夕焼けと不良少年【完結】   作:shinp

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続けて投稿でござんす。


18話 捨て子(後編)

「…来ねぇ。」

 

 昨日、由美を拾った公園に由美と共に朝9時頃から来て、正午。全く来る気配がない。玲がベンチに腰かけて待っているが由美の親らしき人物が来る気配が全く無いのだ。

 

(ホントに捨て子かよ…。笑えねぇ…。)

 

 昨日と変わらずブランコに揺られている由美を見ながら玲は心の中で吐き捨てる。

 

(この子どうするんだ?親が雲隠れしちまった以上昇太の人脈に頼るしかないのか?俺、子供なんか養えねぇぞ?)

 

 玲が頭を抱えていると腕が引っ張られる感触がした。顔を上げると由美が腕をくいくいと引っ張っていた。

 

「お腹へった。」

 

「…分かったよ。じゃ、ご飯食べに行くか。」

 

 玲の言葉に由美はこくりと頷く。

 

「何が良いんだ?」

 

「昨日食べたパン食べたい。」

 

「やまぶきベーカリーか…。」

 

 玲は今日が何日だったか携帯で確認する。

 

(この日は学校が休みだから…。沙綾が店番なら弄られるなこれは…。)

 

 心の中で沙綾が店番じゃないことを祈りつつ由美と一緒にやまぶきベーカリーへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

「で、その子は何なんですか?」

 

「…。」

 

 沙綾が店番だった。最初は会話で何とか触れられる事なく出ることができると考えていた自分を殴って、くそったれと吐き捨てたくなったが何とかこらえる。

 

「…知り合いの子の面倒見てるんだよ。悪いか?」

 

「ううん。ちょっと気になっただけ。ふふ、玲さんが子守りかぁ…。うちの沙南と純の面倒も見てくれないかなー。なんて。」

 

「残念だな。もう定員オーバーだし、今後も子守する予定ゼロだよ。」

 

「えー、でも沙南と純は玲さんに会いたがってるんですよー?」

 

 玲は心の中でその手を使うかと舌打ちする。

 

 以前、昇太が受けるはずだったやまぶきベーカリーの店番の依頼を引き受けた事があり、その時、沙綾の妹と弟と関わりを持ったのだが慕われてしまったのだ。

 

「とにかくだ。もう俺はこれで会計する。早くしてくれ。こんなとこモカに見られでもしたら、」

 

「私が見たらどうなるって~?」

 

「どう弄られるか分かっ…た…。」

 

 玲が振り向くとそこには面白いものを見ちゃったと口角を上げ、両手のトレイに大量のパンを乗せたモカがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああくそ…、俺としたことが…。」

 

 玲は公園に戻ってベンチに戻って落ち込む。あの後、モカの分のパン代も払うことで事なきを得たがもしこれが蘭や紗夜だったら生きた心地がしなかった。

 

「まーまー、黙っててあげるからいいじゃーん。美少女モカちゃんは口は固いんだよ~?」

 

 隣には由美と一緒にパンを頬張りながら慰めるモカ。

 

「まぁ、他の奴等に黙っててくれるなら良いけどよ…。」

 

 玲は渋々ながら自分の分のコッペパンを口に入れた。焼きたての香ばしい匂いが口の中に広がった。

 

 

 

 

 

 パンをたらふく食べた由美は午前中遊んでいたこともあってか、うとうと船をこぎ、玲の膝の上で眠ってしまった。

 

「でさ~、この子は何なの~?」

 

 モカが聞いてくる。

 

「…言ってるだろ?知り合いの子を預かってるって。」

 

「嘘でしょ~?れーくんって嘘吐くとき目をそらすもん。ホントは何の子なの?」

 

 やっぱりAfterglowには敵わない。そう思った玲は観念して本当の事を話す。

 

「…漫画の中だけだと思ったけどホントにあるんだね~…。」

 

「全くだ…。」

 

 モカの呟きに玲は同意してため息を吐く。

 

「それで昇太の人脈を頼りに何処かの孤児院とかに預けようか考えてるんだが…。」

 

「その子ってさ~。れーくんにずっと付いてくるんでしょ~?」

 

「あぁ、そうだが…?」

 

「もうれーくんが養っちゃえば~?」

 

 モカが出した提案に玲はモカと向き合う。

 

「なぁ、俺は何だ?」

 

「れーくん。」

 

「俺はどんな事をしてる?」

 

「町やあたしたちを守ってる。」

 

「…普段なんて呼ばれてる?」

 

「花咲町の猫ちゃん。」

 

「違うだろ!?俺は!不良で!皆からは恐れられている花咲町の黒豹なんだよ!何だよ猫ちゃんって!?可愛くするな!そんな俺がこんな小さい子を養えるのか!?」

 

 モカから望んでいた答えが出てこなくて玲はイラつく。

 

「でもさー、れーくんになついているっぽいかられーくんが貰うしかないよね~?」

 

