ジナコさんinカルデア 作:クリシュナ実装はよ
ジナコ=カリギリの一日は、マイルームに設置してある電子機器の調整から始まる。本来、そうしたものの調整は専門のエンジニアの仕事なのだが、ジナコに限っては別だった。ジナコはマイルームにある機器を使い勝手が良いように改造しまくっており、他人にほいほい任せられるような状態ではないのだ。
「……ふぅ。こんなもんすかね」
ジナコは達成感と共に首筋を解す。ジナコの手元にある機器には、この時代にはオーバーテクノロジーかと思われるようなAIが搭載されていた。人格こそないが、あのムーンセルのAIを参考にして作ったものだ。こういったものはジナコの専門分野と言っても良い。
そうしていると、館内放送から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『ジナコくん、今はマイルームかな? 支度が済んだらダ・ヴィンチくんの工房まで来てくれ』
「はいはい、りょーかいっすよ、レフ教授」
ジナコが応答したところで向こうに聞こえるはずがないのだが、それも気分である。ジナコはカルデアの制服、それなりに格のある礼装を身に付けると、マイルームを出た。
「ちゃお。おはよう、ジナコ」
「はろー。おはようっす、ダ・ヴィンチちゃんさん」
工房に慎重に入ると、ダ・ヴィンチが優しげに出迎える。ジナコは促されるまま、恐る恐る椅子のひとつに座った。
この警戒っぷりはおかしいことではない。
ちなみにダ・ヴィンチはとても美人で、まるでモナリザのようだが、モナリザに外見を改造しただけの変態である。
まあ、その点で言えば人のことを言える立場ではないが、ここまでの変態には勝てない。モナリザがダ・ヴィンチを性転換させた絵だという説もあるが、レオナルド・ダ・ヴィンチは史実通り、男性であるのだから。
ジナコが座ったからか、ダ・ヴィンチも適当な椅子に座り、口を開いた。
「うん、今日来てもらったのはね、君に協力してほしいことがあるんだよ」
「協力してほしいことっすか?」
「ああ。君は魔力が少ないからね。戦闘訓練もすぐに頭打ちになる。だから、こういう技術方面に協力してもらいたいのさ」
繰り返すが、ジナコはお世辞にも魔力に恵まれていない。今身に付けている礼装には治癒、筋力向上、一時的な防御、といった正しくマスター向けの効果が付与されているが、ジナコではそれを一日に一回ずつしか使えないだろう。かといって、魔術師としての技量がないジナコには、礼装の作製、改造が出来ず、その方面の技術を伸ばすには時間が足りない。
勿論、魔術に関して何もしていない訳ではない。他のマスター候補同様に、レイシフトに必要な知識は学んでいるし、同じチームの中でも面倒見の良い魔術師に魔術の基礎について薫陶を受けている。けれど知識ならともかく、魔力量の問題でジナコの魔術の修行は遅々として進まない。ただそれだけなのだ。
おかげでどうしても空いてしまう時間はシミュレーターにお世話になる日々だが、実戦とシミュレーションではどうしてもその心構えに差が生まれる。ジナコはレベルを上げて物理で殴るタイプのゲーマーだ。シミュレーターでも、危険を冒すようなやり方をやろうとはしない。従って、ジナコはシミュレーションのプロだが、実戦知らずのマスター、という状態になりつつあるのだった。
ジナコは、実戦経験というものがいかに重要なものかは自覚している。パッションリップ相手に逃げ惑うしかなかったのも、あの人に負けてしまったのも、それが大きな原因のひとつだというのはしっかりと理解していた。
なら、ジナコがシミュレーションに取り組むことにはほとんど意味はないのだろう。土壇場で決断できる能力こそが、生き抜くために必要なことなのだ。それを思えば、ダ・ヴィンチの提案は無下にするものでもない。
