後半でござる。
「…今すぐ玲のバカを呼び出して。今すぐに。」
「蘭~落ち着きなよ~。明日なら休みだと思うから逃げ場が無いところで問い詰めよ~?」
「何やってんのよ玲のバカー!」
リサとのトラブルを話した結果、案の定Afterglow全員で玲を問い詰めるのが確定した。
「まぁまぁ、ここまでが俺と玲の馴れ初めだな。あいつには手を焼かされたって訳よ。」
「でも、今の昇太と玲の関係見てると違うような気がする…。」
「そうだな。決定的になった出来事があったのさ。それは去年の夏祭り前日の時だったな。」
「さて、俺がリーダーの座を降りた後、誰に譲るかぁ…。」
昇太は雑居ビル最上階の一室にあるベッドに寝転び、自分が作った不良グループのリーダーの座を誰にするか決めあぐねていた。元々このグループを作った理由は素行やら服装やらの理由で理不尽に退学させられた学生を救うために通っていた学校を止めてまで作ったのだ。
(大崎、はダメだ。あいつは頼りになるがこのグループの在り方を理解していない節がある。となると、有力候補は…神前玲、かぁ…。でもなぁ、あいつ何だか怖いし、誰も信用していないような所があるからなぁ。)
昇太は頭を抱え唸る。もし、神前玲に取っつきやすさがあるなら文句はないが、残念ながら彼にはそれがない。
(いっそのこと多数決で決めるかぁ?)
昇太はそう考えたが、玲がどのような手を使って投票を操作してくるか予測がつかない。結局どちらをリーダーにするかは決められなかった。
その次の日、夏祭りの見回りのシフトを組んでいるときに玲が入ってきた。
「ん、どうした?玲。シフト表ならまだ未完成だが…。」
「そのシフト表、大崎の班だけ偽のシフトにしてくれ。」
玲の提案に昇太は目の色を変える。
「…どういう事だ?」
「大崎と奴に賛同している奴らが秘密裏に俺を処分しようとしている。」
「…そのソースは?」
昇太が努めて冷静に玲に聞くと玲はポケットからボイスレコーダーを取り出した。再生すると大崎と大崎に賛同している数人の声がどうやって玲を引きずり下ろし、叩きのめすか密談している声が聞こえた。
「どうやってボイスレコーダーを?」
「簡単さ。大崎の仲間の奴に色気使って詰め寄ってその隙にポケットの中に入れたのさ。それに、大崎に関する面白い情報も手に入れた。」
玲が得た情報は大崎の親は弦巻グループの会社の部長らしい。親バカらしく過去、大崎がやらかした騒動があるらしいが被害者の意見を金の力で揉み消していたらしい。
(大崎が自分の家族構成を聞いても言わなかったのは親に虐待されてるかと思っていたが違ったと言うわけか…。多分奴は上から人を操る存在になりたい。そう考えている。)
昇太は大崎の思惑に気付きボス候補に除外する事に決めた。すると玲が喋り出す。
「全く、バカらしいね。大崎の部下の奴らは。ちょっとカマ掛けたらすぐコロッといきやがる。」
その発言に昇太はサングラス越しに玲を睨む。
「…気に入らねぇな。」
「…あんたの部下とは言ってないだろ?」
「それでもだ。あんたはあんたが言ってたバカをのぼせさせて、道具にしようとしてた。」
