日曜日。それはこの現代社会において殆どの者が仕事を休み、各々の時間を謳歌する日である。玲は自宅兼不良の溜まり場である雑居ビルの最上階の一室にあるベッドで寝転がって昼寝をしていた。休日以外の日は花咲町のあちこちを歩き回って昇太と共に商店街のパトロールに勤めているが今日は非番だったのでこれを好機にと寝転がっていたのだが…
「ボ、ボス…。」
申し訳無さそうに入ってくる部下。思わず不機嫌になり睨み付ける。
「…何だ?俺は緊急時以外は居留守にしろと言っただろ?」
「あ、あの、氷川の奴がまた…。」
部下が報告を入れようとした瞬間、部下をすり抜け水色の髪の少女が飛び込んできた。
「あー!やっぱりいた!玲くーん!遊びに来たよー!」
「………お前か。」
飛び込んできた少女は玲を見つけるなり笑顔で近づいて来る。その少女を見た玲はまるで諦めたかのように溜め息を吐き、起き上がる。
少女の名は氷川日菜。所謂天才少女であり、玲にとっては悩みの種でもある。
そんな二人の初会合は玲の気まぐれだった。
玲が偶々いつもとは違う散歩ルートに入った時、人目に付かない路地裏で揉め事のような声と音が聞こえた。
「やだ!離してよ!ヘンタイ!」
それは氷川日菜が複数の男に地面に押し付けられている風景だった。
「ぅお!?こ、こいつ、暴れんなっての!」
「威勢が良いねぇ。こういう娘を力ずくで捩じ伏せてヤるのって興奮するんだわ俺。」
「俺、どっちかってーとあの逃げてったギャルの娘が良かったかなー。何か美味しそうじゃん?」
「な、あんたたち!リサちーにも変な事したらタダじゃおかないよ!今にリサちーが助けを呼んで…!?」
日菜が脅しを掛けようと開いた口に指が突っ込んできた。
「何がどうタダじゃおかないんだ?えぇ?」
(ヤバい…アタシ、どうなっちゃうの…?怖いよ…助けてお姉ちゃん!)
日菜が姉に助けを求めたその時、それは現れた。
「あんたらさぁ、一人の女の子に複数人とか恥ずかしくないの?」
日菜も男たちも、声がした方に向けると、そこには黒髪で中性の美少年が呆れた白い目で男たちを非難していた。
「あ?何だお前。」
日菜を押さえつけていた一人が近付く。
「俺らのお楽しみを邪魔すんなよ男女が…!?」
突然現れた少年に一番近かった男が脅迫しようと近づいた男が突然崩れ落ちた。他の男は何が起こったか分からなかったが日菜には見えていた。
(この人…急所を蹴ったんだ!)
「な!?て、てめぇ!」
仲間がやられた現実に気づき我に帰った他の男が少年に襲い掛かる。
だが、少年は表情を変えることなく襲いかかってきた男たちをまるで昔見たカンフー映画のように殴って、蹴って、倒していく姿に日菜はまるでヒーローショーを見てるような気分になった。
すると、残った男がナイフを持って日菜の首元につき出した。
「う、動くなぁ!こいつがどうなってもいいのか!?」
人質を取って場を乗りきろうとしている男に玲はあっさりと手を止めた。
「よ、よーしいいぞ…動くなよ…?」
男は玲が抵抗しないと言わんばかりに両手を上げる姿に安心していたが日菜は疑問をもった。
(どうして急に手を止めたんだろ…。)
「いいか!そこから一歩でも動いたら刺すぞ!本気だからな!」
「ああ、言われなくても分かってるよ。俺は一歩も動かねーよ。俺はな。」
そう言った瞬間人質を取っていた男が突然倒れた。
「はぁ、お前な。せめて俺の到着を待てよ。」
男の後ろ、別の道に続いてる所から鉄パイプを持ってサングラスを掛けた青年が友人のリサを連れて現れた。
「日菜!大丈夫?変な事されなかった?」
リサが呼び掛けると日菜は笑顔で大丈夫だと伝えた。
そして玲に向き直る。玲は首をかしげていると日菜は目を輝かせながら玲に迫ってきた。
「ねぇねぇ!さっきのヘンタイたちをばったばった倒してるのすっごいるん♪って来たんだ!アタシにもどうやったらそんな護身術身に付けられるか教えて!」
全く怖じ気づかず伸びている男たちを踏みつけながら距離を詰めて来る日菜に玲は思わず後退りした。
