そのテンションで書き上げたものだからキャラ崩壊が著しいかもしれません。
昇太は見回りがてら羽沢珈琲店へ入る。解決した以後、異常が無いか確認と休息を兼ねて入口のドアを開けると元気な声が出迎えた。
「ヘイラッシャーイ!!」
場違いな出迎えをしたのはバイトとして働いている若宮イヴ。相変わらずズレた日本観で昇太を迎え入れる。だが、昇太は全く気にすることなく笑顔で挨拶する。
「よぉ、イヴちゃん!とりあえずコーヒー一つ!」
「ハイ、ヨロコンデー!」
「イヴちゃん、昇太さん。ここは寿司屋でも居酒屋でもないから…。あと、席についてから注文してください…。」
つぐみは苦笑いをして突っ込みを入れる。昇太は悪ぃ、悪ぃ。と言いながら空いている席に座る。
「あれからどうだ?何か問題は起こったか?」
「いえ、特に異常はありません!これもショウタさんのお陰です!」
「そっかそっか!そりゃあ良かった。イヴちゃんには日本の良いとこ一杯見てもらいたいからな。」
「はい、恩に着ます!」
それほど客は入っていない時間なので余裕でイヴと会話する昇太。入ってる客も昇太の人柄の良さを知っているため気にしていない。
「そういえば、ショウタさんってフリョウのオヤブン。なんですよね?」
「おう、元だけどな。それがどうしたんだ?」
イヴが唐突に出した不良の話題に昇太はさりげなく聞いてみることにした。
「ショウタさんってボンタンとか、リーゼントとかしないんですか?私、日本の勉強で見ていたフリョウの映画やドラマにそういう人たちを見ました。けど、ショウタさんのグループでそのようなファッションをしている人がいなかったので気になったんです。」
「…あー。なるほど。」
昇太は心の中で頭を抱えた。今の世代。そういう格好をしている不良はあまりいない気がするし、もしいたとしても来てくれるかどうかも分からない。だけど、依頼人である一人の少女を喜ばせたい。そう考えた昇太は色々考えた結果、
「よし、任せろ!イヴちゃんが見たい不良の劇をやる!それまで時間がかかるから待っててくれねぇか?」
昇太がそう言うとイヴは目を輝かせた。
「はい!楽しみにしてます!」
そして数日後、イヴはこれ以上なくご機嫌だった。アイドルバンドのトレーニングでライブ以上に楽しそうにキーボードを弾く姿はイヴが所属しているアイドルグループ、Pastel*Palettesのメンバーも困惑気味だった。
「イ、イヴちゃん。」
「オス!なんでしょうアヤのアネキ!」
「あ、姉貴!?」
「ものすごい上機嫌ね…。一体どうしたの?」
いつもと違う呼ばれ方をして戸惑うボーカル担当丸山彩に変わってベース担当の白鷺千聖が話を聞く。
「はい!実は私がバイトとしている羽沢珈琲店の常連さんが今日、私のために舞台劇をするんです!」
イヴの為の舞台劇。その時Pastel*Palettesのメンバーが想像したのは侍や戦国武将が主人公の時代物だと思った。
「へぇー、それってジブンたちも見せてもらえないっすかね?」
「うーん、そうですね、ちょっと確認します。」
ドラム担当の大和麻弥が尋ねるとイヴはスマホで電話して確認をする。そして通話を切るとイヴは満面の笑みで答えた。
「大丈夫です!皆さんの席も用意してくれるそうですよ!」
「やったぁ!良かったね、千聖ちゃん!」
「こら、彩ちゃん。浮かれないの。」
彩は無邪気に喜ぶ。千聖もこの後の予定はオフだったので演技の勉強がてら見てみようかと思っていたのだ。
