時は遡って昨日。極悪とも取れる笑みを浮かべる男が出した提案に友梨は動揺を隠せなかった。
「ま、待って、何もそこまでする必要はないんじゃ…」
「…いい案だな。多分、昇太から見たこいつは俺のストレスの捌け口にされているサンドバッグぐらいしか思ってないだろうからな。そのサンドバッグからやられるなんざ考えないかもな。」
「だろ?つー訳で、おい友梨。今からこいつらの内誰かを刺してこい。」
だが、誰も友梨の話など聞く耳を持たず。男は得意気になって友梨に指示を出す。
「…で、できません…。」
しかし、友梨にはできなかった。何故ならAfterglowのメンバーの中に人の暖かさを教えてくれた羽沢つぐみの姿があったからだ。自分の恩人を悲しませる真似はできない。蚊の羽音のようで、消えてしまいそうな震え声で拒否をした瞬間、男の蹴りが友梨の腹に深く刺さった。
「ぐっ!?げほっげほっ!」
「できるできないじゃないんだよ、やるんだよオラ!やるって言え!」
腹に鈍い衝撃が走り、腹の中の物が全部出てしまいそうな感覚に襲われた友梨は膝から崩れ落ちる。
男はそんな友梨の髪の毛を鷲掴みして頭を思い切り地面に叩きつけた。
「い、痛い、やめて。ごめんな、さい…。」
「あー?よーく聞こえないからもう一回だ!」
友梨の謝罪をにやけ顔で聞こえない振りをしながら今度は笑いながら壁に叩きつける。その様子を遠巻きから見ている大崎の部下は若干引き気味になる。
「うっわ…えげつねぇ…。」
「やっぱ誰かが行った方が良くねぇか?こいつ乗り気じゃないみたいだしよ。」
「見ろよ、頭から血ぃ出てるぞ。ガキでも容赦ねぇな。」
「おいおい、今度はグーパンかよ。あれで気絶しねえアイツもやべぇな。」
「何でもアイツ、どれくらい力込めたら気絶しないのか分かってるらしいぜ?」
「ひぇっ、マジかよ。」
「だからお前はグズなんだよ!一人じゃ何もできないお前を受け入れてやったボスに申し訳がないと思わねぇのか?あぁ!?」
部下たちが話している間にも殴る蹴る、叩きつけるといった暴行を続ける男。誰もその行為を咎める人は居らず、遂には首を絞めるという行為に出た。
首を絞められ、足がつかない高さまで持ち上げられた友梨。酸素を求めて足をバタつかせるもどうにもならず空を切る。
「ぐぇ、あっ……ぁああ…。」
「さっさと言いな。この中の誰かを刺しに行くと。」
「ぼ、ボクは…つぐみ…さんを…」
友梨の意識はそこでブラックアウトした。
「う…。」
「あ。友梨ちゃん、目が覚めた?」
目を開けると知らない天井。後頭部に柔らかな感触、ベッドに寝かされているのだろう。そして横から聞き覚えがある声が話しかけてきた。
さて、どこまで覚えているだろうか?友梨が思い出す限りではあの男に痛め付けられた後、カッターナイフを押し付けられ追い出されるように出ていかされた。その後、Afterglowのメンバーが揃っている所を見て近付いたが、その直後に体力に限界が来て倒れそうになった所を整った服装の執事らしき人物が優しく抱き留めてくれた所までは覚えている。
痛まないように首を動かすと心配そうに見つめるつぐみたちAfterglowのメンバー全員がいた。
「…ここ、は?」
「ここはね、私の幼馴染みが住んでいる部屋だよ。ごめんね。あんまり整った所じゃなくて…。」
「つぐ~、それだとれーくんの部屋が汚いみたいじゃないかな~?」
「あ、べ、別にそんな事はなくて…!」
「モカ、茶化さない。」
「さーせんっした~。」
「大丈夫か?出来る限り手当てしたけど痛む所はないか?」
「にしても、こんなひどいことする人がいるもんだよね。私信じられない!」
仲睦まじく会話する五人。これが友情と言うものだろうか。言葉では知っていたが実際目にするのは初めての友梨はジッと見つめる。
「…友梨ちゃん?」
つぐみに呼び掛けられハッとする。
「ご、ごめんなさい。ちょっとボーッとしてたみたいです。」
「無理しちゃダメだよ。あんなにひどい怪我だったから動かないでね。」
「あ、ありがとうございます。」
「失礼します。皆様、そろそろ玲の過去について話す準備ができましたのでお呼びに来ました。」
「はーい、分かりました~。」
「じゃあ行こ、つぐ。」
「うん。それじゃあね、友梨ちゃん。安静にしててよ?」
ひまりに呼び掛けられたつぐみは友梨の頭を優しく撫でた後、その場を後にした。一人残された友梨は今まで受けたことがない優しさと暖かさのダブルパンチで暫し呆然としていた。
(…もしかして今まで全部夢だったのかな?)
