姉さんと間違われて役得だと思うのは間違っているだろうか 作:苺ノ恵
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道化師のエンブレムが棚引く。
ふと風を感じた私は、先ほどまで収穫していた香草の入った籠を置き、ホームに施されているファミリアの旗印を見上げては小さく嘆息する。
ロキと小さなお茶会を楽しんだ後、どうにも気まずい空気が拭えず、私はあの空間から逃れるように執務室を後にした。
執務を終え、簡素な夕餉と湯浴みを済ませた後は自室に戻りベッドへ身体を横たえた。
が、一向に眠気が訪れることは無く、表現しようのない不安感が私の心臓を襲った。
ロキの心配性が移ったのだろうか?
そんな、誰に申し開くわけでもない言い訳を独り言ちてはまた不安感に苛まれる。
どうせ今夜は眠れない。
気分転換に農場の手入れをしようと思い立ち畑に足を運んで数刻、気付くと空には満月が昇っていた。
集中すると周りが見えなくなるのが私の悪い癖だが、この時だけは嫌なことも忘れられる。
畑の一角にロープの張られた区域がある。
【KEEP OUT】という見たことのない記号が書かれた看板が立っており、昔これは何とロキに尋ねると_立ち入り禁止_と飄々とした声音で言われた。
注意を促すならみんなが読める共通語が良いのではと言ったら_ダメぇ言われたらやりたくなるちゅうんが人の性や。ホントに触れられたくないものには、理解の範囲外の虚飾を混ぜ込むのが定石。ウチの持論やけどね_などと嘯いてはこの看板
で押し通された。
実際のところ、私が水やりをお願いしているファミリアの仲間以外が、この区域で悪さをしたということを聞かないので、ロキの持論というのは馬鹿にできない。
と、集中力の切れた私が主神のことを考えているのには理由がある。
実は先ほどから視線を感じている。
この気配は十中八九ロキのものだろう。
ロキファミリアの団員が、あんなにも分かりやすい下手な抜き足をすることなどありえないからだ。
(うーん…もしかしなくても執務室でのことだよね?ロキって意外とそういうところマメだから…)
私も人のことは言えないが、そういった小さないざこざは早めに解決しておきたい性格だ。
洗い物をため込みたくないといった普段の私の意向からも、その傾向は明らかである。
しかし、今回は内容が内容だ。
お互いが気を使い過ぎて逆に空気が悪くなってしまっているという悪循環。
(こういう時、姉さんがいたらなぁ…)
姉さんは善く言うと純粋、悪く言うと天然だ。
某アマゾネスの妹とはタイプの異なる天然…いや、表情に乏しい分、姉さんの天然のほうが分が悪い。
しかし、その天然さは時にこのような微妙な空気感に亀裂を与え解決策を見出してくれる、白羽の矢と成り得る。
その当の姉は現在ダンジョンに遠征中で、この微妙な空気の原因の中心にいるのが、姉達ファミリアの団員なのだ。
円環する諸刃の剣の如き問いに思考を止めた私は、ふとある男神のことを思い出す。
(!そうだ。アレなら…)
そう思い立った私は、立ち入り禁止区域にあった蒼色の葉を数枚摘むと、両手を揺り籠のように合わせ、中心に置いた葉に魔力を流す。
「【虚偽なる事象(リ・クリエイト)】」
私の魔法が発動する。
葉は二種類の物体に分かれる。
一つは糸状に変異した白い線維束。
もう一つは、涙状の形をした朱い固形物だ。
その二つは次第に互いの距離を詰め一つの物体へと昇華する。
(うん、できた。ちょっと形が可笑しいけどいいよね)
私はわざとらしく身体の伸びをしながら振り返る。
「あ、ロキだ」
いつまでも柱の陰でこちらを伺っていた不審者を、さも今見つけたかのように嘯く。
「ギクッ!!…こんばんは~アリスたん。月が綺麗やね」
ギクッって自分で言う言葉だっけ?