 モカの言葉に拗ねるように視線を反らすと、とんでもないことに気付いた。

 

「…どこ行った!?」

 

 そう、膝の上で寝ていた筈の由美がいつの間にかいなくなっていたのだ。

 

「あれま。どこ行ったんだろ?」

 

 モカもいつも通りの言葉ながら目を見開く。

 

「探しに行ってくる!」

 

 玲はすぐ席を立つと公園の外へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっはぁっはぁ…!」

 

 玲は全身汗だくになりながら、心当たりがありそうな所を走り回って行くが由美の姿は全く見つからない。

 

(くそ…!俺としたことが、まさか気配を感じられなかったなんてな…!連れて行かれそうな所は隅々まで探したはずなのに見つからないなら…。)

 

 町の外へ連れて行かれた。そう考えた玲は顔を青くする。玲はこの時、冷静さを欠いており昇太や部下に頼るという選択肢が抜け落ちていたのだ。

 

 日が落ちる。夏に比べて早く日が沈む秋。すでに外は暗くなり始めていた。

 

(明日も探そう…今日はもう遅い…。)

 

 玲はふらつきながら雑居ビルへと戻ると賑やかな声が聞こえた。

 

「…何だ?」

 

 不思議に思いながら賑わっている部屋へと向かい、ドアを音をたてずに開けると

 

「やだ~!クッキー食べる様子リスみたいで可愛い~!」

 

「ひ、ひまりちゃん、食べさせるの良いけど太らせないようにね…。」

 

「にしても、玲のやつこんな事アタシらに黙ってるなんてなー。」

 

「…ちょっとは頼ってもいいじゃん。」

 

「全くだよね~。れーくん何でも自分で背負いこもうとするもんね~。」

 

 Afterglowの5人にちやほやされる由美の姿があった。美少女モカちゃんの口の固さとは何だったのか。

 

 玲は力が抜けたようにへたりこむ。

 

「は、はは…。何やってたんだよ俺…。」

 

 力なく呟くと由美が玲の存在に気付き走っていく。

 

「あ、れーくん。」

 

「モカ…。こいつどこにいた?」

 

「んーとねー。」

 

 

 玲が質問するとモカは指を口に当てて思い出す。

 

 

 

 

 

 玲が公園を飛び出したあと、残されたモカも探しに行こうと置いていたギターケースに手を伸ばすと、

 

「あ。」

 

 由美がギターケースをジッと見つめていた。

 

(どーしよ…。れーくん飛び出していっちゃったしな~…。…このまま泳がせておくのもありか~。)

 

 モカはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

 

 

 

(…つーことはずっと公園にいたって訳かよ…。)

 

「それと~、今日モカちゃんはバンドの練習もあったので待ち合わせ場所に向かったら、この子も一緒に付いてきちゃいました~。」

 

「ビックリしたよね。モカの側に小さい女の子がいたから。」

 

 モカの事後報告とひまりの感想に玲は頭を抱える。そんな玲に由美は食べていたクッキーを差し出し、慰める。

 

「あー、ちくしょう…。」

 

「玲、お前頑張るのは良いけどたまにはアタシらに頼ることも覚えなよ…。」

 

「アタシたちも、その、力になりたいから…。」

 

 巴と蘭から指摘され玲は拗ねたように答える。

 

「うるせぇよ。…でも考えとく。」

 

「れーくんのデレ頂きました~。」

 

 モカが冷やかすと玲はモカの前に行き、両手でモカの頬を引っ張る。

 

「いふぁい、いふぁいお、ふぇーふーん。」

 

「お前がここにいるって言わなかったから、俺があちこち走り回る羽目になったんだろうが!」

 

「玲もこの子の事アタシらに教えなかったからお互い様でしょ?」

 

 蘭の指摘に言葉が詰まる。

 

「お前もモカの味方かぁ…!」

 

 忌々しげに蘭を睨み付ける。ここに玲の味方は誰もおらず、蘭たちからありがたいお小言を耳に入れられたのだった。

 

 

 

 

 

「で、お前この子も仲間入りさせるってか?」

 

「…あくまで仮だ。まともな貰い手が来たらすぐ移すからな。」

 

 その後、由美は玲たちのグループの仲間入りをした。名字も不明だったため、昇太が玲と同じにするかと尋ねたら無表情ながら喜んで頷いた。

 

「よーし!仮とはいえ、新メンバー加入祝いに騒ぐぞー!」

 

 昇太が仕切ると部下たちが便乗して騒ぎ出す。

 

「今日見回りがあるの忘れるなよ!」

 

 そんな部下たちに玲は釘を刺すのだった。




神前由美(かんざき ゆみ)
玲が拾った捨て子。目が隠れられるほど伸ばした髪の毛が特徴で無口。玲やAfterglowになついており、気配を消すのが上手く、目を離せば玲ですら気づかないほど。親の元で虐待を受けていた痕跡が前髪下の額にあり、それを隠すよう親に刷り込まれており、前髪を弄られるのを嫌う。

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