夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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えー、再投稿です。後半の展開がやり過ぎた感があったことと、後の展開がどうしてもヤバい方向一直線だったので後半の展開を変えました。

楽しみにされていた方たちには本当に申し訳ありませんでした。

では、気を取り直して、どうぞ。


30話 暗雲

 蘭が歌詞の相談をしに来たその翌日の玲は見回りの強化を行った。

 

 

(あの写真の不良が何者なのか確かめる必要がある…。羽丘に来ていたのも気になるしな。)

 

 

 玲は人通りが少ない道を中心に通り、精神を集中して周りの気配にも鋭くする。

 

 

(後ろに気配が一つ…。次の曲がり角で迎え撃つか。)

 

 

 後ろから感じた気配に玲は早歩きで角を曲がり、待機する。そして、気配の元が近付いて来た。

 

 

「何か用…って、なんだ昇太か。」

 

「なんだってお前な…。」

 

 

 肩透かしを食らった。そう思った玲は再び見回りを再開する。そして昇太も後ろからついてきたが、玲は気にせず歩き続ける。

 

 

「巴から聞いたぜ。蘭ちゃん、新曲の歌詞の進捗よろしくないってな。」

 

「ああ。そうだな。」

 

「知ってたのか。」

 

「昨日、歌詞について相談された。俺としては悪くないと思ったんだが、巴たちの印象はバラバラらしい。」

 

「あー、確かに巴の奴、『花咲き散り、また巡る』らへんがネガティブな感じっつってたけど、つぐみちゃんがポジティブな印象だってな。」

 

「俺は…蘭らしくはないなと感じたな。まぁ、それはそれでも良いかとも思っていたが…。」

 

「…なぁ、玲。これは俺の憶測に過ぎないけどな、今回の蘭ちゃんの歌詞が巴たちに理解できなかったのって…」

 

 

 

 

 

 

「久しぶり。元気みたいで安心したよ。」

 

 

 突然、後ろから声を掛けられた。

 

 玲と昇太は咄嗟に後ろを振り向くと、そこには目深にパーカーのフードを被った不良らしき人物が道の真ん中に立っていた。

 

 

「あのパーカー…こないだ言っていた奴か!」

 

 

 昇太が警戒して臨戦態勢をとる。玲もポケットに入れたナイフをいつでも出せるよう構えて睨み付ける。

 

 

「そんなに警戒しなくていいよ。ボクは一人で玲に会いに来ただけだもん。」

 

 

 フードで顔は伺えないが声から察するにまだ幼い、12歳位だ。玲は警戒を解かずに話しかける

 

 

「…俺に何の用だ?」

 

「警告だよ。今、君とその親友に危機が迫ってきている。ボクはここの偵察とリーダーに嘘を言って君を探しに来ていたんだ。」

 

「そんな事をしてお前に何のメリットがある?」

 

「…やっぱりフードを取らないと分からないかな?」

 

 

 そう言ってフードを取る。そこに現れた顔に昇太は息を飲み、玲は信じられないと言いたげな目をした。

 

 その顔は陶器人形のような整った顔立ちで穏やかな目をしていた。

 

 しかし、顔の右半分、目の周りにまるで血が付いたような模様、正確には痣があった。

 

 

「お前…その目の奴…何だ?」

 

 

 昇太が痣について聞くと、パーカーの子供は申し訳なさそうに笑う。

 

 

「うん。昔、とっても痛い目にあったんだ。大人の人に思いっきり殴られて残っちゃったんだ。」

 

(…久しぶりって事は、玲が児童ポルノに出ていた時の関係者か?)

 

「ねぇ、玲。一方的に言うけどよく聞いて。キミに復讐心を抱いてる人が来ている。だから気をつけて。じゃ。」

 

 

 それだけ言うとパーカーの子供はサッと走って行った。

 昇太は玲の様子をチラリと見るといつもの表情ではなく、どこか切羽詰まった顔をしていた。

 

 

「…玲。大丈夫か?」

 

 

 昇太が肩に手を置くと我に帰ったようで、こちらを向く。

 

 

「あ、ああ。悪い、ボーッとしてた。」

 

(やっぱり、あの子と嫌な記憶があるみたいだな。)

 

 