「私も現代の技術には感心するところが幾つもあってね。それを踏まえて新たに開発した物の被験者になって欲しいのと、君のコンピュータ技術、知識を貸してほしいんだ」
「危なくないんすか?」
「信用ないな~。そんな危険なものは扱わせないよ」
ダ・ヴィンチはそう告げると、一台のノートパソコンを取り出した。それを開いて少し弄ると、ジナコの前に見せてくる。
「今職員たちが扱ってる機器の自動化を進めようと思ってね。そのためのソフトを作ってるんだけど、私だけでやるには時間も足りないし、それにこの頃技師の皆も忙しそうで……」
「ボクにお鉢が回ってきた、と」
「そういうこと」とダ・ヴィンチは頷く。ダ・ヴィンチの言う通り、最近はマスター候補も揃い、初のレイシフト予定まであと二ヶ月、と言ったところだ。電子機器系統の技師たちは特に慌ただしくしている。
「それで、ついでに実験体になってもらおうかと、ね」
「その発言はともかく、ダ・ヴィンチちゃんさんはのんびりしてて良いんすか?」
「そりゃ、人手はあるだけあった方が良いけど、私の仕事は頭を動かすことだ。組み立てたり、調整したり、マニュアル通りの仕事をこなすのは私のやることじゃない。適材適所ってやつさ」
ダ・ヴィンチの発言は尤もだが、釈然としない部分もある。しかし、これも英霊の特権というもの。死後に引っ張り出された挙げ句働かされているのだ。これくらいの自由はあってしかるべきだろう。
そう。忘れがちだが、彼は人類史に刻まれている、歴とした英雄なのだ。ハンス・クリスチャン・アンデルセンと同じく、主に芸術面で評価された英雄。そんな存在に協力してもらわねば打倒し得ない敵とはいったい──。
「量産型桜さんとか、魔性菩薩さんとか、出てきてもおかしくなさそうっすね……」
「ん? 何の話だい?」
「いや、未来が観測できなくなった、その黒幕について考えてたんすよ」
このカルデアである日突然、未来が観測できなくなった。人類史が消失してしまう未来が見えてしまった。そんな事態が簡単に起こるはずがない。緩やかに世界が終わるなら、それはまだ理解できる。しかし、それが突然の事態であるならば、何らかの人為的なものが感じられた。
「ふむ。黒幕がいると仮定すると、どうして世界を滅ぼそうとしたんだろうね」
「そうっすね……例えば、人類が思いのままに生きられる世界を作ろうとした結果、それが自分の思わぬ方向に転がってしまった……とか」
というかBBである。彼女は人為的なバグによって完全に暴走したAIで、人類のためになると思ったことが、人類が望んでいないことだと理解できなかった。
人間がどうなろうと興味はないと言っていたが、正常な状態ならそんなことは思わなかっただろう。あれは殺生院キアラが植え付けた願いだったのだから。
ともあれ、そういった手違いの可能性だ。
「そうだとして、手段が問題だね。一瞬で世界を作り変える能力……サーヴァントでもできる者がいるか怪しいキワモノだね」
「世界を覆う固有結界?みたいなものとか……」
「ジナコちゃんは知らないだろうけど、固有結界っていうのはそんなに便利なものじゃないんだ。常に世界から修正を受けるから、とても長時間維持できない」
ジナコはナーサリー・ライムの宝具が固有結界である、という曖昧な情報しか知らなかったため、固有結界について深く理解していなかった。固有結界は宝具扱いされるだけあって、魔法一歩手前の大魔術らしい。それゆえに、その力はピーキーだ。
「だからムーンセ……聖杯戦争ってのにみんなほいほい釣られてくるんすね」
「確かに、万能の願望器、聖杯を用いれば、それは可能になるかもしれない。例えばジナコちゃん、世界平和ってどういうことだと思う?」
ジナコが月の聖杯戦争のことを思い出しながら告げた言葉に、ダ・ヴィンチは問いを返した。質問の意図を汲みかねて、ジナコは素直に答える。
