夕焼けと不良少年【本編完結】   作:shinp

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番外編と言う名の後日談


番外編 蘭誕生日

 季節は春。桜が咲き、暖かな陽気と気持ちの良い日射し。そんな天気の商店街の一角にある定食屋。そこへ一人の少女が入ってきた。

 

 不自然に長い前髪にヘアピンが止めてあり、紫の綺麗な瞳が片目だけ覗く。奥の個室のドアを二回ノックすると少しだけ開けたドアの隙間からピンク髪の少女の顔が見える。

 

 

「…ソイヤ?」

 

「おー。」

 

「よし、入って。」

 

 

 まるで時代劇のようなやり取りをする二人。合言葉を言った少女は目の前で開かれたドアに入ると、そこには深刻な面持ちの少女たちと、一人のサングラスを掛けた男がいた。

 

 

「…よし、全員揃ったな。」

 

 

 サングラスを掛けた男は両肘を机に置き、口の前で手を組む姿勢のまま口を開いた。

 

 

「では、これより『玲と蘭の仲を進展させる作戦会議』を始める。」

 

「おー。パチパチ~。」

 

 

 男、昇太の一声に銀髪の少女、青葉モカがパチパチと拍手をする。それに釣られてか、何人かがまばらな拍手をする。

 

 

「では、まず今回の会議の目的を再確認するぞ。ひまりちゃん。」

 

「はい!」

 

 

 昇太が名指しした少女、上原ひまりは元気良く手を挙げると立ち上がる。

 

 

「この会議の目的は、玲と付き合うようになった蘭の進展があまり変化がないことを憂いだ我々が、きっかけ作りをするための会議です!」

 

「その通りだ。だが、前回はきっかけ作りになり得るシチュエーションを模索していたが、あれから成果はどうだ?」

 

「ボクと由美が考えたうっかり転ばせてくっつける作戦は尽くさらりと避けられたし、由美が飛び付いても少しよろめく程度だったもんね。」

 

「モカちゃん考案の一緒にパンを食べたら幸せ大作戦も空振りでした~…。しょぼーん…。」

 

「私の店で二人きりの状況をようやく作り出す事ができて、いい雰囲気だったのに、日菜先輩が入ってきて台無しになってしまいました…。」

 

「私が蘭の可愛いとこを纏めた写真見せながら蘭の事どう思ってるのか聞いてみたら、大切な幼馴染みだって言っていたけど…求めてた答えと違いました…。」

 

「アタシの悪漢に襲わせる作戦はやっぱダメか…?」

 

「巴、あいつは鋭いから半端でやると演技だってバレる可能性があるし、だからといって演技に熱入れすぎたら玲が演者を病院送りにする可能性が高いから駄目だ。」

 

「…それに去年の奴で襲われたりナンパされるの慣れちゃった感じするよね~。」

 

「…私が蘭ねえに玲とちゅーしたらって聞いたら顔を真っ赤にして怒られた。」

 

「いや…それ怒られても当然だと思うよ、由美。」

 

「でも、蘭って結構ヘタレだよね~。」

 

「いや、玲も同じだぞ?俺が蘭との交際どうなってるんだって聞いたら目をそらして黙りやがったんだよ。」

 

「どっちもどっちだね…。」

 

 

 蘭を除くAfterglowの面々と由美、友梨、昇太の七人があらゆるシチュエーションを作るように手回ししていたが全て玲の鋭さや身体能力、そして意外と恋愛に奥手なせいで今現在も蘭とは友達以上恋人未満な関係だ。見ていてとても爪を噛みたくなる。

 

 

「はぁ、このままじゃ、ダメな気がするんだよなぁ…。」

 

「あぁ~!もうどうすりゃいいんだよ~!?」

 

 

 昇太はガックリ項垂れて、巴は髪の毛をかきむしる。玲と蘭の関係が良好なのは結構なのだが、ずっとそのままと言うわけにはいかない。どうしたものかと思案していると、ひまりの不敵な笑い声が聞こえた。

