あ、今回は玲と昇太の過去話です。
「なー、昇太はさー、いつ玲とああいう関係になったんだよ?」
羽沢珈琲店の昼下がり。客足もまばらになりつつある中、巴と昇太はテーブルを挟んで駄弁っていたら巴から質問が来た。
「あん?玲といつ知り合ったか?」
「あ、それ、私も気になる。」
店の手伝いをしていたつぐみも会話に入ってくる。
「あー、つぐみちゃん。休憩は入れられるか?ちょっと長い話になるんだが…。」
「ちょっと待ってね。父さんに確認してくる。」
つぐみが厨房にいる父に確認して休憩に入れた後、昇太は語り始める。今、花咲川の黒豹の肩書きを持つ少年との出会いを。
それは1年前、突然やって来た。昇太が不良グループのリーダーをしているとき、今現在は玲の住みかとなっている雑居ビルで夏祭りの見張りの配置に首を捻らせていたときの事である。
「大変だ、昇太!敵襲だ!」
昇太の腹心の部下である大崎が切羽詰まった表情で入ってきた。敵襲のワードに昇太は気を引き締めて傍らに置いてあった金属バットを持つ。
「何!どこだ!どこのグループだ!?」
「それが、一階が他所から来たガキ一人に押されている!」
「はぁ?ガキ一人ぃ?」
大崎の報告にすっとんきょうな声を上げながら一階に降りるとそこには死屍累々の光景が広がっていた。廊下を埋め尽くす部下の不良たち。その中に少女と見間違うほど華奢な身体、整った顔立ち、艶やかな黒髪の美少年がポツンと立っている。
「な…。」
昇太が言葉を失っていると少年は昇太の視線に気付き、こっちを向く。
「ねぇ、あんたがここのボス?」
まだ幼さが残る声は町内会の知り合い、宇田川巴と同年代である中学生の声だった。
(まさか、あいつ一人でこいつらを…!?中坊なのにか?)
「昇太、下がってろ…。こいつはヤバいぞ。」
大崎がナイフを取り出し、昇太を庇うように前に出る。それに対する少年の態度は平然としていた。
「俺さ、寝泊まりできる場所がほしいだけなんだけどこいつら話を聞いてくれなくてさ。」
困ったように頭を掻きながら倒れ伏す部下たちを見下すその姿に昇太は息を飲んだ。
(なんだこいつ…、立ち振舞いに無駄がない…。喧嘩で強くなるために空手を習った俺からすりゃどう動いても詰みだよこりゃ…。)
「ふざけんじゃねぇ!わざわざ俺の部下を殺しておいて寝泊まりさせろだと?寝言は寝て言いな!」
大崎が少年に襲いかかると、少年は素早く大崎の足を払い、顎に掌底を叩き込んだ。気絶した大崎を一瞥したあと、昇太に向き直る。
「はぁ。ねぇ、あんたは話聞いてくれる?」
そう言いながら距離を詰める。何かしようとしても対処できる距離だ。
「…ああ、分かった。話を聞こう。」
「ってのがアイツとの出会いだったな。」
一旦話終えた昇太は珈琲を一口すすった後一息着く。
「す、スゴい…。」
「つーか、ちょっと待て。あんたの部下が殺したっつってたけど本気で殺したのか?」
巴が切羽詰まった表情で身を乗り出す。
「いや、殺しちゃいなかったよ。ただ大崎の確認不足で全員気絶させられてただけだってのが後で分かったよ。」
「なんだそうだったのか…。」
巴はホッとしたように席に着く。自分の知らないところで幼馴染みが殺人に手を出したとなればそうなるだろう。
「まぁ、俺も面子があるからな。泊まらせてやる代わりに俺らと活動しろって約束したんだ。でも口約束だけじゃ不安だったから自前の契約書にサインさせたよ。あの時の余計な知識身に付けていやがってって顔を見て正解だったなって思ったよ…。でもな、活動に参加させるだけでも苦労が多かったんだよ…。」
「もしかして、玲くんが問題を…!?」
「あ、違う違う。いや、違ってもいないが…納得いかない部下がいたんだ。そうだな、そこら辺も話すか。」
「えー、つーわけで今日からの見回りは神前玲も参加させる。いいな?」
昇太が部下たちの前でそう告げると部下の間にどよめきが起きる。
「おい待て!何でそんな怪物を見回りさせやがる!」
大崎が真っ先に反論をしてきた。大崎はあの日以降、玲の事が気にくわないようで事あるごとに玲に因縁付けている場面をよく見かけていた。
「安心しろ大崎。お前の班には入れない。俺と一緒に回るぜ。道案内を兼ねてな。じゃ、見回り開始だ!」
昇太が説得すると大崎は渋々と言った感じに出ていった。その姿を見た昇太は溜め息を吐く。
「溜め息なんか吐いてたら幸せが逃げるよ。おにーさん。」