そんな中、ギター担当の氷川日菜は引っ掛かるところがあった。
(うーん、何だろ?時代物にしては違う言葉遣いだけど…ま、いっか。)
特に気にすることもなくついて行くことにした。
「ね、ねぇ、イヴちゃん…。こっちであってるの…?」
「はい!こちらです!」
今現在、Pastel*Palettesのメンバーは舞台劇が行われる場所に向かっていた。しかし、その道は一部メンバーを除けばあまり来たくない道だったのだ。
「イヴちゃん…。そっちには何があるか、分かってるの?」
「た、確か、この先って、花咲町の黒豹がいるって場所じゃ…。」
(玲くんって舞台劇するの?あ、でもそれはそれで面白そうかな~♪)
彩と麻弥が震えだし、千聖が怪訝な顔、その先頭をご機嫌に歩くイヴと何かに期待してる日菜。それぞれの思惑の中、目的の場所に到着した。
「着きました!ここです!」
あったのは雑居ビルだ。まるでギャング映画にも出てきそうな雰囲気に約三名は息を飲む。
「イ、イヴちゃん?騙されてるんじゃ…。」
「タノモー!!」
彩が止めようとするとイヴは大声で叫んだ。
「ぎゃーーーー!?イヴさんそれはまずいっすよーーーーーー!?」
麻弥が軽いパニックを起こすとビルの入口のドアが開かれる。
顔を出したのは所々歯が抜け、鼻が潰れた不良だ。
「あんたが、若宮イヴさんとそのご友人四名かい?」
「はい!そうです!」
歯抜けの質問にイヴはすぐに答える。すると突然歯抜けが叫ぶ。
「山!」
「ひ!?」
突然叫ぶ不良に彩はビビる。
「川!」
だが意図を察したイヴは自信満々に答える。
「よし、入っていいぞ。地下一階の階段を下ってくれ。」
そう言って扉を開ける不良。今のは時代劇でよく見る合言葉なのだろう。更に目を輝かせるイヴと一緒に戸惑い気味に入るメンバー三人。
最後尾の日菜は歯抜けの不良に話しかける。
「ねぇ、何やるの?」
日菜の質問に不良は困ったように答える。
「イヴさんの好きそうな要素を詰め込んだ劇ですよ…。」
地下一階に降りるとそこには一部カーテンで隠された部屋に五人分座れる広さの畳に、お菓子や飲み物が用意されていた。
その構図に千聖は見覚えがある。養成所通いの後輩役者の演劇を見に行ったときのビルの一部を借りて行った演劇場とそっくりだったのだ。
(演劇をやるって言うのは本当のようね…。)
疑いが晴れない千聖は恐る恐る畳に座る。
「な、何が始まるんだろ…?怖いよ千聖ちゃん…。」
「大丈夫よ、彩ちゃん。いざとなったら私が守るから…。」
「日菜さん、何でそんな余裕なんすか?」
「んー?秘密ー♪」
そう話していると急に音楽が掛かった。
「あ、始まるのかな?」
彩は舞台を見るが麻弥が首を傾げた。
「ん?これって時代物の音楽にしちゃおかしくないっすか?」
そう。流れてきたのは一昔の学園青春ものに流れてそうな音楽。一体何が始まるんだと思ったら、どこかで聞き覚えがある気取ったナレーションと共に演者が出てきた。
「時は昭和…。あらゆる不良が横行している正に世紀末と呼ぶにふさわしい儚き時代…。関東不良連合の頂点に立つ儚き不良がいた…。」
「俺の名はショー…。この辺で恐れられるグラサンのショーとは俺のことよ。」
現れたのはボンタンに丈が短い学ランを来た昇太だった。ナレーションの昭和と言うワード、いきなり現れた昔の不良に呆気にとられる彩、千聖、麻弥。
(え、あれ?時代物じゃない?)