もしかしたら今まで大崎の元で受けていた拷問全ては今まで見ていた悪い夢。暴力を振るってくる人も、それをただ見ているだけの人も、ボロ雑巾のように放られた自分に見向きもしない人も全部夢かもしれない。そう都合よく考えてしまい、ポケットに手を入れる。だが、押し付けられたカッターナイフが存在している事から夢じゃないことを物語っていた。
(…やっぱり無理だよ。あの中の誰かを刺すなんて、ボクにはできない…。どうしよう。どうしたらいいんだろう。)
何とか刺さずに回避する方法を考えようとするもどうやっても暴力を振るわれる未来しか見えない。友梨はため息と愚痴を吐く。
「…はぁ、どうすればいいんだろう。」
「悩んでるの?」
「きゃあ!?」
突然隣から声が聞こえて友梨はここ最近出してなかった可愛らしい悲鳴をあげてしまう。
咄嗟に横を見るとそこには友梨より年下の不自然に長い前髪をした少女がビックリしたように両手を挙げていた。
「…ごめん。驚かすつもりはなかった。」
「う、ううん。ボクの方こそ、急に声出して悪かったよ。」
一秒くらいの間の後、お互いに謝る。そして、先程つぐみたちと一緒に出ていった筈の子が何故ここにいるのだろうか。疑問に思った友梨は話しかける。
「どうしてここに?つぐみさんと一緒の方が良くないかい?」
「…あなた、私と同じ感じがする。」
よく分からない質問に友梨は首を傾げる。
「…?ど、どういう事かな?」
困ったように聞き返す友梨を見て、少女は少し黙った後、意を決したように頷く。
そして、
「私も、そうだもん。」
そう言って少女は前髪で見えなかった額を見せた。
「…では、皆様。覚悟は宜しいでしょうか?」
所変わって蘭たちは雑居ビルの地下の一室に案内された。雨宮はドアを閉めた後、蘭たちに確認する。
「何度も言わせないで。あたしたちは、玲の過去を知る覚悟ができているから。」
「…怖いけど、れーくんに何があったのか、私たちも知りたいしね~。」
「頑張れひまり…!泣くなひまり…!玲もああなるしかないワケがあったんだから…!」
「昇太も玲の過去になると気まずそうに口を開かなかったからな。どんだけエグいのが来ようが構わないさ。」
「もしかしたら、イヴちゃんを怖がる理由がこれで分かるかも知れない…。お願いします!雨宮さん!」
「…了解致しました。では、話させていただきます。これは、私が独自に関係者に取材して得た情報、そして私が玲と出会った時の事です。ご気分が悪くなられたら退出なされてください。それほど、おぞましく、嫌な話です。」
覚悟を決めた蘭たちの目を見てそう忠告したあと、雨宮は淡々と語りはじめた。
玲の父親は大手企業の専務で、正義感が強く、社内でのセクハラやパワハラを厳しく罰する人物であったが、それと同時に手柄を立てた部下を誉め、失敗した部下の責任も背負い、慰める理想の上司と言っても良い人物で人望も厚かったと言います。ワーカーホリックで中々家に帰るのも遅くなることがよくありましたが、家族との交流を第一に考える良きおしどり夫婦だったようです。出張先でも家族より困っている人を見過ごせない、所謂お人好しな人物だったと聞きます。
しかし、ある日。彼は社内の徹夜残業を無くそうと上司に直談判しました。過労により倒れる者が現れたからです。
それが神前家の不幸の始まりだったのでした。
玲の父親の存在を快く思わない上部の人間が治安が悪い国に海外出張に向かわせ、そこでテロに巻き込まれた父親は帰らぬ人となりました。
訃報を聞いた玲の母親はショックを受け、生きる気力を無くし、介護無しでは生きられない状態になってしまいました。この時、玲は小学6年だったのです。
葬式は身内と社内の関係者のみで済ませました。
母方の実家に戻るしか選択肢がなくなった玲は小学校を卒業する目前で引っ越しをしてしまいました。
