仲睦まじい様子をトレーナーの少年は微笑ましそうに見ていた。
「ははっ、本当にお前達は仲が良いな。出会った時は、お前達が仲良くなれるのか少し心配だったんだが、どうやら杞憂だったみたいだな」
「コマ」
「ミジュ!」
コマタナとミジュマルが揃って返事をすると、少年は満足げな様子で頷き、彼らの頭を優しく撫で始めた。
少年の名前はマサノブ、この『エンジュシティ』にバトル指南道場を構える父親の元で門下生や時折訪れる旅のトレーナー達、そして手持ちポケモン達と共に日々修行に励む若きポケモントレーナーだ。実戦の経験はまだ少なく、同世代のポケモントレーナーとは違って旅には出ていないが、バトルについての知識は深い上に技術なども持っていたため、年下の門下生達からは尊敬の眼差しを向けられていた。
「……さて、朝の瞑想も済んだ事だし、そろそろ朝食作りの手伝いに行くか。『サダミツ』と『カネミツ』も一緒についてきてくれ」
「コマ」
「ミジュマ!」
コマタナのサダミツとミジュマルのカネミツは頷きながら答えると、台所へ向かうためにマサノブと共に稽古場を出た。コマタナとミジュマルは、本来であればこの『ジョウト地方』には棲息していないポケモンであり、その中でもミジュマルは別の地方である『イッシュ地方』の初心者用ポケモンの一体だ。そして、そんな彼らとマサノブが出会ったのは、今からおよそ一年程前にマサノブが家族旅行で『イッシュ地方』を訪れた時だった。
ある朝、マサノブが滞在先の近くを散歩していた際、偶然そこにコマタナが姿を現し、コマタナは弾かれたようにマサノブの方へ体を向けたかと思うと、曇りのない瞳でジッと見つめながら両手の刃先をマサノブへと向けた。見知らぬポケモンに武器となる部分を向けられるという行為は、普通であれば警戒をされているという証ともとれ、子供の身ならばその事に恐ろしさを感じてもおかしくは無かった。しかし、マサノブがそのコマタナの姿に抱いていたのは、恐怖心や警戒心などでは無く、勇敢さや気高さといった物であり、それと同時にこのコマタナとなら一緒に強くなっていけるといった確信めいた何かを感じていた。そして、未だに刃先をこちらへ向けながらジッと見つめてくるコマタナと触れあうために一歩踏み出したその時、彼らの間に
台所へ向かう途中、マサノブがその出来事を思い出してクスリと笑っていると、カネミツはサダミツと並んで歩きながら不思議そうに小首を傾げた。
「ミジュ?」
「ん……ああ、ちょっとお前達と出会った日の事を思い出してさ。ほら、俺達の出会い方ってあまり無い形だったろ?」
「ミジュ……」
「コマ」
「でも、俺はどんな形であっても、あの日にお前達と出会えたのは本当に良かったと思ってる。あの日にも思ったけど、お前達と一緒なら絶対に強くなっていけるはずだからな」
「ミジュ! ミジュミジュ!」
「……コマ」
「だから、これからも父さんよりもこの『ジョウト地方』の誰よりも強いポケモントレーナーを目指して頑張っていこうな!」
「ミジュ!」
「コマ!」
カネミツが自信満々に胸を張る様子とサダミツのやる気に満ちた目を見ながらマサノブはコクンと頷き、力強い足取りで台所へ向かって歩いていった。
朝食後、マサノブ達が縁側で並んで座りながら庭先を眺めていると、「……マサノブ、少し良いか」という声が背後から聞こえ、マサノブはゆっくりと振り返ってから声の主に答えた。
「父さん、俺達に何か用か? 修行の時間にはまだもう少し早いと思うけど……」
「……まあ、修行の件と言えば修行の件だな。お前達、ちょっと部屋まで来てくれるか?」
「……分かった」
「ミジュ……」
「……コマ」
道場主である父親のその真剣な声を聞き、マサノブ達は静かに頷きながら答えると、父親の後に続いて部屋へ向かって歩き始めた。そしてマサノブ達が部屋に着き、それぞれ座布団の上に座った後、父親はふぅと一つ息をついてから静かに話し始めた。
「マサノブ、お前は既に分かっていると思うが、お前はこの道場の門下生達の誰よりも強く、ポケモンについての知識も深い。よって、これからはお前にだけ特別な修行をしてもらう事にした」
「特別な修行……?」
「ああ、そうだ。マサノブ、お前にはそのポケモン達と一緒にある地方に修行の旅に出てもらう」
「ある地方……って、別に修行の旅ならこの『ジョウト地方』でも良いんじゃないのか?」
