夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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今回はちょい短めでごんす。


10話 鬼

 氷川紗夜は最近、よく出掛けている妹が気になっている。

 

 最初はそれほど気にならなかった。ただ散歩に行くんだろうと思っていた。だが、最近はギターケースも背負わずにオフの日には必ずと言っていいほど外に出て行く。大方、アイドルバンドとやらのメンバーと一緒に行っているのだろうが一体どこへ行って何をしているのだろうか?

 

 気になった紗夜はこっそり日菜の後を付けてみることにした。日菜は心なしかいつも以上にご機嫌な様子で歩いている。紗夜はその後をじっと付けていると段々不安になってきた。

 

(日菜…一体どこへ向かってるの?確かこの先は…。)

 

 そう、その先は花咲町で最も恐れられている不良の溜まり場。紗夜は日菜が不良になり来ているのではないかという不安に駆られる。そして紗夜は見てしまった。

 

 入り口に見張りがいる雑居ビルに何事もないように入っていく妹の姿を。それに見張りの不良も引き止める事はしていない。

 

(ひ、日菜…!あなたは…!)

 

 道を外そうとしている妹を姉として止めなければ。紗夜は今日まで妹とはあまり関わってこなかった。姉としてのプライドが許さなかったからだ。でもまさか、その代償で日菜が不良になってしまうとは。説得しに行こうにも中の様子はうかがえないし、入り口には見張りがいる。今はトランプ遊びで暇を潰しているようでその隙に入れるだろうかと考える。

 

(迷ってなんか入られないわね…。そうこうしている内に日菜はますます堕落していくんだから…。)

 

 覚悟を決めた紗夜はこっそりと気付かれないように入り口に近づく。

 

「あーくそ!また負けちまったよちくしょう!」

 

「へっへー。どんなもんよ!」

 

「ちくしょうもう一回だ!今度こそ俺の裏技で勝ってやる!」

 

 トランプゲームに夢中になっているのかこっそり入っていく紗夜に気付かない。紗夜はチャンスを窺いサッとビルに入ると早歩きで、それでいて音をたてないように探していく。

 

(日菜…お願いだから、不良の仲間入りにならないで…。)

 

 紗夜の脳裏にはヤンキー座りで水色の特攻服を身に包み、サングラスを掛けてチューインガムを噛んで「夜露死苦」と喋って改造されたオートバイに乗る日菜の姿が浮かび上がる。

 

 すると、日菜の喋り声が聞こえた。誰か他の男と話しているようだ。紗夜は妹の声が聞こえるドアに耳を当てて聞き耳を立てると男性の何かを教えている声も一緒に聞こえてくる。まさか不良の心得でも刷り込まれているのでは?そう考えた紗夜はドアを開ける。

 

「日菜!あなたは何をしているの!?」

 

 紗夜が見たのは大量に倒れている不良たちに中性的な美少年と組手をしている日菜の姿だった。

 

「…誰だ?」

 

「あれ?おねーちゃん?」

 

 

 

 

 

「そういう事でしたか…。」

 

 後から聞いた話、日菜はただ護身術を習っていて暇潰しに不良たちを相手に身体を動かしていたようだ。

 

「お前もなんで言ってないんだよ…。」

 

「だって、おねーちゃんが襲われたときに助けて驚かせたかったんだもん…。」

 

 シュンとする日菜。どうやら本気で姉が襲われたときに助けに行きたかったらしい。

 

「まぁ、不純な動機でないなら私もとやかく言いませんが、次からはちゃんと報告しなさい。」

 

「はーい。おねーちゃん。私、おねーちゃんを守れるように強くなるよ!」

 

 紗夜は注意するが悪いことはせず、自分の為に動く日菜を見て内心ホッとしていた。

 

「あ、ねぇねぇ。今日は足つぼ無し?」

 

 日菜が玲に話しかける。

 

「ダメだろ。お前今スカートじゃん。」

 

「えー?前はスカート履いていてもしていたのに?」

 

 

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 日菜の発言で紗夜の表情が凍る。足つぼマッサージ?スカート履いていてもしていた?

 

「ばっ、お前、それ言うんじゃねぇよ…!」

 

「あ、ねぇねぇ、今度はリサちーにやった口説きっての、教えてよ!女の子同士でやったらどうなるか試してみたいんだ!」

 

 自分のバンドのベース担当を口説いた?不純異性交遊を教唆?

 

「…ちょっといいですか?リーダーさん?」

 

「…何だよ?日菜の姉。あと俺の名は神前玲だ。」

 

「氷川紗夜です。神前さん。その話、詳しく聞かせてくれませんか?日菜も、そこに座りなさい。」

 

「お、おねーちゃん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーす、戻ったぜー…?」

 

 昇太が見回りからやまぶきベーカリーのパンを入れた袋を持って帰ってくると廊下で縮こまってる部下たちを見かけた。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

「あ、しょ、昇太のアニキ…。あの、今は入らない方がよろしいかと…。」

 

「今来てんのは日菜だろどーせ。ずっと倒されて来たのに今更、何ビビってんだよ?」

 

 昇太は笑いながらドアを開けようとすると部下が止めてきた。

 

「マジで今は止めといた方がいいっす!鬼がいるんすよ!」

 

 小声で止めてくる部下。しかし昇太は大丈夫と不用心に開ける。開けてしまった。

 

「おーす、日菜!れ…ぃ…。」

 

 そこには日菜と玲に正座をさせ、腕を組んで睨み付ける日菜と同じ髪と目の色をした鬼がいた。

 

「…何か?」

 

 鬼が睨み付ける。昇太は笑顔からヒクついた笑いになる。

 

「や、あの…、何でもないすわ…。」

 

 昇太は撤退した。

 

「おねーちゃん、もう足の感覚がないよぉー…。」

 

「ダメです。反省しなさい。」

 

(かれこれ一時間以上座らされてるぞくそったれ…。日菜よりも姉の方がヤバいんじゃないのか?)

 

 この日、玲のグループに新たな掟が加わった。

 

 『氷川紗夜の前では猥談、おふざけは禁止』

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