まぁ、行き詰まり掛けてたので息抜きの目標は達成できたけどネ!
「っごめんなさい…。」
「ゆ、友梨、ちゃん?」
つぐみは目の前の状況が理解できなかった。ぽたり、ぽたりとつぐみの手を伝って、赤い液体が滴り落ちる。
震え泣きながら、歯を食い縛る友梨。細い腕に深々とカッターナイフを突き刺しており、血液が流れ出ていた。
ただし、つぐみの腕ではなく友梨の腕からだが。
「な、何してるの友梨ちゃん!?」
理解が追い付いたつぐみは慌ててカッターナイフを引き抜く。友梨はその場で糸が切れたマリオネット人形のように崩れ落ちた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…。」
泣きながら謝り続ける友梨。一体何がこの子をそうさせたのだろうか。つぐみはカッターナイフ放って、万が一の為と、昇太から渡された包帯を傷口に巻き始めながら、優しく注意する。
「友梨ちゃん、ダメだよ。自分を傷つけちゃ、絶対ダメ。」
「できない…できないよぉ…つぐみさんを傷つけたくない…でも、そうしなきゃわたしが殺される…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!死にたくない!わたし死にたくないよぉ!」
泣き喚きだす友梨。包帯を巻き終えたつぐみは友梨の背中を優しく叩いて慰めながら抱きしめる。これ程までこの少女を追い詰めた人物は誰なのか。
「大丈夫、大丈夫だよ。友梨ちゃんを怖がらせる人は今どこにもいないよ。」
早く助けなきゃいけない。そう考えたつぐみは友梨を抱えながら走り出そうとした。
「なーにくっさい芝居してんだよ。使えねぇな。」
走り出そうとした先に、まるでつまらない映画を見せられたようなガッカリした表情で片手にギプスを着けた男がいた。
「だ、誰ですか?」
「あー?そうだなぁ。自分で考えろや。」
質問に答えない様子から話をまともに聞かないだろう。逃げなくては。そう思い友梨に走れるか尋ねようとした。
「ね、ねぇ、友梨ちゃん…」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
「…!」
しかし、うわ言のように謝りだし、ガクガク震え出した友梨を見て息を飲み込んだ。背負ってでも、抱っこしてでも走って逃げ出す方法も考えたが、すぐに追い付かれるだろう。
「ったく、予定狂ったな。これだからガキは嫌いなんだよ。」
どう乗り切るか考えている間にも相手は待ってくれない。大股で歩きながら友梨に近づこうとする男。
時間がない。あまりにも無さすぎる制限時間の中、つぐみが出した答えは、
「あん?何だよあんた。」
(い、今、この場で一番年上なのは私なんだ…。私が友梨ちゃんを守らなきゃ!)
自分の身を差し出す事だった。モカの言葉を借りるなら、ツグってしまったのだ。
「ゆ、友梨ちゃんに乱暴はしないでください…!」
気丈に振る舞い、男に退くよう呼びかけるが、男は苛ついたように眉間にシワを寄せ、凄む。
「てめぇにゃ関係ねぇだろ?さっさとどけよ。」
「ど、どきません!」
本当は逃げ出したい気持ちで一杯だった。だが、自分が逃げたら友梨はどうなる?「殺されるかもしれない。」まだ小さな少女が命の危機を感じるほどの精神状態に追い込んだ男に何をされるのか。どう考えても助からない。だから、つぐみは動かなかった。
「…ほぉー?」
そんなつぐみの意図を察したのか、男は面白そうに口を歪める。舌舐めずりをして口を開いた。
「…そうかぁ、そんなにそのガラクタが大事かぁ…。いいぜ、てめぇにくれてやる。ただし、お前は俺のモノになれ。でなきゃこいつを連れて帰る。」
あまりにも嫌な条件だった。男の目はつぐみの身体を注視しており、明らかに身体をまさぐる気だった。
「わ、分かりました…。」
「つ、つぐみ、さん…!」
後ろから友梨が不安そうに呼び掛ける声が聞こえる。その声が耳に届いたつぐみはできるだけ精一杯の笑顔で答えた。
「大丈夫だよ友梨ちゃん。私は大丈夫だから…」
「さーて、どう弄ってやろうかな?」
男はつぐみの脚から下卑た目線を舐めるように見つめながら距離を詰める。それに対しつぐみはギュッと瞼を閉じ、我慢するように固まった。
「やっ…!」
すると、胸を触られた感触がした。思わず声が漏れてしまう。
「んー…、胸はそんなにないな…。」
