「合同ライブのスタッフ?」
昇太から聞かされた依頼に玲は反応する。
「ああ、今度そう言うライブイベントのスタッフに頼みたいって依頼がCiRCLEの方から来てな。ちょっと人手が足りねぇっぽいんだ。」
昇太は持っていたライブのチラシを玲に渡した。
「ふーん…。お、蘭たちもいるのか。」
玲はそれとなくチラシの出場枠を確認してAfterglowがいるのに気付く。
(そう言えば、ひまりから合同ライブを盛り上げるために三連休を利用した合宿をするから玲も一緒にどうだって、誘われてたな…)
あの時は聞き流しながら考えとくと一言だけで済ませていたが、もし行かなかったら問い詰められそうな気がしてきた。
「蘭ねえとモカねえも出るの?」
Afterglowに反応した由美がひょこっとやって来る。ここ最近、由美はどうやらギターに興味を持っているらしく、Afterglowメンバー内では特にモカや蘭になついていて、玲にバンドの練習を見たいとせがまれる事がよくあるのだ。
「由美と一緒に行ってやりな。お前も正直に言うと見たいんだろ?」
昇太に見透かされ、玲は不機嫌に昇太を睨み付ける。
「おお、くわばらくわばら。黒豹にボコられる前に退散しますかなっと。」
昇太はそう言いながら部屋から出ていった。
「玲。私行きたい。蘭ねえたちが演奏するの見たい。」
(…行きたいのは山々なんだけどな…。)
隣で由美が行きたいとせがむ声をBGMに玲は頭を抱える。
(日菜のバンドもいるんだよな…。)
そう、玲が苦手とする氷川日菜がメンバーのPastel*Palettesも参加していることだ。聞く話によると若宮イヴもメンバーの一人らしい。
トラウマから抜け出せていない時にイヴに会うのは危険すぎるかもしれないし、他のバンドグループに弱みを見せてしまうかもしれない。でも親から虐待され、自由を束縛されていた由美の願いは叶えてあげたい。そんな板挟みに襲われながらたどり着いた結論は、
(まぁ、蘭たちだけに関わってりゃいいか…。俺の噂は広まってるから向こうからガツガツ来るような奴はいないだろ。)
こっちから絡みに行かなければいい。そう考え、ひまりに合宿に同行する事を伝えることにした。
「あ!あなたは、黒豹さん!?」
(イヴ以上に一番会いたくねぇ奴に会っちまった…。)
蘭たちの待ち合わせ場所に向かう最中に、いつか雨の日に絡んできた香澄と遭遇してしまった。玲は無視するように由美の手を引っ張り、その場を離れようとしたが何故か由美が動かない。どうしたんだと由美の方に視線を向けると由美は香澄の方に視線を向けている。何があるんだと視線の先を追うとそこには香澄のグループの中に見た顔があった。
「パン屋のさーやねえがいる。」
由美はやまぶきベーカリーのパンを大層気に入っており、時々パンを買いに行っているのだが、つい最近、沙綾やその家族に顔を覚えられたのだ。
「ああくそ…。」
玲は観念したように項垂れる。そんな玲に沙綾は近付いていく。
「どうも、玲さん。今日はどうかしたんですか?」
「お前さ、俺はこの辺りで恐れられてる不良のリーダーだってこと忘れてねぇか?」
当然のように話しかける沙綾に玲はジト目で睨み付ける。だが、紗綾は全く怖じ気付かず話しかける。
「あはは、この前、万引き犯を取っ捕まえてくれた人を恐い人なんて言えないですよ。」
(いらねぇよそんな親切…。)
「あれ?沙綾はもしかして黒豹さんとお知り合い?」
「お、おい、大丈夫か?相手はあの黒豹なんだぞ?」