「…ここまでが貴女たちが知る神前玲の周りに起こった出来事です。」
雨宮が一旦語りを止める。
「…あの引っ越し、そういう訳だったの?」
「玲の親父さんについては、アタシらも初めて知ったな。」
「…れーくんの説明が雑だったもんね~。」
蘭たちの記憶の限りでは当時の玲の説明は擬音に頼りきった説明でよく分からないがすごい仕事なんだろうなと言う認識だったが、雨宮からの説明でどこか納得した様子だった。しかし、
「でも、ひどい…。玲のお父さん何も悪いことしてないのに…。」
「…ひーちゃん、大丈夫?」
「ぐずっ、うん…、大丈夫です。大丈夫ですから、続けてください。」
ひまりは限界に近かった。が、それでも聞かなければならない。止めどなく溢れる涙をぬぐいながら続きを促し、雨宮も続きを語り始めた。
引っ越し先の母方の実家での生活は地獄だったそうです。
それほど裕福とは言えない実家で浪費癖が強く、子供を良く思わない母の叔父に理不尽な暴力を振るわれる日々を送りました。母は認知症を煩い、玲の事を認識できなくなり、物言わぬ人形を玲と思い込み、玲には暴言を言う現状だったそうです。
そしてある日。叔父が、玲を売りました。玲を買ったのは指定暴力団の団員でした。その後、玲は孤児院の名を騙った非合法の娼館で働かされる事になり、そこで大人たちから痛めつけられ、辱しめられ、陵辱の限りを尽くされ、尚且つ味方がいない絶望的な状況に陥り、彼の心に深手の傷を負うことになってしまいました。
そして、最後に彼はある悪徳政治家に買われました。ですが、そこも以前と変わらぬ牢獄でした。その理由は、彼を買った政治家は自分の後釜になり得る人物を作る為だったのです。彼の意思など関係無く、英才教育を施されました。
私はこの時、この悪徳政治家を弦巻家の存続を危ぶませる存在と睨み、執事見習いを装って内部調査をしていた時に玲と出会いました。その時の彼の目は何もかもが信じられない。自分に近づく者は全て敵だと言わんばかりの眼光を放っており、とても十代の子供の目とは思えませんでした。
彼を救いたい。そう考えた私は玲の付き人になりたいと申し出ました。あわよくば、大人たちに入れられた檻の外へと出してやるつもりでした。そして、彼に私が教えられる限りの事を教えました。
ところが、ある日。悪徳政治家の悪事が突然明るみになり、政治家は辞職に追い込まれました。
私は慌てて政治家の元へ向かうと正面口は既にネタを聞きつけたマスコミや報道陣で固まっており、蟻の子が入る隙間もないほどでした。
こうなった理由は分かっていました。玲が報復として匿名でスキャンダルに目ざとい週刊誌に孤児院の事情と悪徳政治家の悪事の情報を送ったのです。ですから、火事場泥棒のように玲を連れ出そうとしましたが、一歩遅れてしまいました。
記者会見会場に向かう政治家が出て行き、マスコミもその後を追っていったのを見るとすかさず中に入りましたが…、玲は屋敷のどこにもいませんでした。代わりに玲がいた部屋に真っ二つに破れた紙がありましたので繋ぎ合わせてみると、悪徳政治家に対する文句や悪口、皮肉たっぷりの礼が書かれてありました。
私は確信しました。彼は自分で檻を食い破り、飼い主の喉笛に噛みついて出て行ったのだと…。
「…以上が、私が調べた限り、そして私が見た玲の過去です。」
雨宮が語り終える。その声はいつもの穏やかさは鳴りを潜め、低く、冷たさを感じる声だ。これは嘘ではない。全て真実だと突き付ける声だ。
「何それ…、何で、何で玲がそんな目に会わなくちゃいけないの?」
震える声で蘭が問う。それに雨宮は答える。
「残酷なようですが、現実です。美竹様。」
「ひどいよぉ…こんなの…あんまりだよぉ…うわぁぁぁぁぁん!!!!」
