夕焼けと不良少年【完結】   作:shinp

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しゅわりんSP譜面を楽しくやってるshinpです。


ここ最近の進捗具合から新たな息抜きも作ろうかなと思案中。


38話 新たないつも通りへの一歩

「よっお前ら!」

 

 

 仲直りして久し振りの集団下校。ひまりがうっかり深夜のライブに申請しかけたり、モカが幼馴染みは難しいとぼやいたり、それぞれのいつも通りについての話に花を咲かせながら歩いていると昇太に声をかけられた。

 

 

「よお、昇太!いつもの見回りか?」

 

「ああ。にしても、お前ら、なんだか前より仲良くなってんな。」

 

 

 昇太が元ボスとしての観察眼で蘭たちの様子がいつもより良い方で違う事を指摘すると、ひまりはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにたわわに実った胸を張る。

 

 

「その通りですよ昇太さん!私達はもう昔のAfterglowじゃないんです!えっへん!」

 

「お、新生Afterglowか!ひまりちゃんも頼もしくなってきたな!」

 

「えへへー、もっと誉めてー!」

 

 

 昇太が誉めるとひまりは調子に乗って笑う。だが、そこへジト目で見ていたモカが水を差す。

 

 

「そー言って、さっき深夜のライブに入れようとしたの誰でしたっけ~?」

 

「…私です。」

 

「あっはっはっはっは!やっぱひまりちゃんはひまりちゃんだな!」

 

「ちょっと昇太さん!それどういう意味ですかぁー!」

 

「まぁまぁ、ライブの枠抑えなら俺も手伝ってやる。だからそんな拗ねるなって。」

 

 

 昇太に笑われ、ひまりはポカポカと昇太の胸を叩く。だが昇太にダメージは無く、むしろじゃれつく子犬にかまっているような態度だった。

 

 

「あ、そうだ、新曲どうしようか?」

 

 

 つぐみが思い出すように新曲の話題を出す。仲が悪くなった原因は元々新曲の歌詞だ。次の問題に目を向けた。

 

 

「あ、あのさ!その件だけど、一緒に歌詞考えない?」

 

「お、いいなそれ!」

 

「いいじゃん、いいじゃん!」

 

「じゃー、今日はお泊まりだね~。」

 

「…え?今から?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではみなさん。ゆっくりしていってください。」

 

「はーい、お邪魔しま~す。」

 

「蘭ねえたちと一緒…。」

 

 

 蘭の提案からトントン拍子に歌詞作成のお泊まり会を決行した幼馴染みたち。蘭の父も厳ついながらも微笑ましく迎え入れ、現在、同居中の由美もはしゃぎだす。

 

 

「蘭、少しばかり食べ物も用意したからみんなで分けあって食べなさい。」

 

「も、もういいでしょ父さん!みんな、あたしの部屋に行こ!」

 

 

 手厚くもてなす父に照れ隠しから強制的に話を切り、幼馴染みたちを自室へ引っ張っていく蘭。その後ろ姿を微笑ましく見送った後、一緒にやって来た昇太と向き合う。

 

 

「で、君は何の用でここへ来たのかな?蓮昇太くん。ただ蘭たちの送り迎えという訳ではあるまい?」

 

「ええ、実は今ここにはいない蘭の幼馴染み、神前玲についてです。」

 

 

 笑顔から一転して真剣な顔つきになる昇太。和やかな空気が一気に鳴りを潜め、重い空気が流れ始める。蘭の父もいつも以上に眉間に皺をよせ、表情が固くなる。

 

 

「その様子だと、面白くなさそうな話みたいだね。」

 

「…正直、胸くそ悪い話です。でも、あいつが別れてから何をしてたのか、大人たちも知らなくちゃいけないと思ったんです。」

 

「…お茶を出す。こっちに来なさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでなー、玲の奴アタシと木登り競争して優勢だったんだけど、偶然そこに鳥の巣があったせいで親鳥につつかれて最終的にアタシの勝ちになったんだよ!あれは面白かったなー。」

 

「あれは傑作だったね~。ゴール一歩手前で俺に勝てる奴はいないかーって言った直後につっつかれてたもんね~。」

 

「あはは、でもつつかれすぎて頭から血が出ちゃった時はビックリしたよね…。」

 

 

 蘭の部屋で部屋着に着替えた五人は昔話に花を咲かせていた。由美も信頼をよせている玲の過去の話にのめり込み目を輝かせながら巴の服の袖を掴んでせがむ。

 

 

「もっと、もっと玲の話して!」

 

「よーしよし、分かったぞ由美!次はそうだな…」

 

 

 興が乗った巴は自分が覚えている限りの玲のエピソードを話していく。そして巴の思い出話を蘭の父が差し入れに持ってきたサンドイッチを食べながら傾聴しているモカとひまり。その様子を見ていた蘭は呆れたようにポツリと呟いた。

 

 

「…こうなるって思ってた。」

 

 

 新曲の歌詞の閃きを得るために蘭の部屋に集まったが、昔話に花を咲かせたり、父が持ってきたサンドイッチを食べながらぐだぐだ喋ったりといつも通りの五人組だった。

 

 

「にしても、蘭のパパが持ってきてくれたサンドイッチ美味しいね~。感謝~。」

 

「これって今後の差し入れになるかな?」

 

「新・いつも通りだね~。」

 

 

 食いしん坊担当の二人はそう喋りながらもサンドイッチを食べていく。そこへ区切り良く話を終えた巴も入ってくる。

 

 

「新・いつも通りも気付けば結構増えてきたよな。」

 

「…それって、巴の『アレ』も含まれる?」

 

 