 冷や汗をかいている玲の顔を見て、この事に追求するのはやめることにした。

 

 

「ま、お前はもう戻りな。さっきの奴が言っているのを鵜呑みにする訳じゃないが、今のお前、どこか不安そうな顔をしてるぜ?」

 

「…そうだな。今日はもう俺は帰って寝る。後の事は頼んだ…。」

 

 

 玲は昇太に後継ぎをしたあと、雑居ビルへと帰っていった。その後ろ姿を見送った昇太は決意した。

 

 

(…あのパーカーの子供、玲の敵ではないかもしれないが少し気掛かりだな。ちょっくら調べて見るか。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ている。薄暗い部屋の隅に子供たちが身を寄せあって固まっている。まるで何かに怯えているかのように。

 

 その中に玲がいた。玲は同じように震えている少女を守るように抱き寄せている。

 

 すると、部屋のドアが乱暴に開かれ、バットを持った男が入ってくる。男が入ってきたことにより、子供たちはより一層恐怖に染まる。だが、泣く者はいなかった。泣けば叩かれる。玲が抱き寄せている子供のように顔に痣ができるまで痛め付けられるから、誰も泣かなかった。

 

 男は玲を見つけると抱き寄せていた子供を乱雑に引き剥がして玲を持ち上げるとそのまま部屋から出ていく。その扱いは人間ではなく、まるで家畜だった。そして、玲が連れて行かれた先にあるものは

 

 

 

 

「っはぁ!!」

 

 玲はベッドから飛び起きる。顔中に汗が吹き出し、息切れも激しい。

 

 外を見ると既に朝日が上っており、小鳥のさえずりも聞こえてくる。

 

 

「…はぁ、やな夢を見ちまった…。」

 

 

 玲は頭を抱えながらぼやく。すると、隣に誰かいるのを感じ、横を見るとそこには由美がいた。

 

 

「おう、由美。おはよ。」

 

「…玲、ツラそう。何かあったの?」

 

「ちょっとキツい夢見ただけだ。大丈夫だよ。」

 

「…そう。」

 

「それよりも、最近どうだ?蘭たちは。」

 

 

 心配する由美に玲は話題を変え、蘭たちの新曲の様子はどうか聞くと由美は難しい顔をした。

 

 

「蘭ねえの歌詞、まだできてないから、あんまり…。蘭ねえもどこか苛立ってるみたいで、なんだかいつも通りじゃない。」

 

「…そうか。」

 

 

 由美の証言に玲は難しい顔をする。

 

 

「なぁ、俺は最近怪しい奴がいないか見張ってて忙しいんだ。もし、蘭が一人で飛び出すような事があったら、お前が蘭を慰めてくれるか?」

 

「蘭ねえ、ツラいの?」

 

「ああ、あいつは何かあるとすぐ飛び出しちまうからな。その時はお前が側にいてやれ。」

 

「ん、分かった。」

 

 玲の頼みを快諾する由美。任せろと言わんばかりに胸を叩く姿に玲の心は穏やかになった。

 

 

 

 由美は一人で羽丘女学園前に来た。ここ最近の蘭は良い歌詞が浮かばず四苦八苦している様子から心配になって、そして忙しくて構ってやれない玲に変わってやって来たのだ。

 

 

「あ、蘭ねえ。」

 

 

 下校する生徒から可愛がられながらも校門を見張り続け、ようやく出てきた蘭に手を振るが、蘭は由美に見向きもせず、走り去っていった。その横顔には涙が浮かんでいた。

 

 

「…蘭ねえ?」

 

 

 ただ事じゃないかもしれない。そう考えた由美は蘭の後を慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 蘭は一人、公園でうずくまっていた。思わずひまりたちに文句を言ってしまった。ひまりはそんなつもりはなかったはずなのに。

 

 

 変わりたくなかったから変わった。幼馴染みに後押しされて、父親とも和解できて、今まで避けてきた華道にも向き合ってきた。もう会えないかもしれなかった玲とも再会できた。なのに、いつも通り新曲の歌詞を書いて来たのに。何故分かってもらえないのか、一体どうすればいいのか。分からなくなってきた。

 

 

「どうすればいいの…玲…。」

 

 

 もう一人背中を押してくれた、幼馴染みの名を呟く。

 