 

 

「ふっふっふ…。安心してください。実は最近、遊園地のチケットを貰う機会があったんですよ!」

 

「ま、マジかひまりちゃん!?」

 

「おー、ひーちゃんナイスー。」

 

 

 ひまりがドヤ顔をしながら取り出したのは遊園地のチケット二枚だった。思わぬ朗報にモカたちは顔を明るくする。しかし、昇太はまだ難しい顔をしている。

 

 

「おい、どうしたんだよ昇太。嬉しくないのか?」

 

「…で、これを蘭と玲にどうやって渡すんだ?」

 

「…あぁ、確かに…。」

 

 

 昇太の言葉にひまりは引っ込んでいく。おそらく直球で二人で行ってこいと渡しても玲と蘭は別にいいと言い出しかねない、何かあると勘ぐってしまいかねないのだ。

 

 

「ま、また新しい問題が…。」

 

「も~、二人ともめんどくさいよ~。」

 

「モカちゃん!そんな事言わないの!」

 

 

 友梨は天井を仰ぎ見、モカはうんざりしながら溢れた言葉につぐみが突っ込みを入れる。もうどうすればいいのか。お手上げの雰囲気が出来上がりつつある中、天井を仰ぎ見ていた友梨が何か閃いた。

 

 

「待って…ねぇ、ボク、良い案を思い付いたんだけどさ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蘭の誕生日前日。玲は待ち合わせ場所である遊園地の入り口前に立っていた。

 

 

(やれやれ…由美の奴、年相応になってきたけどタイミングが悪いぞ…。)

 

 

 こうなったのは四日前に遡る。

 

 玲は不良を辞めた後、探偵になった。商店街の大人たちにより提供された空き部屋を事務所兼寝床とし、今日も一日誰も来ないだろうなと思案していた時、由美が来たのだ。

 

 

「玲。ひまねえから遊園地のチケット貰った。今度の休みの日に一緒に行きたい。」

 

 

 二枚あるチケットを見せびらかしながらせがむ由美。だが、玲は眉間にシワを寄せた。何故なら事務所を閉める日が蘭の誕生日のだったからだ。

 

 

「…なぁ、そのチケットの有効期限、いつまでだ?」

 

「四月十一日。」

 

 

 間髪いれずに答えた由美に玲は頭を抱える。その日からはまた事務所を開けなければならないからだ。由美には楽しんで貰いたい事と、蘭の祝われて照れ隠しながら喜ぶ顔が見たいという葛藤がせめぎあう。だがどちらか一つを選ばなければいけないと悩み抜いた末に選んだのは由美と一緒に遊園地に行くことだった。

 

 

 

 

 

(はぁ…蘭からロリコンとどやされるんだろうな…。)

 

 

 ため息を吐きながら空を見上げる。埋め合わせに何か蘭の大好物でも買っておこうかと考えていると、

 

 

「あれ?玲、何やってんの?待ち合わせ?」

 

 

 チケットを持った幼馴染みが目の前に立っていた。

 

 

「あ?そういうお前も誰かと待ち合わせか?」

 

「うん。実は、由美がひまりと一緒に遊園地に行くって言ってたんだけど、当日に友梨に手伝って貰いたいことがあるって言われてさ、アタシが代わりに行ってって。」

 

「ふーん。俺は、由美に遊園地に行きたいってせが、まれ…。」

 

 

 何かがおかしい。そう感じた玲はすぐさまポケットからスマホを取り出し、由美に連絡を取る。突然スマホを取り出した玲の様子から察した蘭もひまりに電話しようとスマホを取り出す。二回の着信音の後、由美が電話に出た。

 

 

『やっほー。玲、楽しんでる?』

 

「やっほー。じゃねぇよ由美。お前、嘘ついたな?」

 

『うん。嘘ついた。』

 

