姉さんと間違われて役得だと思うのは間違っているだろうか   作:苺ノ恵

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お久しぶりです。

仕事に忙殺されてました。

話はほぼ進みませんがどうぞ。


だけど一人では

 

 

 

 兎がいた。

 

 私が最初に抱いたその子への感想はそれだった。

 

 一瞬、モンスターのアルミラージを思わせる白髪に鞘を握った左手が反応しかけたが、それがヒューマンだと理解できる程には、私も平静さを保てていた。

 

 ミノタウロスの血を全身に浴びたその子は、私の方を見上げたままピクリとも動かない。

 

 装備や攻略していた階層から推測して、この子は恐らく初心者。

 

 もしくは冒険者になってまだ日が浅いのかもしれない。

 

 怖い思いをさせてしまった…謝らないと………どうやって謝ったらいいんだろう?

 

 怪我はしてないよね?

 

 怪我をさせてごめんなさいは違う気がする…怖い思いをさせてごめんなさい…これは何だかこの子に失礼な気がするし…。

 

 

……。

 

「___大丈夫ですか?」

 

 相手が固まっていることいいことに、たっぷりと悩んだ後、私の口を突いて出た言葉はそんな淡泊な問いだった。

 

 こういう時、妹の快活な口調を羨ましく思う。

 

 その証拠に私の不器用な気遣いじゃあこの子は納得できなかったんだろう。

 

 口を半分開けて固まったままだ。

 

 どうしよう…。

 

「…あの」

 

 もしかしたら、血に塗れて気付かなかったけど、どこかに傷があったのだろうか?

 

 私はすぐさまポーチからポーションを取り出す。

 

「これ、使っt___あれ?」

 

 あの子がいない。

 

 というより、あの子が私から遠ざかっていく気配を後ろから感じる。

 

「___逃げられ…た?」

 

 ショックだ…。

 

 私はただ謝りたかっただけなのに。

 

 あんなに怖がらなくたっていいのに。

 

 人が謝ろうとしてるのに逃げるのはいけないことってアリスも言ってた。

 

 あの子は私から逃げた。

 

 私のこと…怖がってるみたいに…!

 

 怒ってるような、それでいて哀しいような、よく分からない気持ちがぐるぐるとお腹の上あたりを這い摺りまわる。

 

「___んだ?ありゃあ?…おい、アイズ。こっちは片付いた。引き上げるぞ」

 

「………」

 

 いつの間にか近くに来ていたベートさんの指示に私は頷きあの子が逃げていった道を歩く。

 

 地面には赤い水滴が不規則に落ちていた。

 

「ちっ!トマト野郎が…!くせえ匂いまき散らしやがって…。__おいアイズ、お前あのトマト野郎の知り合いか?」

 

 悪態を吐きながらベートさんは、私の様子がいつもと違うことに気付いていたのだろう。

 

 私の数歩前を歩くベートさんのメタルブーツが地面を叩く音を聞きながら、私は小さく頭を振る。

 

「…いえ、さっき初めて会いました。それで…助けたら、逃げられました…」

 

 その後、上層に逃げたミノタウロスを追っていた仲間たちと合流するまで、ベートさんは事の顛末とあの子のことを嗤っていた。

 

 私はどうしてか、そのことを悔しく思った。

 

 あの子が嗤われてると分かって嫌な気持ちになった。

 

 …私じゃなくてアリスなら、もっとうまくやれたのかな?

 

 分からない。

 

 ただ一つだけ言えるのは、私は悲しい気持ちになった。

 

 それと同じくらい、私は怒ってる。

 

 あの子が私の謝罪を聞いてくれるまで、私はあの子のことを絶対に許さない。

 

 こういうのを理不尽って言うんだとアリスは言ってた気がする。

 

 でもそんなの知らない。

 

 許さないの。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「あんなに可愛い子を捕まえるなんて…エイナも隅に置けないね」

 

「誤解を招くような言い方をしないで下さい。別に捕まえてなんていませんから。これは業務の一環であって、私的な感情なんて何もありません」

 

 落ち着いた…いや、堕ち憑いたと言ったほうがいいのか。

 

 ベル君が去り、興奮状態だったアリスさんが平静を取り戻して数刻。

 

 アリスさんから頂いたお茶菓子を二人で摘まみながら私たちは取り留めもない雑談に興じている。

 