(何で昔の不良映画風なのかしら…?…というかこのナレーション…。)
(にしてもあの衣装よく見つけましたっすね…。)
「彼らは部下たちと共に儚き青春を謳歌して実に平和な日々を送っていたそんなある日のことだった…。」
「大変だ!ショー!関ヶ原学園の連中が!」
「何だと!?あいつら俺たち関東不良連合を征服しに来やがったな!?」
(関ヶ原学園って何よ…。)
すると、袖から現れたのは手作りの段ボールで作った戦国武将の鎧を着た玲と部下たちだった。おそらく関ヶ原学園の者らしい。
「どういう設定よこれ!?」
思わず千聖が突っ込む。昔の不良映画風の世界に戦国時代の武将。あまりにも時代錯誤が甚だしい。
「ち、千聖ちゃん。落ち着いて…。」
彩がどうどうと落ち着かせる。
「あっはははははは!玲くん何それ!?お腹痛いよあっははははは!!」
「ひ、日菜さん、黙ってみましょ…。」
理解が追い付かない千聖に大爆笑の日菜。そんな二人を落ち着かせる彩と麻弥。そんな中イヴは
「はぁ~…!スゴいです!」
まるで大好きな特撮ヒーロー二人が共演したのを見ている子供のようになっていた。
「我は戦国武将、本田忠勝の魂を受け継ぐ本田刃無勝…。関東の征服しに参った…。」
「てめぇ…、俺たちのシマに入ったこと、後悔させてやらあ!!」
「も、もうダメ…息が苦しい…。ハムカツ…ヒッヒッ…。」
「日菜さーん!?」
玲が扮する本田刃無勝の言葉に日菜が崩れ落ちる。
「彩ちゃん…今、私は夢を見ているのかしら?」
「しっかりして千聖ちゃん!現実だよ!?」
「くっ…おのれやるな!グラサンのショー!」
「そういうアンタこそ…本田刃無勝!」
それなりに迫力ある戦闘のあと、舞台には昇太が扮するグラサンのショーと玲が扮する本田刃無勝が残った。背景も赤照明で夕焼けのように赤く染まっている。
「長く儚い戦いの最中、二人の間には奇妙な友情が芽生え始めていたのだ…!」
「うおおおおおお!」
「おりゃああああ!」
グラサンのショーと本田刃無勝の拳が交差し、互いの顔に激突する。そしてしばしの沈黙のあと、二人は崩れ落ちた。その直後に舞台の幕が降りる。
「こうして、関東不良連合と関ヶ原学園の間に架け橋ができ、二人の名は末長く、儚く轟いたのであった…!」
最後にナレーションの締めで物語は完結した。
「ど、どういうことだったんだろう…。」
「…今日見たことは記憶から消したいわね…。」
「あー…、お腹痛かった…。苦しい…。」
「や、やっと、終わったんすか…。」
あまりにもベタな、突っ込みどころ満載なカオス演劇が終わりを告げ解放されるPastel*Palettesの面々。そんな中、イヴは感激していた。
「素晴らしいです…!感動しました!」
「なんか、色々スゴい劇だったね…。」
「今日はもう帰って次の仕事に専念したいわ…。」
「あー、可笑しかった!本田ハムカツって面白すぎるよー!」
「にしても、不良なのにお見送りするって礼儀正しかったっすね…。イヴさんは面白かったですか?」
「はい!フリョウとブシの友情…とても素晴らしかったです!」
口々に感想を言いながら帰って行くPastel*Palettesを見送る部下たち。その後ろから声をかける者がいた。
「やぁ、君たち。今回の舞台、アウトローな君たちの儚い努力に私は心を打たれたよ…!」
声をかけたのは紫髪の芝居がかった喋りをする美青年。
「よぉ、瀬田!今日はありがとな。」
その美青年に昇太は話しかける。
「何、こころの親友の頼みだ。無下に断るわけにも行くまい。さて、刃無勝を演じた美しい彼にも会いたいが、彼は今、何処にいるんだ?」
「あー…、今はそっとしておいてやってくれ。あいつ、見られたくないやつに見られちまったらしくてな…。」
「そうか、それは残念だ。彼の演技はこの私の目から見ても見張るものがあったからね。」
「後で伝えとくよ。スゴかったってな。」
「ああ、そうしてくれ。」
後日、玲が一人で部下たちの見回りシフトを整理していると扉を開く音が聞こえた。
「れーくん、こんちゃ~。」
「ん、モカか。どうしたんだ今日は。」
玲は特に気にすることなく手を動かすとモカが新聞紙で折った兜を被る。
「我の名は本田刃無勝なり~。」
「モカてめぇそれ日菜から聞きやがったか!?今すぐ止めろ!!ブッ飛ばすぞ!?」
本日も平和である。