夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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後編でまとめようかと見直してみたら予想以上に文字数が多くなったので分けちゃいました。

ハロハピ2章来ちゃった…。投稿した次の日に告知が来てビックリした…。


22話 合同合宿(後編その一)

 合宿二日目。前日行えなかったミーティングをしてある程度意見が纏まった後はそれぞれのバンドグループで練習を始めたが、由美がAfterglowの練習を見学するために付いていった為、残った玲はただただ屋敷の中をぶらつくしかない。

 

(ひまりの奴、何で俺を呼んだんだ…。)

 

 そう思わずにはいられない。やることが無いので庭のベンチに座っていると、後ろから気配を感じた。

 

 

「…何の用だ?」

 

「おお、やっぱり察知できるんだね。」

 

 

 気配の正体は雨宮だった。玲は雨宮を睨み付けるも昨日と態度は変わらず、のほほんとした笑顔だ。

 

 

「当たり前だろ。どこかの誰かが気配の察知の仕方を教えたんだからな。おかげで昨日は殺気に当てられて生きた心地がしなかったぜ。」

 

「うんうん。鈍ってないようで安心したよ。よく眠れたかい?」

 

「…この目を見て、よくそんなこと言えるな。昨日の夜は寝られなかったんだよ。」

 

「…もしかして、Afterglowのみんなが一緒に寝ようって言ったからかい?」

 

「それ以上追求したら殺すぞ。」

 

「おお、こわいこわい。」

 

 

 のれんに腕押しとはこの事か。部下なら声を小さくしてすいませんと謝る筈が雨宮は柳のように受け流す。玲は舌打ちすると庭の方に視界を移す。綺麗に整備された庭は常人は魅了される程だろう。だが、玲の顔に浮かんだのは不快、嫌悪だった。

 

 

「…やっぱり、こういうところは嫌いかい?」

 

「…ああ、大っ嫌いだな。どうしても過去の記憶がチラついちまって、今すぐにでもここを荒らしてから飛び出して、寝床に飛び込みたい気分だ。」

 

(あ、不味いぞ。この目、本気でそれを決行しかねないな…。)

 

 

 玲は本音を吐き出す。雨宮は玲の目を見て本気でやりかねないと察した後、どうすべきか考えた時、一つの案が浮かんだ。

 

 

「そうだな…。玲。少しばかり、彼女らの練習を覗いて見ないかい?」

 

「…どういう風の吹き回しだ?」

 

 

 雨宮の提案に玲は様子を伺うように見つめる。

 

 

「なぁに、君があの場所を思い出してしまうなら、あそこには無かったものを見れば良いさ。」

 

「はっ。それで落ち着けるならとっくにやってるさ。」

 

 

 鼻で笑う玲だが、雨宮は見抜いていた。

 

 

「君、それをやろうとしてないだろう?」

 

「……俺はここで良い。」

 

「それをダメだって言ってるんだよ。ほら、行こうじゃないか。」

 

 

 雨宮は玲の手を取り、屋敷に併設されている練習用のスタジオブースへ連れ込もうとするが、玲が拒絶する。

 

 

「離せてめぇ!俺は行かねぇって…!」

 

 

 嫌がる玲に雨宮はため息を吐くと、当て身をして、一時的に意識を刈り取った。

 

 

「はぁ、こんな手は使いたくなかったけどなぁ…。」

 

 

 こんなところをAfterglowのメンバー、それか玲が一緒に連れて来ていた由美という少女に見られでもしたら僕のこと嫌うだろうなぁ。なんて事を考えながら適当に練習しているバンドの元へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 玲が目を覚めると、視界いっぱいに黒髪ロングの女の子の顔があった。

 

 

「あ、起きた。」

 

「うぉ!?」

 

 

 玲は驚き、後ろに飛び退くが、どうやらさっきまで椅子に座らされていたようで、思いきり椅子ごと倒れる。

 

 

「わ!大丈夫ですか、玲さん!」

 

 

 玲の元へ走ってきたのは香澄だった。玲は顔をしかめる。

 

 

(あの野郎…よりにもよってこいつらかよ…!)