 いつもの調子が戻ってきたのか意地悪そうな笑みを浮かべて私の揚げ足を取ろうと画策してくる目の前の女性に、若干の面倒くささを感じた私はいつも以上

に業務的口調で返答する。

 

 そんな私の心情など見透かしているかのようにアリスさんは綺麗な金色の髪を耳に掛けながらお道化たように戯れる。

 

「ホントに?じゃあ私が貰ってもいい?」

 

「それとこれとは話が別です。それに、仮に私が許可しても彼の主神が黙ってないでしょう?ヘスティア様にとって彼は唯一無二の眷属なんですから」

 

「大丈夫、資金は十分にあるから」

 

「お金で解決しようとしないで下さい。ギルドから罰金科しますよ?」

 

「それは怖いわね。地獄の沙汰も何とやらって言うけど…リスクしか見いだせないなら諦めるしかないのかなぁ」

 

「一級冒険者の貴女に言うような言葉じゃないですけど…【冒険者は冒険してはならない】ですからね」

 

「冒険の種類が違うけどね。ある意味、お金の冒険の方が根は深いのかな?__それにしても、エイナは相変わらずね」

 

「アリスさんもご壮健そうで何よりです」

 

「なんだがおばあちゃん同士の会話みたい」

 

「確かに、変わらないことを喜ぶのはお年を召した方という印象が強いですね」

 

「私はおばあちゃんになれるまで生きてるのかなぁ?」

 

「そういうことは不謹慎なのであまり口外しないほうがいいと思いますよ?」

 

「そうだね。ごめん」

 

 少しばかり影の差した彼女の表情に、なんらかの異変を感じ取った私は声のトーンを幾分が下げて訊ねる。

 

「___何かあったんですか?」

 

「………んー、どう言ったらいいのかな?」

 

 明朗快活な彼女にしては歯切れの悪い反応。

 

 人差し指の関節を折り曲げ、下唇に触れながら彼女は少しばかり思案する。

 

 そして、何かを思い立ったように顔を挙げた彼女は真剣な顔でこう言った___

 

 

 

 

「弟は正義だと思わない?」

 

「ごめんなさい、ちょっとどころか全く意味が分かりません」

 

 

 

 もう一度、敢えて言わせてください。

 

 意味が分かりません。

 

「ベル・ヴァレンシュタイン…悪くないよね!」

 

「逆に良いと思われる点が一つも見当たりませんが?」

 

 つまり悪い。

 

「べるきゅんを同じ眷属(おとうと)にして甘やかしたい!私の姉心がそう叫んでるの!!」

 

「叫び声をあげてるのは貴女の体裁の方だと思うんですけど?」

 

「【人間とは犠牲が無くては生を謳歌できない獣の名だ】って誰かが言ってた。だから大丈夫よ!」

 

「大丈夫じゃないですから。体裁は大切です、犠牲にしちゃいけません」

 

「なら私は何を犠牲にすれば…」

 

「その間違った理想でいいんじゃないですか?」

 

「間違いなんかじゃないよ。私自身は間違いでも、誰かを甘やかしたいって気持ちは…間違いなんかじゃないんだから」

 

 …何故だろう?

 

 無性に言いたくなるセリフが…!

 

 

 

 

 

【理想を抱いて溺s_______

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ本題を聞かせていただいても良いですか?」

 

「そうね。いつまでもエイナを引き留めてたら悪いし___はい、コレ」

 

 彼女は数枚の紙を差し出す。

 

「拝見します」

 

 そこに書かれた内容に目を通した私は手早く封を施すと、とある許可証を発行する。

 

「お待たせしました。有効期限は現在から明日の夜明けまでとなります。いつもの通り自己申告制という形になりますが、被害状況が一致した場合はその限りではありません。証言が一致次第その武器は没収・破棄させていただき、契約書に刻まれた誓約が履行されます___よろしいですね?」

 

「うん、いいよ。大丈夫、そんなヘマはしなから」

 

「貴女の言う大丈夫は大丈夫ではないんですよ___お気を付けて、アリスさん」

 

「了解であります。エイナもお仕事頑張ってね」

 

 右手で作った手刀を右の額の前で掲げるアリスさん。

 

 どういう意味があるのかは私には分からない。

 

 でも何となく私もそれに倣って手刀を掲げる。

 

 【敬礼】___というものらしい。

 

 その意味を私が知るのは、もう少し先の話だ。

 

 

 

 




疑問:アリス以外のキャラの性格や口調に違和感…、


10月中旬までは自由な時間が限られるので更新は気長にお待ちください。

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