夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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最近、作業用BGMにamazarashiを聞いております。

何と言うか、黄昏ている時とか寂しそうにしている時の自分の中の玲のイメージに合うんすよ…。

では、どうぞ。


37話 屋上で

「た、助けてくれぇ!」「おらぁ!そっち行ったぞ!」「逃げんじゃねーよ!」「待てこらぁ!」

 

 

 夕暮れの路地裏。蘭たちが暮らす町から少し離れた場所で不良たちの怒号と悲鳴が響き渡る。不良同士の抗争、しかし、抗争と呼ぶには余りにも一方的な戦いの最中、こっそりとその場から離れる男がいた。

 

 その男は玲がいる町とは別の町の不良グループを仕切っているボスで、玲とは不可侵の関係でいた男だった。が、自身の子分や身内を盾にした大崎の悪巧みに屈し、共に暴力を振るうようになっていた。今現在は不可侵の関係でいた玲のグループに襲撃され、こっそりと逃げ出そうとしていた。

 

 

「くっ、くそ!こんな筈じゃあ…」

 

「よぉ、何やってんだ?」

 

 

 悪態をついていると後ろから氷のように冷たい声がした。

 

 驚き、振り向くとそこには美少年が獲物を狙うようなギラついた目付きでこちらを見据えていた。心臓の動悸が早くなり、冷や汗が出てくる。

 

 

「う…れ、玲…!」

 

「あんた、大崎の元に下って以降、羽振り良いらしいな。」

 

「し、仕方なかったんだ!下手に歯向かったら、部下や身内が悲惨な目に遭うって脅されて…許してくれ!」

 

「そう言った他の奴等にあんたらは何をした?」

 

 

 懇願するも玲の冷やかな視線は崩れない。自分が言ったことは事実だが、玲が追求した事もやらざるを得なかったとは言え、それもまた事実。反論の余地もなく、窮地に陥った男が次に起こすアクションは明白だった。ポケットに忍ばせたナイフを抜き取り、玲に向かって走り出す。

 

 

「く、くそったれがぁ!」

 

 

 襲ってくるのは分かってた。玲は素早く男の頭に回し蹴りを放つ。

 

 あっさり吹っ飛び、顔面から壁に激突した男はそのまま崩れ落ちる。気絶した事を確認すると玲の部下が近付いて来た。

 

 

「ボス!こっちは片付きましたぜ!」

 

「…ああ。」

 

 

 しかし、玲の目付きは変わらず、小石を拾うとそれを投げた。

 

 小石は報告に来た部下の横を掠め、部下の後ろにいた別グループの不良に直撃した。

 

 

「常に警戒を怠るな。これは勝ち負けのルールなんてない戦争だ。」

 

「わ、分かりました。ボス…。」

 

 

 唖然とする部下に玲は忠告しながら玲は歩いていく。

 

 歩いた先には玲の部下たちに囲まれて縮こまって震える別グループの不良たち。全員、身を寄せあってその顔には恐怖が貼り付けられていた。その状況を玲は興味なさげに見る。

 

 

「残った奴等はどうします?皆、大崎の配下になってからこの辺りを暴れまわってた奴等っすけど。」

 

「決まってる。逃げた奴は追うな、残って抵抗した奴は徹底的に痛めつけろ。大崎の部下になったことを後悔させてやるほどにな。ただし、殺すなよ。」

 

「ひぃぃー!!」「そ、そんなぁ!」「許してくれぇ!」「俺たちゃ大崎に脅されてただけなんだって!」

 

 

 玲の指示を聞いた不良たちは懇願し、叫びだす。しかし、その叫びは聞こえないと言わんばかりに玲は踵を返し、その場を去る。

 

 

「おらぁ!今更許しを乞うなんざ虫が良すぎんだよ!」「恨むなら大崎の野郎に頭下げた自分達を恨みな!」「死なねぇだけでもありがたいと思え!」

 

「痛い痛い痛いいいい!!」「ぎゃあああ!!」「神前玲!てめぇは血も涙もないのか!!この外道の殺戮マシーンがぁ!!」

 

 

 後ろから聞こえてくる不良たちの悲鳴と怨嗟が耳に入りながらも歩いていく。そして、ふと自分自身の手を見た。

 

 

(…俺の名が、段々と粛正と暴力の象徴になってきている。俺は…一体何だ?)