 

 全く後ろめたい感情がない声がスマホから聞こえ、玲は口元がヒクつく。

 

 

「そ、そうか。じゃあ、何で、嘘ついたんだ?正直に答えろ。」

 

『だって、蘭ねえと付き合ってるのにいつまでもうじうじしててイラついたんだもん。』

 

「なっ…!?」

 

『だから今日は一日蘭ねえと一緒に楽しんで。私からは以上。じゃあね。』

 

「あっ、ちょっ、まっ…!」

 

 

 玲の制止の声を聞かずに通話を切る由美。あの野郎と愚痴りながら蘭の方を見ると、蘭も玲と同じような表情をしていた。

 

 

「…俺たち、嵌められたな。」

 

「…そうだね。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「なぁ、その、入るか。ここまで来ちまったし、これ今使わなきゃいけないし…」

 

「………うん。正直、誘導されてるのすごく、腹立つけど、ね。」

 

「……なぁ。手、繋ぐか?」

 

「…ん。」

 

 

 お互いにモジモジしながら手を繋ぐ二人。その様子はまるで初々しいカップルだった。実際その通りだが。

 

 

 

 

 

 

 

 玲と蘭の初デートはぎこちなかった。何故なら、お互いに素直じゃなく、意地っ張りで、そして恋愛に関しては奥手なのだ。端から見れば微笑ましいが本人たちは気が気でない。

 

 

「よ、よし、最初はあそこ、行ってみるか?」

 

「や、やだ!やだやだやだやだ!!!お化け屋敷じゃん!!?」

 

「な、ならあの絶叫マシンに…!」

 

「こ、怖いって!」

 

「じゃ、どこなら良いんだよ!?」

 

「そ、それはあんたが決めて!」

 

「はぁ!?」

 

 

 そうやって前途多難なアトラクション選びの結果、

 

 

「コーヒーカップかよ…。」

 

「…ごめん、玲。あたしのわがままで…。」

 

「いいっての、別に気にしてねぇし。」

 

 

 最終的にコーヒーカップに落ち着いた。巨大なコーヒーカップに向かい合って座る玲と蘭。アトラクション始動のアラームが鳴ると動き出す。すると、玲は蘭を見てこう言った。

 

 

「…で、どうやるんだ?」

 

「…は?」

 

 

 今、何と言ったのか。蘭は玲が言った言葉の意味の理解に数秒遅れた。玲はそんな蘭の視線が恥ずかしかったのか頬を人差し指で掻きながら話す。

 

 

「その、俺、こういうの初めてでな。どうすればいいのかわかんねぇんだよ。」

 

 

 玲の発言に蘭は納得すると同時に忘れてしまっていた事を思い出す。

 

 口にするのも憚られる闇の中で生きてきた。

 ずっと不良の頭領として生きてきた。

 だから、遊園地の事はよくわからない。

 

 

「分かった。教えてあげるよ。まずはね、ここにハンドルがあるでしょ?それを回したらこのカップも動くの。」

 

「…なるほどな。そういうアトラクションか…。」

 

 

 玲は納得したようにカップの中央にあるハンドルを掴むと勢いよく回す。玲が回すと同時にカップも回転し始める。

 

 

「…っ、意外とっ、重いなっ。」

 

「後は慣性で回せば速くなるから。」

 

「そっか。ならっ…!」

 

 

 玲は年相応の笑みを浮かべ、ハンドルを握ると、更に回し始めた。

 

 

「ちょ、ちょっと玲?速くない!?」

 

「どこまで速くなるか試してみようぜ!」

 

 

 まずい、火を付けてしまった。蘭がそう思い、止めようとしたが既に遅かった。

 

 

「ちょ、ちょっと!止めてよ玲!怖いって!」

 

「おぉ!案外楽しいなこれ!」

 

 

 

 

 

「すまん…調子に、乗りすぎた…。」

 

