夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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今年最後の投稿でございます。皆さん、こんな小説に付き合ってくれてホントにありがとう。



さて、つぐ誕生日小説の準備しなきゃ…。


34話 反撃

 数日後、雑居ビルの一室では数人の部下が慌ただしく動いていた。

 

 

「羽丘の近くに怪しい奴がいる?目ぇ離すなよ。そいつが巴さんかあこちゃんに近付くようならブチのめせ!」

 

「商店街はおやっさんたちが見張ってるからと言って油断すんなよ!」

 

「念のため花女の方の見回りも怠るな!」

 

 

 部下たちがスマホで得た情報を直ぐ様、壁に貼ってある周辺の地図に印を書き込んでいく。

 

 

「首尾はどうだ?」

 

 

 部屋のドアが開き、玲が入ってくる。その顔は若干の疲れは残っているものの、数日前の怯えは鳴りを潜め、ギラリと鋭い目付きは元通りになっている。玲が入ってきたのに気付いた部下の一人が近付き報告をする。

 

 

「へいボス!やっぱりあっちこっちに別のグループと思う連中が町の至る所にいるっぽいっす!」

 

「時間別のデータはあるか?」

 

「これです。」

 

「ありがとよ。お前、将来こういうデータ管理の仕事向いてるかもな。」

 

 

 すかさずタブレットを渡してくる丸眼鏡の不良。玲は誉めながらタブレットを受け取ると画面に整理整頓された情報を見る。

 

 

「朝方と夕方に目撃情報が多い事から多分ですけど、巴さんとあこちゃんの登下校を狙ってると思うんですが…。」

 

「十中八九、そうだろ。性格の悪いあいつだ。今、自分は昇太の弱味を握っていると勘違いしていやがるのさ。おそらく、昇太が俺の弱点をバラすのを断ったらすぐさま襲えと指示しているだろうな。」

 

「ちくしょう…なんて卑怯な奴だ!男なら正々堂々だろ!」

 

「普通に戦うならな。あいつは狡猾だ。力押しじゃ俺には敵わないと分かると偶然迷い混んだ松原花音を人質にとる機転の速さから察するに、追い込まれたら自分にとって最良の逃げ道を作る才能がある。…あれも不良の一つの形なんだろうな。だから潰しに掛かるならまず大崎に気付かれないように外堀を埋めていく必要があるんだ。」

 

 

 玲は自分なりに分析した大崎の戦い方を言いながら丸眼鏡の部下が作ったデータを見る。その横顔を見て丸眼鏡の部下は安堵の声を漏らす。

 

 

「…でも、ボスが戻って良かったです。数日前はマジで様子がおかしかったんですから、俺ら心配したんですよ?」

 

「…ああ。悪かった。」

 

「これも、日菜さん様々ですね。」

 

「あいつに借りを作るのは癪だけどな…。」

 

 

 玲はそう言いながら顔をしかめる。玲が精神的に回復したのは数日前の事…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、昇太のアニキ!戻って来たんす…って日菜さんとリサさんもどしたんすか?忘れ物でも…。」

 

「わりぃ。俺がいいって言うまで玲の部屋に誰一人近付かせるな。」

 

 

 部下が言い終わる前に昇太がそう言うと階段を一段飛ばしで上がっていって、日菜もついていった。最後尾のリサはジェスチャーで謝りつつ、日菜の後をついていく。

 

 どうしたんだろうか。そう考えた直後、

 

 

「玲くーん!!入るよー!!」

 

 

 日菜の大声と共にドアが蹴破られる音がした。ビルにいた部下たちは急いで音がした所へ向かおうとしたがその先にリサがいた。

 

 

「ちょ、ちょーっとストーップ!」

 

「リ、リサさん!何があったんすか!?」

 

「あー…、ごめんね?ちょっと日菜が今の玲くんが好きになれないってワケで…大丈夫だよ。昇太も一緒だから悪い方向には向かわないって。」

 

「で、でも…!」

 

「…戻ろうぜ。今のボスが元に戻るには俺たちじゃ役不足だ。ホントはAfterglowの誰かがやるべきなんだろうけど、今は日菜さんたちに託そう。」

 

 

 説得を受けた部下が残りの部下にそう言うと、後ろ髪を引かれる思いではあるが受け入れ、すごすごと持ち場に戻っていった。

 

 

(ふー…聞き分けよくて助かった…。)

 

 

 リサは一人ホッとする。そして、日菜が蹴破ったドアを見る。

 

 

(頼んだよ…日菜、昇太!)

