夕焼けと不良少年【完結】   作:shinp

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やりたかったコミュイベント、やりまーす。(落雷バグ)

あ、今回のイベント最高です。


27話 コミュニケーション大作戦(前編)

 有咲は一人で鼻歌をするほどご機嫌に町中を歩いていた。その理由は久しぶりに一人で過ごす休日だからだ。

 

(さーて、今日は何しよっかなー♪)

 

 そう思案しながら商店街を歩くと不意に立ち止まった。

 

(あ、あれは…!)

 

 有咲の視線の先にいたのは蘭とひまりだ。

 

(蘭ちゃんとひまりちゃんだ!ど、どうしよう。話しかけたいけど…どう話しかければいいんだろ…。って良く見たら由美ちゃんも一緒だ!)

 

 前々から話しかけたいと思っていたAfterglowのメンバー。今がチャンスなのだが人見知りな有咲はどう話しかければ良いのか、自分に苦手意識を持ってる子供にどう話しかけて良いのかも分からず思考の海に沈む。

 

 

「え、えーと…こんにちわー、ごきげんようー?」

 

 そう言って顔をあげて微笑みかける練習をすると、

 

「有咲ちゃん!」

 

 いきなり後ろから声をかけられた。

 

「うわぁ!?」

 

「び、びっくりしたあ…!どうしたの有咲ちゃん?」

 

 驚いた有咲が振り向くとそこにいたのはびっくりして胸に手を当てているりみだった。

 

 

「どうしたもこうしたもねーって!後ろから急に声かけられたら誰でもこうなるだろ!?」

 

「ご、ごめんね。何か考えていたみたいだからどうしたのかなって。」

 

「え、べ、別に何でもねーって。」

 

 心配するりみの質問に適当に答える有咲。

 

(蘭ちゃんに話しかけたいけどまごついてたって流石にりみにも言えねぇ…。)

 

 ただどう話しかければ良いのか分からなかった。それを口に出すのが恥ずかしかったのだ。

 

「そ、そうなの?何だか深刻そうに見えたけど…。」

 

「大丈夫、大丈夫だって。心配すんなよー。」

 

 何とか切り抜けられる。そう思って油断をしてしまった。

 

 

「あれ?有咲とりみじゃん!やっほー☆」

 

「うわぁー!!?」

 

 またもや後ろからいきなり声をかけられた事で叫んでしまった。しかもりみの時とは違って声量が大きかったせいで周りにいた人もびっくりして声の発生源を見る。

 

「…ん?なんか、叫び声聞こえなかった?」

 

「私も聞こえたよ。なんだろ?」

 

「蘭ねえ、ひまねえ。今日は玲がここら辺見回ってるって言ってたから多分、今、声がしたとこ、向かってる。」

 

 それは当然、蘭たちの耳にも届いてしまう。辺りを見渡しはじめた蘭とひまりを見て有咲は咄嗟にそばにあった電柱に隠れる。

 

 

「ちょ、ちょっと。急に叫んだと思ったら何隠れてるの?」

 

 有咲の奇行にリサは困惑しながらも尋ねる。

 

「そ、その…、蘭ちゃんと、ひまりちゃんがいるから、その…声、かけてみたいなって思ったんですけど、タイミングが分かんないし、由美ちゃんも一緒だし…。」

 

 有咲は電柱に隠れながらぼそぼそと白状する。ワケを聞いたリサはそんな事かと微笑む。

 

「そんな気にしなくてもいいのに!じゃあアタシ声かけてくるよ。」

 

「あっ!!!!」

 

 リサが蘭のもとへと向かおうとするとまたもや有咲が叫ぶ。急に有咲が叫んだ事で隣にいたりみも驚き一瞬跳ねる。

 

「いや、だめです。今はまだ待ってください!」

 

「ちょ、ちょっとどうしたの!有咲、なんかおかしいよ?」

 

 必死の表情で引き留める有咲にリサが困惑する。

 

「そ、その、蘭ちゃんとひまりちゃんと、接したこと、あんまりなくて、今日はまだちょっと、心の準備が…。」

 

「あははっ。そういうことか~。有咲可愛いなぁ♪」

 

「か、可愛くねーよ!……です。」

 

 微笑ましく弄ってくるリサに有咲は思わず香澄にやっているツッコミを返すが上級生だという事に気付き、小さくですをつける。

 

「有咲ちゃんの気持ち分かるよ…。あんまり話したことがない人に話しかけるのって難しいよね…。」

 

 りみの共感で有咲もそうなんだよな~。と頷き、考える。

 

「どうしたら、リサさんみたいに話しかけられるんですかね?」

 

「んー、そうだね。じゃあこのアタシ、リサ先生が…あっ。」

 

 何か言いかけたリサが何かに気付いたように言葉を止める。

 

 何があったんだろうか?そう思い、リサの視線の先を見ると。

 

 

「おい。ここら辺で叫び声が聞こえたが何があった?」

 

「く、黒豹だぁーーーー!!!?」

 

 更に悲鳴をあげる有咲だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく。そんなしょうもない事でか?」

 

 場所を変えてファミレス。そこで玲は呆れた顔で有咲とりみの二人を見ていた。

 

「で、でもどうしても怖くて…。」

 

「だ、だからどうやったら仲良くなれるのか聞いて…るんですけど…。」

 

「ほら、玲くん。そんなこと言わないの。」

 

