夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

34 / 55
またも大聖母ツグミエルを書きたくなった。


32話 少しの変化

 昇太は机に押さえつけらながらも大崎を睨む。

 

 

「てめぇ…どのツラ下げて戻ってきやがった!」

 

「おいおい、昔の仲間に久しぶり会ってやったと言うのに随分な言い様だな。それに、自分が今どういう立場にいるのか分かってないようだな。なぁ、友梨?」

 

 

 大崎は昇太を見下しながら友梨の頭に手を添える。友梨は顔を伏せ沈黙している。

 

 そして、大崎は友梨の頭をポンポン叩いた後、

 

 

 

 がぁん!!

 

 

 

 

 思い切りテーブルに叩きつけた。そして乱暴に頭を上げられた友梨の鼻から血が吹き出す。

 

 

「何勝手に外へ出てんだよ、あぁ?」

 

「あ、あぐっ…。」

 

「俺言ったよな?外へ出るとき必ず誰かに伝言しろって。それが出来てねぇてめぇはなんだ?あぁ!?」

 

 

 友梨が両手で鼻を塞ぎ、鼻血を押さえるも指の隙間から漏れ、滴り落ちる。その状態の友梨の耳元で大崎はお構いなしに怒鳴る。しかし、それを静観する昇太ではない。押さえつけられながらも大崎の暴行を止める。

 

 

「おい、よせ!」

 

「人の教育に首突っ込んでんじゃねぇよ。てめぇには玲の弱点をとことん吐いてもらうつもりだからな。」

 

 

 大崎は押さえつけられている昇太を見下し、勝ち誇った笑みを浮かべた。どうやら本当に玲の復讐以外考えていないようだ。

 

 

「…そう易々、吐くと思ってんのか?」

 

「そうだな。あんたは友情を大切にしているお人好しだからダチを売るなんて行為には出れねぇだろ。」

 

「だったらさっさと諦めて…!」

 

「だが、お前のダチがどうなるかな?」

 

「…あ?」

 

 

 一瞬、大崎の言葉の意味が理解できなかった。そして、理解が追い付いた昇太はサングラス越しに目を見開く。その様子を見た大崎は更に口を歪め、喋りだす。

 

 

「宇田川…とか、言ったか?お前のダチの名前。そいつとその関係者が悲惨な目に遭うぜ。」

 

「な…!?」

 

 

 大崎は昇太がどういう人間か理解している。世話焼き、兄貴分、相談役。その性格を利用して大崎は昇太の友人を人質に玲の弱点を探ろうとしたのだ。昇太は思わず激昂する。

 

 

「てめぇ…!巴たちは関係ないだろ!」

 

「今はな。だが、お前が玲の弱点を吐かなきゃ、宇田川巴と、奴の妹のあこっつったか?そいつらが俺の部下のオカズになっちまうぜ?それでもいいのか?」

 

「そこまで腐ったか!この卑怯者が!」

 

「何とでも言いな。俺をそうさせたのは神前玲なんだぜ?」

 

「ぐっ…。」

 

 

 昇太は歯噛みする。今の玲の精神状態ではおそらく巴たちを守りきれない。かといって、玲を売るような真似もできない。突破口がない現状。友を救うために友を売るか、友を守るために友を見殺しにするか。その板挟みに苦悩する。

 

 

「おい、昇太。何騒いでんだ?」

 

 

 騒ぎを聞いた昇太の父が夜の仕込み中で手が放せないため、厨房から声を出す。その声を聞いた大崎は潮時だと言わんばかりに身を引く。

 

 

「さて、良い返事期待してるぜ。おっと、誰かに漏らすような真似をするなよ?もしやったら…言われなくても分かるよな?」

 

 

 大崎はそう言い残すと友梨の頭を乱雑に鷲掴みにし、そのまま店から出ていった。一人残った昇太は頭を抱える。

 

 

(…どうすりゃ、いいんだよ。くそったれ…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、何か余計な事は喋ってないよな?」

 

 

 商店街の狭い、人通りがない路地。そこで大崎は友梨を問い詰める。友梨は鼻から血を流しながらも大崎の目を見て答えた。

 

 

「安心して。ボクはきみの侵攻については何も喋ってないよ。ただ、彼から話しかけてきたんだ。玲の過去について教えてほしいって言われて、ボクはそれに答えただけ。」

 

 

