夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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ようやく合宿編終わりです…。

最近グリッドマン見ているけどウルトラマン大好き人間にはたまらないなぁ…。アニメなのに特撮だった…。

あ、後書きに雨宮の情報載せときます。


24話 合同合宿(後編その三)

 夢を見ている。豪華な部屋だ。どうやら幼馴染みと別れてから数ヶ月たった頃の自分だ。今日もあのフィンランド人から暴力を振るわれ、犯される一日が始まるのだろう。ならば、自分の心を殺して、人形に徹すればいい。そうすれば、いつもより犯される時間が短くなる。これまでもそれで乗りきってきた。どうせ誰も助けてくれないから、自分の救いの叫びは誰にも届かないから。

 

 それなのに。何故あいつらは俺に優しくするんだ。何故俺に手を伸ばすんだ。

 

 止めろ。

 

 殺しかけていた心が息を吹き返してしまう。

 

 止めろ。

 

 あの時、感じなかった恐怖が再び襲ってきてしまう。

 

 止めろ。

 

 もう俺は昔の俺じゃないんだ。向かう敵は容赦なく潰す不良なんだ。

 

 止めろ。

 

 そんな可哀想なものを見る目で、昔の俺を投影した目で俺を見るな。

 

 止めろ。

 

 こんな汚れた自分を見てほしくないんだ。

 

 止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ。

 

 

 

 

 

「っはぁ…!」

 

 目を覚まして、起き上がる。とんでもない悪夢を見ていたような気がする。あまりにも汚れた昔の記憶。唾棄すべき過去。

 

(はは…。まだ囚われているって事か…?馬鹿馬鹿しい。あいつのヤったことはもうすでに世間に晒され制裁された筈だ。)

 

 玲は一息つき、時間を確認するとまだ寝始めてから三十分ぐらいしか経っていなかった。周りを見ると寝室に運ばれていたようでもう少し眠るかと目を閉じ、ベッドに身を預けようと仰向けに倒れると、枕とは違う固いようで柔らかい感触と暖かみが後頭部に感じた。

 

 不審に思い、目を開けると、

 

 

「もう少しお休みになられますか?レイさん!」

 

 

 ここから若宮イヴに膝枕されていることに寝起きの頭で気付くのに数秒かかった。

 

 そして、ゆっくりと起き上がり、叫ぶ。

 

 

「何やってんだお前はぁ!?」

 

「ご、ご迷惑だったでしょうか?」

 

 

 玲は警戒心を最大まで引き上げながらベッドから降り、イヴと距離を取る。その様子を見たイヴは少し寂しそうに言う。

 

 

「…誰からこうしろって言われた?」

 

「ヒナさんです。こうしたら仲良くなれると聞いたので実践してみたのですが…。」

 

(あいつ余計な知恵を吹き込んでんじゃねぇよ…!)

 

 

 イヴの証言にここにはいない日菜に対してイラついていると扉が開く音が聞こえた。

 

 

「イヴちゃん!大丈夫!?」

 

 

 入ってきたのは白鷺千聖だった。すかさず玲とイヴの間に入り、玲を睨みつけるその姿はイヴを守るという意思を感じた。

 

 

(…ああ、これだよ。本来俺が向けられるべき視線は…。)

 

 

 玲はその様子に安堵を覚えた。ここに来てから自分に興味がある純粋な好奇の視線に晒され続けた玲にとって自分の事を恐怖、悪党の視線で見ている面が強いPastel*Palettesは玲にとってはありがたかった。

 

 

「神前玲…。私たちのバンドメンバーに酷い目に会わせてないでしょうね?」

 

「安心しろよ。怒鳴りはしたが手は出してない。俺はすぐ手が出る変態とは違うからな。」

 

 

 玲は不敵に笑いながら千聖の質問に返答する。このままイヴを連れて出ていって欲しい。そう考えていたが、事態は玲の予想外の方向へ動き出した。

 

 

「…そう。イヴちゃん。まだ感想を言えてないんでしょ?言えるときに言っておきなさい。」

 

「はい。チサトさん。」

 

(感想…?どういうことだ?)