香澄がキョトンと、有咲が恐る恐ると聞いてくる。それに対し、沙綾はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔である。
「うん。この人は花咲町を守ってくれてる人で、やまぶきベーカリーの常連さんでもあるんだ。あと、沙南と純の世話もしたことがあるよ。」
「おい、そんな紹介しろなんて一言も」
「すっごーい!ほら有咲!やっぱりこの人はいい人なんだってば!」
「し、信じない!信じないぞアタシは!だって黒豹は自分の縄張りで好き勝手した奴の指を全部へし折ってそのまま放置したって逸話だってあるんだからな!」
まるでヒーローに会った少年のように目を輝かせる香澄と首を振って未だに疑う有咲。
有咲が言っている事も真実ではある。だが、これは玲が部下に少しでも盛って話せと指示した内容であり、放置したのは事実だが実際は小指一本だけだ。
「でも、小さい子連れてるし、その子黒豹さんになついているじゃん。」
「あ、ホントだ…。」
黒髪ロングの子が由美の存在を指摘しておどおどしている子が気付く。すると、玲の後ろに隠れてた由美が有咲を睨み付けながら反論する。
「玲は、悪い人じゃ、ない。」
玲のジーパンを握りながら有咲を睨み付ける。睨まれた有咲はたじたじになる。
「う…。」
「おい、由美。年上を困らせんな。待ち合わせに遅れるからそろそろ行くぞ。」
玲は由美の手を引き、その場を逃げるように後にする。蘭たちとの待ち合わせもあるから由美の歩調に合わせつつ、早歩きで待ち合わせ場所へ向かった。
(よりにもよって弦巻の息がかかってるところか…。)
待ち合わせに間に合い、向かった先の合宿する豪邸のような山荘に着いた瞬間、玲は顔をしかめる。隣にいる由美は前髪でよく見えないが玲とは対称的に目を光らせている。
玲は過去の事があり、金持ちを嫌悪している。そんな金持ちの世話になるのは玲にとっては最悪だった。
だが、蘭たちと一緒に居ればいい。
そう開き直り、玲は由美の手を引き蘭たちの後に付いていく。
「いやー…相変わらずこころの家ってスゴいなー…。」
巴が圧倒されたかのように呟く。
「でも~、ここなら近所迷惑にならないし、思いっきり演奏できるよね~。」
「それに空気も美味しいし、休憩もゆっくりできそうだよね。」
そう談笑しながら入っていく蘭たちの後に続いて庭に入った瞬間、
「!?」
突然、頭に銃を突きつけられているような感覚に襲われた。
殺気だ。
咄嗟に辺りを見渡して神経を研ぎ澄ませて殺気の元を探ろうとするが全く掴めない。まるで雲を掴もうとしているようなもどかしさになる。
「玲?」
「…玲?どうしたの?」
由美と蘭の声で我に帰る。
「あ、ああ、何でもない。」
「れーくん、圧倒されちゃうのは分かるけど人様の別荘でボーってしちゃダメだよ~。」
「お前に言われたくねぇよ。モカ。」
モカに弄られながらもう一度殺気の元を探ろうとしたが既に殺気は忽然と消えていた。
(…何なんだよったく。)
玲は心の中で吐き捨てた。
「いらっしゃい!よく来たわね!」
玄関のドアをノックすると元気な声が出迎えた。
出てきたのは腰まで伸ばした金髪に笑顔が眩しい女の子。この豪邸のような山荘を合宿場所に提供した弦巻家の令嬢。弦巻こころだ。
「あら!あなたが昇太や薫が言っていた黒豹かしら?」
こころは早速玲に絡みに行った。その瞬間、玲は確信した。
(こいつもあの香澄とか言う奴と同じタイプか!めんどくせぇ!)