でも確かに今夜の月は綺麗かも。
「でも、アリスたんのほうがもっと綺麗やよ!」
言うと思った。
自信満々に口説いてくる主神をみて、さっきまで悩んでいた自分を馬鹿馬鹿しく思った私は、少し八つ当たり気味に意地悪な問いを投げかける。
「なら、姉さんと私、どっちが綺麗なの?」
「なっ!!?なんちゅうことを、そんなん…」
「そんなん?」
「そんなん___両方に決まっとるやろ!!ウチなら姉妹丼もバッチコイやで!!!」
ロキは存在の九割がセクハラでできているから今更動じない。
「あ~はいはい、そうだね。ところでロキ今暇?」
「ちょっと今傷ついた心にかけるポーション探しててウチ忙しいんよ」
「そっか。暇みたいだからちょっとだけ時間頂戴」
「そういう女王様系アリスたんもまた__」
「はい、これ」
このままでは埒が明かないと、私は手元にあった数本の内の一本を半ば強引にロキに押し付ける。
疑問符を浮かべたまま、ソレを受け取ったロキを余所に私は持っていたランタンの上部を外し、蝋燭の火を露出させる。
「見ててね」
私はソレの上端を持ち、朱色の涙状部に蝋燭の火を灯す。
バシュゥゥゥ!と小さな火花を出したソレは徐々にその色を橙へと代える。
まるで小さな炉のようになったところで再び火花が出始める。
バチッ…バチッ………バチバチッ…
断続的だった火花が徐々に連鎖・収束していき、私たちの眼窩で光の雨を降らせる。
幻想的な光景を映し出した小さな炉は地面に引かれるようにその身を落とすと土に消える。
「センコウハナビ?って言うらしいよ。タケミカズチ様が教えてくれたの」
「アイツが?…ちゅうことは極東の?」
「そう。お祭りの時にする見世物みたい。大きいものだと空に打ち上げて光の花を咲かせるんだって聞いたの」
「何それ観たい!アリスたんそれ作れるん?」
私は首を横に振る。
「無理。まず構造や材質が分からないから。今回のものもタケミカヅチ様から聞いた物を自分なりに仮説を立てて作ったものだから。成功するかは半信半疑だったの」
取り敢えず、爆発しなくて良かった~…ホントに。
「ウチもやってええの?」
「勿論、そのために作ったんだから。一緒にしよ?」
「アリスたんから夜のお誘いキターーーーー!!!」
確かに今は夜で誘ったのは私だけど内容に差があり過ぎる。
それでも、上機嫌な主神を見て、ロキはやっぱり騒がしいくらいで丁度いいと思ってしまった。
私が先に火を着けようとすると__ちょい待ち!!__と、ロキが間に割って入る。
「なあなあ、どうせなら勝負した方が盛り上がるで!先に炉を落とした方の負け!!敗者は勝者の命令を一つ聞く!!どや!?」
普段は賭け事などをあまり好まない私だが勝負となっては話は別だ。
「へえ…臨むところよロキ。私が勝ったらロキファミリアは一か月禁酒ね。最近お酒を飲む団員も増えてきたから経費削減ということで。酒豪筆頭のガレスからの抗議、その他諸々の対応はよろしくね?」
「くっ…流石アリスたんや、絶妙にエグイとこを突いてきよる…!なら、ウチが勝ったらアリスたんとお姉ちゃんとウチでデートや!!お手手つないで露天風呂巡り行くでえ!!!」
果たして勝負の結果は_____ご想像にお任せします。
ただ一つ言えることは、私とロキの絆はまた一歩深まったということでしょうか。
◇◇◇
「ベル君いいかい?無茶しちゃだめだよ!何があっても、危なくなったらすぐに逃げるんだ、いいね」
「はい。神様を一人にするようなことはしませんから」
「もし、女の子が危ないって状況にあったら?」
「助けに行きます」
「全然分かってないじゃないか!!」
本当に分かってなかった。
調子に乗って、言いつけを破って。
その代償として命を要求される。
ただ弱いものが淘汰される、自然の摂理だ。
それでも、死ぬのは怖い。
吐きつけられた吐息と生臭い唾液の匂いも感じられないほどの恐怖に襲われる。
振り上げられた鈍器に押し潰される自分の最期を幻視しながら、僕は情けないくらいに震えながら眼を瞑る。
そこからはあまり憶えていない。
ただ、鮮明に覚えていることがある。
あの金色の輝きに、どうしようもなく惹かれたことを。
心の臓が死の恐怖を感じていた時以上に暴れていることを。
息をするのも忘れるというのはこういうことかと思うほどに見惚れたことを。
血まみれの身体以上に、顔が熱く赤くなっていったことを。
ダンジョンで出会ってしまったあの人のことを。
僕は生涯に渡って憧憬し追い求めるだろう。
どれだけその道が険しかろうと、きっと僕は諦められない。
それが、僕だけの冒険なんだと信じて。
__この時は、そう思っていたんだ………思ってたんだよ…
そうだね…思ってたんだよね…。
さて本日の更新は以上です。
それではまたの機会に
(疑問が増えるばかりだけどノータッチで!作者必死だから!…温かい目で見守って下さい)