「そうっすね……徹底した管理社会、社会主義の成功した世界とかっすかね。誰もが公平に幸福を享受できる世界。……尤も、公正と公平は似て非なるモノっすけど」
ジナコが想像したのは、西欧財閥によって資源が管理されていた前世のことだ。ジナコ自身は管理社会にはあまり肯定的ではないが、それもひとつの理想の形であることに間違いはない。
「毒を吐くね~。うん、それもアリだ。けどさ、人間が一人もいなくなったら、どう? それって平和だって思わない?」
「え……」
「だって、争いは起こらない。そもそも、人がいないんだから」
ダ・ヴィンチの口にした言葉は、余りに過激だった。それではまるで本末転倒である。しかしそれは確かに、BBの理想に近いものがあった。そう、その結論はBBの願いと鏡合わせだ。人間の全てを肯定する願いと、人間の全てを否定する願い。どちらも願いの果ては破滅だけだ。
「世界の終わりっていうのは、そういう願いの果てにあるのかもしれないね。こんな世界、終わってしまえば良い、とか。どうせこんなことになるくらいなら、消してしまえ、とか」
「でも、そんなの、重たすぎる……」
「……ああ。確かに、それは身勝手な誰かが一人で決めて良いことじゃないね。一人が終わるならその人の勝手だけど、それに誰かを巻き込むなら良い迷惑だ」
ジナコは世界を滅ぼす、ということの重みに苦痛を感じたが、ダ・ヴィンチの同意によって少し安堵する。ダ・ヴィンチは天才だが、存外優しい心根の持ち主らしい。変態ではあるけれど。
「それに、私はこういう生きていく上での困難は乗り越えていきたいと思う質でね。戦い抜いた上での死ぬことこそ本望なのさ」
「ダ・ヴィンチちゃんさんらしいっすね」
「もう死んでるんだけどね」
ダ・ヴィンチはそんな笑って良いのか分からないような言葉を放ちながらくすくすと笑う。こういう何事も前傾姿勢でやり抜くような姿勢が、万能の天才を生み出したのだろう。そう思うと、どこか感慨深いものがある。
「こうしてカルデアに召喚されたからには、困難に真っ先に直面していくことになる君たちマスターを全力でサポートするよ。だから、ジナコも安心して力を貸してくれれば良い」
「うん、そうするっす」
ジナコの頷きに、ダ・ヴィンチは満足そうに頷き返す。そしてノートパソコンのキーボードに手を伸ばした。
「それじゃ、今日は小一時間ほどよろしく」
「はーい」
こうして二人は暫くの間、怪しげな研究、もとい自動化ソフト製作に励んだのだった。
ダ・ヴィンチとのソフト製作に熱が入りかけたところで、ジナコはカルデアの制服以外の礼装の受取日が今日であることを思い出した。なんと、今日はアトラス院から礼装が届くらしい。あの、最強厨と呼んで散々からかった相手の本拠地である。なんとなく、その繋がりを思ってしまうのもやむ無きことだった。
ダ・ヴィンチの工房を出てカルデアの入り口にやって来ると、幾つかの真新しい木箱が並べてある。流石アトラス院と言うべきか。魔術師らしい古めかしい入れ物だ。段ボールに詰めた方が重量的な負担が少ないだろうに。
ジナコがそうして木箱を良さげに入り口の隅に寄せ、蓋を開けていると人影が近づいてくる。ジナコが足音のした方へと向くと、このカルデアの中では会えて嬉しい部類の姿がそこにはあった。
「カドックパイセンじゃないっすか!」
「ジナコ=カリギリ……」
「やだな~。ジナコさんで良いんすよ?」
「いや、僕は……」
カドックは相変わらず顔色の悪そうな顔で後ろへと下がる。彼はカドック・ゼムルプス。このカルデアにおいて、Aチームに所属する、つまり一流のマスター候補である。
しかし彼女がカドックを好ましいと思っているのは、カドックにシンパシーを感じているからだった。カドックは魔力量は少ないが、レイシフト適正は高い。完全にジナコの上位互換である。