「お、おい、近い。近いから離れろ。それにそんな簡単に身に付くもんじゃねぇぞ。おい昇太!何見てんだ早くどうにかしろ!」
まるで羽虫を払うかのように手で制する玲にもお構いなしに詰め寄る日菜。そして全く加勢に来ない親友を呼ぶ。
「はっはっは、何だお前、日菜に気に入られたな。悪いが俺には止められねぇよ。」
「てめぇ、後で覚えてろよ!?」
この時、玲はこいつは助けない方が良かったかも知れないと思った。自分がゆっくり休む時に限って突撃してその度に突っぱねていたが全く諦める様子はなく、一度自分しか知らない逃走経路を作り日菜が来る前に逃げ出した事もあったがあっさり逃走経路の隠し場所を見破られ捕まったこともあった。
遂に折れた玲は好きにしろと言って過去習った護身術や人体のどこのツボを叩けば無力化できる事を教えてやると瞬く間に2、3日でマスター。自分の部下の不良たちを実験台に無力化するまでに至った。それ以降、玲は必要以上の事を教えるのを止めようと誓った。あれは天才だ。凡人には至ることも理解することもできず、また彼女も凡人の考えや境地を理解できないギフテッド。もし必要以上教えてしまえば誰も止められなくなる怪物。それが彼女なんだと。
「それで、今日は何の用だ?居眠りしてる俺を起こしたんだ。それなりの訳があるんだろ?」
面倒くさそうに玲が喋ると日菜は元気よく答えた。
「うん!今日ねー、玲くんを落としたいなーって。」
「…誤解される言い方はよせ。」
どうやら習った武術や護身術で玲を倒したいらしい。おそらく自分の部下だけでは物足りなくなったのだろう。
「俺にやるより、昇太の方がいいだろ。」
あっさりと親友を売る。
「えー、昇太君はいい人だけど全然るん♪って来ないもん。」
さらっとディスられる親友。
「はぁ、じゃあちょっと待ってろ。着替えてくる。」
「うん!下で待ってるよー!」
日菜はそう言うと部屋を飛び出して行った。そんな日菜を見送った部下が疑問をぶつける。
「ボス、俺が言うのもなんですけど何でつまみ出さないんすか?近づいて来る奴ナイフとか威圧やらで脅してるじゃないすか。」
玲は部屋着から動きやすい服装に着替えながら部下の疑問に答える。
「…俺に近付く奴は俺のおこぼれにあやかろうとする奴か不意打ちで名を上げようとしてる奴、それかお遊びがほとんどだ。だから俺はそういうやからには失せろと言ってるんだがあいつは違う。お前も見たろ?あいつには純粋な好奇心と興味しかない。脅しても良い理由にはならないし多分本気で脅してる訳じゃねぇのも見抜かれるかも知れない。お前だって俺がいないって言ってもあっさり見抜かれたんだろ?」
「…そっすね。即答で嘘だって返されたっす。」
「まぁ、あいつが俺に組み手挑んだ事を後悔させてやるさ。いくら天才でも俺には敵わねぇ事を教えるつもりさ。」
「相手は女の子っすから程々にしてくださいっすよ。」
「そう言ってあっさり気絶させられたのはどこの誰だ?」
「…ボス、ひどいっす。」
「…蘭。ここが、玲の家?なんだよな?」
afterglowのメンバーは玲の家兼不良の溜まり場の雑居ビルに来ていたが入口に不良がたむろしており近寄りがたい雰囲気を醸し出している光景に巴が蘭に確認する。
「うん、見た顔もいるし、あのビルだから絶対ここだよ。玲の家。」
「で、でも怖い人がいるよぉ…。」
「ひ、ひまりちゃん、多分、話しかけてみたら案外いい人かもしれないよ?」
「そう言ってるつぐも震えてるよ~?」
「とりあえず、アタシが話してくるから。待ってて。」
「ら、蘭!気を付けろよ!」
巴の心配を背中で受け止めながら入口にたむろしている不良に近づいていく。その内の一人の顔は玲と再開した夜、引き会わせた不良だったので覚えているだろうと思ったのだ。
「や、やっぱり不安だよー…。」
ひまりがそう呟く。
「だな。やっぱりアタシも一緒に…」
巴も蘭一人だけに向かわせるのが不安だったようで一緒に行こうとしたとき後ろから声をかけられた。
「お前ら何やってんの?」
「ねぇ。玲はいる?」
