夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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更にシリアスになって行きます。


31話 過去

 家に帰った蘭はふらふらしながらも帰宅する。もう何もかもが分からない。もう楽しかったいつも通りに戻れないのか。そう考えながら玄関を開ける。

 

 

「今日は遅かったな。蘭。」

 

「…うん。ごめん、父さん。」

 

 

 父が玄関で出迎えてくれた。おそらく、いつもと違い華道の集まりに遅れてしまった蘭を心配したのだろう。厳しめの顔に少しだけ心配の色を滲ませていた。

 

 

「む…、蘭。その子はなんだ?」

 

「…え?」

 

 

 父の質問の意図が分からず、蘭は思わず父が見ている視線の先を見た。その先には蘭の後ろに隠れ、父をジッと見ている由美がいた。どうやら一緒にいたことに気付かなかったようだ。蘭は慌てて由美と視線を合わせる。

 

 

「ちょ、ちょっと、由美!なんでついて来たの!?」

 

「だって蘭ねえ、ずっと私の手を繋いでた。」

 

「う…。」

 

 

 そうだった。玲と自分の事ですっかり忘れてしまっていた。蘭は額に指を当て、失念する。

 

 

「…もしかして、その子が話に聞いた由美と言う子か?」

 

「ご、ごめん、父さん。ちょっとこの子送って行くから…」

 

「待ちなさい、蘭。」

 

 

 父が呼び止めてきた。説教が一つや二つ、飛んでくるのか。そう思い足を止める。だが、出てきた言葉は蘭の予想とは違った。

 

 

「もう日が暮れて外は危険だ。泊めてやったらどうだ?昇太くんには私が言っておく。」

 

「…え?」

 

 

 思わず首をかしげる蘭であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、雑居ビルでは不良たちが不安そうに会話していた。何故なら昨日から玲が寝室に入ったっきり出てこないからだ。いつもの寝付きが悪いだけだと思い込んでいたが、昼になっても寝室から出てこず、最初は楽観していた部下たちも不安になり始めたのだ。

 

 

「なぁ、ボスどうしたんだ?全然出てこないんだが、何かあったのか?」

 

「さぁ、昇太のアニキが言ってた蘭さんの歌詞の進み具合が良くねぇのと何か関係があるとは思うけどよ。」

 

「お前、起こしに行ってこいよ。起こすの担当だったろ?」

 

「イヤだよ!これ以上殴られたら鼻が完全に潰れて入れ歯する羽目になっちまう!この年でジジイみたいなもん付けたくないぜ!」

 

「そういや、由美ちゃんはどうしたんだ?昨日から帰って来てねぇけど。」

 

「よう、お前ら何の話してんだ?」

 

 

 不良たちが口々に話していると昇太がやって来た。いつものように賄いをもって、気さくに話しに入っていく昇太。

 

 

「あ、昇太のアニキ。実は…」

 

 

 部下は昨日から玲が寝室から出てこない事、由美が戻ってきていない事を心配そうに昇太に報告する。

 

 

「ああ、由美なら蘭の親父さんから連絡があったぜ。昨日は蘭がうっかり連れたまま帰っちまったらしくてお泊まりだったんだよ。」

 

「よ、よかったぁ~…。」

 

「蘭さんの親父さんってあの着物の堅物なおっさんだろ?よく由美ちゃんを泊めてくれたよな~。」

 

「ボスがああなってんのに由美ちゃんがいなくなっちまったら俺ら正気じゃなかったかもな!」

 

「お前、そういうの好きなのか…。」

 

「ばっ!?ち、違ぇよ!俺は仲間のためだと思ってだな…!」

 

「はいはい、俺は分かってやるから。あと、巴さんに気を付けろよ?あの人、妹バカだから。」

 

「何だその目ぇ!?やめろ!すっげぇ肩身狭くなるから!」

 

(昨日のあの痣の子の事でまだ平静を保ててないのか…。もしかして、それほどあの子は玲にとって苦い記憶があるのか?)

 

 

 気が緩み、けなし合ったり笑い合う部下を尻目に昇太は眉をしかめる。昨日話しかけてきた痣の子供。あの子は他の子供とはどこかしら違う雰囲気から、玲の児童ポルノ時代の関係者なのは分かるが、一体どういう関係なのか。昇太が顎に手を当て、考える。

 

 

「よし、玲に関してはとりあえず俺に任せろ。」

 

「え?い、いいんすか?」

 

「可愛い後継者が困ってんだ。元とは言え、俺もボスやってた身だぜ。ここは俺に任せとけ。お前らは見回りをやっといてくれ。」

 

「で、では、頼みます…。」

 

 

 部下を撒くことに成功した昇太は見回りに行く部下を見て微笑む。

 

 