そうであっても、彼はAチームの中では最低位と言わざるを得ないマスターだ。その境遇に、ジナコは同情せずにはいられない。周りが天才だらけだと、凡人は苦労するものなのだ。特にAチームのキャラは中々に濃い。
「ほら、これが新しい礼装っすよ~」
「ん。助かる。ありがとう、ジナコ」
「カドックパイセンはほんと癒されるっす……」
「止めてくれ……」
カドックはアトラス院からの礼装を受け取ると、逃げるように立ち去ってしまう。ジナコは少し残念に思いながらも、礼装を片手にマイルームへと戻った。
昼時になり、ジナコは食堂へと向かう。調理スタッフによる手抜き気味な料理だが、カルデアのスタッフの人数を考えれば仕方のないことだ。ジナコはカレーを注文すると、いつも通り適当な席に座る。
「ここ、良いかしら?」
「げ、オルガさん……」
「げ? 何を言ってるの? それで……良いかしら?」
オルガマリーは微笑みながら告げるが、その目は全く笑っていない。ジナコは誰も助けてくれそうにないと分かると、コクリと頷いた。
「よろしい」
「それにしてもオルガさんがボクのところに来るなんて、珍しいっすね」
基本的にオルガマリーは一人で昼食を摂るか、レフと二人で摂ることが多い。良い歳のおっさんが美少女に手を出しているという酷い図になっているのにも気づかず、オルガマリーはレフといるときはとてもご機嫌だ。そんなオルガマリーがジナコに近づいてくるのは、天変地異の前触れとしか思えない。
「私だって、誰かと食事を摂るくらいします」
「ボクより良さげな人はいっぱいいると思うんすけどね……」
但し、オルガマリーが懇意にしているAチームでは、その少なくとも半数がろくでなしである。ペペロンチーノとか、どこからどう見ても(ネーミングセンス的に)ヤバい人だ。ジナコのおすすめは魔術師らしくない、平凡な人である。ジナコは平凡と平穏をこよなく愛する
「あなたに機知に富んだ会話なんて期待していませんが、以前からもう少し話すべきとは考えていました」
「はぁ」
ジナコはオルガマリーの言いたいことに思い当たらず、曖昧な返事をする。ジナコは所詮、出来合いのマスター候補に過ぎないはずだ。オルガマリーはそんなジナコの態度に、これみよがしに溜め息を吐いた。
「はぁ……あなたは最年少で、魔術師としてはからっきしではありますが、このカルデアでは最高のレイシフト適正の持ち主です。であれば、あなたが戦力として相応しいのか、私には見極める義務がある」
オルガマリーの言うことは正しい。最年少で、魔術が碌に使えない。それは、レイシフトという危険な任務において、とんでもないハンデだ。そもそも、この年齢でカルデアに招集されたことからして異常と言って良い。
それだけ切羽詰まっている。そのことが、ジナコには少しだけ引っ掛かった。
「私は、あなたみたいな子どもがカルデアにいることすら気に入らないわ。役に立たずに和を乱すことは目に見えているもの」
「やっぱそうっすよね……」
「けれど、それはそれとして私の成功のために使えるものは使います」
オルガマリーは極めて厳しい口調を崩さない。しかしその言葉は、ジナコに逃げる可能性を与えているかのようでもあった。そのことに自己嫌悪してしまう。こんな年若い少女が悪ぶってまで気遣っているなんて、余りにも高潔な精神だ。
他人の良いところを見つける度に自己嫌悪してしまうのが悪癖であることを、ジナコは自覚している。それは、あの人にも指摘されたことだからだ。それでも、ジナコは簡単に自分を好きにはなれなかった。期待が大きければそれだけ、本当の自分に絶望してしまう。それがジナコには怖い。
「……あなた、両親のところに帰りたいと思ってる?」
「そりゃ思うっすよ。家族にはいつだって会いたいし、けど、それと同じくらいボクはパパとママがこれから生きていくための手助けがしたい」