 

 

 

 

 

 

「玲くーん!!入るよー!!」

 

 

 日菜がそう叫んだ直後、ドアが蹴破られる。思った以上に大きな音が出たため、昇太はリサに耳打ちする。

 

 

「わりぃ、リサ。ちょっと今の音で部下たちが来ちまうかもしれねぇから引き留めて説得してくれるか?」

 

「あー…、うん。何となくそんな役回り来るかなーって思ってたよ…。いいよ☆受けたげる♪あとでファミレス奢ってよ?」

 

 

 昇太は分かったよ。と了承したあと、部屋に入る。

 

 そこには日菜の目の前に毛布を大量にくるんだ玲の姿があり、日菜を怯えた眼で見ていた。

 

 

「な、何の用だ…。もう、もう虐められるのはゴメンだ…!」

 

 

 見分けがついていないのか日菜から怯えながら距離を置く玲。

 

 

「玲くん!いつまでそうやってウジウジしてるの!?」

 

 

 日菜が言うと玲はビクリと身体を震わせ部屋の隅へ逃げ込む。

 

 

「頼むから…頼むから…!何でもするから怒らないで…!」

 

(あー、これじゃ逆効果か…。)

 

「なぁ、日菜。今そのやり方じゃ逆効果かもしれねぇ。俺に任せてくれないか?」

 

「むー…。」

 

 

 昇太は日菜に耳打ちをして、交代する。日菜は不服そうな顔をするも部屋から出ていった。

 

 

「玲。俺が誰だか分かるか?お前の親友の蓮昇太だ。」

 

 

 昇太がそう聞くと玲はこくこくと頷く。

 

 

「そうか、良かった。昨日何があったか教えてくれないか?」

 

 

 昇太がそう聞くと玲の額から冷や汗が吹き出し、震え出す。

 

 

「…まだ無理そうか。じゃあ、今日起こったこと、報告するぜ。」

 

 

 昇太はスッと目を閉じ、精神を集中させたあと、目を開く。

 

 

「玲…。俺は、お前が変態どもから犯されていたことを勝目友梨から知った。」

 

 

 昇太のその言葉に、玲は血の気が失ったような顔になった。普段の玲ならば、おちょくってはぐらかす余裕があるのだが、

 

 

「何で、何でだよてめぇ…。」

 

 

 震えながら昇太に詰め寄り、胸ぐらを掴む玲。だが、すぐに力なく離し、項垂れる。そんな玲に昇太が話しかける。

 

 

「殴らねぇのか?」

 

「…いいや。どうせバレる事だと心のどこかで思ってたんだ…。そうだよな…。無害なはずの若宮イヴを怖がってたり、今のこんな情けない姿を見たら、そりゃ気になるよな…。はは…。」

 

 

 自傷気味に力なく笑う玲。更に玲は喋る。

 

 

「なぁ、俺の過去を知ったあんたはどう思った?ただ生きたいが為に、殴られないために変態どもに向かって自分のケツを振って誘う淫売か?惨めで哀れな孤児か?そんな悲惨な過去から逃げ続ける臆病者か?」

 

「…少なくとも、そのどれでもないな。」

 

「じゃあ何だよ!?」

 

「そんなの決まってるじゃん。玲くんだよ。」

 

 

 玲の逆ギレに近い質問に部屋から出ていたはずの日菜が戻っており、答える。そして、日菜の言葉に玲は気付く。

 

 

「おい…、こいつにも喋ったのか!?」

 

「まぁな。日菜と、リサには喋った。」

 

 

 昇太のさらっとした答えに玲は拳を握り昇太を殴ろうとした。が、横から入った日菜に止められる。

 

 

「どけよ、日菜…。」

 

「やだ。」

 

「どけって言ってんだよ!じゃなきゃお前も殴り殺してや…」

 

「バカ!」

 

 

 玲が恐喝している最中に日菜が玲を殴る。殴られた玲はバランスを崩してしりもちをつく。そして日菜は玲の胸ぐらを掴みあげる。

 

 

「いい加減にしてよ玲くん!今ヤバい人たちから巴ちゃんとあこちゃんが狙われているのにそんなウジウジしてていいの!?昔の玲くんと同じ目に遭っちゃうんだよ!?」

 

「と、巴…?あこ…?なんで、そいつらが出てくるんだ…?」

 

「それは俺から話す。」

 

 

 突然出てきた幼馴染みとその妹の名に戸惑う玲に昇太が話しかける。

 

 

