さらに前回に引き続き担任や前年度担任の捏造、クラスメイトの勝手なキャラ付けなどしております。
推薦入試。まさか、という話だった。というより知ってはいても脳裏にほんの一片たりとて過ぎることのなかったフレーズだ。
出久がどもりながら一体どこの話かと担任に問い返せば、彼はさも当たり前のように、むしろわからない出久が鈍いというように「雄英に決まってるだろ」と笑う。
「爆豪もそうだが、緑谷も模試はA判定。去年と同じ調子でいけば学業、課外活動、生活態度共に内申に問題なし。資料を確認したところ、雄英の方で個性の有無について言及する記載もなかった。個性ありきで話しているともいえるが、記載していない以上受験資格はある。まぁ、制度の穴を突くという感じだな。俺はよく知らんが、お前のゴミ掃除に巻野先生も時々顔出してたんだろ」
「は、はい……夏休みなどに、車を出してくださいました」
「それで巻野先生が、あれだけ頑張っているのに無個性なんて理由でチャンスを潰されるのはあんまりだろうと言ってな、雄英の推薦について一生懸命調べてくださったんだ。あとでお礼を言っておきなさい」
願書を出すにもまだかなりの猶予があるから、とその話はひとまず切り上げとなった。
前回とのあまりの違いに呆然としながらも、昨年の担任の元へ行って首ふり人形か水飲み鳥のようにペコペコと頭を下げてどうにか謝辞を並べ立てて職員室を後にする。
「推薦、かぁ……」
ぼんやりと夢見心地に帰り道をたどりながらひとりごちる。興味がない、わけではない。しかし推薦入試を受けるメリットがあるのか。
出久はただ雄英に行きたいわけではない。かつて苦難を共にしたクラスメイトと、かつて過ごすことのできなかった学生らしい時間を共に過ごしたいのだ。
もちろん最終的なクラス分けは雄英側が決めることで出久にはどうしようもないことであるし、あるいは以前はA組にいなかった誰かがA組になり、出久や他のクラスメイトがB組に振り分けられるという可能性も十分にある。相澤がそもそも担任にならないという可能性だって考えられなくはない。
正直にいえば、雄英に合格するだけなら自信があった。すでに身体能力だけでいえば、雄英一年時の体育祭と同程度かそれ以上に出来上がっている。パワー不足は否めないが、入試の実技試験に用いられた仮想敵ロボット程度なら、戦い方次第でどうとでもできると言い切るだけの戦闘技術や知識は十分にあった。さすがに0ポイント仮想敵を吹っ飛ばすなんて芸当は難しいが、街に被害を出さないよう行動不能にするだけでいいのならやりようはある。
出久は無個性で、努力以外は取り柄を持たない凡人だ。
受けるのならば一般入試。他の受験生のサポートで救出ポイントをメインに稼ぎ、足りない分を仮想敵で稼ぐ。再び”あの”A組へ戻るのであれば、できるだけ前回と近い順位になることを意識するほうが出久の望みは叶うだろう。
「僕は、」
突如、意識を遮るようにボンと鈍く何かが爆発するような音が遠くから響いた。一瞬の異音に周囲の通行人も何事かと顔をあげ、すぐさまスマホや携帯端末を取り出す。
その中で出久はただ一人、顔を真っ青にし強くアスファルトを蹴り付け走り出した。
脳裏をよぎるのは、かつての爆豪の苦しむ姿と、ヘドロの姿をしたヴィランによる事件。
「っ、かっちゃん!!」
血相を変えて猛進する出久に通行人は慌てた様子で道を譲る。避けきれず足を止めた人間は出久自身がすりぬけるように避けて足を止めることはなかった。
担任の呼び出しを時間の無駄だと思うほどに、大事な用事があったのだ。どうしても行かなければならない場所があったのだ。
断続的に続く爆発音を頼りに道も何も関係なくただひた走る出久がやがてたどり着いたのは、かつて炎に包まれたあの商店街とは違う、駅前の広場だった。