それはジナコの偽らざる本音だった。カルデアスの火が消え、二〇一七年以降の人類史が観測できなくなった。そんな混沌とした現実も、そしてこれからの未来も恐ろしい。ジナコは精神的にも肉体的にも弱い。しかし呆れたことに、ジナコは無謀な挑戦に飛び込んでしまうくらいには愚かだ。
必ず後悔すると言われれば、なるほどその通りだろうと思う。愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ。しかし本当の愚者は、経験からすら学べないのだろう。今ジナコがしていることは、ある意味前世でしたかったことの焼き直しなのだから。
ジナコの返答に、オルガマリーは言葉を詰まらせた。ジナコの知るところによれば、オルガマリーの父親は既に亡くなっている。
自殺だと言うが、それにしては不自然だと思う節もあったらしい。何でも、自殺をしたくせに、後二年は生きるつもりだったかのようなものが幾つも出てきたり、と。オルガマリーはもしかしたら、そんな父親について思うところがあるのかもしれない。
「ボクが救いたいのは世界とか大仰なものじゃなくて、目の前の家族なんすよ。ボクはちっぽけだから、それが限界なんす」
「……つまり、世界を救うとしてもそれはついで、だと?」
「うーん。まあ、そういうことっすね」
オルガマリーはジナコの言葉に頭を抱えた。そして暫く唸ると溜め息を吐いて口を開く。
「あなた、大物なのね」
「へ?」
「私にとって、世界を、人理を継続することは父から受け継いだ義務です。決して、ついでなんて思えるほど軽いものじゃありません。だって、それが私の人生そのものだから」
その言葉にジナコは気づいた。ジナコは知らず知らず、オルガマリーの大切なものを蔑ろにしていたのだ。それをこのように諭されるなど、寧ろ感謝すべきかとすら思えた。ジナコは失態に気づくなり、頭を下げる。
「オルガさん、ごめん」
「何? 見せかけの謝罪なんていらないわよ。どうせ私を助けてくれる気もない癖に」
「……」
オルガマリーは苦しそうな表情で言い捨てると、トレーを持ってジナコの前から立ち去る。ジナコにはそれを止めることは出来なかった。ジナコも、オルガマリーの言うことは尤もだと思ったからだ。あの人ならともかく、ジナコではオルガマリーのことをちゃんと助けることはできないだろう。
けれど、これからはもっとオルガマリーに優しく接しよう。そう、ジナコは心の中で決めたのだった。
今日の分のシミュレーションを終え、ジナコはマイルームへと帰る。いつも通りのルーチンワーク。何も変わらない日常。そんな日々がときどき、とても悔しい。
何か起こるのは知っている。
何かおかしいのは感じている。
何も出来ないのは理解している。
奥歯に何かが詰まったような感覚がジナコの身を苛む度に、ジナコは頭を打ち付けたくなった。それでも、どうしようもない悔しさを抱えてやっていくしかない。それもまた、ジナコを苦しめる。
後少しで今日が終わる。後少しで、今日のジナコは許される。そんな妄想を抱えながら、ジナコは景色の変わらない廊下を歩く。
そんなジナコに、意外な声がかかった。
「ジナコくん、今日は大丈夫かい?」
「……レフ教授」
にこやかに笑いかけてくる彼の相手をするのも、今のジナコにとっては面倒だ。早く話を終わらせて欲しい、と祈りながらジナコは頷く。レフはそれに眉根を下げた。
「昼のことを小耳に挟んでね。マリーはあれでも案外愛らしい人なんだ。だから──」
「別に、気にしてませんよ。オルガさんのことはボクなりに、分かってますから」
ジナコはそう捲し立てるように告げると、足早にその横を通り過ぎる。レフはそれを止めることはなく、黙って通り過ぎていくのを眺めた。
──それぞれが思惑を抱えながら、人理焼却は訪れる。