限界が来たひまりは大声で泣き出す。既に最初の時点で涙が出てしまい、玲が娼館で働かされたと知った瞬間、声を殺してただただ泣くしかなかった。
「何だよ…ふざけるなよ…!アイツだって立派に生きてんだぞ!アイツが何をしたんだよ!!」
巴は唇を噛み締め、やり場の無い怒りを発散するように拳を壁に叩きつける。じわりと血が出たが、拳の痛みよりも玲の過去を知ったショックの方が大きかった。
「何で、何でこんなひどい事ができるの?玲くん、何も悪いことしてないのに…ひぐっ。」
つぐみは彼が時たま見せる寂しそうな背中。その訳が、彼を人として扱わない大人たちの仕業だと察した。イヴを怖がるのは、恐らく客の一人である外国人に虐められたせいだとも察した。
「っ………。」
モカは、口を紡いで黙っていた。もし、今喋ろうとしたら我慢できずに泣き出してしまいそうだったから。でも目から溢れ落ちる涙は止まる気配がなく、それほどショックである事を物語るのに十分だった。
そんな五人の様子を見る雨宮は五人が落ち着きを取り戻すまで沈黙を守る。
ようやく落ち着いてきた所で、雨宮は口を開く。
「彼はもう、貴女方の思い出の中にいる彼ではありません。…それでもなお、彼の側にいられると言えますか?」
「…勝手に決めつけないで。」
蘭は雨宮の発言を否定する。
「ほう?」
「アンタから見たら確かに別人かも知れない…けど、あんな目に遭ったから変わった?それは違う!いつもひまりやあたしを弄って、つぐみにはどこか甘くて、モカや巴に振り回されて、それでも自分のためじゃなくて他の人のために頑張ってくれる、昔とそんなに変わってない!あたしたちが知っている、神前玲だから!」
「蘭…。」
「……。」
「あたしたちは、玲と一緒に新しいいつも通りを作っていく。だって、玲も居てこそあたしたちAfterglowだから。」
蘭の言葉に巴たちと雨宮は目を見開く。そして雨宮は降参だと言わんばかりに笑みをこぼした。
「…そうですか。玲…、本当に君は良い友人たちを持ったね…。」
そう呟く雨宮の声は先ほどのような冷たさは無く、柔らかな声になっていた。
「…では、他の皆様方も蘭様と同じご意志で宜しいですか?」
雨宮は蘭以外の面々に尋ねる。
「…ああ。あいつにゃ、あこの事で色々助けてもらったからな。これから借りを返すさ!」
「はい。もう玲くんは十分苦しんだから…これからは私たちと一緒に楽しい思い出を作りたいです。」
「ぐすっ、玲にもいつも通りでいてもらいたいもん。私はAfterglowのリーダーとして、玲を助けたいんだから!」
「れーくんはモカちゃんオススメのパンをまだ食べてないからね~。それに雨宮さんも協力してくれるでしょ~?」
それぞれ、玲を思っての返答。そして最後にモカが協力を仰ぐ。
「ふふ、この空気でそう言われてしまっては断れませんね。いいでしょう。こころ様の世界を笑顔にすると言う夢を叶える為にも、まずは元教え子の笑顔を取り戻す手伝いをしますか。」
困ったように笑いながら雨宮は承諾すると内ポケットから一枚のディスクを取り出した。
「それって…。」
ひまりは玲が出ていたAVじゃないかと指摘しようとした瞬間、雨宮はディスクを真っ二つに割った。
「もし、今話したことが信じられないようなら、孤児院から押収したこれを見せる手を考えていましたが…。不要になりましたね。」
そう言いながら割っていき、ゴミ箱に叩き込む。
「さてと…では、参りましょうか。彼は今、貴女方を守るために独りで戦っています。とても危険な場所ですが、それでも彼の元へ向かいますか?」
「当たり前でしょ?あたしたちの新しいいつも通りに玲も一緒じゃないと駄目だもの。」
「分かりました。では……む。」
雨宮がドアノブに手を伸ばすが途端に動きが止まる。
「…?どうしたのです…」
「しっ。」
不安に思ったつぐみが声をかけようとしたが雨宮に遮られる。