 蘭が言うアレとは、Roseliaのライブを見に行ったとき、成長したあこを見た巴が姉として葛藤して、ギクシャクしていた時の事だ。その時は蘭と由美に喝を入れられた事で姉妹仲の修繕が出来たのだ。

 

 

「あの時、脛を蹴ってごめん…。」

 

 

 由美は気まずそうに謝る。何しろ、うじうじしている巴に対して最初に行動を起こしたのは由美だったが、やり方が野蛮だった。それでも巴は気にしてないように笑う。

 

 

「大丈夫だよ。むしろ怒ってくれてありがとな。」

 

 

 巴の乱雑ながらも優しさを感じる撫で方で由美は嬉しそうに口元がにやける。

 

 

「蘭のお父さんがいつもライブを見に来てくれるようになったのも新・いつも通りだよね!」

 

「それは増えなくてもいい奴!!」

 

「蘭のお父さん、いつも私が見えるように肩車してくれる。」

 

「恥ずかしいから思い出させないでよ、由美…。」

 

「新・いつも通りって言えば、由美ちゃんが私たちの練習を見学するようになったよね。」

 

「そーだねー。あたしもライブ前にやまぶきベーカリーの方角に拝んでいたりさ~。」

 

「え、モカちゃん、そんな事しているの!?」

 

「つぐみ、モカの発言はあんまり真に受けない方がいいよ。」

 

「へへー、これも新・いつも通りの一つにしよーっと。…でもさ、みんなが思い付く新・いつも通り、あるよね~。」

 

 

 この一年、どんな新しいいつも通りができたのか語っていくとモカが思い付いたように笑う。その意図を察した蘭たち。

 

 

「あれだね!」

 

「あれだな!」

 

「あれしかないでしょ!」

 

「うん、あれだ。」

 

「じゃあ、いっせーので言ってみようか~?」

 

 

 つぐみ、巴、ひまり、蘭、モカがお互いを見て、息を揃えて新・いつも通りを言った。

 

 

「「「「「玲(くん)がいる事!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玲たちがいる町。いや、玲が襲撃したグループがいる町とは10駅ほど離れた町の寂れたクラブに大崎を含む大勢の不良がいた。それぞれカツアゲでどれだけ稼いだか、因縁付けしてビビらせた相手の反応が面白かったなど、自分たちの悪事を自慢しあってゲラゲラ笑いながらたむろしている。その様子はまさしく海外のギャング映画で見るようなガラの悪い酒場だ。そこへ、一人の不良が血相を変えながら駆け込んできた。

 

 

「大変だ、大崎の兄貴!隣町のグループが襲撃された!」

 

 

 その不良の報告は下世話な話をしていた不良たちを黙らせるのに効果てきめんだった。

 

 

「何だと!?」「も、もうかよ?」「やべぇよ…。こないだまで玲の縄張り周辺だと思ってたのに…。」

 

(あのグループとつるんだのはごく最近だ…。何故だ、町の外に一歩も出てない奴がどうしてあのグループは俺と協力関係であることを知っているんだ!?)

 

 

 大崎は表情に動揺を出さなかったが、玲の迅速かつ、神出鬼没とも言える猛攻に思考を張り巡らせる。だが、まずは部下を落ち着かせるのが先だ。そう考えた大崎は部下たち全員に聞こえるように声を張り上げる。

 

 

「…落ち着け。まだ包囲された訳じゃねぇ。まだリョージのグループが…」

 

 

 その瞬間、ポケットに入れていた大崎のスマホが震え出す。大崎はスマホを取り出し画面を見ると偵察に出ていた部下からだった。嫌な予感がしつつも通話ボタンを押し、耳に当てる。

 

 

「…もしもし、俺だ。」

 

「ボ、ボス…、リョージとの待ち合わせ場所のホテルに来たが……やられた。もうもぬけの殻だ…。」

 

「クソ…ちくしょうがぁ!!」

 

 

 部下からの報告を聞いた大崎はやり場のない怒りでスマホを床に叩きつける。そしてギリギリと歯ぎしりをしながら現状打破の糸口を探し始めた。

 

 

(どんな手だ?奴はどんな手を使って俺らを追い詰めているんだ?くそ!あの野郎、反撃に出やがったか!)

 

 

 段々顔に余裕がなくなっていく大崎。その横顔を見ていた部下が不安に飲まれる中、友梨は玲の攻撃手段に冷や汗をかく。

 

 

(玲…もしかして、いつ、どこから攻めてくるのか分からないような戦い方で不安を煽って相手のやる気を削いでいく作戦なのかな…?)

 

「おやおや、随分と追い詰められてんな。」

 

 

 そんな中、余裕とも嘲笑ってるとも言える声が聞こえた。大崎が片目で声がした方を見ると片手をギプスで固め、タバコを咥えた男がいた。

 

 

「アイドルと執事にボコられただけのあんたに言われたくないな。」

 

 

 大崎は若干イラつきながら男を睨む。男は昨日、蘭をさらってくるように命じていたのにも関わらず、突然現れた執事に妨害され帰ったのだ。ただ女子高生をさらってくるだけの仕事を失敗した者が余裕な態度でいるのを見ているだけで大崎の額に浮かぶ青筋が切れそうだった。だが、男は大崎の睨みにおどけて返す。

 

 

「おー怖っ。でもよぉ、玲の弱点はもう分かってるはずだろ?」

 

「じゃあ何だ?お前はあいつらの油断を誘う作戦ができてんのか?」

 

 

 大崎が睨みながら尋ねると男は友梨に一瞥した後、Afterglowのポスターを見る。そして、ポスターに印を付けるようにタバコを押し付けながら答えた。

 

 

「友梨の奴にこの中の誰かを刺させればいいのさ。」


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