夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

47 / 55
44話 戦い

「ここまでだな、大崎。」

 

「く、くそっ…!」

 

「ふぅ、なんか呆気なかったねー。」

 

 

 玲と大崎の戦いは一瞬だった。大崎の部下は玲のグループの猛攻に抵抗したが、日菜の言うとおり、呆気なく完敗。外で頭に手を組み、連れ出され並ばされる光景は、まるで降伏した国の兵士が奴隷となり、無抵抗を示すような光景だ。しかし、この結果に雨宮は違和感を抱いた。

 

 

(おかしい…。玲を潰す事に全力を尽くす男がこうも呆気なくやられるものか?それに、玲は気づいてなかったようだけど、あの目は…。)

 

 

 雨宮の心配をよそに玲は大崎に詰め寄る。

 

 

「さて、最後に言いたいことはあるか?」

 

 

 低く、冷たい声が大崎の耳に入り込む。

 

 

「…そうだな。俺はお前が憎い。それは誰が見ても明らかだ。」

 

「ああ。それがどうした?」

 

「俺は負けた。それは認めよう。だが、最後にひとつ頼みがある。」

 

「…言ってみろ。」

 

「あんたと一対一で戦いたい。」

 

「…いいぜ。」

 

 

 

 大崎の提案は決闘だった。それは不良としては珍しくないことだった。そして、玲と大崎は荷物が入ってない倉庫へとやって来た。広く、障害物もあまりなく、決闘場として丁度いい場所だった。

 

 

「…ありがとよ。こんな俺の願いを聞き届けてくれてよ。」

 

「御託はいい。さっさと始めるぞ。」

 

「ああ…そうだな。やっぱりお前は甘ちゃんだな!」

 

 

 がららがしゃぁぁぁーーーん

 

 

 大崎がそう叫んだ瞬間、突然何かが落ちるような、けたたましい音が響いた。

 

 咄嗟に音がした方を見ると決闘の成り行きを見守っていた雨宮や日菜と昇太、部下たちの姿はなく、代わりに黒いシャッターがそびえ立っていた。

 

 嵌められた。そう察した玲は大崎を睨むが、倉庫の端に積まれてあった箱の影から大崎の手下がぞろぞろと現れ、大崎を守るように動く。そして、その中心にいる大崎は玲を見下すように嗤っていた。

 

 

「大崎…!貴様ぁ!」

 

「お前を潰すのに手段など選んでいられるか!これでおしまいだ、ざまぁみろ!」

 

 

 

 

 

 

「玲!おい玲!ちっくしょう!何だよこれは!」

 

 

 決闘の邪魔にならないよう離れて見守っていたら突然目の前に下りてきたシャッターに驚いたが、すぐに破ろうと蹴る。しかし、シャッターはビクともせず、変わらずそびえ立っているだけだ。そして、それだけでは終わらなかった。

 

 

「た、大変だぁ!昇太の兄貴、どこからともなく大崎の手下が!」

 

「なっ…!?マズい!このままじゃ袋叩きになるぞ!」

 

(なるほど…。呆気なかったのは待ち伏せに人員を割いていたからか。)

 

 

 慌てて来た部下の報告と背後に聞こえる大勢の足音に昇太は焦り、雨宮は納得しながらも持ってきた荷物に手を伸ばし、前に出た。

 

 

「お、おい!雨宮さん!?何を…」

 

「僕が時間を稼ぐ!君たちは体勢を立て直せ!」

 

 

 雨宮は昇太に指示をしたあと、荷物から指を引っ掻けるためにあるような輪が付いた管状の物体を取り出した。

 

 

「な!?あ、雨宮さん!いくら何でも手榴弾はやりすぎじゃ!?」

 

 

 管状の物体が何であるか察した昇太が止めさせようと走り出すが既にピンは抜かれ、大勢の足音が聞こえる方向に放り投げた。

 

 放物線を描いた管状の物体は地面に落ちたと同時に煙が噴き出す。爆音と共に破片と肉片が飛び散ると予想した昇太はまたも呆気に取られた。

 

 

「え?こ、これは…。」

 

 

 昇太が聞こうとした瞬間、煙の中から声が聞こえてきた。

 

