メギド楽しい(唐突なダイマ)
「あ"~~~~ちくしょう…。」
玲は今、ベッドに寝かされ、額には湿布、口には体温計、顔は赤く火照っており汗が止まらず、声もガラガラでうなされている。そして、由美が側で不安そうに様子をうかがっている。そう、玲は風邪を引いたのだ。
ここ最近、見回りに加え新しく入った由美に関する待遇について考えるといった事が重なり、無理が祟って寝込むことになってしまったのだ。
(まさか俺が…こんな事になるなんてな…。)
普段、部下に無理はするなと言った自分がこれでは示しがつかないな。そんな愚痴がこぼれる。
そんな自分に由美は小さな手で玲の頭を撫でて治るよう願掛けをする。前髪で目はあまりよく見えないが心配しているのがよく分かる。
(こいつは無口かと思ってたけど、感情豊かなんだよな…。)
数日、由美と暮らして分かったことは口数は少ないが嫌なものは嫌と自分の意思表示はする事。好きなこと、興味があることだと食い付きが良い所だ。
「安心しなよ。俺がこんな事で死ぬわけ無いだろ?」
そう気丈に笑って由美の頭を撫でる。撫でられた由美は黙って下を向いているが口がにやけ気味で気持ち良さそうなのが見てとれる。前髪が無かったら目を細めている事だろう。
昇太や部下も手厚く手当てしてくれたからこのまま何事もなく、寝ていれば明日には治るだろう。そう考え、少し眠ろうとしたとき、
「やっほー!風邪引いたって聞いたからお見舞いに来ちゃったー!」
「ひ、日菜さん!静かに!静かにして欲しいっす!」
「出ていけ疫病神!!ゲホッゴホッ!」
ドアを開けて部下の制止を振り切りながら天才が来てしまった。死にはしないが治るのはもっと後になるだろう。玲はそう直感した。
「いやー、玲くんでも風邪引くことあるんだねー。何か新鮮!」
「お前今日仕事は?」
「午後からバンドの練習だから今はまだ大丈夫だよー。」
当然出ていけと言われても出ていかないので諦めた。まじまじと寝込んでいる玲を見つめる日菜にもう慣れてしまった玲だが、日菜を見たことがない由美は玲の後ろからずっと日菜を睨み付けている。ずっと懐疑の視線を送られ続けた日菜が尋ねる。
「でさ、気になったんだけどあの子って何なの?新入り?」
「…まぁ、そんな物だ。仮だけどな。」
「ふーん。」
玲が適当に答えると日菜は由美の方に興味を向け、近付く。一方の由美は日菜が近付くと同時に距離を取り、離れていく。
(なんかこんな感じの犬猫動画があったな…。)
動物好きの部下がスマホで見ていた動画に子猫に興味津々に近寄る大型犬とその大型犬を怖がり威嚇する子猫という構図が重なって見えた。すると、玲の視界がぼやけ始め、日菜の頭に犬の耳、由美の頭に猫の耳が生えた幻覚が見え始める。
(あ、やべぇ…。少し寝なきゃな…。)
玲は遠退く意識の中、部屋を飛び出し逃げる由美とそれを追いかける日菜を見送ったあと、目を閉じ少しばかり眠った。
「玲の奴、風邪引いてるならそう言ってくれればいいのになー。」
巴がそう呟く。バンドの練習後、巴のスマホに昇太から玲が風邪を引いているという情報を受けて急遽五人でお見舞いの品を持って行くことになった。
「そうだよねー。心配しちゃうよ。」
ひまりも巴の呟きに同意する。
「でも、今のれーくんは蘭みたく素直じゃないから余計なお世話だって言いそうだよね~。」
「あはは、確かに…。」
「モカ…、つぐみ…、それどういう意味?」
「あっ、違うの!そういうのじゃなくて…!」
いつも通りの掛け合いをしながら雑居ビルへと向かう五人。雑居ビルに着き、中へ入ろうとしたとき、
「…ねぇ。何か騒がしくない?」
蘭が異常に気付いた。耳を澄ますと複数人の足音がドタドタと走り回ってる音が聞こえてくる。そしてその音は段々と一階に近付いていた。
「…皆、アタシの後ろに隠れろ。」
巴が蘭たちを庇うように前に出る。すっかり忘れていたが玲のいる場所は不良の溜まり場でもある。どこか別のグループが攻めてきたのかと予想した巴は蘭たちの安全を優先する。そして走る音が一階に降りてきた瞬間、黒くて小さいものが巴の胸に飛び込んできた。
「うぉわ!?」
「追い付いたー!」
驚く巴に更に飛び付く聞き覚えがある声。体勢を崩した巴は後ろに倒れる。
「い、いつつ…。一体何が…って、由美と、日菜先輩?」
巴は飛び込んできた黒いものがこの前、玲の仲間入りした女の子と学校の先輩だと気付き力が抜ける。
「と、巴~。早く起き上がってよー!」
「むぎゅう…。」
「見事なドミノ倒しだね~。蘭~。お見舞いのお花だいじょーぶ?」
「な、何とか。てか、お、重い…!」
予想以上に騒がしいお見舞いになったな。巴は心の中で呟くのだった。