 

 

 玲が首をかしげているとイヴは玲と向き合って覚悟を決めた表情をしたあと、

 

 

 

 

 

「あの!舞台劇で本田刃無勝の演技、とても素晴らしかったです!ありがとうございます!」

 

「は?一体なん、の。」

 

 

 そう言ってお辞儀をした。玲は一瞬何の事か分からず顔をしかめたが、すぐに思い出したのだろう。顔が赤くなり始める。

 

 

「お、おお、おおおおおお、お前それを言う為だけに!?」

 

 

 冷静さを失いわなわなする玲にイヴはハキハキと返事をした。

 

 

「はい!あのグラサンのショーとのナイフと槍の殺陣…。とても格好良かったです!それと…」

 

 

 ツラツラと忘れていて欲しかった舞台劇の感想を述べるイヴに対して玲は段々と恥ずかしくなって萎んでいく。その姿はさっきまで千聖に向かって不敵に笑っていた姿はなかった。

 

 

「もう…やめてくれ…。」

 

 

 すっかり小さくなった玲の声は興奮してマシンガントークをするイヴの耳に届くことはなく玲は更に萎んでいく。

 

 

「イ、イヴちゃん?もうそれくらいにした方が良くないかしら?」

 

 

 見るに見かねた千聖がストップをかける。イヴが我に帰るとそこには耳まで真っ赤になった顔を隠してうずくまる玲がいた。

 

 

「はっ!も、申し訳ありません!出過ぎた真似だったでしょうか?」

 

「もぅ…、煮るなり焼くなり好きにしろ…。」

 

 

 玲はうずくまったまま観念したかのように声を出す。

 

 

「…それじゃあ、最後に私の願い。聞いてくれますか?」

 

「何だよ?」

 

 

 玲がゆっくりと顔を上げるとそこにはイヴが両手を広げたポーズをしていた。

 

 

「私とハグしてください!」

 

 

 ハグ。外国では挨拶にもなっているコミュニケーション手段のひとつ。だが、日本国では抱き合うと言う意味は別の意味に解釈されることが多々あるのだ。

 

 

「おいおい…。アイドルが不良とハグなんかしていいのか?」

 

「レイさんはショウタさんと同じ、良い不良さんです!」

 

 

 玲は疲れながらも呆れ半分、冗談半分で聞くがイヴは真面目に答える。

 

 

「良い不良って何だよ全く…。」

 

 

 玲はそう渋々言いながら手を広げる。その様子をOKだと受け取ったイヴは目を輝かせながら玲の胸に飛び込んだ。

 

 

「ありがとうございます!レイさん!」

 

 

 ぎゅっと背中まで手を回して抱き締めるイヴ。玲は疲れたような顔をしていたがすぐに我に帰る。

 

 

「ん…はぁっ!?何やってんだ俺!?」

 

 

 慌ててイヴを引き離すと早歩きで部屋を飛び出してしまった。

 

 

「イヴちゃん!大丈夫?」

 

 

 すぐさま千聖が駆け寄る。だが、イヴの顔はどこか晴れやかだった。

 

 

「大丈夫です!少しだけですけど、レイさんと仲良くなれた気がします!」

 

「全くもう、心配したわよ?」

 

(花咲町の黒豹…。イヴちゃんが苦手だって聞いていたけど、本当のようね。…でも、どうしてイヴちゃんが苦手なのかしら?)

 

 

 千聖はそんな疑問が浮かんだが、イヴに元気が戻って来たので一先ずは置いておくことにした。

 

 

「さぁ、早く戻って練習再開するわよ。彩ちゃんたちを待たせたら悪いしね。」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで三日目。合宿最終日。玲はどうしているかと言うと。

 

「れーく~ん。出てきてよ~。」

 

「おーい!いつまで閉じ籠ってるんだよ!早く出てこーい!」

 

「玲ー!鍵開けてよー!リーダー命令ー!」

 

 

 突然、同行を拒否して、部屋に閉じ籠ったのだ。その理由が、

 

 

「香澄たちの何が怖いの!」

 

「あいつら執拗に聞いてくるだろどうせ!」

 