 

「げほっ、げぇほ!ちくしょう!何だこりゃ!?」

 

「おい、下がれ下がれ下がれ!!バカ!こっちに来んな!」

 

「ああああああああ!!!目が!目ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 煙の中から聞こえる阿鼻叫喚。そこで昇太は雨宮が何を投げたのか思い至った。

 

 

「催涙弾か!」

 

「僕がこころ様の安全のため開発していたんだけど、誰もテストサンプルになってくれないからね!ちょうど良かった!」

 

「…いや、そりゃこんな事になるから誰も受けねぇよ。」

 

 

 昇太は煙の中で繰り広げられている地獄を見ながら苦笑いをする。もし、雨宮から部下の何人かにこの催涙弾のサンプルになるよう頼まれても昇太は即答で断るだろう。

 

 

「さて、早く立て直すんだ。このガスも長くは持たない。」

 

 

 雨宮はすぐさま踵を返し、昇太もそれについて行く。聞きたいことがあったのだ。

 

 

「なぁ、玲はいいのかよ!?」

 

 

 聞きたかったのは雨宮の対応の仕方だ。まるで玲の事を後回しにしているようで腹立たしかったのだ。しかし、それに対し雨宮は笑顔で答える。

 

 

「大丈夫ですよ。玲の元にはもう一人の天才がいますから。」

 

 

 

 

 

 

 

 玲は追い詰められていた。

 

 一人、二人程度ならどうとでもなるが、今、目の前にいる敵は大崎を含め十人。どうあがいても玲の負けで終わってしまうだろう。

 

 

「さて、今頃外では待機していた俺の部下がお前の部下を殲滅しているだろうよ。さぁ、第二ラウンド始めようぜ!」

 

「くそっ…。」

 

 

 大崎の勝ちを確信した声が倉庫内に響き渡る。玲は苦虫を噛み潰したような顔をして壁際に追い詰められた瞬間、玲を囲んでいた右側の一人が突然何かに殴られたように倒れた。

 

 

「玲くん!大丈夫?」

 

「お、お前は、日菜!?」

 

「そんなバカな!?どうやって入ってきやがった?」

 

 倒れた不良から聞こえる声に玲と大崎は驚く。玲の記憶が正しければ、最後に見たのは雨宮の隣で決闘の成り行きを見守ろうとしていた筈だ。この出入口が閉められた倉庫に抜け道があったのか、聞こうとすると玲の考えていることを察したのか日菜が喋りだす。

 

 

「実は、雨宮さんからこっそり中に入ってって言われたんだ!」

 

「…あのクソ執事、余計なことを!」

 

 

 玲は口では忌々しく言っているが、笑顔だった。本心から忌々しく思っているのは大崎の方だろう。

 

 

「その割りにはホッとしてるでしょ?」

 

「ふっ、まぁな!」

 

 

 日菜の指摘に素直に受け入れながら近くにいた大崎の部下を蹴飛ばす玲。

 

 仲間の一人がやられて、ハッとした大崎の部下たちが二人を取り囲むように動き出す。

 

 いつか見たアクション映画のような状況。それに気付いた日菜は自身の闘争心に火がついた。

 

 

「うぅ~…この状況!メラメラっと来たー!!よーし、第二ラウンド、ズガガンとやっちゃうよー!!」

 

 

 大崎の台詞をそのままそっくり返す日菜。

 

 生まれながらの天才と、人の業から作られた天才は背中合わせになりながら戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倉庫の外は乱闘と化していた。数で押し潰そうとする大崎の勢力に対し、玲の勢力は武器やステゴロ、道具などを駆使して凌いでいく。

 

 まさに量対質。だが雨宮や昇太の指示を受け、陣形を変えながら叩く玲の勢力が圧倒的に優勢、大崎の勢力は敗戦濃厚だった。向かってくる大崎の部下を一撃で気絶させながら雨宮は昇太に話しかけた。

 

 

「さて、もう指示しなくても勝てるね。昇太くん、僕はこれから高所へと向かう。」

 

「高所って、何でだ、雨宮さんっとぉ!」

 

 

 ヘッドロックからのしめつけ、最後に壁に叩きつけをしながら昇太は雨宮に聞き返す。

 