「やっべ、火の海じゃん!」
「ヒーローまだかよ」
「いや、なんか中学生が捕まってて、その子の個性が暴走してんだと」
「なんか居酒屋のボンベに引火したらしいぜ」
「まじか、やべー!」
「ガンバレー、カムイー!!」
人垣で何が起こっているのかはわからない。けれどその中心で何が起こっているのかは口々にのぼる興奮した話ぶりから容易に想像できる。
「くそっ」
「少年……?」
息を飲み、振り返った。そこに立っていたのは、息を切らしいつもよりさらに青ざめた顔色で立ち尽くすオールマイトだった。
「お、……っにいさん」
「何やってるんだ、ここは、危ないから。早く、逃げなさい」
言葉は切れ切れに、ゼィゼィと引きつった呼吸を繰り返すその姿は今にも倒れそうなほどだった。いや、倒れてないことがおかしいというべきか。
「お、っ……あ、あなたも。早く休んで。とりあえず、そこの植え込みにでも座って」
「……情けない、本当に……ヴィラン一人まともに捕まえられず、何がヒーローか」
出久という足止めがなかった為に、取り押さえることができなかったのだろうか。
それが理由だったとして、他にどんな事情ややむを得ない理由があったとしても、彼が自分を許すことはないだろうと思うと、悠長に職員室で進路相談などしていた自身に腹が立った。
血を吐くかのようなその叫びに出久がかけられる言葉などあるはずもなく、苦しげに胸を抑えるその体を支えるように手を添える。
「何やってんだ、デク」
そんな出久の耳に飛び込んできたのは、信じがたい声だった。
「っ?!か、かっちゃん?」
「おぅ、センコーの話おわったんか。それと、そのおっさんどーした」
買ったばかりなのだろう缶ジュースを手にしたまま不思議そうな顔をする勝己に、出久はただ目を見開くしかない。
「か、っちゃ……かっちゃんこそ、なんで」
「あー、本屋寄って帰ろうとしたらこのザマだ……さすがに、あれじゃあな、帰りづれーわ」
静かな言葉に反して、顔は普段にも増して凶悪だった。しかし、その言葉の意味がわからない。そんな出久の疑問が顔に出ていたのだろう。不愉快そうに荒っぽく舌打ちをこぼし「うちの女子だ」と吐き捨てた。
「、ひ、人質が?!」
「あ?あぁ。……おい、デク。なんだこのおっさん」
「え、っと……最近知り合った人で、こういう事件とか見るのは慣れてないんだって」
彼がオールマイトなのだと言えるはずもなくとっさにごまかしたが、しかし嘘ではなかった。体の調子さえ万全なら、ただ見ているだけの聴衆に甘んじるような人物ではない。
その悔しさや憤りの相まった表情と顔色の悪さに勝己も納得したようだった。あるいは、通りすがりの男など気にしていられないということだろう。
「それで、うちの女子って」
「……お前の隣の席の炎の個性持ち。火野、っつったか」
出久は我知らずあげそうになった悲鳴を飲み込むように口を抑えた。そして人垣の向こうへ目をこらす。
顔もおぼろげな少女の姿など見えるはずもなく、時折暴れまわるヘドロの飛沫だけが高く上がるのが見えた。
勝己がなおも言葉を続けているのはわかったが、頭の中には入ってこない。
いや、それどころか出久は気づけば勝己の手から缶ジュースを奪っていた。
「かっちゃん、この人をお願い」
「は?」
「っ、少年!無茶は」
「それと消火器、ありったけかき集めて!」
制止しようとするオールマイトの言葉を遮り、虚を突かれた勝己の手に捕まるよりも早く人垣を突き抜ける。「止まれクソデク!」と叫ぶ勝己の声は聞こえたが、そんな事で止まるぐらいならそもそも飛び出したりはしない。
「デク?!は、おまえ!!」
伸ばされたデステゴロの手もかいくぐり、手にした缶を目一杯に振りながらリュックサックから片腕を抜く。