 

 昨日、必要以上に他のバンドメンバーに絡まれた事と、若宮イヴに会うのが気まずくなったのだ。

 

 

「あーもう!さっさと出てきてよ!つぐみからも何か言って!」

 

「えぇ!?え、えっと、出てこなかったら昇太さんに頼んで、賄いのお料理全部カボチャにするよ!」

 

 

 つぐみのその一声と同時にがちゃりとドアを開ける音がした。

 

 

 

 

 

「いいか。俺は基本的に話し合いには入らない。俺の事はオブジェか何かと思え。」

 

 不機嫌な顔のままの玲。最後の打ち合わせに行く前にそんな事を言って打ち合わせ部屋に入ると隅っこに陣取って座り、事の成り行きを見守る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの打ち合わせ、途中どうなることかと思ったが、何とか軌道修正できて良かったな…。」

 

「あはは…、私もそう思う…。」

 

 合同合宿終了後の帰り道、玲はそうぼやき、つぐみも苦笑いながら同意する。

 

 

 最後の打ち合わせくらいはまともにするだろうと思っていたが、互いのバンドグループがあんなこといいな、できたらいいなの言い合いで混沌と化していた。

 

 傍観者の立場だった玲はこれは収拾着くのかと不安になっていると、同じく傍観者の立場だった雨宮が動いた。

 

 

「皆様方のご提案は中々発想豊かで素晴らしいものでございますね。では、どうでしょう、それらを実現できるか話し合って見ては?」

 

 雨宮の鶴の一声に混乱は一先ず収まり、話が進んだ。玲がホッとしていると雨宮がこっちを見て勝ったような笑みを浮かべた。

 

 

(…良い度胸だこのやろー。)

 

 

 思わずムキになった玲も話し合いに加わり、打ち合わせは賑やかに進行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか玲が参加するなんて、ビックリしちゃったよ。」

 

「お前らの打ち合わせ見てらんなかったからだよ。つーか、蘭。お前『自分達はいつも通り』しか言ってねぇじゃん。」

 

 

 ひまりの言葉に玲はそう返す。そして次に蘭に矛先を向けた。

 

 

「だ、だってそれがあたしらのバンドの在り方だし…。」

 

「うるせぇ。いつも通りいつも通り言ってりゃどうにかなるって考えてるお前が心配になってきたぜ俺は。あーあ。こりゃあ、将来嫁に貰う奴は苦労するぜー。」

 

 

 玲がいつもの調子で蘭をからかうと蘭は顔を赤くしながら黙ってギターケースを振りかぶる。それに気付いた玲は咄嗟に落ち着くよう説得する。

 

 

「ちょ、待て。蘭。ジョークだっての。」

 

「うっさい!さらっとそんな事言わないでよバカ!」

 

「ちょ、おい!誰か蘭を止めろ!」

 

 

 玲はひまりたちに助けを乞うが、

 

 

「玲…、それは自業自得だと思う。」

 

「れーくん乙女心理解してないよね~。」

 

「まぁ、それがアイツらしいけどな!」

 

「玲くんは、デリカシーを覚えようね…。」

 

「ギター振り回す蘭ねえ。かっこいい。」

 

 

 と、静観するだけだった。

 

 

 玲にとっては地獄の合同合宿。その終わりは夕焼けの中、ギターを振り回して追いかけて来る幼馴染みから逃げ回り、帰った時はくたくただった。




雨宮

 弦巻家の執事。玲の戦闘技術の師である。とある国の政治改革によって淘汰された暗殺組織の生き残りであり、子供の頃、暗殺組織に才能を見込まれ、拉致された過去がある。暗殺組織が潰れた後は国外逃亡をして、路頭をさ迷っていたところを弦巻家に拾われたことにより、拾ってくれた恩返しに忠誠を誓うようになる。素の性格はのほほんとしているが幼少期から鍛えられた人離れした動体視力と運動神経、どのような人間か見抜く才能を持っている。趣味は音楽鑑賞。音楽であるなら選り好みはしない。ちなみに、雨宮という名前は本名ではない。
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