「いや、あたしも、悪かった…。」

 

 

 コーヒーカップを降りた二人はぐったり気味だった。玲は勢いよく回しすぎたせいで気分が悪くなり、蘭は絶叫マシンと化したコーヒーカップに振り回されて精神を消耗していたのだ。

 

 お互いにダメージを受けた二人はどこか休める場所がないか探す。

 もしこのままジェットコースターに乗るような真似でもしたら悲惨な結果になりかねないからだ。

 

 

「ねぇ、あそこは、どうかな?」

 

 

 未だに回復できてない蘭が指さした先にあったのは巨大な観覧車だ。玲もゆったりと外から景色を眺める観覧車なら大丈夫だろうと考え、賛同する。

 

 だが搭乗直後、それが仇だったことを思い知らされることになる。

 

 

 

 

「…ね、ねぇ、近いんだけど。」

 

「そ、それはこっちの台詞だろ?」

 

 

 二人が乗った観覧車のゴンドラは二人乗りだったが、予想よりも向かい合っている椅子と椅子の間が狭く、ずっと見つめ合い、お互いの足と足を挟んで密着している状態になってしまったのだ。

 

 

(れ、玲の足って、細いけど、意外と硬い…じゃなくて!あ、あたしの足が当たってるし、玲もどこか緊張気味だし…は、恥ずかしい!)

 

(あ…、ら、蘭の太ももって…こんなに柔らかくて、暖かいんだな………って!何考えてるんだ!?セクハラじゃねぇか!!えぇい止めろ止めろ!す、少し動かすか…。)

 

 

 玲は頭を振って蘭の太ももに挟まれていた自分の足を動かそうとした。が…

 

 

「やんっ!ちょ、ちょっと、玲、動かないでよ…!くすぐったい…!んっ…。」

 

「お、お前も変な声出すなよ…!?」

 

 

 まるで少しアダルトなラブコメのような展開にお互い気が気でない状態になってしまう。

 

 結局、体は休まったが二人とも精神が参ってしまい降りる頃にはフラフラになっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐだぐだな遊園地デートを終えた二人はそのまま帰る事になった。正直、観覧車に乗った後どうしたのか記憶がほとんど無い。玲の中にある本能を理性で押さえ付けるのに精一杯だったからだ。ようやく探偵事務所前に辿り着いた玲は蘭と別れる。

 

 

「じゃ、また明日な…。」

 

「うん…。じゃあね…。」

 

 

 何とか理性を保てた玲は事務所に入るとそのままソファに崩れ落ちる。

 

 

(あっっぶねぇぇ……。蘭ってあんなに可愛かったか?今日はもう寝よう。寝て明日に向けて養えなきゃな…。)

 

 

 玲は観覧車で聞いた蘭の声を思い出し悶々としながらも、明日、蘭の誕生パーティーに向けての英気を養う為に自室へ向かおうと顔を上げる。窓に目を向けると、いつの間にか外は土砂降りの雨が降っていた。

 

 

「いつの間に降ってきたんだ?まぁいい、さっさとシャワーを浴びて…」

 

 

 すると、ノックをする音が聞こえた。来客だろうか?玲は丁重にお断りしようと扉を開けると、

 

 

「玲…雨宿りさせて…。」

 

 

 びしょ濡れの蘭が立っていた。おそらく帰宅途中に雨が降ってしまいUターンしてきたのだろう。肩を上下させながら呼吸し、ジャケットの下に着ているシャツも水を吸って肌にはり付いている。そのため、下着が透けて見えている上に、呼吸に合わせて胸が動いている。そんなあられもない姿を見た玲は慌てて視線を反らす。収まりかけた劣情をまた煮えたぎらせるのには充分すぎる破壊力だったからだ。

 

 

「らっ…!?わ、分かった!入れ!シャワー使っていいからさっさと入れ!目のやり場に困る!」

 

 