 

 

 心の中で出た疑問に答える者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。誰もいない、窓から赤い夕焼けの日差しが差し込む教室に一人。髪の一房に赤メッシュをした黒髪の少女がスマホの画面とにらめっこしていた。

 

 

「話が…あります…屋上に…。」

 

 

 SNSのグループチャットに呟きながらスマホに文字を打ち込む。が、すぐにそれを消す。

 

 

(…ダメだ。いい言葉が浮かんでこない。こうやってる時間も無駄なのに…。)

 

 

 仲直りするための言葉を模索するが中々一歩を踏み出せずにいた。あの時、一方的に怒鳴り散らして、子供みたいにわめいて、その後は飛び出してそれっきり。

 

 由美から喝を入れられたのに、玲との仲直りできたのに、その勢いで話そうと思っても、切り出し方が分からずまごつく自分に苛つく。

 

 すると、突然スマホが通知音と共に震えだし、それに驚いた蘭は飛び退く。

 

 

「なっ何?」

 

 

 もし、玲からだったら文句の一つくらい言ってやろう。そう考え、スマホの画面と向き直る。

 

 画面には最近話してない幼馴染みからだった。

 

 

『緊急事態!!みんな、屋上に来てくれ!!』

 

 

 

 

 

「巴ちゃん!一体何があったの!?」

 

 

 ひまりに説得され、変わらないことを選んだ巴からの連絡を受けたつぐみは屋上へ飛び込んできた。最初にやって来たのがつぐみだと分かるとひまりと巴はつぐみらしいなと安堵する。

 

 

「トモちーん、緊急事態ってどしたの~?」

 

 

 それに遅れてモカもやって来る。いつも通りののんびり口調に心配の色を滲ませながら現れた。

 

 でも、一番肝心な人物がまだ来てない。ひまりはモカに聞いてみる。

 

 

「モカ、蘭は?」

 

「んー…分かんない。来るかな?」

 

 

 モカが首を傾げるとモカの後ろから階段を一段飛ばしで駆け上がるような音が聞こえてくる。そして、扉を開けて現れたのは、

 

 

「巴!連絡見たよ!何かあったの?」

 

 

 自分達のバンドグループを作るきっかけになった、赤メッシュをしてカッコつけているのに寂しがり屋な幼馴染みだった。教室から全力疾走してきたのか肩で息をしている。

 

 まさか、こんなにあっさり集まるとは思ってなかった巴は少し戸惑う。

 

 

「え、えーと、夕焼けが綺麗で皆で見たいって思ってな!」

 

「…は?」

 

「ら、蘭ちゃん!」

 

 

 そんな事であたしらを呼んだの?蘭はそう言いたげな顔で呆気にとられ、つぐみに指摘される。

 

 

「その、実は、蘭に言いたいことがあって…けどさ、皆がどうやって集まってくれるのか、分かんなくて…」

 

 

 ポツリポツリと、言葉を紡ぐ巴。そして、意を決したように蘭と向き直り、口を開いた。

 

 

「「あのさ!…あっ。」」

 

 

 が、それはもう一人、ひまりも同じだったようだ。一瞬気まずい空気が流れるも巴が先に言って良いジェスチャーを送り、ひまりは頷くと仕切り直して蘭と向かい合う。

 

 

「あのね、蘭。この前は酷いこと言って、ごめんね。」

 

「…あたしの方こそ、急に大声出して出ていって、ごめん。」

 

「ううん、蘭は悪くないの。私は蘭の気持ち、全然考えてなかった。本当に、ごめんなさい。」

 

 

 そう言ってひまりは頭を下げる。リーダーとしての自覚が足りなかった。そのせいで蘭を沢山苦しめてしまった。その反省と謝罪に思いを込め、頭を下げる。

 

 

「アタシも、ごめん。蘭が一緒にいられるように変わったって言ったとき、ハッとしたんだ。蘭が家と向き合っているとき、アタシたちは何をしていたんだろう?って。辛いこと全部蘭に押し付けちゃって何もしていなかったなって…蘭が変わっていく中で自分達だけ『いつも通り』で…」

 

「そ、そんなこと…!」

 

 

 巴の謝罪を聞いた蘭は否定しようと口を挟むが、それでも巴は話続ける。

 

 

「そしたら、不安になってさ。これから先も、由美や玲が変わってしまったように色んな事がどんどん変わって、いつも通りの夕焼けも、一緒に見れなくなってしまうんじゃないかって…。」

 

 

 段々尻すぼみになっていく巴。それでも蘭たちは耳を傾け、静かに聞く。そして巴は顔を上げ声を張り上げた。

 

 

「でも!アタシはずっとここで見てるぞ!夕焼け!」

 

「巴…。」

 

「な、何かさ、蘭はずっとアタシたちと一緒にいるために変わっただろ?でも、一緒にいるために変わっちゃダメな所もあるって思って…。ここから一緒に見る夕焼け。それが好きって気持ちをずっとずっと大切にしていきたい。…アタシには変わることは怖い。だったら、アタシは変わっちゃダメなものをずっと守り続けるよ。」

 

 

 巴は紅く空を染める夕焼けを眺めながら、言い切る。だが、決意を上手く言葉で表現できないまま口に出したせいか、誰も何も言わないせいか、気まずくなり苦笑いしながら振り向く。

 

 

「やっぱ、上手く言えないや…。ごめんな?伝わりにくくてさ…。」

 

 

 考え無しな自分を自虐的に笑う。だが、蘭たちには伝わった。

 

 

「ううん、巴。言いたいこと、ちゃんと伝わったよ。」

 

「私もだよ、巴ちゃん。私もここから見える夕焼けを皆で一緒に見るのが何よりも好き。同じ気持ちだよ。」

 