「いや、この『ジョウト地方』ではダメだ。もちろん、『ジョウト地方』にも様々なポケモン達が生息しており、この『エンジュシティ』のマツバ殿を始めとした素晴らしいジムリーダーの方々もいるから、修行の旅をするには充分過ぎる環境が揃っていると思う。現に、お前の幼馴染みのマサカゲ君も少し前からポケモンリーグの優勝を目指して旅に出ているからな。そして、この旅はあくまでもお前のポケモントレーナーとしての腕を磨くための修行の旅でもあるが、心身の鍛練も目的の一つとしている。別の地方に行くのは、簡単には家に帰ってこられないようにし、人々との交流や野宿などの経験をしてもらうためだ。まあ、お前の事だから途中で修行を放り出して帰ってくるなんて事はしないと思うが、これは念のためだ」
「……なるほどな」
「そして、お前にはその地方のポケモンリーグで優勝を果たす事を最終的な目標としてもらう。とても難しい目標かもしれないが、この道場の道場主として、そして父親としてお前なら達成出来ると感じ、この目標を設定した」
「ポケモンリーグでの優勝……けど、別の地方って一体俺達はどこに行かないといけないんだ?」
「それは『シンオウ地方』から南下したところにある『ヤマト地方』だ。自然豊かなところで、様々な民話や伝承も伝わる地方だそうだ」
「『ヤマト地方』……あまり聞いた事が無い地方だけど、どうしてそんなところに?」
「さっきも言ったように『ヤマト地方』もこの『ジョウト地方』と同じく自然が豊かで、様々な言い伝えなどもある。だから、お前も他の地方よりは旅がしやすいと思ったんだ。そして、『ヤマト地方』は約400種のポケモンが生息していると聞くから、様々なポケモンと出会う良い気会になると考えているし、その分多くのトレーナーとも出会えると思っている」
「多くのポケモンにトレーナー……確かに修行の旅にはピッタリかもしれないな。それで、いつからその修行は始めれば良いんだ?」
「準備期間も含めて、およそ一週間後が良いと思っている。まあ、後はお前達のやる気次第だが……どうする?」
父親からの問い掛けを聞き、マサノブは傍らに座る手持ちポケモン達に視線を向けたが、どちらもやる気に満ちた目でコクンと頷いてきたため、マサノブは「……やっぱりな」と小さく笑いながら独り言ち、父親の方へと向き直った。
「決まってるさ、父さん。俺達は父さんよりも強く、この『ジョウト地方』の誰よりも強いポケモントレーナーを目指してるんだ。その修行から逃げる気なんてあるわけないよ」
「……そうか。ならば、最低でもどの地方のポケモンリーグに挑戦できるだけの実力は付けて帰ってこい。お前達の夢を叶えるためには、それくらいの事が出来ないといけないからな」
「分かってるよ。そうじゃないと、アイツにだって笑われちゃいそうだしさ」
「……そうかもしれないな。さて……それでは、今日から修行の時間の合間を使ってその旅の準備に取り掛かるように。良いな?」
「ああ」
「コマ」
「ミジュ!」
マサノブ達は揃って返事をした後、そのまま部屋から出ると、自分達の部屋に向かって並んで歩き始めた。そして、自分達の部屋に着いた後、マサノブは机の上に置かれた写真立てに視線を向け、そこに写った人物に向かってニッと笑った。
「……お前とは別の地方に行く事になったけど、いつかお前とも決着はつけるからな。だから、それまでお前も強くなっておけよ、マサカゲ」
旅へ出て以降、一度も連絡を取っていない友人へ向かって声を掛けた後、マサノブは自分の事をジッと見つめるサダミツ達へ視線を向け、自身の右手を軽く握りながら彼らへと突き出した。
「サダミツ、カネミツ、まだまだよく知らない地方へ修行の旅に行く事にはなったけど、俺達の夢は変わらず『ジョウト地方』の誰よりも強くなる事だ。だから、これからも俺達なりに精一杯頑張って強くなって、まずは『ヤマト地方』のポケモンリーグで優勝するぞ!」
「コマ!」
「ミジュ!」
自身の拳にサダミツの刃先とカネミツのホタチの先端が軽く触れた後、マサノブは頼りにしている手持ちポケモン達へ向かってニッと笑った。そして、自分達が旅をする事となった地方に思いを馳せながら、マサノブ達は修行に励むために揃って部屋を後にした。
いかがでしたでしょうか。次回をどのような話にするかはまだ未定ですが、皆さんに楽しんで読んで頂けるように頑張って参りますので、応援の程よろしくお願いします。
そして最後に、今作品への感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。