昇太は感じ取った。この少年は親にも道具としてしか見られなかったんだろうと。
「…それがどうした。お互い様だろ?奴らも俺を処分してボスになる道具にしようとしていたんだぞ?俺の気持ちなど知らないで…!」
玲のポーカーフェイスが崩れる。その感情を吐き出す様は初めて会った時とは全く違う印象だった。
「そうだ!俺に心があるなんざ思っちゃいないんだよ!お前に何が分かるんだ!」
まるで自暴自棄になっている子供のように叫ぶ。その叫びを受けて昇太は言う。
「分かるさ。」
「嘘こけ!分かってねぇだろ!」
反論される。だがそれでも昇太は言わずにおれなかった。
「それでも言うぞ!人の気持ちを、心を弄んでんじゃねぇ!そんな事したらお前は堕ちるとこまで堕ちていくだけだぞ!」
その説得がトリガーとなったのだろう。玲はハッとした表情となり身体を震わせるそして、
「…うるせぇ!おせっかいグラサン野郎!似合ってねぇんだよ!」
そう言って出ていった。
「おせっかいグラサン野郎って…。」
一人残った昇太はサングラスを変えようか迷ってしまった。
夏祭り当日。昇太は集まった不良グループのメンバーにシフト表を配る。
「んじゃ、今からシフト表を配るぞー。」
昇太はそれぞれの班に見回りシフト表を渡していく。そして、大崎の班にだけは偽のシフト表を渡した。
シフト表を確認した大崎は一瞬勝ち誇ったような笑みを浮かべた。昇太はその瞬間を見逃さなかった。どうやら確定である。そして、玲にもシフト表を配った後、解散となった。
そして不良たちが見回り兼祭りを楽しむのを見送った後、運営本部に向かう。
「お、昇太の坊主!いつも見回り頼んでくれてありがとうな!」
「いやいや~。毎度毎度イベント事に呼んでくれるだけ有り難いっすよ~!」
運営委員である町内会のオヤジと適当に駄弁って時間を潰す。
しばらく時間が経った。どうなるだろうか、大崎はどう動くのか、玲は無事か。そう考えていると後ろから声を掛けられた。
「よぉ昇太!」
「んぉ?おお、巴じゃん!今年もイカしてんな!」
現れたのは法被姿に身を包んだ巴だった。
「へへっ、だろぉ?いつも見回り頼んでくれるお陰でアタシも安心して太鼓が叩けるってもんよ!」
巴は昇太とそう話し合う。
「そりゃ良かった。俺はこのままトラブルが起きなかったら見に行くからよろしくな!」
「おう!最高の演奏で盛り上げてやるさ!」
そう言って巴は太鼓演奏の準備へと向かっていった。その直後、携帯が震え部下から連絡が入った。
「もしもし、俺だ。」
「た、大変です!ボス!玲が、玲が大崎とその部下と一緒に神社裏に連れて行かれたっす!」
来たか!そう心の中で叫んだ昇太はすぐに席を立つ。
「わりぃおっちゃんたち!トラブル発生したんで行ってきます!」
運営本部を飛び出すと後ろで商店街のオヤジたちの激励が聞こえる。その声を背中で受けた後、昇太は報告にあった神社へと飛ばした。
神社に辿り着いた昇太は裏手の方に気配を感じて向かって行くとそこには
「て、てめぇ、やっぱり化け物か!?」
全滅している大崎の部下。そして無傷で腰を抜かしている大崎を見下す玲の後ろ姿だった。
(ありゃ、杞憂だったか?)