 突然慌てた玲に蘭は不思議に思ったが、濡れてしまった自分の服を見て全てを察してしまった。一気に顔が赤くなった蘭は咄嗟に透けているシャツを隠して玲に怒鳴る。

 

 

「どっ、どこ見てんの!?エッチ!スケベ!変態!」

 

「お叱りはちゃんと受けるから!さっさとシャワーをしろ!風邪引くだろ!?」

 

 

 目を隠しながらも蘭にシャワーがある部屋を指さし、早くシャワーを浴びて暖まるよう促す。指で遮られて真っ暗な視界の中、足音がシャワー室へと走っていく音が聞こえる。扉を閉めた音がした後、玲はすぐさま代わりの服を用意するのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…。」

 

 

 シャワーを浴び、暖まった蘭は玲が用意した部屋着を着た後、何となく玲の事務所を見渡した。

 

 

(ここが、玲の職場…。)

 

 

 実を言うと蘭を含めたAfterglow全員は玲の職場に入ったことがない。休みの日はどこかの依頼を受けているのか空けていることが多く、休みも平日なのだ。

 

 玲は知力は年齢に合っていない為、学校には行かなかった。いや、行く必要がないと言った方がいい。一時期、生徒会長となった氷川日菜が玲と一緒に通いたいと独断で共学化しようと画策し、教師一同に叱られヘソを曲げていたのは記憶に新しい。

 

 

(こんな場所、なんだね…。)

 

 

 そんな事を考えながら事務所をうろついていると、玲の席だと思われる机にフラワーアレンジメントが置いてあった。赤と黒の二色で構成されており、どことなく生け花を模したようなアレンジメントだ。

 

 

(これって…?)

 

 

 どうも飾ってあるようには見えない。そう感じた蘭は気になって近付く。

 

 

「おーい、蘭。随分遅いけどもしかして服が合わなかったか?」

 

「うわぁ!?」

 

 

 すると、背後から玲の声が聞こえた。思わず叫んで跳び跳ねる。

 

 

「うぉ!?ビックリするだろうが…って、それは…!」

 

 

 玲も連鎖的に驚くが、机の上に視線を向けると余裕を無くして素早く隠す。

 

 

「…見たか?」

 

「うん。見た。」

 

 

 玲の言葉に蘭は素直に答える。すると、がっくりと項垂れだした。

 

 

「…もう、しょうがねぇかぁ…。」

 

 

 蘭が怪しいと思いながら見てると玲は腹を括ったのか先ほど隠したフラワーアレンジメントを取り出す。

 

 

「その、一日早いけど、誕生日プレゼント。お前のイメージで、その…作ったんだけど…。」

 

 

 玲にしては歯切れが悪い。目を反らしてないことから嘘ではないのだろう。

 

 

「だ、ダメ、か?」

 

 

 どことなくオドオドした幼馴染みの姿に蘭はクスリと笑う。

 

 

「ううん。嬉しい。作ってくれて、ありがと。」

 

「そ、そうか…。よかった…。」

 

 

 蘭の笑顔を見てホッとする玲。二人の間に和やかな空気が流れ始めた。二人の心に余裕ができたからだろうか、玲はあることに気付いた。

 

 

「お、もう雨が上がってるな。今なら帰れるぞ。」

 

 

 いつの間にか、外でざぁざぁと降っていた雨は止んでおり、静寂に包まれていた。でも、蘭は首を横に振った。

 

 

「ううん。もう父さんには玲のところで泊まってくって言ってる。」

 

「…は?」

 

「その…あたし、玲の住んでるとこ、泊まってみたかったから…その…いい?」

 

 

 玲に対して素直になりつつある蘭は恥ずかしがりながらも家主である玲に許可を求める。いつもとは違う男物の部屋着を着ているせいで見えそうで見えない胸元、少しぶかぶかになってる袖やらで玲の本能はもう抑えられなかった。

 