 

「蘭ねえ。」

 

 

 頭を抱えていると声をかけられた。由美だ。トコトコと歩いてきて蘭の隣に腰かけてきた。

 

 

「…何、由美。」

 

「蘭ねえ、ツラそう…。モカねえたちと何かあったの?」

 

「…由美には関係ないから。」

 

 

 蘭は由美に心配かけまいと振る舞うも声が震えてしまう。すると、由美が蘭の頭を優しく抱きつき、撫で始めた。突然の事で蘭は驚く。

 

 

「ちょ、由美!?」

 

「私が怖い夢を見たりしてツラいとき、玲はよくこうやって一緒にいてくれた。蘭ねえもこうやったらツラいのなくなるかなって。…駄目?」

 

「…ううん、由美。しばらくこうさせて。」

 

「うん。」

 

 

 蘭は自分よりも10歳位年下の子供に抱きしめられ頭を撫でられているのを気恥ずかしく思ったが、ひまりたちにあんな事を言ってしまった後悔が癒されるような気分になる。明日、ひまりたちに謝ろう。そう考えた瞬間だった。

 

 

「おい。」

 

 

 不意に、声をかけられた。玲が来た。こんな所見られたら完全に弄られる。蘭はそう思い慌てて頭をあげる。

 

 

「キミら、こんな所で何やってんの?ダメだよぉ~。キミらみたいな可愛い子、俺らみてーなヤベー奴に襲われるからさぁ。」

 

 

 玲じゃ、なかった。

 

 

 

 

 

 玲は一人、走っていた。理由は単純。由美に任せていいのか不安だったからだ。

 

 

(…何やってんだろな、俺。)

 

 

 そう自虐するも、今現在も胸騒ぎが収まらずにいるので仕方がない。そう考えた時だ。

 

 

「近寄らないで!」

 

「へぇー、随分気が強い嬢ちゃんだな。そう言う生意気なガキを屈服させんの大好きだぜ!」

 

 

 蘭の声が聞こえた。どうやら悪漢に絡まれているようだ。玲は自分の直感が当たってしまい、舌打ちをする。そして、声がした方に走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公園で知らない男に絡まれた蘭と由美。由美は気丈に振る舞って蘭を守ろうと小さな両手を広げて仁王立ちをしている。

 

 

「おいおい、ちっちゃい嬢ちゃん。あんたみたいなガキが俺ら大人に叶うと思ってんのかよ?」

 

 

 由美の無謀とも言える行動に男たちが嘲笑する。しかし、由美はそんな嘲笑を聞いてないと言わんばかりに、これでもかと手を広げる。

 

 

「蘭ねえは、いじめさせない。」

 

「おーおー、そんな震えちゃってカワイーねぇ。」

 

 

 男のうち一人が由美の前に歩いていき、退かそうと手を伸ばす。しかし、その行動が仇となった。

 

 

「ガヴッ!」

 

 

 由美は近付いて来た男の手を思い切り噛みついた。これは、玲から教わった子供でも抵抗できる方法だ。

 

 

(武器があればいいけど、今はない。私にできるのはこうやって誰かが来るまで踏ん張ること!)

 

 

 しかし、まだ小学校低学年位でしかない由美の顎の力では腕を振り回す男の力に負けてしまい、蘭の前に放り出される。

 

 

「チクショウ!このクソガキ!指が食いちぎられるかと思ったぜ!」

 

「由美!大丈夫?」

 

 

 咄嗟に蘭が由美を抱き止め、由美の安否を行う。しかし、そうしているうちに男たちが近付いてくる。

 

 

「近寄らないで!」

 

「へぇー、随分気が強い嬢ちゃんだな。そう言う生意気なガキを屈服させんの大好きだぜ!」

 

 

 由美を抱き寄せ、睨み付ける蘭にリーダーのような男はへらへら笑いながら仰々しく歩み寄ってくる。

 

 

「近寄らないでって言ったでしょ!」

 

「ぐへへ、そのイヤイヤが止めちゃイヤ~んってなっても知らねぇからな。」

 

 

 そう言って手を伸ばしてくる男に蘭は由美を守るように抱きしめ、目を瞑る。

 

