夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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前回のあらすじ

悪者1「犬だよ。ヨツンヴァインになるんだよ。」

悪者2「蘭ちゃんのスカートの中、あったかいナリィ…」

雨宮「([∩∩])<死にたいらしいな。」


36話 思わぬ助っ人

「何だあんた?」

 

 

 男は苛立ちながら雨宮を睨む。だが、雨宮はそれに臆した様子もなく話しかける。

 

 

「通りすがりの執事です。貴方たちに忠告します。さっさと引き上げて下さい。」

 

 

 両者聞く耳持たず。男は折角のいい気分が台無しにされた怒りからもう片方の手でポケットに入れていたナイフを持つ。

 

 

「てめぇ…邪魔すんじゃねぇよ、あぁ!?」

 

「…忠告はしましたよ?」

 

 

 だが、それに気付かない雨宮ではない。低い声でそう呟いた直後、素早く手を捻る。

 

 

 ゴキッ。

 

 

 骨が折れる音が響いた。

 

 

「うっぎゃあああ!?」

 

 

 男は痛みに悶えながら押さえ込んでる日菜の上から転がり落ちる。手を押さえて転げ回る男に目もくれず、雨宮は日菜の身体を優しく起こす。

 

 

「日菜様、お怪我はございませんか?」

 

「う、うん。」

 

「結構。では、貴女は蘭様の救助を。」

 

「分かった!」

 

「くそがぁ!てめっ、てめぇ、よくもぉ!」

 

 

 安全確認からの流れるような指示。それに素直に従った日菜は蘭を取り囲んでいる不良たちの元へと走る。男は額から脂汗を吹き出しながら雨宮を恨めしそうに睨む。

 

 それに対し雨宮はすかさず懐に忍ばせていたナイフを男の眉間に突き付け、再度忠告する。

 

 

「もう一度言う。失せろ。」

 

 

 その時の雨宮の表情はいつもの優しい笑顔は鳴りを潜め、冷徹で目だけでも殺せそうな鋭さと感情を置いてきたかの如く底冷えするような声だった。

 

 男は連れてきた不良を囮に襲おうと蘭を捕らえている不良の方へ視線を向ける。しかし、既に全員、日菜に倒されており、不良たちを叩き伏せた日菜が蘭の安否を確認していた。

 

 

「…くそっ!覚えてやがれ!」

 

 

 男はそう吐き捨てると公園から走って出ていった。

 

 

「今日の夜まで覚えておきましょう。」

 

 

 雨宮は間髪入れずに笑顔でそう返す。

 

 そして、蘭の元へと走っていき、日菜に蘭の様子を尋ねる。

 

 

「日菜様。蘭様は何もされていませんね?」

 

「大丈夫だよ、雨宮さん。ちょっと怖い目に会っちゃったけど今は落ち着いてる。正直、あたしだけじゃ、どうにもならなかったよ。ありがと!雨宮さん!」

 

「いえいえ、貴女は薫様のご友人ですから。」

 

 

 日菜に感謝されるもいつもの見慣れた笑顔で返す雨宮。その後、日菜が不思議そうに首をかしげる。

 

 

「うーん、でもどうしてこころちゃん一筋の雨宮さんが私たちを助けに来たのかな?」

 

「あ、それ、あたしも気になってた。」

 

「ねぇ、どうしてなの?」

 

「そうですね…。実は私、ある人物から依頼を受けておりまして…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは昨日の事、雨宮はここ最近、不良たちの動きがいつもと違うことに感付き、こころの出迎えをしたのだ。

 

 校門前で待機をしていると下校する生徒の懐疑の目に晒される。何故ならいつも着ている執事服のまま迎えに来たからだ。それでも気にした様子もなく、周りを見渡す。道路を挟んだ向こう側に不良がたむろしているのが見えた。

 

 

(やはり、ここにも不良が…。おそらく、あれは玲のグループの者だな。)

 

 

 しかし、何故ここに?そう考えている間に不良は雨宮と目が合うと会釈をして去っていった。

 

 

(ふむ、さては玲の指示だな?僕がここにいるなら、ここら辺は安泰だと判断したんだろうな。…だが、一体どうしたことだ?玲の奴、どこか別グループの不良を追い出すのに失敗したのか?)