男はそう言いながら腕をつぐみの背後に回し、スカートの中に手を入れ、尻を撫で回し始めた。
「…!んぅ…!」
「身体はいまいちだが、顔は良いな。その我慢しようと頑張ってる顔いいねぇ?声出さないようしてるようだが、気持ちいいのか?」
「こっ、こん、なの…!」
つぐみは否定しようと口を開くが、男はつぐみの尻を強く揉んだ。
「ぁん…!?」
「ん?何て言ったんだ?」
男はにやけながらつぐみの口に耳を近づけ、つぐみの吐息を直に聞こうとする。
「ん、はぁ…はぁ…。」
「エロい吐息しか聞こえねぇなぁ!さーて、次は本番行っちゃおうか!」
「あっ、やっ、そこは…!」
男はそう言うとつぐみのスカートに手を伸ばす。男がどのような凶行に出るか察した友梨は叫んだ。
「や、止めてください!ボクは罰を受けます!だからもう止めてください!お願いします!」
「あー、聞こえんなぁ!ハエが飛んでいるのか?」
男は友梨が必死になる様子が面白いのか、わざとらしく耳に手を添え、聞こえない振りをする。
「お願いです…!お願い、ですから…止めて、ください…。」
それでも友梨は泣きながら懇願する。いつだって友梨は耐えようと頑張ってきた。どんな攻め苦を味わおうが、どんな暴力を振るわれようが、どんな辱しめを受けようが、泣くことだけは我慢してきた。
だが、その限界はもう来てしまっていた。つぐみの優しさによって麻痺しかけていた感情が回復しつつあったからだ。
そんな光明が見えた友梨の希望を、男は絶望へと叩き落とす。それはまるで、お釈迦様が地獄へ垂らした蜘蛛の糸をハサミでチョン切るような無慈悲さで。
「さーて、どんな下着を…!?」
男はつぐみのスカートを掴み、捲り上げようとした瞬間、小石が瞼に直撃した。
「だ、誰だ!?」
咄嗟に男はS極同士の磁石のようにつぐみから離れ、石が投げ込まれた方向を見る。友梨とつぐみも男の視線の先を追うように見るとそこには、
「つぐねえと友梨を虐めるな。さいてーやろう。」
前髪の隙間から男を睨み付ける、小さい頃、幼馴染みが着ていた赤いカーディガンを羽織った由美がいた。
「…ガキ?はっ、はははは…。」
男はてっきり、自分の手首を折った執事が来たのだと思ってたばかりに数秒呆けた後、緊張が解けたように笑いだした。
「脅かしやがって、クソガキが。正義の味方ごっこのつもりか?」
男はズカズカと由美の目の前に歩み寄ってくる。それに対し、由美は鬼さんこちらと言った感じに手を叩きながら逃げる。
「…ガキが、大人を舐めてんじゃねぇぞぉ!」
沸点が低い男は由美の挑発に乗ってしまい、つぐみと友梨から離れて行ってしまった。
「た、大変。由美ちゃんが…!あ、あれ…?」
つぐみは後を追おうとしたが、身体をまさぐられた恐怖がやって来てその場にへたり込んでしまう。友梨は慌ててつぐみの側に駆け寄る。
「つぐみさん!」
「あ、あはは、大丈夫だよ、友梨ちゃん。私は、大丈夫…。」
心配する友梨に笑いかけるつぐみ。だが、小さく身体を震わせていることからどれほど怖かったのか窺える。
こんな目に会うのが慣れていないつぐみが、自分を助けるために身体を張った。だが、自分は何をしていた?ただ暴力を振るわれるのが怖くて、怯えて、縮こまっているだけだったじゃないか。
ちょっと前、由美が一緒になったことを思い出す。
「私も、そうだもん。」
そう言って由美が前髪をたくし上げると見えなかった額が露になる。
まるで月面のクレーターのようなでこぼこが五つ。子供特有のすべすべした肌に似つかわしくない物がある。それを見た友梨は目を見開く。
「きみの、それって…」
「私、パパとママから虐められてたの。おでこのこれはその時できたもの。」
「…辛くなかったの?」
「辛かったよ。痛かったし、怖かったし、寒かったし、寂しかった。」
余程思い出したくない記憶なのか、露になった由美の目には恐怖の色が浮かぶ。それでも由美は言葉を続ける。
「でも、玲と会ってから変わった。みんな優しい。蘭ねえはカッコいいし、つぐねえは優しいし、モカねえは面白いし、ひまねえは泣き虫だけど明るいし、ともねえは頼りになるし、もっと一杯。蘭ねえのお友達もみんな私の事を可愛がってくれた。」
嬉しそうに語る由美。外見だけなら、前髪で目がよく見えない無愛想で可愛げのない子だろう。だが、そんな自分を優しく迎え入れてくれる人たちがいたからここにいる。