「皆さん…部屋の隅に移動してください。早く。」
雨宮がまたも打って変わって有無を言わせない語調で蘭たちに指示する。
「え、う、うん。」
突然様子が変わった雨宮に戸惑いつつも言われたように部屋の隅へ行く。巴が守るように前に出て準備ができたと目で合図を送ると雨宮は勢いよくドアを開けた。
すると、バタリと二人の少女が倒れてきた。
「…バレた。」
「ほら、言ったじゃないか!バレるって…、いたたたた…傷が…。」
「ゆ、由美ちゃんと友梨ちゃん?」
入ってきたのは由美と友梨だ。どうやら玲の昔話に聞き耳を立てていたようだ。バツが悪そうに由美は謝る。
「…ごめんなさい。こっそり聞くつもりなかったけど…。」
「まったく、ボクが止めなよって言ったのに聞かないんだから…。」
「む、でも昔の玲を知りたいって言ったの友梨でしょ?」
「ぼ、ボクは少し興味があるって言っただけ!」
「ほら、知りたいじゃん。」
「だからそんなんじゃ…!いたた…。」
「ほらほら、二人とも喧嘩するなって。」
口論になりかけた所で巴が仲裁に入る。だが、由美と友梨はお互いフグのように頬を膨らませて睨みあった後、お互いにそっぽを向いた。その様子を見ていたモカが納得するように頷いた。
「…なんかデジャヴって思ったらアレだね。トモちんと蘭が喧嘩しちゃった時みたいな感じだね。」
「え?」
「…は?モカ何言ってんの?」
モカの発言で蘭と巴は戸惑い、つぐみとひまりは納得するように笑う。
「確かに、言われてみたらそうかも。ふふ。」
「あはは、もー、モカったら!今は玲の事が先でしょ!」
既に重苦しい空気は無く、いつも通りの風景。和やかに笑い合う姿は確かにより一層固まった絆があった。
「それじゃあ、後は雨宮さんからの通知が来るまで練習に励むってことで!」
雑居ビルの前。ひまりがそう締め括る。あの後、雨宮が玲の現在地を調べるため解散となった。友梨はこのまま帰っても危険だと判断したつぐみが一緒に連れていき、警察に連絡してみる事にした。
「ああ!さーてと、明日から曲作るの楽しみだなー!」
「明日からみんなツグってこ~。」
モカの造語に友梨は首を傾げる。
「え、えぇと、つ、ツグってくって…?」
「友梨。モカの言うことあんまり真に受けない方がいいよ。」
「えー、蘭ったら冷たいな~。」
「あはは、じゃあ、行こっか、友梨ちゃん。」
つぐみに手を引かれて友梨はその場を後にした。
「今日は色々あったなぁ。初めて夜更かしをして、一緒に朝焼けを見て、蘭ちゃんの歌詞にみんなでどう演奏しようか話し合ったり、玲くんの過去を知ってショックだったけど、ちゃんと向き合おうって決めたり…」
つぐみは友梨の手を引きながら今日あったことを振り返る。
友梨はそんなつぐみの後ろ姿を見て、辺りを見渡す。誰もいない。
刺すなら今だ。
ダメだ。
何故?
だってボクに優しくしてくれたつぐみさんだよ?
でも、ボクがここで刺さなきゃボクはどうなる?
つぐみさんを痛い目に遭わせたくない。
ボクが痛い目に遭うのに?
それでもいい。
殺されるかもだよ?
それでもいい。
今度は殴る蹴るだけじゃ済まないかもだよ?
それでもいい。
もうつぐみさんとは会えなくなるよ?
…それでもいい。
失明させられたらつぐみさんの笑顔が見れないよ?
…それでも、いい。
耳を潰されたらつぐみさんの声が、つぐみさんの演奏も聞けないよ?
…それでも…。
刺さないと殺されちゃうよ。だから、早く刺して。
…い、やだ。
刺せ。
やだ…。
刺せ!
や、やだ…。
刺せ!!!!!!
友梨は、気付かれないようにポケットからカッターナイフを抜き取り、音をたてないように刃を出す。つぐみはまだ気付いていない。そして、繋いでいる手にカッターナイフを振りかぶった。
「そうだ!友梨ちゃんにも私たちの演奏、聞いてもらいたいな!ねぇ、友梨ちゃ…。」