 

 蘭と共感するようにつぐみも告白する。その様子に巴は安堵する。

 

 

「あたしが変われたのは、皆が、玲もいたから……色んなことから逃げ続けたのは、変わることが怖かったから…でも、そんなあたしの背中を押して見守ってくれる皆がいたから、今のあたしがある。」

 

 

 脳裏に浮かぶのは、自分達を守るために傷だらけになって、周りから恐れられ、慕われながらもどこか寂しげな雰囲気の、変わったように見えて根本的な所は何一つ変わってない、今ここにはいない幼馴染み。

 

 彼もいたから、今の自分がある。

 

 

「……あたしは、変わったつもりでいた。でもさ、みんなのことが分からなくなった時に、結局怖くて飛び出した。不安で、寂しくて……何で分かってもらえないんだろって…。」

 

 

 ()もこんな気持ちでいるのだろうか。

 強くて怖い、黒豹の名を持つ不良のボスとしての自分しか見てもらえない。

 暗い過去に囚われた弱い自分を分かってくれない。

 

 そんな()は、

 

 

「すごく自分勝手だと思う。歌詞が皆に届かないのはあたしが、自分自身も皆のことも分かってなかったからだよ。……ごめん。」

 

「蘭は悪くないよ!これは私たちに原因があって……」

 

「あたしは、皆に助けられてばっかりで、皆のために何もできてないくらい…だから、これから先、変わらないために変わることが皆のためになるなら……あたしはこれから、前に進み続けようと思う。今度こそ、絶対に。原点のこの場所を、あたしたちの永遠にするために、止まらない。」

 

 

 だから、()も引っ張って行こう。()が嫌だと言っても強引に引っ張ってやる。だって、Afterglow(あたしたち)と一緒にいるときの()は楽しそうだったから。

 

 そして、蘭の告白でようやく仲直りできた五人。ほつれかけた絆が前よりも強固に結び直されていた。

 

 ふと、ひまりが思い出したかのようにスマホを取り出す。

 

 

「そうだ!玲にもこの夕焼け見えてるよね?ちょっと電話してみるね!」

 

「スピーカーにすんの忘れるなよ!」

 

 

 ひまりは巴に言われた通りスピーカーに設定したあと、玲に電話をかける。二回電子音がした後、声が聞こえた。

 

 

「もしもし、ひまりか…。何があった?」

 

 

 心なしか、通話先の玲の声は元気がないようだった。それでもひまりは元気よく話しかける。

 

 

「うん。玲、最近話せてないなーって思ってさ、ちょっと息抜きにお話し付き合ってくれない?」

 

「…分かったよ。ったく、お前の愚痴を聞かされるこっちの身にもなれ。」

 

 

 渋々ながら了承する素直になれない玲の声に思わず全員笑い声を漏らす。

 

 

「…ちょっと待て。他に誰がいる?」

 

 

 笑い声が玲の耳に入ってしまったらしくスマホから怪訝な声が返ってくる。つぐみが代表して返答した。

 

 

「玲くん!私たち、仲直りできたんだよ!」

 

 

 つぐみの返答にしばらく沈黙が流れる。流石に不安になったつぐみがもう一度言おうとしたが、

 

 

「つぐみと一緒なのか。そう、か。良かったな。…うん、良かった。……待て。もしかして蘭も巴もモカもいるのか?つーかこれ、スピーカーか?」

 

 

 安堵の後、少し戸惑い気味の玲の声が聞こえた。すると、今度はモカが話しかける。

 

 

「ハロー、ハロー。れーくん元気ないよ~?さーやのパンちゃんと食べてる~?」

 

「それで元気になるのお前だけだよ。バカ野郎。」

 

「玲!あの時、商店街の皆にアタシとあこが狙われてるって教えてくれたんだろ?ありがとな!」

 

「…別に。つーかお前声がでかいんだよ。加減しろ。」

 

 

 照れ隠しから余計な指摘をする玲に巴はニヤつく。そして、最後に蘭が話しかけた。

 

 

「…玲。」

 

「…蘭か。」

 

「あんたが今何をしているのかは敢えて聞かないよ。…でもさ、忘れないで。あたしたちはあんたの幼馴染みだから。迷惑じゃなかったら、あたしたちがそばにいてあげる。」

 

 

 蘭の言葉に玲は黙る。そして、ポツリと小さく呟くように言った後、通話が切れた。その言葉を拾った蘭たちは皆、笑顔になる。

 

 

「お~、れーくんがデレたねぇ~。」

 

「全く、素直じゃねーなあいつ!」

 

「玲くんらしいね。変な所で素直じゃないの。」

 

「もー、変わったって言ったのに全然変わってないじゃん!」

 

「あたしが言えた義理じゃないけど、面倒臭いよね。」

 

 

 屋上で笑い合う幼馴染みたち。

 

 玲が通話を切る前に言った言葉は、

 

 

「…ありがとな。」

 

 

 新たないつも通りが始まりを告げようとしていた。

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