自分も受け入れて貰えるだろうか?友梨は顔の傷をそっと指で触れながら考える。由美は友梨の顔を見て疑問に思っていたことを口にした。
「…あなたのそれ、親から?」
「…ううん、違うよ。ボクのこれは昔、知らないおじさんから熱い鉄板に顔を押し付けられて痕が残っちゃったんだ。それだけじゃないよ、この身体のあちこちにも鞭で叩かれたり、殴られてできた打撲だったり…色々痛い目に遭わされたんだ。」
「…その人は?」
「もういない。…いや、ボクを痛めつける人がまだ一人残ってる。」
「その人がいないと生きていけない?」
「…どうだろう?逃げようと思えば逃げられるかもしれないけど、捕まっちゃうかな?」
「…私の場合、パパとママがいなきゃ生きていけなかった。でも、あなたは違うと思うよ。そいつから逃げることはできると思うんだ。もし、もうダメって思ったら逃げていいんだよ。もし、逃げる先にそいつがいたら倒してでも逃げよう。それで、玲とか雨宮に言って助けてもらおう。…あ、今、玲は忙しいからダメだった。」
(倒してでも…。)
由美の言葉を反芻するように呟く。自分はあの
覚悟は、決まった。
「とうとう捕まえたぞこのガキが…!」
男は肩を上下させ息を荒げながら由美の頭を掴む。あれから由美は狭い道を通って逃げ回っていたが、路地の行き止まりに当たってしまい、急いで引き返そうとしたところで捕まってしまった。
髪の毛を掴み、ぶら下がる由美を男は地面に振り下ろし、叩き付ける。由美の頭から血が流れ出てくる。
「ぐっ…!」
「もう許さねぇぞ?俺に喧嘩売った事を後悔するんだな?」
男はそう言って由美の身体に足を乗せ、体重をかけた。胃の中の物が込み上げてくる感触と背骨が軋む音がする。
「あっ…あぁぁ…。」
「そーらそら、今なら謝ったら許してもらえるかもしれないぞ?」
男は鬱憤を晴らすように足でグリグリと由美の身体をアスファルトに押し付ける。
それでも、由美の答えは決まっていた。
「だ、れが…お前みたいな、ボケ、や、ろう…。」
由美の返事に男の額に青筋が浮かび上がる。そして、一旦足を退かし、由美の胴体目掛け、サッカーボールのように蹴りあげた。吹っ飛ばされた由美はそのまま転がり、慣性の法則に従って止まる。着ていたカーディガンは男の靴底や乱暴されたことにより裾が解れてしまっていた。
「ぎゃぼっ!?げほっ、ごほっ!」
「ったく、最近のガキは生意気でいけねぇな。そこまで死にてぇなら望み通りにしてやろうか!」
「待て!」
男が追い討ちをかけようとした瞬間、呼び止める声が聞こえた。男が振り向くとそこには、カッターナイフを持った友梨がいた。
「…丁度良い。おい、このクソガキを刺せ。」
友梨は何も言わずに歩いていく。そんな友梨の耳元で男は催眠術をするように囁く。
「刺せ。」
「うん…。」
「殺せ。」
「うん…。」
「お前は俺の道具だ。」
「うん…。」
「刺せば自由にしてやるぞ。」
「…刺せばいいんだよね?」
「そうだ!刺せ!殺せ!こいつは俺を侮辱したからな!」
「…うん、じゃあ刺すよ。」
友梨は覚悟を決めたようにそう言って、
男の足にカッターナイフを突き刺した。
「…あ?」
男の口から間抜けな声が漏れる。それは困惑か、驚愕か。男のズボンを赤く染めるように鮮血が流れ出る。
「………ぁああああああああああああああああああ!!!!?!!?このポンコツがぁぁぁ!!!!」
理解が追い付いた男は絶叫し、友梨を殴り飛ばす。吹っ飛ばされた友梨はそのまま由美の隣に落ちる。そして、前髪の隙間から驚いたような目をする由美を見て、友梨は微笑む。
「…ボク、あいつの言いなりにならなかったよ。」
「…やるじゃん。」
「でも、もうボクたち終わりかもね…。」
「…それもまた一興って奴だ。」
「…何それ、意味分かんないよ。」
痛がる男の慟哭をバックに静かに笑い合う二人。
「くそっ!くそがぁ!もう勘弁ならん!ぶち殺してやる!」
男は目が血走り、歯軋りをしてカッターナイフで刺された片足を引きずりながら仲良く倒れている二人に近づく。
すると、男の肩を掴む手が現れた。まだ邪魔する奴がいるか。頭に血が登り、冷静な判断ができなくなった男が振り向くとそこには、
「こんばんは。」
張り付けたような笑みを浮かべる
後半書いている間、ずっとゼノブレイド2のCounter attackが脳内再生されていた。