ジナコさんinカルデア 作:クリシュナ実装はよ
Q&Aを加筆しました。
もうずっと、長い旅を続けている。
果たしていつからこの旅を続けているのか、今はもう思い出せない。余りにも果てしなく、長く、遠い旅。
目的地はたった一つ。この旅はずっと、その場所に辿り着くためのものだ。まるで呪いのように、夢現のように、私はただ、そこに向かって歩き続けている。
ああ。でもそこは一体、どこだったろうか。元よりここは、人の住まう所ではない。私の魂は疲弊し、精神は削り落とされている。肉体など、とうの昔に捨て去っていた。
そんな私を動かす、たった一つの理想。永遠に損なわれない、私の憧れ。
ある顔のない魂が告げた。もう休めば良い。そこはあなたの行くところではない。私に託すことを教えてくれたあなたがそうなるのを、私は見ていられない。
なるほど。その言葉は私にとって、確かに必要なものだろう。私は道を外れた。私はあらゆる死を、消失を怖れない。
私は最後に、とてもおぞましく、美しい選択をした。それは私の人生を、意味のあるものにしたと思っている。しかしそれだけでもう充分だと、満ち足りているとは、私には思えなかった。
心残りがある。ずっと諦めずに進み続けたいと思う理由があるのだ。それが何だったのか、もう朧気ではあるけれど。
誰かに引き留められた。それでも振り返らなかった。
誰かに手を握られた。それを振りほどいた。
誰かに足を斬られた。這ってでも進んだ。
一度止まれば命が尽きるとでも言うように、私はひたすら前進する。痛みも苦しみも抱え込み、ただ行くべきところへと届くように願う。
執念、妄執、妄念。そんな言葉すら生温い何かが、私の背中を押し続ける。その妄念の源泉さえも、とうに思い出せないと言うのに。
そうしてこのとき、私という存在は暗闇に落ちた。
歩き続けてから初めて、恐怖を覚えた。否、恐怖という感情を思い出した。常に私と共にあったはずのそれを、どうしてか私は忘れていたのだ。
先の見えない暗闇。最早感覚すらない全身。今は肉体などなく、魂と精神だけの身ではあるが、こうなってはどうしようもない。
泥に浸かるように、私という存在はこの暗闇に閉ざされた。周囲にふわふわと浮いていた魂も、興味深そうに見ていた人ならざる者もそこにはいない。
このとき、恐怖心の正体に思い至った。孤独感だ。馬鹿らしいことに、自分はこうなってまでひとりぼっちが怖いらしい。
──諦めようか。
今まで封じてきた言葉が頭に浮かんだ。諦める。それはとても耳心地が良い言葉だった。もう充分に頑張った。それだけで満足すれば良い。
──そうしよう。
私はそっと目を閉じようとした。もう疲れきっている魂は、それを拒否したりはしない。そうして何もかも手放そうとしたとき、どこかから月灯りが差し込んできた。
──これは、ずるい。
月灯りなんてこんな狡いことをするのは、私には一人しか思い当たらなかった。私は良くも悪くも、月に縁がある。あの人はきっと、私を見捨てたりはしないのだろう。だからこうして今も、希望の手を差し伸べている。
とうに磨耗していたはずの月の記憶が、私の中に鮮やかに蘇った。思い出したからには、進むことを止める訳にはいかない。私にはまだ、やらなくてはいけないことがある。
覚悟を決めた途端に、泥が体から離れていく。なんだ、こんなに簡単なことだったらしい。思えば私はいつも、誰かに助けてもらってばかりだ。
私は弱い。何よりも、その意志が。しかし今だけは、それを振り絞って進もう。多くのものを与えてもらった私は、それに報いなくてはならないだろう。いや、そんな義務感だけではない。何より私が、あの人たちに報いたいと思った。
私は力なく前に進んでいく。ひとりぼっちでも、僅かな月灯りを頼りに暗闇を進む。いつの日か、あの輝きに満ちた場所へと辿り着くために。
「これまでの旅を、オレは敬意を以て讃えよう」
月灯りが消え失せるまで歩き続けてから、長いときが経って。私はそんな声を聞いた。ああ。私はこの声を知っている。心に暖かな喜びが満ちていくのを、私は自覚した。
「オレなどのためにここまで来たのは愚かしくも見える。だが、オレが言えたことではあるまい」
そうして、妙に自己評価が高くない彼から、回りくどい言葉が漏れる。また一言足りていない、と私はクツクツ笑った。
確かにこの旅は全て、彼のあの言葉のせいだ。あんなことを言われなければ、私はこんな目に遭うことはなかったのに。
「返す言葉もない」
そのいかにも申し訳なさそうな様子が目に浮かんで、私は彼の顔が見えないことを残念に思った。
「どうやら、欲をかけば碌なことにはならないらしい」
無欲であれば碌なことにはならならなかった、とでも言いたいのなら、それは違うだろう。少なくともその欲は、彼を苦しめるものではない。私だって、もうしたいとは思わないけれど、嫌ではなかった。ならばその小さな欲は、悪いものではないと思う。