考えるより先に体が動いていた、なんてそんな青臭くカッコつけた理由ではない。
ただ、出久はヒーローだった。誰が知らずとも、それが遥か未来で遠い過去だとしても、出久は間違いなくヒーローだったのだ。そしてヒーローである以上、動かないという選択肢はなかった。たったそれだけの、ただ出久のちっぽけな矜持を貫くためのくだらない理由だった。
「おい、こら!くそったれヴィラン、ぼさっとしてんじゃねぇ!」
腹の底から目一杯に怒鳴れば、どこからか「少年、口調違うよ!」と叫ぶ声が響いた。熱がこもると口が悪くなる。どうしても治ることのなかった、悪癖といえば悪癖なそれは虚勢を張るには都合が良かった。
「あ?なんだ、」
「っせぇい!」
目一杯の力を込めて愛用のリュックサックを投げ飛ばす。紐で引き締めるだけの単純な作りのバッグからバサバサと飛び出す学用品は、しかしヘドロに埋まるだけで煩わしげに弾き飛ばされた。
「バカなガキが!んなもんでどうにかなるかよ」
「そうだね」
伸ばされるヘドロの腕をかわし、両手で構えた缶をヘドロへ突き出す。
「こっちが本命だ!!」
カシュッと小気味いい音と共に開いた缶の口から勢いよく吹き出した炭酸は、出久の狙いどおりヘドロの目元へ直撃した。
「ぐぎゃっ!、目、目が!」
所詮は目くらましでしかないが、炭酸は目に入ると地味に痛い。そして目に痛みが伴うほどの異物が入った時に人がとっさに取る行動は大体一つだ。
どこが手ともわかりづらいヘドロであるが、ほんのわずかにひるんだ一瞬。出久は崩れ落ちそうになる少女に半ば体当たりするような勢いでその体を捕まえると無理やりに引き剥がし、引き返すことなくそのまま走り抜けた。
「バカ野郎が!」「後ほど覚悟しておけ!」
背後から聞こえる怒声に苦笑いしつつ少女をひらけた場所まで運べば、すでに救急隊が待ち構えていた。
「脈、呼吸はありますが意識はありません」
「ありがとう!君も早く下がって!」
はい、と答える出久の声をかき消しヘドロが喚き散らす声が響く。けれど人質のいなくなったこの状況で、解決は時間の問題だった。
それからヘドロとの決着がついたのは十数分ほどしてからだった。
デステゴロとシンリンカムイの連携で、逃げ場がないほど雁字搦めにされたヘドロはその後警察に引き取られ、火事もバックドラフトと勝己がかき集めてきた消火器によって消し止められ事件は落着した。
そして、当然出久は怒られた。以前よりもはるかに厳しい叱責となったのは、消火器をかき集めた功労者である勝己が率先して怒鳴り散らしたせいだろう。
「てめーの頭に詰まってんのはおがくずか?!海藻みたいな頭してプランクトン程度の知能しかねえのかクソが!」など、などなど。よくもまぁそれだけのボキャブラリーがあるものだと思うほど散々に怒られ怒鳴られて、ついには叱責していたはずのヒーローたちが「もうその辺に」と出久をかばうなんて本末転倒なことになってしまったのは笑い話にしていいのか。
ともあれ、そうして筋書きの変わってしまったヘドロ事件はどうにか幕を閉じたのだった。
>>13
炭酸は、目に入ると、痛い。
本当に。これ本当。
あと、なぜか中学の時に缶コーラを全力で振って爆発させるという理科実験をやった。
結局なんのための実験だったかはよく覚えていない。とりあえず爆発するコーラがすごかった実験でした。
そして、原作とは違いオールマイトさんはおやすみ。
すでに限界突破してそうなので、出久くんによりかっちゃんという見張りを立てることで動きは封じられました。
しかし、原作でオールマイトがいなきゃあのヘドロはどうやって片付けたのか。
有利な個性持ちを待とうって流れでしたけど、割とあのヘドロ最強な気がして仕方がないです。