「今日、勝目友梨からお前の過去を聞いているときに大崎の奴が出てきて、俺は脅迫されたんだ。お前の弱点を吐かなきゃ巴とあこを部下に襲わせる…ってな。」

 

「……!」

 

「なぁ、玲。もう過去は忘れろ……いや、もうどうしても忘れられねぇか。なら、もう縛られるな。お前は充分苦しんだからな。」

 

 

 そう言って昇太はポケットから一枚のDVDを出した。

 

 

「それって…」

 

 

 日菜が答える前に昇太はそのDVDを真っ二つに割る。

 

 

「もうこんな物に囚われる必要はねぇ。」

 

 

 DVDを割っていく昇太を見て玲は呆然とした顔から段々と顔つきが戻っていく。

 

 

「…その顔だよ。俺は今その顔のお前が見たかった。」

 

「…そうだな。ありがとよ、昇太。おかげで目が覚めたぜ。」

 

「ねぇねぇ、あたしはー?」

 

「お前には絶対礼は言わねぇ。調子に乗るな。」

 

「えー、玲くんそれ差別だよ差別ー!!」

 

「いいじゃねぇかよ、玲。俺も日菜のおかげで目が覚めたしな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、憂鬱だ…。」

 

 

 日菜に借りができた事に頭を抱える。そして部屋から出るように踵を返し、歩いていく。

 

 

「これから、ですよね?」

 

「ああ、大崎の奴は昇太の性格を利用したまでは良かった。だけど、奴は人選をミスしたからな。」

 

 

 そう言って玲は部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りの少ない路地裏。その入り口には見張りらしき人物が二人立っており、一般人には近寄らせがたい空気を醸し出していた。

 

 その中に、昇太は来ていた。目の前にはかつての仲間、大崎が立っており、周りには大崎の部下が見張っている、下手な動きはできない状況だ。

 

 

「随分待たされたが、返事は持ってきたんだろうな?」

 

 

 大崎は勝ち誇った笑みを浮かべながら昇太に尋ねる。

 

 

「…ああ。」

 

「じゃあ、答えてもらうぜ?神前玲の弱点…それは何だ?」

 

「玲の…弱点は…」

 

 

 昇太は唇を噛み締めながら話していく。それを大崎は良心の呵責に苛まされていると判断し、口角を上げる。しかし、その予想は外れた。

 

 

「Pastel*Palettes…の…プッ、クク…ひ、氷川日菜と、若宮、イヴちゃんだ…。」

 

 

 出てきたのは大崎には聞いたことがない人物の名前だった。先ほどの良心の呵責と思ってたそれは、ただ笑いをこらえているだけだったのだ。

 

 

「…は?」

 

「あっはっはっは!!誰がお前に玲の弱点を教えるかバカ野郎!そのマヌケっ面、玲に見せてやりたいぜ!」

 

 

 腹を抱えて笑い出す昇太に大崎は額に青筋が浮かび上がる。

 

「…おい。お前、今自分がどういう状況に置かれてんのか分かってんのか?」

 

「おいおいそんな怒んなよ、鉄分ちゃんと取ってんのか?」

 

「…っ!この…っ!」

 

「お、落ち着いてくれ!ボス!」

 

 

 昇太の煽りにキレた大崎は直ぐ様殴りかかろうとしたが、そばにいた部下に窘められる。その様子を昇太は余裕綽々で見ている。

 

 

「おいおい、そんなカッカすんなってー。」

 

「ボ、ボス、落ち着いて!人質、いるんでしょ!?」

 

 

 部下に諭され大崎は少し冷静になる。

 

 

「昇太ぁ!てめぇがそんな態度なら、これから中継で宇田川巴とその妹がヤられるのを見てやがれ!」

 

 

 大崎が映像を出すとそこには一緒に下校している巴とあこの後ろ姿。その様子をテレビ電話で中継しているようだ。その映像を見た昇太は焦り出す。

 

 

「あ、おいおいおいおい。止めろ、そこは止めろ。」

 

 

 焦り出した昇太を見てまたも形成逆転したと確信し、口角を上げる大崎。

 

 

「いーや、もう止めねぇさ。恨むんなら、こいつらを見捨てた自分を恨むんだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、Roseliaの練習が休みだったあこは姉と一緒に商店街を通って帰っていたのだが、ここ最近の落ち込み具合に心配になっていた。

 

 

(おねーちゃんどうしたんだろ…。なんだか最近元気がないけど…。これって玲兄ちゃんとか昇太兄ちゃんに相談した方がいいのかな?)

