あ、ピコの蘭ちゃんくっそ可愛かったです。
「…なぁ、玲。」
雑居ビルの入口。昇太が困ったように話しかける。話しかけられた玲も困ったような顔をしていた。
「この子、どうすんだよ…。」
足元には玲のジーンズにしがみついて離れないリュックを背負った子供がいた。
こうなったのはちょっと前に遡る。
いつも通り、見回りをして怪しい人物がいないか目を光らせながら歩いているとき。
(異常無し…。やっぱり噂の効果はあるって訳か…。)
玲がいじめやかつあげの現場に首を突っ込み加害者を完膚なきまでに叩きのめしたという噂は広まりここら一帯では部下の報告含め数を減らしている。
(今日もこのまま帰るか…。)
そう考えやまぶきベーカリーに寄ってパンを買い、公園の前を通り過ぎようとしたとき、
きぃ、きぃ。
玲の耳に公園の方からブランコが揺れる音がした。
風もない上に暗くなり始めているこんな時に?
そう思い公園の方に視線を移すと俯いてブランコに乗っている、見た目からは小学1年位の不自然に前髪を伸ばした女の子がいた。
まるで誰かを待ってるかのように、ずっと一人でブランコに揺られている、その側には荷物らしきものがある光景。嫌な予感がした玲はその子に話しかけてみることにした。
「おい、そこで何やってるんだ?」
玲は少女と同じ視線になるようしゃがみ、話しかける。
俯き気味な少女は少しだけ顔を上げ、玲を確認するとまた俯いた。根気強く待たなきゃダメな奴かと思い、長期戦に持ち込もうとしたら、
「…お母さんが、来るの待ってるの。」
ボソボソながら訳を話した。玲は少し拍子抜け気味だったがすぐに向き直る。
「そうか。じゃあ、お母さんがここで待っててって言ってたときはお日様はどこだった?」
「…まだお空にはお日様があったよ。でもずっと待ってるのにお母さん全然来ないの。」
これはそう言うことか。そう考えた玲はそばにあった荷物らしき物に手を伸ばすと書き置きらしきものがあった。それにはこう書かれていた。
「誰かこの子を養ってください。名前は由美です。」
おそらく親が書いたのだろう。今、このご時世に無責任すぎる親だ。玲は呆れてしまった。このまま帰りたいがこの子供はどうなるだろうか?このまま一人暗い中、戻ることがない親を待ち続けるつもりなのだろう。玲は連れていって良いものか考えていると
きゅぅぅ~…。
少女、由美の方から音が鳴った。どうやらずっと飲まず食わずで待っているらしい。
玲は溜め息を吐きながらパンの入った袋を差し出す。
「…いいの?」
「腹、減ってんだろ?食いなよ。」
戸惑い気味の由美に玲が許可するとさっきまでの大人しさが一変してパンを頬張り始めた。
「あーあー、そんながっつくな。喉に詰まるぞ?」
そこで玲はまたも直感した。この子は今までまともな食べ物を食べたことがないという事に。
「ん、んぐっ。」
案の定、喉を詰まらせてしまった。
「ちょっと待ってろ。」
玲はすかさず近くの自販機に走り、水を買った後ペットボトルのふたを開け、由美に飲ませる。由美はペットボトルの水を喉に詰まったパンと一緒に飲んでプハッと一息つく。
「おいしかった。」
「おう、そうか。じゃ、俺は行くよ。お日様が沈んでもお母さんが来なかったらお巡りさんの所に行きなよ?」
そう言って離れる。すると足に何かがくっつくような感触がした。
足に視線を移すと由美が玲のジーンズを掴んでいた。
「……。」 「……。」
沈黙が流れる。
「あのね…。お母さんに言われなかった?怪しい人に付いていっちゃダメって。」
「…お母さんは何も言わないの。」
「…そうか。」
「……。」「……。」
また沈黙が流れる。
「じゃあ、一緒にお巡りさんの所に行く?」
玲がそう聞くと由美は首を振る。
「お母さんが言うの。ケーサツには行くなって。」
(…そう言うわけか。)
おそらくこの子の親は自分が子供を虐待している自覚があるようだ。
(さて、虐待されている被害者なのはほぼ確定されてるが…まだ証拠が足りないな。)
玲は顎に手を当て、考える仕草をするが、ふと、目が隠れられるほど伸ばした前髪が気になった。
「ちょっとごめんよ。髪の毛にパンの欠片が…」
「ダメ!!」
玲が前髪をさりげなく上げようとすると由美は強い拒絶をし、震え出す。
これだけで玲は確信した。
(前髪を伸ばしているのは多分額に親からすれば見られたくないものがあるからだな…。)
「そうか、ごめんな。」
玲はそう言って手を引っ込める。警察もダメだとするともう玲の頭にはこの選択肢しか残ってなかった。
「で、連れてきたわけか!?」
昇太が面食らう。ちなみに今、由美は部下たちとババ抜きをして遊んでいる。
「明日またあの公園に行くつもりだよ。俺の番号を書いた書き置きも残しておいたから良いだろ?」
「だからってなぁ…。蘭ちゃんたちがこの子の事知ったらどうすんだよ?」
「だから明日、朝一番、親が置いていった場所に行くんだろ?」
「…親がいることを切に願うぜ俺は。」
翌日、朝焼けを浴びながら玲は起き上がる。そして隣に寝ている由美の顔を見る。昨日、寝るときに布団の中に入ってきたのだ。
穏やかに寝息をたてている由美。まだ夢の中なのだろう。そう思った玲はゆっくりと気付かれないように前髪を上げる。露になった額は玲の予想通りだった。
幼い寝顔には似つかわしくない火傷の跡が五つほどあった。事故で額に五つ火傷ができる訳がない。考えられる可能性は、
「…親からの根性焼きか。」
根性焼き。簡単に言うならば煙草の火を肌に押し付けることだが、由美のそれには悪意が感じられた。
(はぁ、気が重いな…。)
このまま親からこんな目に遭わされている子を帰して良いのだろうか。そんな考えが玲の頭の中に渦巻く。
考えてもしょうがない。そう思った玲は朝飯の準備をしにコンビニへと向かうのだった。