「あぁ~…ああぁ~…。」
「うるせぇよ昇太。あと、歩きにくい。」
体育館に向かう道中、まだ昇降口からそれほど離れてないのに奇声を発しながらしがみつく昇太にうんざりする玲。もうそこの部分の毛根が傷つくんじゃないかと思うほど頭を掻く。
「でも、非常用の懐中電灯借りれて良かったよね。…無断だけど。」
「始業式の日に返せば大丈夫だよ。…多分。」
「そこは言い切ろうぜ蘭。」
「ひゃああ!?」
「うわあああ!?ど、どうしたひまり!?」
「♪◇○△○♪□♪☆○!?」
他愛ない会話していると突然ひまりが叫びだす。それと同時に巴と昇太も驚くと言う悪循環が出来上がっていた。しかも昇太に至っては文字では表現しにくい声になっている。
「い、今、窓に顔が映らなかった!?」
ひまりは震えながら窓を指差す。しかし、そこに映っていた物を見て玲は呆れる。
「ひーちゃんよく見てよ~。映ってるのつぐだよ~?」
「へ!?あ、ホントだ…。」
モカのツッコミにひまりは落ち着きを取り戻しホッとする。
「な、なんかごめん。」
「ったく、ひまりちゃん、驚かせんなよ…。幽霊とかいるわけないじゃん…。」
「そうだぞ。幽霊とかいないからな!」
「…そう言う昇太さんも巴も大きな声出してたじゃん。」
自分を鼓舞するように言う巴と昇太に対して蘭は冷静に指摘する。
「あ、あれはひまりが大きい声を出すから…!」
「音といえばさ~、ウチの学校の音楽室って夜な夜なピアノの音が聞こえてくるんだよね~。」
「えっ、なにそれ…。」
「何いきなりいらん情報ぶっ混むのぉ!?」
突然モカからの怪談情報にひまりは震え、昇太はガクガクしだす。
「羽丘女子学園に伝わる七不思議ってやつ~。聞いたことない~?」
「知らねぇよ!?俺はそんなの知らねぇよ!つか今この状況で言う!?」
「その話、聞いたことあるかも…。人体模型が動き出すとか、鏡に知らない人が映るとか、確かそんなやつだよね?」
「そーそー、他には~、階段が一段増えてるとか~、体育館でドリブルの音がするとか~。」
「た、体育館!?」
「は、ははは…まさか、そんな、噂だろ…?あり得ないって…!」
「はたしてそうかな~?それがあり得るかも~。」
突然始まった七不思議トークにひまりと巴は青ざめ、昇太は膝が疲れるんじゃないかと言うくらいガクガク震えだす。
「確か、グラウンドに井戸があるよね。そこを覗きこむと…。」
「…こむと?」
「中から手が出て引きずり込むんだって~。」
「うわぁぁぁぁ!?」
次々飛び出す怪談トークに耐えきれなくなった蘭は玲に飛び付く。ずっと昇太に飛び付かれててうんざりしていた玲のイライラも臨界点に達しつつあった。
「ねぇ二人とも!それ今話していいことかなぁ!?」
「そ、そうだよ!この話ここで止めよう!つぐも乗らない!」
「ご、ごめん…。」
「モカ、今度また脅かしたら強めに殴る。」
「正直俺、すっげぇイライラしてんだよ…。」
モカに振り回された蘭とそれに巻き込まれた玲はモカを睨む。
「ヤバい!蘭と玲、マジだよ!モカ!」
「ごめんて~。ほんのモカちゃんジョークだよ~。」
ひまりに警告を受けてモカはゆるく謝る。
「…あれ?七つ目の噂ってなんだっけ?」
が、残りの七不思議の一つを思い出そうとしていた。
「何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない何も聞こえない。」
昇太はまるで壊れた機械のように繰り返し呟く。
「あと一つ何だっけ~?つぐ、覚えてる~?」
「なぁ、この話止めようぜ?そもそも、俺ら参考書を取りに来たんだ。微塵も興味がない七不思議を聞かされてビビりに取りつかれる身にもなれよ。」
玲は右手が昇太、左手が蘭で塞がってる状態で止めに入る。
「そ、そうだよな!アタシたち、別に七不思議解明しに来たわけじゃないんだからな!早く脱出しないと…!」
「そ、そうだね!じゃあ体育館へレッツゴー!」
ひまりが音頭を取るが誰も進もうとしない。