「誰のせいだと思ってんだよ…。可愛くねぇ奴…。」
「そりゃどーも。」
全く笑いもしないその顔に昇太は不思議に思いながらも道案内を始めた。
「まずはここだな。」
昇太が最初に案内したのはショッピングモールだった。
「ここは人が多いからな。トラブルが起こりやすいんだ。どの階に何屋があるか覚えときな。」
「あれ?昇太?」
昇太がそう言いながら無表情の玲を連れてぶらついていると声をかけられた。
「ん?お、リサじゃねーか。小物買いか?」
声をかけたのはギャル風の女の子。昇太の個人的な知り合いの今井リサだ。
「うんうん!友希那に似合いそうな物がないかなーって。昇太は何してんの?」
「ああ、ちょっと新入りがいてな。ここら辺を案内してんだ。」
「へぇー、新入りってどんな?」
昇太はリサの隣を指さす。リサは不思議そうに昇太が指さした方向を見て驚いた。新入りの不良がまるで雑誌モデルをやっていそうな中性的な美少年だったから無理もない。
「え!?し、新入りって、この子!?」
リサの声に玲は驚く。いや、正確には新入りというワードに反応したことだ。昇太は外堀を埋めようとしているのに気付いたのであろう。
「やだー!こんなかわいい子が!?」
そう言って抱きつくリサ。それに対する玲はうんざりした表情になった。しかし昇太は予想していた反応と違う反応で面食らう。
(ありゃ?このお年頃の子ならリサみてぇな子に抱き付かれたら赤くなると思ったんだがな?)
不思議そうに首をかしげる昇太。まるでちやほやされる子猫のようにリサになでくり回された後、玲は仕返しにリサに一言。
「ねぇ、おねーさん。あのおにーさんとはこういう関係?」
そう言って片手で人差し指と親指で輪を作り、もう片方の手で人差し指を輪の中に出し入れするジェスチャー。昇太とリサはしばしフリーズした後、
「ば、バカ野郎!止めろよそんなの!どこで覚えてきたんだ!?」
「あんたは俺の親父か?」
昇太は思わず怒鳴るがあっさりと流された。その後、顔を赤くしてオーバーヒートを起こしてるリサに昇太は謝る。
「すまんリサ。まさかこんな事言う奴とは思わなかった。…リサ?大丈夫か?」
「え!?あ、ああうん!大丈夫大丈夫!」
「…もしかして、おねーさんってうぶなの?」
まるで面白いおもちゃを見つけた子供のように、それでいてまるで色気がある肉食系男のようにリサに詰め寄る玲。
「え、あ、いや、その。ち、近い、かな…。」
リサは顔を赤くしながら壁に追い詰められ、壁ドン状態になる。段々と詰め寄る距離。思わず目をつむると、
「はい、もう止めとけ。年上をからかうな。」
キスしそうな距離まで詰められた瞬間、昇太が襟首を掴み引き離した。
「あ、ありがと…昇太…。」
リサはまたオーバーヒートしてしまった。
「…あいつリサさんにそんな事やってたのか…。」
巴は額に青筋を浮かべながら話を聞く。隣にいるつぐみも笑顔だけど全く目が笑っていなかった。昇太はここは話さないでおくべきだったかと思ったがあの時の玲はやり過ぎだったし、注意してもどこ吹く風のような態度だったので別にいいかと考え直した。
「にしても昇太が話したときの部下の態度と今の部下の態度全然違うよな。何があったんだ?」
「そうだな…ここからだな。俺とあいつが今のような関係になったのは。」
昇太のその発言でまた前のめりになる巴。
すると、ドアベルが来客を告げる。
「あ!蘭ちゃん!モカちゃん!ひまりちゃん!こっちだよ!」
どうやらAfterglowの面々が集合したようだ。昇太は偶然にしちゃおかしいと思ってたら
「えへへ、玲くんと昇太さんの過去を今話してるって言ったらみんな来るって言っちゃって…。」
つぐみはそう言ってAfterglowのグループチャットを見せるとそれぞれの返事で来ると言っていた。
「昇太さん!玲とどうやって仲良くなったんですか!」
「モカちゃんも気になっちゃいました~。話さないと夜気になって眠れないかもしれませんよ~?」
「別にアタシは…モカとひまりが行こうって言うから仕方なく…。」
三者三様の反応に昇太はニッと笑う。
「あー、今から話すよ。悪ぃ巴、つぐみちゃん。また同じ話するけどいいか?」
「ああ、別に構わないぞ。なんだったらリサさんとの出来事も話しちまえ!」
「? リサさんと会ってるの?れーくんは?」
こりゃ明日から修羅場だぞ?
昇太は明日の玲の運命に心の中で合掌した後、語りだした。
後半へ続く(ま○子風)