 

「状況を確認したいからね!じゃ!」

 

 

 雨宮は簡潔に言い切った後、使われてない非常階段へ走り出していった。昇太はついて行きたかったが、今、迫ってきている大崎の部下に邪魔されているため。何より、可愛い部下たちを放っていきたくなかった。昇太は部下に激を飛ばす。

 

 

「よーし、お前らぁ!これで勝ったら俺んちで宴会やっぞー!」

 

 

 指示する人間がいない烏合の衆。それに対し、昇太は疲弊しつつある部下を奮い立たせる。昇太の激を聞いた部下たちは一同に雄叫びを上げ、数で勝る大崎の勢力を押し出していった。

 

 

 

 

 

 

 その雄叫びは、倉庫内にも聞こえていた。しかし、それに気を取られている余裕はない。

 

 

「女だからって手加減しねぇぞ!」

 

 

 日菜を後ろから殴りかかってくる大崎の部下の拳を玲が受け止める。

 

 

「ありがと玲くん!」

 

「よそ見すんなよ!」

 

 

 日菜は礼を言いつつ、玲は注意をしつつ、殴り掛かろうとした不良を二人同時に殴り飛ばす。そして、また背中合わせの状態に戻る。

 

 

「はぁ、はぁ、大分減ってきたね。」

 

「息上がってるぞ。休憩挟むか?」

 

「まさか!まだまだこれから!」

 

「あぁ、そうだよな!」

 

 

 玲はもう一度動こうと周囲を見渡した瞬間、気付いた。

 

 

「…大崎がいない!」

 

「え!?」

 

 

 日菜がその言葉を拾い、聞き返す。

 

 

「くたばれ!」

 

 

 それを好機と見た部下の一人が殴り掛かろうとした。日菜がハッとして声がした方を見ると、大崎の部下が鉄パイプを振り下ろそうと手を上に持ってきていた。

 

 

(しまっ…!)

 

 

 日菜は油断して両手で防御しようとした瞬間、日菜の前に人影が飛び出し、鉄パイプの攻撃を受けた。

 

 

「ぐっ…、ぅぅぁあああああ!!!」

 

 

 飛び出した人影の正体は玲だった。奇しくも、この時受けた箇所は蘭が玲を守ろうと身を投げ出して受けた所と同じだった。玲は日菜に振り下ろされる筈だった鉄パイプを受け、痛みからの悲鳴を雄叫びに変えながらカウンターアタックで鉄パイプを持った部下の襟首を掴んで壁に叩きつけ、最後にダメ押しの蹴りを頭に一発お見舞いした。

 

 

「玲くん!大丈夫?」

 

「こ…、これぐらい何ともない。大崎の奴め、部下を差し置いて逃げるつもりか!」

 

 

 心配して駆け寄った日菜に心配かけまいとしながらも、辺りを見渡す。すると、倉庫のシャッターとは反対側にドアがあり、そこからドアを開けて走り去る大崎の姿が見えた。

 

 玲は追いかけようとするが、まだ残っていた大崎の部下に邪魔され、舌打ちをする。こうやって相手をしているうちに大崎は逃げてしまうかもしれないのに。

 

 すると、邪魔してきた部下の手首を掴んだ日菜が素早く手を捻ると、大崎の部下はその場で手を押さえて転げ回りだした。

 

 突然、痛がりだした仲間に戸惑う大崎の部下。だが、玲は見抜いていた。

 

 

「お前、それは誰からだ?」

 

「雨宮さんから!」

 

 

 玲の問いに日菜は短く答え、更に言葉を続ける。

 

 

「玲くん、行って!あたしもこいつらを倒したら追いかける!だから行って!」

 

 

 日菜の言葉に玲は一瞬、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしたが、すぐに大崎が逃げたドアへと走っていった。残った日菜は自分を取り囲む不良たちを睨み付ける。

 

 

「おいおい、泣かせるじゃねぇかよ。」

 

「俺らもラッキーだぜ。まさかアイドルをイジめることができるなんてよ。」

 

「へーっへっへ!パンツ見せたら許してやるかもな!」

 

 