「「「「「「「……。」」」」」」」
沈黙が流れる。
「ど、どなたか先頭を…。玲?」
「いやひまり。俺、ここからどうやって体育館行くのか知らないぞ。」
「じゃ、じゃあ、蘭?」
「え、アタシ!?」
振られると思ってなかった蘭は驚く。
「だって、蘭はいつも先に行っちゃうじゃ~ん。ど~ぞ?」
「そっ、そう、だけど…。」
尻すぼみする蘭だが玲はさっさと離れて欲しかった。蘭が腕をガッチリ抱き締めているせいか、何だか腕の感覚が鈍くなってきた。
「じゃ、じゃあ私が先頭を歩くよ!みんな、ついてきて!」
結局つぐみが先頭を歩くようになり、ひまりの提案で全員くっついて移動するようになった。
「おい、歩きにくいだろ。」
「れーくん、そう言ってても満更じゃなさそう~。へへ~。」
「…暗いからそう見えるだけだ。」
玲はモカから視線を反らしながらそう返した。
その後、二階の渡り廊下を渡って、実習棟から行く方が一番の近道らしい情報をつぐみから聞く。そして渡り廊下に行くための階段に到達したが…。
「…さて、このビビり二人をどうするか…。」
玲はモカの七不思議情報を思い出してしまったビビり(主にひまりと昇太)をどうするか頭を抱えた。
「だ、だってぇ!」
「モカちゃん、俺は上がりたくねぇよぉ…。」
縮こまって震える二人に玲は溜め息を溢す。
「アホ臭い。大体、階段の段数が増えたからなんだ?それで呪われるってのか?」
「てゆーか、普段の階段の段数とか知らないし~。」
モカと玲の発言で他の面々も冷静になっていく。
「…確かに。」
「モカ、たまにはいいこと言うじゃん。」
「モカちゃん実はいっつもいいこと言ってるんだけどな~。」
「学校の階段は、確か12段だったと思うよ。生徒会の仕事でよく校内清掃するんだけどしているうちに覚えちゃって。」
「…………つぐみちゃん…。今、その情報聞きたくなかったよ……。」
「階段の数、知ってしまった…。」
「あっ…ごっごめん!」
つぐみの気遣いがいらない所で発動してしまい、頭を抱える玲。しかもつぐみは悪気無く言っているのが更に玲をイラつかせた。
「…ねぇみんな。階段の数、数えてみない?そしたら七不思議を解明できるよ。」
蘭がこの現状を打開する案を出す。
「へぇ、いいとこ言うじゃん蘭。」
ずっと自分の腕を締め上げうっ血させようしていただけ蘭を玲は見直す。
「で、でも、13段あったら…?」
「そ、その時はその時!て言うか、玲が言ってたけどアタシたちの身に何かが起こることじゃないじゃん!」
不安がるひまりを説得する蘭。そして全員横一列に並び一段ずつ数えながら上ることにした。
半分過ぎた後も特に何も起こらず所々から安堵の息が漏れる。遂に12段を上がった瞬間、
「13!」
「!?」
巴の声が13と言ったのとほぼ同時に玲が咄嗟に振り向く。
「おい、巴、お前数え間違えんなよ。」
昇太がつっこむも巴はキョトンとしている。
「へ?アタシはちゃんと12で数えたぞ?」
「え?」
「え?」
「「……」」
血の気が引く昇太と巴をよそに、モカはずっと後ろを睨み付けている玲が気になった。
「ねー、れーくんはどうしたの~?」
「…俺ら、横一列に並んでたよな。」
「う、うん。」
玲の確認につぐみが頷く。
「さっき巴の声が13を数えた瞬間、俺の後ろに何かの気配を感じたぞ。」
人通りの多い中、ストーカーの気配を察知するほど感覚が鋭い玲の言葉に全員顔を見合わせ黙り込む。
「…先進もう!」
「あははそうだね!先進もう!ゴーゴー!私は何も聞いてない!」
「あばばばああばばばあっばあば!」
さっさと進もうとする蘭、目がぐるぐるになって明るく喋るひまり、ガクガクしながら初心者が動かすマリオネットのような動きで後を追う昇太。
「ひーちゃんとしょーくんが壊れちゃった…。」
「この先、何も起きないといいなぁ…。」
精神崩壊を起こしてしまったひまりと昇太を嘆くモカと何も起こらないことを願うつぐみも後に続く。玲はしばし階段の踊り場を睨み付け、蘭たちの後を追っていった。