(ったく、今の玲には勿体無さすぎる部下だぜ。ここまで慕われてるなんざ、泣けてくらぁ。)

 

 

 心の中でしみじみしながら玲の寝室の扉をノックする。

 

 

「おーい、玲!メシ持ってきたぜ!開けなよ!」

 

 

 昇太がそう叫んで十数秒後、がちゃりとドアが開く。

 

 少し開けたドアの隙間から覗く玲はシーツを体に包み、髪もボサボサ、あまりよく眠れなかったのか目の下にクマもできており、大丈夫のようには見えなかった。

 

 

「…昇太か。」

 

「おいおい…、お前大丈夫か?」

 

「…蘭は大丈夫か?」

 

「蘭ちゃん?何で蘭ちゃんが出てくんだよ?」

 

「…いや、何でもない。メシはそこに置いといてくれ。」

 

 

 玲はそれだけ言うとまた扉を閉めてしまった。

 

 

(…なんっつーかぁ、思春期で部屋に籠ってしまった子供を心配する親ってこんな感じなのかね…。)

 

「わーったよ。じゃ、俺は行くからな。食べ終わったらまた外に置いといてくれ。」

 

 

 商店街の思春期の子を持つ人達の心境を知りながら賄いを置き、部屋を後にする昇太。そして、痣の子について探る為、雑居ビルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 玲は昇太が持ってきた賄いを震える手を抑えながら口にする。

 

 だが、吐いてしまった。忘れ去っていた過去の惨たらしい記憶が玲を苦しめてくるのだ。今まで会うとは思わなかった人物に二人、それも苦い記憶しかない人物だ。

 

 一人は助けてやれなかった。一人は昔の自分を完全に殺した。

 

 

(ダメだ。割り切れ。割り切るんだ。もう後悔しても仕方ないんだ。あれは、あいつは、俺の力がなかったからだ。守ってやると約束したのに何もできなかった俺を許してくれ。そんな目で見ないでくれ。痛い。止めて。止めてよ。もう言うこと聞くから。首輪もしてやるから、何でも言うこと聞くから。いい子にするから。だから叩かないで。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。)

 

 

 

 

「誰か…助けて…。」

 

 

 ようやく出た声はか細く、たった一人、シーツを体にくるめて縮んで震える姿は黒豹の名で恐れられている不良の親玉とはとても思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雑居ビルを後にした昇太は商店街に向かい、通りを行き交う人々を観察する。途中、北沢精肉店で買ったコロッケを頬張りながら虎視眈々と見張る。そして、昇太は目当ての人間を見つける事ができた。昨日話しかけてきたパーカーを着た痣の子だ。すぐさまコロッケを食べ終え、包み紙をポケットにしまいながら痣の子の元へと向かった。

 

 

「おい、あんた。」

 

 

 昇太が呼び止めると痣の子は振り向く。

 

 

「…てっきり、玲が来るって思ってたけど君なんだね。」

 

「悪かったな、玲じゃなくてよ。」

 

「ボクに何か用?」

 

「…お前から玲の事を知りたい。」

 

「…知ってどうするの?」

 

「あいつを救う手掛かりを探す。」

 

「…興味本意で聞いていい内容じゃないよ。」

 

「それでも構わねぇ。」

 

「…うん、分かった。でも、これは外で話したらマズい内容だよ。どこか話せる場所はあるのかい?」

 

「ああ、ついてきな。」

 

 

 

 

 

 昇太が案内したのは商店街の一角にある定食屋だった。そこは昇太の家でもある。昇太は入口を開けるとガラガラと音が響く。すると、奥のカウンターから顔に傷が付いている体格のいい男が顔を出す。

 

 

「いらっしゃーい!…ってなんだ昇太かよ。入るならいつも裏口から入れと言っとるだろうが。お客かと思うじゃねぇか。」

 

「わりぃわりぃ。親父、奥の個室使ってもいいか?」

 

「おう、今んとこ昼のピーク過ぎたしな。夜までには好きなだけ使え。」

 

「おう、ありがたく使うぜ。さ、来な。」

 

 

 昇太が催促すると子供も後へと続く。そして奥にある座敷の個室に入ると二人はテーブルを挟んで向かい合うように座った。そして、昇太の父からお冷やが置かれ、昇太の父は午後の仕込みのため、厨房に戻っていった。

 

 

「良い店だね。雰囲気があって、落ち着くよ。」

 

「今はな。夜になるとここは居酒屋にチェンジして夜な夜な仕事帰りのおっさんの汗とゲロと酒の匂いが混ざった空間になるぜ?朝、臭い消しと掃除で忙しいのとツラいったらありゃしねぇ。」

 

 

 そう言う昇太の愚痴に痣の子はにこりを微笑む。

 

 