 

 

 玲はここに運んできたであろう男の顔を思い浮かべる。

 

 

「…ここに運んできた奴は何て言ってた?」

 

「え?んーと、『少しばかり、玲様の元気がないご様子ですから、貴女たちのキラキラドキドキの演奏で元気付けてあげてください』って言ってたよ。」

 

 

 香澄が思い出すように言った言葉に玲の脳裏には、のほほんとした笑顔で気絶された自分を放って出ていった男の映像が浮かび上がる。

 

 

(あの野郎…二度と笑えない面にしてやろうか…!)

 

 

 玲が殺意を募らせていると有咲がヤバいと言いたげな顔をして、ベースの子が震え始めた。

 

 

「玲さーん。あんまりそんな顔しないでくださいよ。りみと有咲が怖がっちゃいますよ。」

 

「…別に不機嫌じゃねぇよ。」

 

 

 沙綾が玲を落ち着かせる。

 

 

「ビックリしたよねー。雨宮さんが飲み物でも持ってきたのかなって思ったら、玲さんを抱えてきたもんね。」

 

「み、妙に楽しそうだったよな…あの執事…。」

 

 

 未だに玲に恐怖を抱いている有咲の証言に玲は更に雨宮に対する殺意を募らせる。

 

 

「…猫じゃらしに反応するかな?」

 

「お、おたえちゃん…!」

 

「ちょっ…おたえ!こいつを刺激するようなことを言うな!つーか沙綾も笑ってんじゃねぇ!」

 

 

 黒髪ロングの少女、おたえが率直な感想と思わず吹き出した沙綾にりみと有咲が慌てて注意するが既に玲の耳に届いてしまった。

 

 

(や、やべー…怒らせちまったか?)

 

 

 有咲は冷や汗をかいて息を飲む。だが、玲は不機嫌そうな表情のまま、椅子に座り直す。

 

 

「…ろよ。」

 

「え?」

 

「演奏してみろよ。お前らバンドやってんだろ?」

 

(こ、これって、つまり、生き残りたかったら演奏しろってことか?)

 

「私たちの曲を聞いてくれるんですか!?」

 

「うるせぇ。それ以外に聞こえたか?」

 

「よーし!みんな、やろう!玲さんを元気付かせるぞー!」

 

(や、やるしかねぇ!上手く行ったら機嫌を取ることができるかも…!)

 

「それじゃあ聞いてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香澄たちのバンド、Poppin'Partyの演奏が終わる。

 

 

 

「いぇーい!」

 

「…ふーん。」

 

 

 〆に決めポーズをする香澄に玲は冷淡な反応をする。それでも香澄は玲の元へと走っていく。

 

 

「どうでしたか?玲さん!ご感想を!」

 

「良いんじゃねーの?」

 

「えー、もっと無いんですか?こう、キラキラドキドキしたー!とか、楽しくなれたー!とか。」

 

「あのな。俺は一流のコメンテーターじゃねーんだぞ。そんなペラペラ感想が出ると思ってんのかよ。つーか語彙が無さすぎるだろ。何だよ、キラキラドキドキって。」

 

「うぇーん、玲さんが辛辣だよ沙綾~。」

 

「じゃ、俺はもう行くぞ。じゃあな。」

 

 

 沙綾にすがり付く香澄を放って、玲はそう言って立ち上がると部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

「怒らせちゃったかなぁ…。」

 

「あはは、玲さんは素直じゃないだけだよ。」

 

「で、でも、本当に機嫌を損ねちゃったかも…。ずっと笑わなかったし…。」

 

「そうでもないよ?だって、聞いているときに足でリズム取ってたもん。」

 

 

 玲がPoppin'Partyのブースを出た後、香澄たちはそれぞれ玲がどう思ってたか分析し合っていた。そして、香澄はふと気付く。

 

 

「あ、そうだ。有咲。有咲はどう、だった…。」

 

 

 さっきから喋らない有咲が気になった香澄が視線を移すとそこにはキーボードの前に立ったまま穏やかな顔で燃え尽きている有咲がいた。

 