夢を見ている。何もない暗闇だ。ただ黒しかない空間で玲はさ迷い続けている。
すると、後ろから光が差した。振り向くとそこには夕焼けの中歩いていく蘭、モカ、つぐみ、ひまり、巴の姿があった。玲はそこへ入ろうと走り出す。
だが、突然進めなくなった。壁だ。見えない壁が蘭たちと玲の間にあって進めないのだ。壁を叩く。でも蘭たちは気付かない。大声で叫ぶ。段々と離れていく。手を伸ばす。それでも振り向きもせず離れていく。
すると、玲の手を誰かが掴む。黒く汚い手だ。そしてその手はお前の居場所はここだと言わんばかりに暗闇へと引っ張っていく。
嫌だ。そこは嫌だ。そう叫び、もがくも引っ張る手は容赦なく蘭たちと玲の距離を離していく。そして玲が引っ張られる先にあるものは
「…っはぁっ!」
そこで目が覚め、起き上がる。少し寝たからか幾分か楽になったがまだ気分が悪い。
「…くそ。」
そう吐き捨てまた横になる。見なくなって久しい夢だが若宮イヴと会って以降見る事が多くなっていた。
(昔はこんな夢見てもどうとも無かった筈なんだがな…。)
天井を見ながらそう思い返す。昔はただ暗闇に引っ張られるだけだった夢の内容がここ最近、蘭たちと引き離される要素が加わったことにより一層ダメージが大きかった。
(…そういや、つぐみの家に泊まることになったとき同じような夢を見たはずなのにそれほど苦にならなかったよな…。)
そんな事を考えているとドアが開く音が聞こえた。由美と日菜がおいかけっこから帰ったのか。そう考えた玲が首だけ動かすとそこには先程夢に出てきていた五人がいた。
「やっほー、れーくん。お見舞いに来ちゃいました~。」
「玲ー!ちゃんとお見舞いに果物とか持ってきたよー!…ちょっと傷ついちゃったけど。」
「ほら、由美。玲の所に来たから離れなって。」
「あ、玲くん、日菜先輩は練習があるから帰るって。」
「うわ、玲、すごい汗じゃん。大丈夫なの?」
それぞれ喋りながら玲の部屋に入ってくる面々を見て玲は少なからず安心感を覚える。
「あぁ、大丈夫。ちょっと寝付きが悪かっただけだ。つーか言うだろ?風邪には汗をかけば良いって。」
心配する蘭に玲は笑いながら大丈夫だとアピールする。すると巴が由美を下ろしながら話しかける。
「にしても、ちっちゃい頃から風の子元気な子を地で行っていたお前が風邪引くなんてな。」
「多分だけど~。ゆーみんの色々な事を考えてツグりすぎちゃったんでしょ~?」
モカの指摘に玲は図星でそっぽを向くように寝返る。ちなみにゆーみんとは由美の事である。
「おやおや~?この反応…当たりみたいですな~。」
「玲…。無茶しすぎ。今日と明日は寝ておきなよ。」
「うるせぇな…。お前は俺の母親か?」
「な…は、母親!?うっさい!」
玲が毛布にくるまりながら愚痴ると予想以上に顔を赤くした蘭。更に玲はからかってみる。
「お願いだよ蘭、俺は病人なんだよ。そんな近くで怒鳴られると寝られやしない。」
「あ、あんたが変なこと言うからでしょ!?ていうか、そんな口叩けるんならさっさと治してよ!」
「まぁまぁ!二人ともそこまで!」
「玲も煽らない~!」
熱くなりかけた所で巴がすかさずに待ったをかけ、宥める。蘭は忌々しげに睨みつけるが玲はどこ吹く風な態度だ。
「そうだ。玲くん、私たちも何か看病しようと思ってるんだけど、良いかな?」
「はは、気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとな。じゃ、少し寝る。」
つぐみの気遣いに感謝しつつも既に部下たちから充分すぎるほど介抱されていた玲はそれ以上貰うわけにはいかないと断り、眠る。目を閉じて数秒。それだけで寝付くと蘭たちが驚く。
「おぉ…モカちゃんもビックリの寝付きの良さだね~。」
「でも、私の家に泊まったとき、寝起きが悪かったんだよね。朝に弱いのかな?」
「かもな。前、起こしに行った部下の顔を殴り飛ばしちゃって歯が抜けて鼻が潰れたから起こすのは止めたって昇太が言ってたからな。」
「あ!あの人そうだったの!?」
「れーくん、折角起こしに来てくれた人を殴るのは良くないよ~。」
モカが注意するも既に寝てしまってる玲は聞いている気配がない。モカはプクッと頬を膨らます。そして蘭たちに話しかけた。
「ねぇ、皆。れーくんが元気になれるように蘭の看病したときのアレ、やってみない~?」
「よし!じゃあ、アタシはありったけの毛布持ってくる!」
巴が動くと同時に各々動き出す面々。もちろん、静観していた由美も玲の風邪を治す為にはりきり始める。
この後、玲は看病という名の地獄を味わうことになるのだった。