「で、俺んとこの事情はここまでにして、お前は誰だ?玲とどういう関係だ?」

 

 

 昇太は低い声で痣の子に問い掛ける。本当は子供相手にこの話し方はしたくはなかったが、相手が何者か分からない以上油断はできない。

 

 

「…ボクの名は勝目友梨。女の子だよ。で、玲とは…そうだね、仕事仲間?」

 

「…じゃあ、早速本題だ。お前が知ってる限りの玲に関すること、吐けよ。」

 

「うん、いいよ。」

 

 

 昇太の気迫をものともせずに、友梨は語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクが玲と会ったのは、四年前ぐらい。その時ボクは心無い親に虐待されたり、捨てられたりした子供を引き取る孤児院にいたんだ。でも、孤児院だと言うのは表だけ。本当は子供に興奮する人達の相手をする娼館みたいな物で、そこへ来るお客様は地位が高い人、政府のお偉いさんばかり。ボクと一緒にやって来たのが、神前玲。所謂、同期って奴だ。

 

 そこでボクと玲は色々な事をやらされていたよ。犯されるだけじゃなく、血が出るまで鞭でひっぱたかれたり、蹴られたり、蝋を体に垂らされたり、男の子は女装させられてカメラで撮られたりもしたね。とにかく、沢山嫌がることをされて、もう地獄だったよ。そして、事が終わると子供は薄暗い部屋に放り出されるんだ。そして、たまに職員のストレス発散に付き合わされて狭いロッカーに叩き込まれてロッカー越しにガンガン叩いて来るんだ。中にいると音がすごく響くから鼓膜が破れるかと思ったね。

 

 そんな日々が続くから死にたくなった事もあったね。実際、精神崩壊した子もいたし。その時、手を差し伸べてきたのが神前玲。彼だったんだ。彼も色々やらされたよ。犯されている時もパシャパシャ撮られたり、ね。特にボクと玲は人気があったんだ。ボクは嗜虐心をそそるからとか、玲はよく抵抗するから屈服のしがいがあるってね。

 

 でも、そんなある日、政府のお偉いさんが玲を買い取って来たんだ。ボクも詳しい事情は知らないけど少し聞こえた言葉だと、後継者だか言ってた気がする。

 

 玲がいなくなっても変わることがない日々を送っていたら、ある日、警察が来て、ボクらを保護してくれた。なんでも、匿名からの情報でこの孤児院の正体を暴いた人がいて、それに怒った世間の人が助けに来てくれたんだ。そして、それにともない、常連だった地位の高い人や政府のお偉いさんが連鎖的に失脚、失踪、国外逃亡したんだよ。ほら、昔ニュースで一ヶ月も同じ話をするほど大きな話題になったでしょ?あれだよ。

 

 ボクにはその匿名の人物が誰だか知ってたよ。玲がやったんだって。ボクはそれからまともな孤児院で匿われていたけど一人で旅をしたんだ。玲を探す為の旅だったけど、結局何の手掛かりも無く、見つからなかった。諦めかけた時に不良グループのリーダーが玲の話をしているのを聞いた。そして、ボクはその話に惹かれて不良グループに入ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…それが、お前がここに来た理由…か…。」

 

 

 友梨の昔話に昇太は息を飲む。この子と玲は、そこまで残酷な経験をしてきたのかと。昇太は側に置かれているお冷やのように汗をかく。

 

 

「ボクらを明るい場所へと出してくれた彼にお礼を言いたかった。…でも、会えると思って入った不良グループが間違いだったんだ。」

 

 

 ずっと微笑むような顔に焦りが加わる。様子がおかしくなった友梨に昇太は目を細めた。

 

 

「…何だと?」

 

「お願いがあるんだ。もう、玲と関わるのは止めて、仲間と一緒に逃げるんだ。ボクが入ったグループのリーダーは突然図々しく現れた玲に叩きのめされた挙げ句、今まで築き上げた信頼、実績、居場所まで奪ったと憎々しげに言っていたんだ。あの目は、怖かった。」

 

「…ちょっと待て。そいつって…!」

 

 

 昇太がリーダーの正体に感付いた瞬間、個室のドアが開いた。そこから二、三人の不良が昇太を押さえつける。そして、一年以上聞いていなかった声が昇太の耳に届いた。

 

 

「よぉ、相変わらずボロい定食屋だな、昇太?」

 

「…!てめぇは…!」

 

 

 眼帯を着けた青年、去年の夏祭り、玲に完膚なきまで返り討ちにあい、追放された男、大崎がいた。




勝目 友梨(かつめ ゆり)

 玲と同じ頃、孤児院とは名ばかりの施設に入れられた少女。昔は黒髪の長髪だったが、施設の職員によりバッサリ切られ、客に売られた。今現在は伸ばしている最中。
 辛い料理が大好物。
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