ありがちやりがちn番煎じな逆行ものですが楽しくいきたいと思います。
01
お別れするときはもっと辛く苦しいものかと思っていたが、出久が想像するよりもずっと気分は穏やかだった。
ただ、そんな彼を見下ろす彼らはそういうわけには行かないのだろう。朦朧とする意識のまま視線でだけどうにか姿を捉えることができる人々は、誰もがその目に涙を浮かべていた。
不謹慎だが、母が早世していたのは不幸中の幸いかもしれない。
かつての平和の象徴オールマイトから個性を受け継ぎ、それとともに平和の象徴を目指した出久だったがそうはならなかった。
オールマイト一人に平和を預けた結果、彼の弱体化とともに連鎖したヴィラン連合などの事件をきっかけにメディアが変わったということもあるが、単純に出久一人の肩には重すぎたのだ。
だが平和の象徴は引き継がれた。出久一人ではなく、彼とともに学び過ごしたクラスメイトたちに。
事務所も活動地域もバラバラ。それでもチームアップした彼ら彼女らは今も繋がり続け、その繋がりは今やそれぞれの後継者へと受け継がれつつある。
一人が支える平和ではなく、みんなで支える平和。かつてオールマイト一人から始まった平和の象徴という種は彼の弟子となった出久へと受け継がれ、出久から彼の仲間たちへと広がり芽吹いた。
そしてこれからも広がり続けるはずだ。他ならぬ出久の弟子たちから、その仲間たちへ。
「せんせ、、せんせぇっ……!」
引き止めるように、すがりつくように手を握り締め泣きじゃくる弟子に声をかけてやることはできない。代わりに残された僅かばかりの力で握り返してやる。独り立ちしたにもかかわらず泣き虫なところは自分にそっくりだ。出久も、何度オールマイトに泣き虫だと言われたことか。
だから出久は泣くなとは言ってやれない。ただ前だけは向いてほしい。下を見て立ち止まっても、最後には顔を上げて笑って歩き出して欲しい。
そんな思いが通じたのだろうか、霞む視界の中でぐしゃりと精一杯の笑みを浮かべたのは勘違いじゃないと思いたい。
「っ……!みてっ……て、くだざい!せん、せにも……おる、っまいと、にも!胸、はれるよ、頑張るがらぁ!」
がんばれ。
声は出ない。けれどそう唇を動かしたつもりで、それはちゃんと弟子に届いたのかギュッと力強く握り締められた手から燃えるような熱さが伝わってくる。
向こうへ行けばオールマイトに会えるだろうか。母やグラントリノにリカバリーガール。多く見送ってきた人々。話したいことはいくらでもある。
ただ少しばかり若い死を咎められるかもしれない。リカバリーガールに叱られるだろうか、学生時代のように。
それでもオールマイトだけは、彼はきっと笑ってくれるだろう。君はしょうがないねと。
まぶたの裏に蘇るのは桜吹雪。そして夕暮れを背に揺れる金色が差し伸べる大きな手。その手は個性だけでなく、出久に夢と未来を与えた。夢を叶えるべく歩き出した道は出久を傷つけることもあった。母を泣かせることもあった。多くの人を悲しませることもあった。
けれどそれ以上に、出久は幸せだった。これ以上の人生など望めはしない。
(たのしかったなぁ)
眠るように自然に目を閉じる。
それが平和の人柱、ヒーローデクの最期だった。
最期に、なるはずだった。
* * *
目を覚ました出久が真っ先に思ったのは、自分がまだ生きているという事実についてだった。子供の頃の懐かしい光景にいよいよお迎えが来たものだとばかり思っていたがまたしても追い返されてしまったらしいと目を開き、驚き飛び起きる。そして飛び起きたことにも驚いた。
「なっ……」
最初の驚きは見知った病院の天井ではなかったことだ。次の驚きは、その事実に体が俊敏に反応したこと。
若くしてヒーローデビューを果たした出久の体は度重なるヴィランとの戦いで随分とガタがきていた。さらにそこへ忍び込んで来た病魔によって衰弱し続ける一方だった。
末期の一年に至っては体調が良ければ看護師や見舞客の手を借りてどうにか身を起こすのがやっとというほどで、やがてそれすらもできなくなり食事を摂れなくなってからは寝そべったまま見舞い客を迎える日々が続いていた。目を覚まして観たら一週間が過ぎていたなんてこともあったぐらいだ。
それが今やどういうわけか羽のように体が軽い。むしろ軽すぎて頼りないほどだと自身の体を見下ろしてみれば、目に飛び込んで来たのは傷一つない白く頼りなさそうな手のひら。さらにその下に見えるのはひょろりと小枝のような足。
困惑のままあたりを見回せば目に飛び込んでくるのは所狭しと貼られたオールマイトのポスターや棚に飾られた数々のグッズ。
忘れるはずもない。雄英で寮生活を始めるまでの15年間を過ごした実家の子供部屋がそこに広がっていた。
「どう、なって」
そうこぼした自身の喉を抑える。声変わりの後もそこそこ高かった出久の声だったが、今耳に飛び込んで来たのはもはや聞き馴染みのない高いソプラノ。まるで少女のような声をしている。
「出久……?」
混乱が収まるのを待たずして聞こえた声に我知らず肩が跳ねた。
自分の声が自分のものか確証は持てなくとも、忘れるはずもないその声に息を飲んで扉を見つめる。
返事は待たないまま押し開かれた扉の向こうから、ひょこりとのぞいたのは若々しい母の酷く疲れきったような顔。それがみるみるうちに驚きへと変わり、見開かれた目に大粒の涙があふれ、こぼれ落ちた。
「出久!」
「お、お母さ」
バタバタとおっとりとした母からは思いもよらぬような勢いで詰め寄られ、身構える間も無く抱きすくめられ出久はただ身を強張らせた。
何もわからないこの状況で母に似た存在に身を委ねるのはどこか恐怖さえあった。それでも出久が落ち着きを取り戻したのは、出久を抱きしめる女性の体が震えていたからだ。
「よか、よかったっ……もうほんとに、お母さんこのまま出久が、目を覚まさないんじゃないかって」
涙交じりの声。痛いほどの締め付けに出久もそっと女性の背中へ腕を回す。
「ごめんね、お母さん」
彼女が出久の母なのかどうかなど、今はどうでもよかった。
目の前で不安に泣く人がいる。ならばデクがすべきは彼女を安心させること。
ただそれだけだった。
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