 

「宇田川巴とその妹だな?」

 

 

 そう考えていると、後ろから声をかけられた。

 

 

「へ?」

 

「な、何だお前ら!?」

 

 

 後ろを振り向くとそこには明らかに敵意しか感じない不良の集団。あこはその不穏な雰囲気に晒され、巴の後ろに隠れる。

 

 

「お、おねーちゃん…この人たち、昇太兄ちゃんの知り合いじゃないよね?」

 

「大丈夫だ、あこ。アタシに任せろ。」

 

 

 震えるあこを庇いながら巴は不良の集団を睨み付ける。

 

 

「アタシに何の用だ?」

 

「へへ、用?そうだなぁ。お前らの知り合いから聞いたらどうだぁ?聞ければだけどよ。ギャハハハハハ!」

 

 

 話が通じない。そう判断した巴はあこの手を握り走り出す。

 

 

「おい、どこ行くんだよ?」

 

 

 が、逃げようとした先にも仲間がいた。四面楚歌の状況に置かれてしまった巴とあこは身を寄せ合う。

 

 

「俺、あのちっちぇ奴ヤるわ。」

 

「うーわ、ロリコンかよ。引くぜ。」

 

「おい、姉妹丼って奴やってみねぇか?姉と妹、仲良くヤるんだよ。」

 

「いーじゃんいーじゃん。ヤっちゃおうぜ!」

 

「お、おねーちゃん…!怖いよ…!」

 

「止めろ…!あこにだけは手を出すな…!」

 

 

 巴は近付く不良を殺さんとばかりに睨み付けるが、それでもへらへらと笑いながら近付く不良たち。

 

 

 

 しかし、この時、大崎の部下の不良たちは宇田川姉妹のみに視線が集中してしまっており、その様子を見ている少女に気付かなかったのだ。

 

 

「さぁ、ロックンロール。」

 

 

 少女がそう呟き、手に持っていたキーホルダーのような物の紐を引っ張ると、けたたましい音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「な!?防犯ブザーだと!?」

 

 

 突然鳴り響いた音に不良たちが戸惑い、音がした方向を見る。巴とあこも音がした方向を見るとそこには不自然に伸びた前髪、どこか見覚えがある赤いカーディガンを着た少女が防犯ブザーを鳴らして立っていた。

 

 

「由美!?」

 

「おいガキ!てめぇそれを寄越せ!」

 

 

 不良の一人が由美に襲いかかろうと走り出した瞬間、由美の後ろからフライパンが飛んできた。

 

 

「ぐわ!?」

 

 

 フライパンが頭に直撃した不良はそのまま崩れ落ちる。

 

 そして由美の後ろには顔に傷がついた体格のいい男が般若のような顔になって立っていた。そして、その人物は巴がよく知っている人物だった。

 

 

「巴ちゃんとあこちゃんを虐めるのは、よしてもらおうか…。」

 

「しょ、昇太の親父さん!?」

 

 

 低い声で不良たちを睨む昇太の父。だが、数で勝る不良たちは脅しにかかる。

 

 

「なんだおっさん!ぶっ殺されてぇのか!?」

 

「俺らを誰だと思ってんだ!大崎様の部下だぞ!」

 

「知らん。それにお前らは自分の状況が分かってないようだな。」

 

 

 昇太の父がそう言うと多くの雑踏が聞こえてくる。何の音だと見渡した不良が目にしたのは、

 

 

 

 

 商店街の人々だった。一人は花屋の店主。一人は精肉店の店主。一人は買い物袋を持った主婦。それぞれが不良たちを睨んでいた。

 

 すると、一人の不良が前に出る。どうやら脅して追っ払おうという魂胆だ。

 

 

「おう、何だお前ら!いいぜ、死にたい奴は一歩前に出な!」

 

 

 この不良は脅しが得意でそれにビビる弱者から金を巻き上げるのが趣味だった。そして大崎と出会い、彼の腰巾着になりながらも弱者を脅し、金品を巻き上げる。今回はちょっとばかり数が多いが行けるだろうと考えたが、

 

 全員が一歩前に出た。

 

 

「…あー、わ、わかった!いいぜ、お前ら全員死にてぇんだな?」

 

 

 全く効かなかったことで若干声が震えているが持ち直す。そして宇田川姉妹を指さす。

 

 

「こいつらがどうなってもいいんだ…」

 

 

 不良がこの日最後に見たのは不良に襲いかかってくる中年たちだった。




来年も玲をよろしく。

それでは皆さん、よいお年を。
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