蘭が意を決して話しかけると見覚えある一人が(え?来たの?)と言いたげな顔をしていたが見覚えない不良が噛み付いてきた。
「あぁん?何だてめぇ。ボスに何の用だ?」
凄んで来る不良に一瞬引き気味になるがすぐに言い返す。
「アタシは玲の幼馴染みなの。ここにいるんでしょ?」
「てめぇ…どこのシマの者か知らねぇがボスは生憎手が離せねぇ状況だ。用があんなら俺らが聞くぜぇ…?」
「お、おい、よせ。」
指の骨を鳴らしながら詰め寄る不良。見覚えがある不良がなだめるも一触即発の状況に他の声が聞こえてきた。
「おい、そこまでにしときなよ?こいつは正真正銘、玲の幼馴染みだ。」
声がした方を見ると昇太がいた。その後ろにはモカたちがいる。
「しょ、昇太のアニキ!え、マジですか?」
「ああ、それとも何だ?玲の親友である俺の言葉が信じられないってか?」
「め、滅相もないです!」
コロッと態度が変わった不良にモカは「ほ~。」と言う。
「すごいですな~。しょーくんは。」
「へっ、もっと誉めても良いんだぜ?」
「う~ん、今の発言はすごくないかも~。」
「ひでぇ!?ま、まぁ、それは置いといてだ。今、玲はいるか?」
昇太が不良に話しかけると不良たちは互いに気まずそうに視線を合わせた。昇太が首を傾けていると不良の一人が口を開いた。
「その…、今は止めといた方がいいかと。」
「あ?何でだ?今日特に何も無いだろ?」
「と、とにかく、昇太のアニキでも今はダメです!帰ってください!」
必死に帰るよう促す不良に蘭は疑いの目を向ける。
「怪しい…。邪魔するよ。」
「あ、ちょっと!」
ずかずかと入っていく蘭に不良が呼び止めるも蘭は歩みを止めない。
すると二階の一室に叫び声が聞こえた。そのドアの前には見張りがいた。
「ちょっと。アタシたち玲に会いに来たんだけど。」
「あ、あんたは…い、いや、今は、ダメっすよ。ホントに。」
「聞き覚えのある悲鳴が聞こえるんだけど玲はこの中にいるんだよね?何やってんの?」
「い、いやぁ、そのぉ…。」
妙に歯切れが悪い部下に蘭は詰め寄る。追い付いた昇太は聞こえてくる悲鳴を聞いて察した。これは蘭には見せられないと。
「とにかく何やってるか見せて!」
蘭が見張りを押し退けその扉を開けると
「痛い痛い痛い!そこは止めてよ玲くん!」
「いーや、止めねぇ。俺の安眠妨害した罰だし、組み手で俺に負けたから妥当だろこれは。そらそら、ここか?ここが痛いんだろ?」
「っ~~!?」
日菜に足つぼマッサージをして笑ってる玲がいた。しかも、日菜はミニスカートを履いているため玲が足の裏のツボを押す度に悶えると同時にスカートがはだけて前部分にリボンがついた可愛らしい水色と白の縞模様の下着が見えている。
「…何してんの?」
そんな光景を見た蘭は低い声で玲に話しかける。声を聞いた玲は手を止め錆び付いた機械のようにゆっくりと振り返った。
「…蘭?」
「あ、蘭ちゃん!やっほー♪」
この世の終わりかのように固まる玲と対称的にいつも通りに話しかける日菜。玲は死を覚悟した。
「最悪、アイドルをいじめてしかもスカートの中丸見えにさせるとかひどいでしょ。最低。クズ。変態。鬼畜。サディスト。」
「玲、お前一回絞られてみるか…?」
「玲のバカ!あの時変わってないって思ってた私を返してよ!」
「れーくんにそんな嗜好があったなんてモカちゃんは悲しいよ~。よよよ~。」
「玲くん…流石にこれは、私も擁護できないかな…。」
「い、いや、待て。これには訳があって…」
「言い訳なんて聞きたくない。」
「ま、まぁ待て蘭。こいつと日菜はあんたらが想像してる関係じゃないから…。」
Afterglowのメンバーに囲まれ、縮む玲を見かねた昇太が助け船を出す。
「アタシたちは玲に話してるの。邪魔しないで。」
「うぃ…。」
「あはは、こんな玲くん初めて見たかも!面白ーい!」
あっさり引き下がる昇太に他人事のように笑う日菜。結局最後は玲が高級スイーツを奢ることで許してもらうことができたのであった。そして、Afterglowには怒らせないようにする事を玲の不良グループ暗黙の掟となった。