シリアスがこれから本気だしていきます。
「よし!今日の練習はこんなもんか。」
ライブハウスCiRCLEにあるスタジオで巴が練習の終わりを告げる。
「お疲れ。はい。」
見学に来ていた由美はてきぱきとペットボトルを蘭たちに渡して回る。そんな気配りにつぐみがお礼を言う。
「ありがと、由美ちゃん。」
「お礼はいいよ、つぐねえ。私に出来るの、これくらいだから。」
由美はペットボトルを配りながら自慢げに言う。
「おぉ~。ゆーみん、ツグってますなぁ~。」
「ツグってる?」
「うんうん。ツグってる、ツグってる。」
「私、ツグってる!」
モカからツグり認定を受けた由美は嬉しくなったようで、はしゃいで何度もツグってると言い出し始める。
「ゆ、由美ちゃん、恥ずかしいから…。」
「モカ、由美に変な言葉を教えない。」
「めんご、めんごー。」
モカはマイペースで謝りながら由美と共に掃除をする。小さい身体を懸命に動かしながら掃除を手伝う由美を見てひまりが口を開く。
「それにしても、由美ちゃんは口数が増えてきたよねぇ。」
「そうだな。それに、最近はギターを触りたいって駄々をこねてくるからどうしようって昇太がぼやいていたもんな。なぁ蘭、うかうかしていられないんじゃないか?」
「え、何であたしに振るの?」
「これも昇太から聞いたんだけどさ、由美がギターを始めたい理由が、Afterglowのようにカッコいい演奏して蘭ねえを越えたいってさ。」
「おぉ、未来のライバルだ。」
「…ふーん。」
蘭はチラリと由美の方を見ると由美はモップで床を掃除しながら時々ギターの演奏の真似をしていた。
(…そう言えば、今日の練習中だって由美、あたしのギターの真似をしていた…。)
「おやー?蘭は満更じゃない感じですな~。」
「うっさい。早く掃除するよ!」
(今日も特に異常なし…。)
玲は商店街を見回りながらそう呟く。ここ最近、これといった大事はなく、由美が蘭たちと一緒に井ノ島へ日帰り旅行しに行ったり、昇太から聞いた話だが、あこと巴の関係がギクシャクしたが解決したという情報以外は特に何もなく平和な日々を送っていた。
「あ!おーい、玲くーん!」
つぐみが呼ぶ声に振り向くとそこにはAfterglowの五人組と由美がいた。そう言えば今日は練習の見学に行くと言っていたなと思い出す。
「よぉ、お前ら。今日は一緒なんだな。練習上がりか?」
「うん。玲も暇でしょ?」
ひまりが今は暇かどうか聞くが、玲は見回りがあるため断る。
「いや、見回りがあるから手が離せねぇよ。」
「そういうの暇って言うんだろ?」
「暇じゃねぇ。」
「いいから来いよ!つれないぞお前!」
巴は頑なについて行こうとしない玲の肩を組んで強引に蘭たちの中に引きずり込む。
「ぅお!?離せ巴!」
「わわ、ともちん、れーくんを無理やり引き込まないでよ~。パンが落ちちゃうよ~。」
「おっと、悪い悪い。」
大量にやまぶきベーカリーのパンを買い込んだモカがバランスを取りながら巴に注意する。そんなモカを見て玲は呆れた顔でモカを見る。
「お前、それ全部食うのか?」
「うん、そうだよ~。今夜食べて~、明日の朝食べて~、お昼食べるの~。」
「そんなに食って寝てると太るぞ。」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。その分ひーちゃんにカロリー送ってるから~。」
「そうか、なら安心だな。」
「ちょっと玲!モカの冗談に乗らないでよ!?」
「おっと、ごめんよ。ひまりは弄ってると面白いからつい。」
「もー!つぐ~!玲がひどいよ~!」
ひまりはつぐみに泣きつく。だが、こういうことはAfterglowのお約束で蘭たちはにこやかになる。
「あ、ゴメン、ちょっと寄ってってもいい?」
蘭が花屋に気付くと玲たちに寄ってもいいか尋ねる。勿論、玲たちは快諾だった。
「んー、いい香り…お花も可愛い…。」
商店街にあった花屋に入ると花の香りが蘭たちを迎え入れる。花の香りにひまりがうっとりとする。
「蘭、どんな花が気に入ってるんだ?」
「あたしは…これ、かな。」
巴が聞くと蘭はしばらく棚を見渡し、その中の一つの植え木鉢を手に取る。その植え木鉢に植えられていた花は他の花とは違い、変わった花びらをした赤い花だった。その花は玲も知っている花だった。
「ワレモコウか。確か、これってバラの仲間なんだよな。」
「へぇ、知ってたんだ。」
玲の呟きを拾った蘭は意外そうに言う。
「変わった花…。」
「確かに~何だか不思議な感じだね~。」
由美はワレモコウをじっくり見てポツリと言葉をこぼし、モカも興味津々に眺める。
「この花、メインになりづらいけど、濃い色がアクセントになるし、これが入ると雰囲気しまるんだよね。結構好きな花。」
「へぇー。私、さっきまで知らなかったよ。流石蘭ちゃん!」
「ま、まぁ、あたしは普通の人より花に触れる機会が多かったし…。」
「昔は避けてたのにな。」
「もぉー!玲!そんなこと言わないの!」