 

「すみません、雨宮さん。ここで何をしているのですか?」

 

 

 雨宮が考察に入っていると後ろから声をかけられ、振り向く。

 

 そこにはジト目で雨宮を見つめる風紀委員がいた。雨宮は体ごと向き直す。

 

 

「これは紗夜様。何をしているかと申しますと、こころ様のお出迎えですが?」

 

「でしたら、中で待っててください。そこに立っていると、下校する生徒の目に入り、気になってしまいます。」

 

「おや、これはお気遣い感謝いたします。」

 

「ここ最近、この辺りも物々しくなってきましたから。校門前に待機している人を見たら気になりますよ。まったく、神前さんは何をやって…」

 

「あら!雨宮じゃない!」

 

 

 紗夜がそう愚痴をこぼしているとまた声をかけられた。声がした方に視線を向けると笑顔を浮かべる令嬢と、その後ろで口許がヒクついている友人の姿があった。

 

 

「あ、あの、雨宮さん?なんでこんな所にいるんですか?すっごい目立つんですけど…。」

 

「これは奥沢様。たまにはこころ様と一緒に下校するのもよろしいかと思いまして。」

 

「嬉しいわ!雨宮が迎えに来てくれるなんて小学校以来だわ!」

 

「…まぁ、いいか。最近、ここら辺、何か不穏な感じがしてたし。雨宮さんなら大抵の怪しいやつぶっ倒してくれるし…。」

 

 

 こころは無邪気にはしゃぎながら見せる笑顔に美咲もつっこむ気が削がれ、苦笑いをするのだった。

 

 

「それじゃあ、一緒に帰りましょ!」

 

 

 こころは雨宮の側に駆け寄り、手を握る。その様子はまるで飼い主に甘える子犬のようだ。しかし、雨宮が待ったをかける。

 

 

「こころ様。大変申し訳ありませんがその前に私に用事がある者が来ているようです。」

 

 

 そう言って雨宮が向けた視線の先。紗夜、こころ、美咲もつられて見ると、そこには前髪で目が隠れ、赤いカーディガンを着た少女が立っていた。

 

 

「あら?あなたは…由美ね!」

 

「え?由美ちゃん、どうしてここに?」

 

 

 しばらく会っていなかった少女に、こころは嬉しそうに思い出し、それと対照的に美咲は困惑した。紗夜は過去のトラウマからか、無意識ながらスカートを押さえる。

 

 

「…私、雨宮に用があって来た。」

 

 

 由美はそう言うと雨宮の前へと歩いて来る。それに対し、紗夜はスカートを押さえたまま距離をとる。雨宮は由美と同じ目線になるよう屈み、尋ねる。

 

 

「ふむ、由美ちゃん。君が私に何の用があって来たのかな?」

 

「蘭ねえを、守ってほしいの。」

 

「え、えぇーと…どういう事?」

 

 

 由美の短い発言に美咲が割って入る。由美は美咲を一瞥した後、口を開く。

 

 

「蘭ねえ、今モカねえたちと喧嘩してて一緒にいれないの。でも今、玲を狙ってる悪い奴らがこの町に来てて、蘭ねえも狙われた。部下たちも頑張ってくれてるけど、でもまだ不安。」

 

「…なるほど。最近、商店街の雰囲気ピリピリしてるのそれが理由だったのか…。」

 

(日菜が話していた通りの事が今起こっているのね…。)

 

「だから雨宮。蘭ねえを守って、下さい。」

 

 

 由美はそう言って雨宮に頭を下げる。雨宮は暫し由美を見つめ、口を開く。

 

 

「由美ちゃん。等価交換って知ってるかな?」

 

 

 雨宮の質問に由美は首を振る。

 

 

「人は何かをするとき、それに見合ったご褒美を貰わないと動けないものなんだ。だから、ご褒美を何も持ってきてない由美ちゃんの頼みは聞けないかな。」

 

「ちょ、ちょっと雨宮さん!それはいくらなんでも…!」

 

 

 厳しい現実を教える執事に美咲が口を出そうとする。だが、それを雨宮は手で制し、話し続ける。

 

 

「ですから、君の望みを聞いてあげる代わりに、僕が出す条件を飲んでくれないかい?」

 

「…うん、分かった。」

 

 

 由美は唇を噛み締めながら頷いた。由美にとって蘭は今までゴミのように扱われていた自分を構ってくれた慕うべき人間の一人だ。その恩返しに何かしたいと考えていた由美は了承する。だが、それに待ったをかけた人物がいた。

 

 

「由美!あなたがそんな事聞く必要はありません!雨宮さん!あなたもあなたです!こんな小さな子に「こころお嬢様とお友達になってくれませんか?」何を……え?」

 

 

 紗夜が異議を唱えようとしたら雨宮から出された条件を聞き、勢いが失速する。由美もそんな条件だとは思ってなかったのか前髪でよく見えないが、目を丸くする。

 

 

「…そんなのでいいの?」

 

「勿論です。それに、こころお嬢様だけではありません。はぐみ様、花音様、薫様、美咲様、ミッシェル様。ハロー、ハッピーワールド!のメンバー全員とお友達になって頂きたいのです。どうでしょうか?」