 

「あ、有咲ぁ!?」

 

「スゴい…立ったまま気絶している。」

 

 

 後に有咲はこう語る。あの時は本番のライブの時よりも緊張したと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はぁ、疲れた…。さっさと蘭たちの所へ帰るか…。)

 

 

 玲はPoppin'Partyのスタジオブースを出た後、Afterglowのスタジオブースまで戻ろうとするが、どのブースで練習をしているのか全く分からない。部屋の中の様子も伺えない中、どうしたものかと首を捻っていると

 

 ふと、ポケットに何かが入っているのに気付き、取り出す。

 

 入っていたのはメモ用紙だった。おそらく雨宮が入れたものだろう。メモ用紙にはこう書かれていた。

 

 

『Afterglowのメンバーがいるスタジオブースなら奥の方だよ。』

 

 

 玲はとりあえず、メモ用紙に書かれている場所へと向かい、ドアを開ける。

 

 

「どうだ?やる曲は何か決まったか?」

 

 

 そう言いながらブースの中を見ると、

 

 

「あ、玲くんだ!んーとねー、しゅわりん☆どり~みんと、はなまる◎アンダンテだよ!」

 

 

 すぐにドアを閉め、メモ用紙を破り捨て、叫ぶ。

 

 

「本気でぶち殺すぞあのクソ執事!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「昨日から厄日だ…。」

 

 

 すぐさま逃げようとしたが、追いかけてきた日菜に捕まって引きずり込まれてしまい、しかもまた逃げられないように日菜がドアの方に立っている。

 

 

「あ、あの、日菜さん。何だか、不機嫌じゃないっすか?」

 

 

 麻弥が恐る恐ると日菜に話しかける。

 

 

「大丈夫だよ?だって、玲くんは女の子に手を上げないんだよ?」

 

「いい加減な事言うな。時と場合と気分によるんだよ。」

 

 

 玲は日菜を睨み付けながら訂正する。たまたま日菜の隣にいた麻弥はびくりと震えたあと、そそくさと離れる。

 

 

「え、えーと、今の気分は…?」

 

 

 彩がおずおずと話しかける。玲が彩に視線を向けると彩もびくりと震える。

 

 

「さっさと出たい。」

 

「えー、何でー?玲くん、アタシたちの演奏聞いてってよー!蘭ちゃんだけズルいよー!」

 

 

 日菜が駄々をこね、玲に抱き付く。

 

 

「あーもう!離れろ!離れろっての!」

 

 

 

 玲は引き剥がそうと腕を振るが、日菜はぴったりとくっつき、離れない。

 

 

(さ、流石、日菜ね…。あの黒豹とあそこまでスキンシップ出来るなんて…。これも天才だからかしら…。)

 

 

 千聖は自分の中で要注意人物である神前玲ですら振り回す日菜を見て息を飲むのだった。

 

 

 

 

 

 

「もー!玲くんの意地っ張りー!」

 

 

 結局、玲は演奏を聞いていかずに出ていってしまった。日菜は頬を膨らませる。

 

 

 

「あれ?イヴさん、行かなかったんすか?あの劇、イヴさん良かったんですよね?」

 

 

 すると、麻弥がいつも積極的なイヴの様子がいつもと違うことに気付く。

 

 

「あ、いえ、私、レイさんと面識はあるのですが…どうやら、怖がられてるようなんです…。」

 

「え、そうなの?」

 

 

 イヴの告白に彩は意外そうに反応する。無理もないだろう。学校では情け容赦ない不良として恐れられている人物が、まさか自分のバンドメンバーを恐れているとは思ってもみなかったからだ。

 

(そういえば、イヴちゃん全く絡もうとしてこなかったし、玲くんもイヴちゃんと目を合わせようとしていなかったな…。)

 

 

 日菜は先程の玲の様子を思い返す。そして、

 

 

「ちょっと玲くん連れ戻してくる!」

 

「ちょっと!日菜ちゃん!?」

 

 

 千聖の呼び声に止まらず、玲を連れ戻す為に外へ飛び出していった。

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