つぐみの純粋な誉め言葉に気恥ずかしそうに言う蘭。その表情をを見逃さなかった玲は弄りにかかり、ひまりが叱る。
「蘭ちゃんがこうやってお花について話してくれるの嬉しいなぁ。他のお花についても教えて!」
「蘭ねえ、私にも。」
「別にいいけど…。」
「ほんと変わったよねー…蘭。」
「だな。前じゃ考えられなかったよな。こうやって花屋に寄ったり、お父さんの事を話してくれたりさ。」
「へぇー?そうなのかー?」
「も、もういいでしょ!やめてよさっきから…。」
しみじみ言うひまりに同調する巴。そして、その巴の証言を面白そうに聞く玲に蘭は顔を赤くする。そしてそれをモカは見逃さなかった。
「お、蘭、照れちゃったよ~。」
「私が知ってる蘭は、こういう蘭♪」
「こういうとこは変わんないよなー。」
「ワレモコウみたく真っ赤になっちまったな。」
「ひまりも巴も玲も、うるさい!」
弄り始めた三人に蘭は一喝する。だが、これもAfterglowのいつも通りで和やかな空気が流れていた。
「あっ、ボス!?」
すると、店の奥の方から聞き覚えがある声がした。その方に視線を向ける玲。
「って、Afterglowのみんなも一緒っすか!」
そこにいたのは花屋のエプロンを身に包んだ、鼻が潰れ、歯も所々抜けた顔の青年。玲の部下だった。
「あ、寝起きのれーくんに殴られた人だ。」
「モ、モカさん…。その言い方やめてくんないっすか?トラウマが…。」
モカの呼び方に口がヒクつく部下。玲は意外そうに部下へ近づき、話しかけていく。
「へぇー、もしかして、この花屋。あんたの家だったのか?」
「一応、親の店の手伝いですよボス。…つーか、似合わないっすよね?こんな歯抜けで鼻が潰れた面で花屋とかさ…。」
「そうか?俺はいいと思うぜ?実際、硬派な不良が華道を習ってることだってあるんだしさ。」
「は、はぁ…?…あの、何か、蘭さんがこっちを見てるんすけど…。」
歯抜けの言葉に後ろを向くと蘭が何か言いたげな目をしていた。玲は何でもないと手で制す。花が入った植え木鉢を持った由美に教えてほしいと急かされ、蘭は玲を睨みながら由美が持ってきた花を教える。
「で、最近どうだ?」
「…ちょっと気になることがあったっす。」
「…教えろ。」
「へい。なんでも、この商店街周辺に別グループの不良みたいな怪しい奴が度々目撃されてるんすよ。」
「写真は?」
「あるっすけど、パーカー被ってて顔がよく見えてないんすよ。店の手伝い終わったら写真、渡しに来てもいいっすか?」
「構わん。むしろ情報はできるだけ共有しておきたい。」
「二人して何の話~?」
歯抜けの報告を聞いていると後ろからモカが話しかけてきた。
「あ、あぁ、モカさん。これは何でも…」
「近辺に怪しい奴がいるらしいぜ。蘭たちにも帰り道と通学中気を付けろって伝えとけ。」
はぐらかそうとした歯抜けの言葉を遮り、玲はさらりと白状する。歯抜けはあんぐりと口を開けて信じられないようなものを見る目になる。
「ちょっ!?ボス!何で言っちゃうんすか!?」
「…この間、ネット配信の奴をボコっていたの黙ってたら、怒られたんだよ。すまん、隠そうとしていたのをあっさりバラしちまって。」
玲はばつが悪そうに頭を掻いて謝る。その姿を見て歯抜けは目を白黒させる。厄介事はグループメンバー以外は口外厳禁が規則だったのを口酸っぱく言ってきたボス自らがその規則を破ったのだから無理もない。
「こ、こりゃ、明日から大荒れの天気になる前触れかもしれねぇ…。」
「…おい、そりゃどういう意味だ、てめー。」
いつも通り、だが少しずつの変化がある日々であった。
「新曲の歌詞?」
「うん。書いたんだけど、ひまりたちがイメージしにくいって言っちゃってさ。」
数日後、ライブをするときに新曲の歌詞を書くことになった蘭だったが、モカたちが共感できずに見直すこととなったが、どうしても行き詰まりを感じ、玲に相談しに来た。
「んじゃ、その歌詞を見せてくれよ。」
「分かった。はい。」
蘭は玲に歌詞が書かれた紙を渡すと玲は黙々と読み始めた。
(ど、どうなんだろ…。)
玲が真剣な顔で黙って読んでいるので口を挟めず、蘭にとって気まずい沈黙が流れる。歌詞を最後まで読み終えた玲が口を開く。
「なぁ、これまでの歌詞で巴たちが難色を示した事はあったか?」
「今までなかったよ。」
「そうか……。俺は歌に関しちゃ完全に専門外だが、悪くない歌詞だと思うぜ?」
「…そっか。」
あまりいい答えは得られず、蘭は少し落ち込む。玲は歌詞を蘭に返しながら謝る。
「すまんな。力になれなくて。」
「いいよ。もう少し考えて見る。見てくれてありがと。」
そう言って蘭は玲の部屋から出ていった。
一人、今後のAfterglowが抱える問題、そして部下から受け取った写真に写るパーカーを被った別グループの不良らしき人物の案件を考え、ポツリと一言こぼした。
「マジで大荒れになりそうだな…。」
後に玲のその呟きは的中する。だが、その大荒れのレベルが玲の予想を上回るものであることは、玲はまだ知らない。