 素早い動きで蘭の後ろにある壁をドンと叩き、行く手を遮るように、そして蘭の耳元で甘く囁いた。

 

 

「いいぜ…、蘭。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それで!どうなったの!?」

 

「も、もういいでしょ!この話はこれでおしまい!」

 

「えぇー!?そりゃないよ蘭~!」

 

 

 翌日のCiRCLEのラウンジを借りた誕生パーティー。そこで主役の蘭は駄々をこねるひまりに粘着されていた。他の者たちはというと、つぐみはずっとポポポと目玉焼きができそうな位顔を火照らせ、モカはニヤニヤしながら玲と蘭を見、巴はもっともっとと蘭に引っ付いてせがむひまりを引き剥がしていた。そのわちゃわちゃの外側で玲と昇太は見守っていたが、

 

 

「…なぁ、玲。ちょっと外で休憩しようぜ。」

 

 

 昇太に促されこっそり退散する玲。そしてCiRCLEから出てベンチに座らされた玲は昇太と向き合う。

 

 

「…で、ヤったのか?」

 

 

 玲の両肩に手を置き、サングラス越しに見える真剣な眼差しで玲に周りに聞こえないよう声を潜めながら詰問する。だが、玲は首を横に振った。

 

 

「…ヤってねぇ。」

 

「…いや、いやいやいや。蘭から聞いた話の流れじゃヤる流れだろ。何でだ?」

 

「…確かに、蘭の身体を触ったし、キスもした。でも、ヤらなかった。その、どうしても過去の記憶が、な。」

 

「…あぁ、そうか…。」

 

 

 気まずそうに俯く玲。それを見た昇太はそれ以上追求しなかった。玲の純潔は、あの地獄で既に散らされているのだ。その時の記憶を思い出してしまい、行けないだろう。

 

 急かせすぎたか。

 

 焦れったい原因に納得した昇太は反省する。

 

 

(…でも、それだけでも充分な進歩か。)

 

 

 おそらく、昔のままだったらキスをする勇気すら沸かなかっただろう。そう考えた昇太は元気なく項垂れる玲の肩に手を置く。

 

 

「ま、ゆっくり進んでいこうや。俺らも応援してっからよ。でもな、告白ぐらいはしとけよ。」

 

 

 あの二人の間に割り込むのは無理だろう。だが、二人を裂こうとする者は現れるかもしれない。そうならない為にも、自分たちは守っていこう。そう決意するのだった。

 

 

「じゃ、戻るか。パーティーはまだ始まったばかりだからよ!」

 

 

 昇太に促され、ラウンジに戻る。

 

 ラウンジに入るとそれに気付いたモカたちが蘭を押してくる。何事だろうかと思っていると、蘭が玲の顔を見てモジモジしながら、辿々しく口を開いた。

 

 

「あ…あの…その…………やっぱり無理!恥ずかしいって!」

 

「蘭~。早く言わなきゃ~。れーくんが誰かに取られても知らないよ~?それはやでしょ~?」

 

「わ、わかったって!言えばいいんでしょ言えば!」

 

 

 何やらモカに説得された蘭は玲の前に歩いて行くと、ぶつかるように抱き付く。そして、玲の体に顔を埋めたまま、

 

 

「……………大好き。」

 

 

 耳を研ぎ澄ませてなくてはいけないほど小さな声で告白をした。すると、玲はガバッと蘭の背中に手を回し抱き締める。

 

 

「………あぁくそ。先越されちまった…。俺も大好きだ。」

 

「…ありがと。」

 

 

 ようやく告白しあった二人にひまりは黄色い悲鳴をあげ、つぐみは両手で顔を隠しながらも指の隙間から覗いており、モカはほっこりした顔、巴は抱き合っている二人を見て恥ずかしいのか頬を赤らめながら頬を掻き、昇太は困ったように笑っていた。

 

 玲の記憶に、また優しい記憶が刻まれたのだった。

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