先程遭遇した少女を思い出す。それに、ここには有咲のようなストッパーの姿が見えないため、ここは当たり障りのない会話をするようにした。
「ああ、よろしく。」
「ええ、こちらこそよろしく!」
このまま切ってくれれば穏便に済ませるだろう。
「ところで、あなたって男の子かしら?女の子かしら?」
「れっきとした男だ。」
「あらそうなの!とっても綺麗だからビックリしたわ!雨宮の言うとおりね!」
雨宮。その名前を聞いた瞬間、玲の目が限界まで見開かれる。
「…今、なんて?」
「え?綺麗だからビックリしたのよ?」
「違う、俺の事を言っていた奴の名前だ。…雨宮って言ったのか?」
「ええ、そうよ?」
「お、おい、どうしたんだ玲?」
いつもと違う様子になった玲に巴が心配して声をかける。それでも玲の耳には届かず、信じられないと言った表情だった。
(まさか…あいつここにいるのか!?嘘だろ?いや待て。同姓同名の他人の可能性だって…。いや、でも俺の事を…。)
「もしかして会いたいのかしら?いいわ!呼んであげる!」
「お嬢様。呼ばれずともここにおりますよ。」
すると、蘭たちの後ろから穏やかな声が聞こえた。
「うわ!?」
「い、いつの間に!?」
蘭たちは驚いて、玲は忌々しげに振り向くと、そこには先程聞こえた声と同じような印象を持つ柔らかな顔、ピシッと決めた黒スーツを着た、年齢にして三十代位の男性がいた。
「後ろから失礼します。私、弦巻家の執事兼こころ様のボディーガードでございます。雨宮と申します。」
「あ、ど、どうも、こちらこそ…。」
礼儀正しくお辞儀をする姿に蘭たちは思わずお辞儀を返す。
「…。」
だが、玲だけは一挙手一投足に注意するように睨み付けていた。そんな視線に気付いているのか、玲を見て、にこりと微笑む。
「こころ様。Afterglowの皆様方は少しばかりお疲れのご様子です。談話室で休息なされたらどうでしょうか?幸い、まだRoselia様しか来ておられないようですし、その間、親睦を深めるために談笑なされると宜しいかと。」
「それもそうね。じゃあ案内するわ!玲、あなたもどうかしら?」
「お嬢様。玲様は久し振りに私に再会なされて少し戸惑っているようです。おそらく、私がこころ様のボディーガードであることも知らなかったようですので、少しばかり、説明されてからの方が宜しいと思います。」
「分かったわ!昇太のお友達のお話、あたし期待してるわ!さ、こっちよ!」
こころが蘭たちを連れていく。由美は様子がおかしい玲の事が心配で離れたくなかったが巴に抱えられ連れて行かれた。そして、玲とすれ違った際の蘭たちの目が後でちゃんと説明しろと言いたげな目をしていた事に溜め息を吐きたくなったがそれも許されない緊張感が張り詰める。
「…玲。」
雨宮が玲と向き合い静かにそう言う。それに対する玲は睨み続ける。
「いやー、また会えるとは思わなかったよ。僕があそこから出ていって以降何していたんだい?」
執事としての態度が霧散してまるで久し振りに甥に会った親戚の叔父のような態度になる雨宮。もし、漫画的表現をするなら花が周りに咲いていそうな雰囲気だ。
「それはこっちの台詞だ。死に損ない。」
「うーん、つれないなぁ…。そこも変わってないのか…。」
「質問に答えろ。」
「そうだねぇ、大人になると色々あるの…」
ヒュッ。
雨宮が言い終わる前に玲がジャケットの内ポケットに隠し持っていたナイフを喉元に突き付ける。
「二度も言わせるな。俺に殺気を向けやがったのもお前だろ。今ここで喉笛かっ切っても良いんだぜ?」
ドスが効いた低い声で雨宮を脅す。ナイフを突き付けられた雨宮は両手を上げているものの、その表情は呆れ気味だった。
「はぁ、三十路のお茶目なジョークだよ?そんな本気になることないじゃないか?」
「やかましい。俺の言ったことだけに答えろ。」
「うーん、そうしたいのも山々だけど、ここじゃマズくないかい?僕、これからここに来るバンドグループのお出迎えをしなきゃ行けないんだからさぁ。」
「…ちっ。」
玲は舌打ちすると渋々ナイフを引っ込め、蘭たちが案内された方向に歩く。そして一旦立ち止まった後、背中越しに雨宮に声をかける。
「…一つだけ忠告する。蘭たちに絡むのはいいが、あの事は話すな。」
「…うん。分かったよ。」
後ろから聞こえる雨宮の返答を聞いた後、玲は歩き出す。
「あ。ここは広いから案内しておくべき…って、行っちゃったか。…まぁ、すぐ把握するだろうな。」
雨宮が気づいた頃には既に玲の姿は無かった。その後、雨宮の予想通り、玲は山荘の構図を把握したが迷子になりかける事態となったのであった。
軽率にオリキャラ増やしてくぅ!
しかし、こころと玲を絡ませるのすっげぇ難しいこと…。