「いや、しかし、その苦行を味わうお前を見るのは少し、堪えた」
聖人のごとき清らかな言葉に、私は苦笑する。それでも彼のために何か出来ることがあったのなら、私にとってこれほど嬉しいことはない。そう、これは私にとって、幸福を得るための苦行だったのだ。
「そうか。なら、それにオレも何もしないわけにはいくまい」
彼がそう告げた途端に、視界に蓮の葉が次々と現れ始める。いつの間にか暗闇は消え失せ、水面に浮かぶ蓮の葉に、私は立っていた。辺りには蓮の葉が幾つも浮かび、時々蓮の花に彩られている。
「その蓮の葉を渡れば、オレに届く」
私はその言葉に頷くと、一歩一歩進み始める。不安定そうな蓮の葉は見た目に反し、案外丈夫だった。それでも小心者の私は、慎重に踏みしめていく。
そうして進んでいく度に、だんだん視界が明るくなっていった。月灯りとは違う、その華やかな灯りに向かって、私は体を進める。そうして突然、体が光に包まれた。
「ようやく、こうして会えたな」
「カルナ、さん」
気づいたときには、世界は一変していた。そこにあったのは黄金の宮殿。私の旅の終着駅。太陽の柔らかな光を放つ宮殿に、私は足を踏み入れていた。
そして私の目の前で、ずっと会いたかった彼が微笑んでいる。常人であれば熱波によって焼かれよう彼の姿も、今の私にはそよ風にしか感じられなかった。私は彼に近づき、手を握る。
「ずっと待っていた」
「私も、ずっと探してた」
私の頬を、もう流れないはずの涙が伝う。磨耗したと思っていた。擦りきれていたと思っていた。けれど私の心は未だ、彼に守られていたらしい。
私を形作るあらゆるものが、元の形を取り戻していく。私は喜びと共に、彼に笑いかけた。
「返さなきゃ、いけないものがあるんだ」
そんな私の言葉に呼応して、胸のうちから光が現れる。そしてそれは彼に引き寄せられるように近づくと、彼の体を覆った。
私は彼の手を離し、祈るように彼に告げる。
「ありがとう、カルナ」
「ああ──」
無愛想に、彼は言葉を返す。
これで私の物語は幕引きだ。振り返ってみれば、とても陳腐な物語だった。けれど誰が何と言おうと、私にとっては悪くないものだったと、胸を張ってそう言える。
そんな私をある少年は、一冊の本に
『鎧を施された、ある女の話をしよう──』
舞台は幕を下ろした。
それでもまだ、戦う理由は残っている。
「疑似サーヴァント、ライダー、スーリヤ。召喚に応じて参上しました。あなたがボクの、マスターっすか?」
Q&A
>カルデアの召喚形式なら契約したサーヴァントは死んでもカルデアに戻るだけじゃないっすか?
その通りです。ただ、ジナコの中には死した者は還らない、という思想があるので、サーヴァントの死をそのまま死として受け入れてしまうところがあります。月の聖杯戦争での経験もそういう発想の土台に。
というのが建前です。
ジナコに命を軽く扱ってほしくないのが一つ。ジナコが命を軽く扱うようになると、また風呂敷を広げることになって畳むのが大変でして。
それで痛い目を見るまで書くとなると本筋からも外れるので敢えて設定をねじ曲げました。この世界のカルデアの召喚は、所謂艦これ方式です。
いつの間にかカルデアにいるマタ・ハリだったり、特異点攻略ごとに出会ったサーヴァント全てを召喚している立香という設定も、全てのサーヴァントを扱いきれないために採用していません。
独自設定タグはそういうことでした。この世界は原典のゲームとは違う世界線、『ジナコの混ざった世界線』という裏設定が下地にありまして、平行世界のカルデアということで納得していただけるとありがたいです。
(清姫死亡回のあとがきに書いておこうと思っていたのをすっかり忘れていました。ご指摘ありがとうございます)
>月の王にザビがならなきゃ剪定確定らしいってのが原因だったのかな。
剪定事象になった原因はそれです。カリギリ世界は健康管理AIがカレンだったために、岸波白野は早々に敗退しました。よって剪定事象であることは早々に確定しています。
カリギリは元々才能はあるので、カレンに試練を課されればそれだけ強くなりました。因みにこの世界線ではレオは月に来ていません。 この辺りがカリギリ優勝のための最低条件です。
ただ、カリギリの解釈ではカリギリ世界が剪定事象になったのはカリギリが月の王になった(優勝した)からだと思っているため、家族を救うどころか世界が滅ぶ遠因になってしまったことに気を病んでいます。
自分の願いが叶わないこと、聖杯戦争で他人を踏みにじってきたことも合わさって豆腐メンタルがズタボロになって今に至ります。
>転生した描写ってありますか?
一話の地の文で前世があると描写してある他、作中にジナコの死因についての描写があります。
この物語はCCCでのジナコの物語の続きという設定で書いているので、ジナコはCCC世界からの転生となっています。