 しかし、いつまで立っても男が触ってこない。不思議に思った蘭は目を開ける。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 そこには走ってきたのだろうか、息切れをしながら男の腕を掴む少女と見間違う美少年、黒一点の幼馴染みがいた。

 

 

「あん?白馬の王子様…ぐえ!?」

 

 

 男が言い終わる前に玲の蹴りが男の顔に叩き込まれる。

 

 男は綺麗な放物線を描きながら地面に倒れ伏す。よく見れば、男の取り巻きらしい連中も倒れていることから、全員気付かれない内に倒したのだろう。

 

 

「大丈夫か?蘭。」

 

「う、うん。ありがとう、玲。」

 

 

 差し伸べた玲の手を蘭は掴みながら立ち上がる。

 

 

「玲?今、玲って言ったのか?」

 

 

 すると、さっき蹴り飛ばした男が顔を押さえながら起き上がる。

 

 

「…どうやら、まだぶん殴られたいみたいだな。」

 

 

 その男にうんざりしながらも玲は臨戦態勢を取る。しかし、男は余裕の態度だった。

 

 

「やっぱり、玲じゃねぇか。俺を忘れたのかよ。激しい一夜を共にしただろ?神前玲くぅん?」

 

「は?何を、言って…」

 

 

 男の馴れ馴れしい態度に玲は最初は首をかしげたが、男を観察して何かに察したのか言葉が出なくなる。

 

 

「玲?どうしたの?」

 

 

 蘭が聞くも玲は男の方を見るだけ。しかも、その表情は恐怖に染まっていた。

 

 

「随分とかわいく綺麗になってんじゃん。おっと、今黒豹って呼ばれてんだっけか。へへ、今日のところは引き上げてやるが、いつかお前を首輪を着けた従順な黒猫ちゃんに調教してやるぜ?」

 

 

 男はそれだけ言うと倒れ付していた取り巻きを叩き起こし、その場を後にした。残ったのは、立ち尽くす玲と蘭に抱かれている由美、そして玲の様子がおかしくなったのを不安そうに見つめる蘭だった。

 

 

「…ねぇ、玲。あの男、一体…」

 

「蘭。今日はもう帰れ。」

 

「で、でも、あんたの事が心配だよ。あの男何なの?何で玲の事を知って…」

 

「やかましい!さっさと消えろ!お前は知らなくていいんだよ!」

 

 

 心配する蘭を玲は突き放すように怒鳴る。しかし、今の蘭にそれは悪手だった。

 

 

「…何それ。あたしは知らなくてもいい?あんたもあたしが変わらなきゃ良かったとか思ってるの!?」

 

「あ…、ち、違う。そう言う意味じゃ…」

 

「じゃあどういう意味なの!?答えてよ!あんたはいつもいつも昔の事を話さないよね!あたしが頼りないから?あたしは変わったんだよ!モカたちといつも通りでいたかったから!もう会えないと思ってたあんたに会えたんだから!なのに、なのに何でそんな事言うの?もういい!あんたなんか知らない!」

 

 

 蘭はそう捲し立てると由美を連れたまま公園から足早に出ていく。

 

 玲はただ、立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…。」

 

 

 公園から出た蘭はモカとばったり会った。モカのいつものポケッとした顔には申し訳無さで一杯だった。

 

 

「モカ…。」

 

「…ごめんね。」

 

 

 モカは謝ってきた。その様子を見た蘭は自虐する。

 

 

「あたし…変わったつもりだったけど、泣きながら飛び出して行ったりして、全然変わってないよね。みんなと一緒にいたいから変わったつもりだった。けど、根っこの所は何も変わってなかった…!」

 

「ううん、蘭は変わったよ。あたしたちが知らない所に行っちゃっただけ…。蘭が見えてる世界ってさ、あたしたちよりも広いんだよ。だから、蘭が見えてる世界が、あたしたちにはまだ見えないんだ。」

 

「でも…、でも、あたし、みんなの事が分かんないよ。玲の事も分かんない…!自分の事すらも分かんなくなっちゃった…!」

 

「…蘭ねえは、悪くないよ。」

 

 

 由美が慰めるも、蘭は泣き止まない。泣き続ける蘭にモカはただ謝るしかなかった。

 

 

「…ごめんね。」

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