そう思った昇太は踵を返す。すると、
「ふぇぇ~…。ここ、どこぉぉ~?」
突然聞こえた少女の声に昇太は振り向く。どうやら自分以外にも来てしまった人がいるようだ。
その声を聞いた大崎は立ち上がると声を出した少女を人質にとった。
「動くな!こいつがどうなってもいいのか!?おっと、声をあげるなよお嬢さん?声を出したら手が滑ってその綺麗な着物を切り裂いちゃうかも知れないからな?」
「…!」
大崎に捕まりナイフで脅される少女は目に涙を溜め震えている。無関係の人間を巻き込む大崎の姿を見た昇太は決意した。
(よし、ブチのめすか。)
こっそりと大崎の後ろへ回り込む昇太。幸い、大崎は目の前にいる玲にだけに注意を向けている。音を出さないように後ろから忍び寄る。
「はっ、結局お前もいい子ちゃんでしかなかったな!感謝しろよ?お嬢さん。あの坊主はお前の身代わりになってボコボコになるんだからな!」
「そうか。感謝するぜ?俺はあんたを遠慮なく殴り飛ばせるわけだ。」
昇太は後ろからそう言うと同時に振り向いた大崎の顔に正拳突きをお見舞いした。人質が大崎の手から離れた隙に昇太は人質の女の子の手を握る
「走るぞ!お嬢さん!できるだけ人が多いところに!」
「は、はい!」
神社を出た後、昇太は女の子を無事保護者に会わせてお礼を言われた後、また神社裏に戻った。そこには原型がないほど顔をボコボコにされた大崎が横たわっていた。
「うっひゃ。派手にやったなぁ。」
「必要以上に殴っちゃったけどいいかな?」
「なーに充分充分。後はこっちで何とかするよ。お前はこの祭りの名物イベントの太鼓の演奏がそろそろ始まるから聞いておきな。」
「…分かったよ。」
そう言って玲は一人歩いていった。
その後、昇太は部下に大崎とその賛同者を雑居ビルの地下室に閉じ込めておけと命じた後、度々お世話になっている御嬢様に連絡。そして大崎とその父親の問題を見つけ出し、黒なら左遷してほしいと頼んだ。
連絡をし終えた後、昇太が太鼓演奏の場へ戻ると、人混みから少し離れた場所のベンチに腰かけて目を閉じ耳を澄ましている玲を見つけた。ただ一点に集中して巴の演奏を聞いている。一体どのような感情で聞いているのかは予測できないが昇太は玲に話しかける。
「見事だろ?この太鼓が祭りの目玉なのさ。」
「…そうか。」
玲はそう一言、呟く。そしてどどんと締めの音が鳴り演奏が終わると歓声が響き渡った。玲は立ち上がる。
「…じゃ、俺帰る。疲れた。」
「そうだな。お前はもう帰れ。後の処理は俺たちがしておくからよ。」
昇太がそう言うと玲は手をぷらぷら振って答えた。
祭りの後、大崎の人質騒動は不良たちの間に知れ渡り、信用は失墜した。
そして、その大崎を下した玲はヒーロー的な扱いを受けたが本人は居心地が悪そうだった。そしてあの口喧嘩以降、玲は感情を表に出すようになった。昇太は次のボスの座は誰にするか決まり、肩の荷が下りた気分になった。
そして、大崎の父親はパワハラ、セクハラ問題を度々起こしており、大崎の父の部署はブラックで最悪の空気だった事が発覚。平社員降格の上、左遷させられたらしい。
「それ以降だな、今みたいな関係になったのは。あー、喋った喋った。」
話終えた昇太はコーヒーを啜って喉を潤す。
「あの太鼓の演奏…玲聞いてたのか…。」
巴はしみじみに呟く。
(玲くんのあの後ろ姿…分かってくれる人が少なかったんだね…。)
つぐみはいつか見た玲の後ろ姿を思い出し、納得する。
するとモカがうーんと首をかしげる。
「そーいえばれーくんの両親って何の仕事をしてたんだろ~?誰か聞いてない~?」
モカの疑問に全員首を振る。玲が自分のことを分かっちゃいないと吐露するまでの精神状態になったとき親は何をしていたのか。答えられるものはいなかった。
「ま、今は詮索しないでおいた方がいいかもな。あいつにとっちゃ辛い過去かも知れないからな。」
昇太は椅子の背もたれに突っ掛かっりながら話を切り上げる。
「あいつとはこれからもいつも通りに接してくれよ?お前たちに再会してからあいつ何だか嬉しそうだからさ。」
昇太のお願いに全員笑顔になる
「当たり前じゃん!玲も昇太さんもいてこそのAfterglowなんだから!」
「おぉ?俺も入れてくれるの?嬉しいねぇ、リーダー直々に仲間入りさせてくれるなんて。」
この子たちなら玲の過去の傷も癒してくれるだろう。Afterglowが笑い合いながら歩くなかに玲が加わっている未来を想像した昇太は笑顔になる。
「まぁ、まずは。」
「明日リサさんにセクハラしたことを問い詰めないとね~。」
後日、昇太のスマホに玲から大量のSOSが届いたが昇太はあえて無視をした。