 

「だったら、いいよ。」

 

「と、言うわけです。こころ様。」

 

 

 雨宮がにこやかにそう言うと、こころは目を輝かせ、全身で嬉しさを表現するように飛び跳ねだした。

 

 

「嬉しいわ!すっごく嬉しいわ!!由美とお友達になれるなんて!ありがとう雨宮!今日はとってもいい日ね!そうだわ、この最高な気分の歌を思いついたわ!」

 

「え?」

 

 

 歌を思いついた。そのワードを聞いた美咲は慌ててバッグの中に入ってるボイスレコーダーを探し始めた。いつもなら四六時中ご機嫌なこころは何時何処で歌を思いつくか分からない。だからどんな時もボイスレコーダーでこころの鼻歌を録音する準備はできていたが、この時ばかりは不意打ちだった。

 

 

「ラ~ララ~♪」

 

「あぁ、待ってよこころ!今録音するからぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけでございます。」

 

「由美…。」

 

「そっかー。だから昨日、お姉ちゃんいつも以上に不安そうにしてたんだ。」

 

 

 雨宮が語り終える。蘭はここまで自分を助けてくれる由美に感動して、日菜は納得したように呟く。

 

 

「さて、君もそろそろ顔を出せばいいんじゃないかい?」

 

 

 突然、雨宮が誰もいない公園の入口に向かって誰かを呼ぶ。

 

 まだ懲りてないのか。そう感じた日菜と蘭は身構える。

 

 だが、現れたのは見慣れた人物だった。

 

 

「ちっ…。ここでも察知するとかお前の目にはサーモグラフィーでも付いてんのか?つーか、お嬢様の側にいなくていいのかよ?」

 

「玲…。」

 

「玲くん…。」

 

 

 玲は蘭を一瞥した後、気まずそうに目を反らす。そんな玲を見て、蘭は少し胸の奥がズキリと痛んだ。

 

 

「まぁ、いい…。雨宮、正直助かった。」

 

「お礼なら僕じゃなくて由美ちゃんに言いなよ。僕はただ、由美ちゃんからの依頼をこなしているだけさ。」

 

「…おう。」

 

 

 雨宮との会話を終えた玲はそのまま帰ろうとする。

 

 このままじゃ駄目。その直感に蘭は従い、呼び止める。

 

 

「ね、ねぇ!玲!」

 

 

 蘭の声を聞いた玲はその場で立ち止まる。改めて見た玲の背中は前よりも沢山傷付いており、小さくなっているような雰囲気がした。

 

 

「その…、こないだは、ごめん!」

 

 

 蘭の謝罪の言葉を聞いた玲はしばらく立ち止まっていたが、

 

 

「……俺も悪かった。」

 

 

 そう言って公園から足早に出ていった。

 

 

「ちょ、ちょっと玲くん!」

 

「いいんです、日菜先輩。」

 

 

 日菜が呼び止めようとするが、蘭は必要ないと言う。

 

 

「あたし、どうするべきか分かってきたから。今は、玲のあの言葉で十分です。」

 

 

 いつも通り。玲と喧嘩したあと、お互い謝る。それは蘭たちの中で様式美だった光景だ。これならば、モカたちともまた仲良くなれる確信があった。

 

 

「うーん、蘭ちゃんがそう言うならそうなのかな?」

 

「さて、そろそろお帰りになられた方がよろしいですよ。」

 

 

 雨宮がそう告げる。気付けばとっくに日は沈み、街灯が灯され暗くなっていきつつあった。

 

 

「…とは言っても、この時間帯だと危険です。私が家までお送りしましょう。」

 

 

 雨宮はそう言いながらスマホを取り出し、コールボタンを押す。しばらくすると公園の入り口に妙に長い車がやって来た。その車を見て日菜は目を輝かせ、蘭は呆然とする。

 

 

「わー!これってあれでしょ!?」

 

「リ、リムジン…?」

 

「その通りです。さ、お二方、どうぞ中へ。」

 

 

 雨宮がドアを開け、催促すると日菜は、いの一番に入っていき蘭はその後を恐る恐るついていった。テレビのドラマや映画などでよく海外のセレブが乗ってくるあの車に乗れるドキドキが止まらなかった。

 

 

「あ。ねぇねぇ、あの時、ヘンタイの手首折ったじゃん?あれってどうやったの?」

 

「あれは、手首の構造を理解してるのと、力の入れ方でああなりますね。そうですね、まず…」

 

 

 が、天才と執事が何やら物騒な会話をしていて蘭は別の意味でドキドキだった。

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