 友梨は大崎から目をそらさず正直に答える。しかし、大崎は友梨の頭を掴むと壁に押し付けた。

 

 

「嘘はついてないだろうな?俺が来たとき、逃げろだかなんだか聞こえた気がしたが?」

 

 

 大崎は疑いの目を向けながら友梨の頬にナイフをチラつかせる。そしてナイフの腹で友梨の頬をつつき、脅しにかかる。

 

 

「ほ、本当だよ。ボクが言ったのは玲の過去の事だけ…きみも知っている事だけだ。」

 

 

 友梨はそれでも嘘ではないと言い続ける。

 

 

「…ふん。そこまで言うなら嘘じゃないんだろうな。いいぜ。一応信じてやるが、帰ったらお前はあのデブの相手をしな。分かったな。」

 

 

 大崎は疑ってはいるものの友梨から離れた。そしてそれだけ言うと友梨を置いて、部下と共に帰っていった。

 

 

(これじゃあ、前と変わらないな…。)

 

 

 一人、友梨は壁にもたれかけ、ため息を吐く。今夜は新しく入ったあの太った男に身体中舐め回されるのだろう。そう考えると憂鬱になる。しかし、今の自分が帰る場所はあそこしかないと言い聞かせ、重い腰をあげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(蘭ちゃん…返信こないなぁ…。)

 

 

 つぐみはスマホのグループチャットの画面を眺めながらため息を吐く。

 

 昨日、蘭が飛び出していってしまった後、つぐみは蘭が書いた歌詞を自分なりに解釈して蘭に伝えたが、未だに連絡が返ってこないことに不安を覚え始めていた。

 

 

(ひまりちゃんたちも落ち込んじゃって…玲くんに相談してみたけど、玲くんも返信してこないし…。私…どうすればいいのかな?)

 

 

 そう思案しながらトボトボ歩いていたせいか、何かにぶつかった。

 

 

「あっ、す、すいません!」

 

「ううん。ボクの前方不注意だ。きみは悪くない。」

 

 

 咄嗟に謝るとぶつかった相手は子供のようだった。なんだか声に比べて大人しい印象だな。そう思い、つぐみが頭をあげるとそこには、

 

 

「だから気にしなくていいですよ。」

 

 

 鼻から血を流しながら微笑む子供がいた。

 

 

「気にするよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、よしっと。」

 

 

 つぐみはぶつかったお詫びにと友梨の鼻にティッシュを詰めて止血した。今、蘭と気まずい状態なのに他の人にも気をかけるところがつぐみらしいとも言えるだろう。もし、この場にモカがいたら「おぉ~、ツグってるね~。」と言っていたところだ。

 

 

「ホントに気にしなくても良かったのに…。」

 

「いや、鼻血を出したまま歩いているのは気になるよ…。」

 

 

 気にしなくてもいいと言い続ける子供につぐみは苦笑いをする。

 

 

「とりあえずありがとう。親切なお姉さん。ボクのために…。」

 

「今度からはちゃんとティッシュを持つこと。いいね?」

 

 

 つぐみからポケットティッシュを受け取る友梨。右目の痣が気になるはずだが、触れようとしないつぐみ。久しぶりに人の暖かさに触れた友梨は困ったように笑う。

 

 

「あはは、きみ、もしかしてお人好しって言われたことあるでしょ?」

 

「あはは、よく言われるね。」

 

「それって辛くないのかい?他の人の心配とか、気が休まらないでしょ?」

 

「ううん。私がしたいからやってるんだ。それに、困っている人がいるのに、見て見ぬふりなんて絶対できないもん。」

 

「…ふーん。」

 

 

 何の迷いもなく返すつぐみに友梨は表情こそ出さないものの、驚いていた。

 

 

(玲が住んでいる所って、こんなに暖かいんだね。さっきの昇太もそうだけど、この町はボクの記憶の限りじゃ、活気に溢れている気がするなぁ。…ここが、あの大崎の手に落ちると…。)

 

 

 一瞬、大崎のグループを裏切ろうと考えたが、考えるだけ無駄だと割りきる。

 

 

「あの…大丈夫?」

 

「…え?ああ、ごめん。考え事していたんだ。」

 

「どこか辛いの?」

 

 

 心配そうに見つめるつぐみに大丈夫だと告げようとした瞬間、目の前が突然ぼやけた。

 

 

「あ、あれ?何で?こんな事、今まで無かったのに…。」

 

 

 友梨は自分の目を服の裾で拭うも、すぐに視界がぼやけてしまう。拭った袖には濡れた跡がある。今まで泣きたくなった事がいくつもあった。でも、泣かなかった。今まで泣いても誰も心配してくれないどころか、更に殴ってきたから。その内、泣くことを忘れてしまった。その方が楽だから。その方が殴られずに済むから。

 

 

「ご、ごめんなさい。ボクは大丈夫ですから。」

 

 

 拭っても、拭っても、拭っても、拭っても。溢れる。溢れる。溢れる。溢れる。溢れる。

 

 

(どうしよう、このままじゃ、このままじゃまた…!)