 まず最初に玲がバッサリ斬ってしまってシュンとなる二人。そんな玲にリサが注意する。

 

「で、気を取り直して。二人とも人見知りだったっけ?」

 

 リサの質問に有咲とりみは頷く。

 

 要約すると今話しかけても大丈夫か分からず、迷惑なのかと思ってしまうし、仮に大丈夫だったとしても何を話せばいいのか分からないと言う。

 

 

「こりゃマジで人見知りだな…。」

 

「うーん、二人とも気を使いすぎじゃない?」

 

 リサは人見知り二人にそう指摘する。

 

 

「そ、そうなんですかね?」

 

「そうだぜ?大体蘭の奴は…別にいいとして、ひまりの奴はけっこうコミュニケーション能力高いぞ。俺が見回り中に馴れ馴れしく声をかけてくるからな。」

 

「ちょっと、その言い方はどうなのかな…。」

 

 有咲の疑問に玲がそう返すが玲の言い方にりみは苦笑いする。

 

 

「そう言えば、ポピパのみんなってどうやって出会ったのかな?」

 

 リサの質問に受講者二人が言うには香澄が率先してバンドをやろうと話しかけてきたのが切っ掛けらしい。

 

(話しかけてきたのが切っ掛け…か…。)

 

 

 玲は二人の話を聞いて蘭たちと仲良くなった昔を思い出す。

 

 初めて会ったのは小学校の上級生が遊び半分で行っていた動物虐待を阻止した時だが、その時はただ助けたかった衝動で行っただけだった。しかし、次の日からひまりや巴から話しかけられたのを切っ掛けに蘭たち幼馴染みの一員になったのだ。

 

 

「よーし。じゃあ二人とも、香澄になってみようか!」

 

 玲が懐古している内に話が意外な方向に進んでいた。

 

「え、えぇ!?香澄ちゃんに…?」

 

「んな事出来る訳ねぇだろ!?…あっ。す、すいません…。」

 

 戸惑うりみに思わず素を出してしまい、慌てて取り繕う有咲。おそらく玲に睨まれると思っていたのだろう。

 

「…んだよ。やっぱお前その性格の方がいいぜ?」

 

 有咲の素を見た玲はニッと笑いかける。

 

「…へ?」

 

 予想とは違う反応で思わずキョトンとする有咲。

 

「俺はそんな短気な人間じゃねぇよ。お前の素、中々いいじゃん。蘭とも仲良くなれそうだぜ?」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ、おそらく香澄になれってのは心を開けって意味だと思うぜ。その調子で行けば蘭とも仲良くなれるな。俺が保証する。」

 

 不良だが、いい人なのかもしれない。改めて有咲はそう感じた。

 

 

 

 

「よし、じゃあ次は会話のシミュレーション、やってみようか。」

 

 リサは次のステップに進める。どうやら次は蘭やひまりと話してる時の状況をやってみるらしい。そしてリサの指名でりみが蘭役をして、ひまり役がリサがやることになった。しかし…

 

 

「ら、蘭ちゃん、こんにちわ…。」

 

「ああ…。」

 

「きょ、今日は、いい天気、ですね。」

 

「ああ…悪くない…。」

 

(やべぇ…これ面白すぎるだろ…。)

 

「ちょ、ちょっとストップ!蘭ってそんな感じだっけ?」

 

 ちょっと渋くない?とリサがツッコミを入れる。

 

「うう…私、蘭ちゃんの事よく知らなくて…クールでかっこいいって事しか…」

 

「く、クールでかっこいい…?」

 

 りみの発言に玲はにやける。

 

「それに、よく悪くないって言ってる気がしたので…」

 

 更に続いた言葉に玲が撃沈した。

 

「くっはっはっはっ…助けてくれ…笑い殺される…。」

 

 目に涙を溜めながら声を殺して笑う玲にりみは顔を赤くする。

 

「うう…。」

 

「こら玲くん!そう言うなら玲くんが蘭をやってみなよ。」

 

「ああ、分かった。ちょっとなりきるから有咲に指導しといてくれ。」

 

 リサに怒られたが蘭役を引き受け、リサが先ほどのシミュレーションの欠点を指導している間、すぅっと集中する。

 

「よし、玲くん準備はできた?」

 

 指導を終えたリサが話しかけると蘭になりきった玲は目を開ける。

 

 

「ん、いいよ。やって。」

 

「わ、蘭ちゃんだ…。」

 

(す、すご…。一瞬、蘭かと思っちゃった…。)

 

 

 蘭になりきった玲を見て三人とも驚く。

 

 黒髪の短髪、少女と見間違う程の美形が相まってますます蘭に見えてくるのだ。

 

「…どうしたの?有咲。早く話しかけて。」

 

「え、あ、ああ。えーと、ら、蘭ちゃん!私、盆栽好きなんだ!」

 

「ぼ、ぼん…!?」

 

 有咲の予想外すぎる趣味に玲は一瞬素が出てしまう。

 

「ら、蘭ちゃんって華道やってるんだよね?盆栽とか…ど、どうかな?」

 

「え、あ、えーと、うん。盆栽か…、悪く、ないね。」

 

「そ、そっか…よかっ…って、ちょっと待て。」

 

「…玲さんも人の事、言えないよね…。」

 

「…盆栽が趣味とか普通考えないだろ。予想外すぎて素が出ちまったよ。」

 

 これは前途多難だ。そう言葉をこぼす玲だった。




後半へ続く。

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