 玲が大崎の後を追いかけて行ったことで大崎の部下は邪魔物が消え、一気に下卑た笑みを浮かび始めた。

 

 アイドル一人くらいなら自分達でも勝てる。そう油断をする、してしまった。

 

 

「残念だけど、あたしはあんたたちみたいな奴にはやられないよ。みんなここで、あたしに倒されちゃうんだからね!」

 

 

 そう啖呵を切って、日菜は飛びかかってきた大崎の部下の腹に拳をめり込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!あいつらがそこまでできるとは思わなかった!早く撤退して計画の練り直しだ!」

 

 

 大崎は一人、廃工場の側にある駐車場の真ん中を走っていた。その先には大型のワゴン車がポツンとある。普段は欲求不満な部下が一人でいる女性を連れ去り、おもちゃにする為に使われていた物だが、それが偶然、駐車場に停まっていたのだ。このワゴン車の持ち主は今、玲の足止めをしている筈だ。ありがたく使わせてもらおうとした瞬間、大崎の顔の横に何か素早いものが通りすぎ、ワゴン車のタイヤがパンクした。

 

 

「なっ…!?」

 

 

 戸惑っているうちにもうひとつのタイヤも突然パンクした。大崎は何が起こったか分からず辺りを見渡すが、誰もいない。

 

 それも当然。タイヤをパンクさせた張本人は登りきった非常階段からスナイパーライフルを構えていたからだ。

 

 

「そう簡単には逃がしませんよ。」

 

 

 にこりと微笑みながらスコープ越しに狼狽える不良のボスの様子を見る雨宮。その情けない姿を見ている内に徐々にその口が邪悪に歪み始めた瞬間、我に帰った。

 

 

(おっと、いけない。こころ様からこの笑顔はダメだと言われてたんだった。反省反省。)

 

 

 自戒しながら、非常階段を降りる雨宮。自分にできるのはここまでだと言わんばかりに降りていく。この男を倒す役目は自分ではないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 大崎が走った先に追い付いた玲。背を向け、逃げようとする男に思いきり叫んだ。

 

 

「大崎圭司!」

 

 

 その声に大崎は足を止める。

 

 

「…初めてアンタにフルネームで呼ばれたな。神前玲。」

 

 

 そして、観念したように振り向く。

 

 

「俺の出せる手は全て出した。正直もう何もねぇよ。」

 

「…そうか。」

 

「…やっぱりその(ツラ)だ。俺はお前のその何もかもゴミ屑だと言ってるようなその(ツラ)が気に食わねぇ!」

 

「………。」

 

「俺が去年の夏、あそこから追い出されてどうなったか知らねぇだろ?興味もねぇだろうな。あの後、親父の仕事が左遷させられた後、それなりに裕福だった生活は一転、貧乏になった。俺にお袋はいない。そんなお袋の代わりになれるよう努めてた親父は給料を下げられ、扱いも冷遇され、貧しい生活耐えきれなくなって!俺を残して自殺した!!」

 

「………。」

 

「地位、名誉、部下、住み処、家族、生活…!お前のせいだ…!お前は俺の大事なものを全部ぶち壊しやがった!!」

 

「……………。」

 

「だから、俺はお前に復讐すると誓った。どんな汚い手を使っても、後ろ指さされて罵声を浴びられようが!お前が大切だと思うもの全部ぶち壊してやるとな!」

 

「実際どうだ?あの由美とか言うガキがボコられたと聞いた時、お前はどんな気持ちだった?まぁ、そんな目をしたお前だ!何も思わねぇだろうな!」

 

「……………………。」

 

「それでもお前は俺の前に現れた。この俺の前にな!手は出し尽くし、逃げ道も無くなった。だが、それでも!俺はお前をブチ殺す!!サツなんぞ怖くねぇ。失うモノが無いからな!」

 

 

 大崎はそう言ってシャツを脱ぎ捨てる。すると、胸から腹にかけて描かれた刺青が露になる。その刺青に描かれていたのは黒豹の喉仏に噛み付く獅子の絵だった。

 

 

「この刺青は俺の決意だ。ここで貴様を殺してやるぞ!玲!!」

 

「…………そうか。なら、掛かってこいよ、大崎。第三ラウンドだ。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。