 

 

 脳裏に浮かぶは幼い頃の自分。孤児院とは名ばかりの施設に行く前の自分。一緒に住んでいた、もう顔すら浮かばない大人が泣いている自分を黙らせるように暴力を振るってくる。お腹が空いたと言ったら殴られた。何処か遊びに行きたいと言ったら殴られた。あの料理を食べたいと言ったら殴られた。殴られた。殴られた。殴られた。殴られた。

 

 

(い、嫌だ。泣いたら殴られるんだ。だから、泣くな。泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな…)

 

 

 目から溢れ出る液体が拭っても止まらず、次々と出てくる。止めようがないと判断した友梨は涙が収まるまで目を服の裾に押し付ける。すると、何も見えない中、暖かく柔らかな、それでいて珈琲の香りが微かにする何かに包まれた。

 

 

「…大丈夫だよ。辛かったら、泣いても良いよ。ここには、あなたをいじめる怖い人はいないから。」

 

 

 耳元で聞こえた声。その声は、友梨が今まで聞いたことがない暖かさがあった。その言葉が、友梨の涙腺を、感情を止めていたダムを決壊させた。

 

 

「うぁ…うぁあぁああ…。ボク…ボク怖かったんだ!痛い目に遭うから!辛い目に遭うから!誰もボクを助けてくれないから!」

 

 

 抑圧された感情が止めどなく溢れ出す。顔中が涙と鼻水と唾が混ざった液体になり、つぐみの制服にべっとりと付いてしまうが、つぐみは何一つ嫌な顔をせずに友梨の頭を優しく撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。服を汚してしまって…。」

 

「ううん。こんなのすぐ洗濯して取れるから。気にしないで。」

 

 

 気が済むまで泣き続けた友梨は泣き腫らした目を拭いながらつぐみに謝る。

 

 

「でも良かった。何だかさっきより晴れやかな感じになってるよ。」

 

「…ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。」

 

「お世辞なんかじゃないよ。ほんとにスッキリした感じになってる。」

 

「じゃ、ありがとうございました。つぐみさん。」

 

「うん、じゃあね。友梨ちゃん。元気で!」

 

 

 友梨とつぐみは笑い合って別れた。友梨はこれまでの受け身だった自分と決別する決意をして、つぐみはこんな自分でも誰かを笑顔にできた実感を噛み締めながら別れた。

 

 

 

 

 

 

 その夜。友梨は大崎のグループがたむろしている町外れの廃工場のアジトで最近加わった太った男の相手をするために男がいる部屋に入った。

 

 

「あ、来たね友梨ちゃん…。へ、へへ、今日もペロペロするからね。」

 

 

 男はネット配信をしていた所を玲に恥をかかされた恨みで大崎のグループに入ったらしいが、正直言って、何もできない小物だ。どうやら大崎は玲に恨みがあるなら誰でもいいらしい。

 

 鼻息を荒げながら唇を突きだし近付く男。だが、友梨は反撃に出ることにした。

 

 

「気安くちゃん付けしてんじゃねぇ!」

 

 

 そう叫び、男の股を蹴りあげる。内臓全部が上に飛び上がるような衝撃が男の全身を駆け巡り、そのまま倒れた。

 

 

(女王ってやったことはないけどこんな感じだったっけ?やり過ぎたかな?)

 

 

 股間を押さえながら倒れてピクピク動くだけの男を見ながら友梨は首をかしげる。

 

 後日、男が大崎に訴えに行ったが、友梨は「SMをやってみたいって言っていたんですけど、初めてだったから加減が分かりませんでした。」と、嘘をついてそれを信じた大崎はお咎めなしにし、男は発狂したのだった。




気が付いたらお気に入り300越えしてました。これから完結に向けて書くぞー!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。