緑谷出久のハッピーアカデミア   作:nitchey

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「推薦だぁ?!」

 さんざん怒鳴られ叱られ、ヒーローたちにもう帰ってもいいと言われてなおも帰る道すがらクドクドと小言を続ける勝己に「なんで黙ってあんなことをした」としつこく問われ、困り果てた出久が苦し紛れに返した答えがそれだった。

「うん。それで、改めてヒーローって何かなって考えてたら、つい」

「ついじゃねーわ!だったらテメーが消火器集めりゃすむ話だろうが!」

「ご、ごめん。かっちゃんならきっとわかってくれると思って」

「分かりゃいいってもんじゃねえぞクソが!!つかあのセンコー、俺には何もいってねえぞこら!」

 まぁそりゃ、君成績いいけど生活態度は悪いもの。とはさすがに言えず空笑いでお茶を濁す。

「実際学校側としては僕に対する救済措置って感じなんだと思うよ。うまく合格できれば儲け物ってぐらいじゃないかな。先生も、制度の穴を突いたっていってたし」

 更に言えば、ダメならダメでさっさと見切りをつけて他の高校受験に意識を向けさせようという気遣いか。無個性を理由に落とされるようならば、雄英の普通科やその他の高校の受験に集中させようという意図は少なからずあるだろう。

 その点、勝己に関して言えば日頃の言動を除けば何の心配もないからこその放置か。信用とも言い換えることができる。

「まあ、貰えるもんは貰っとけや」

「え?」

「何うだうだ考えてんのか知らねえが、推薦だろーがなんだろーが目指すもんは同じだろうが。そんでダメなら一般でリベンジすりゃいいってだけの話だ」

 出久が真に悩むことなど知るわけもない勝己の助言は少しばかり的外れで、しかしストンと出久の胸に収まった。

 推薦を受けるか否か。悩んでいたのは自分に対する自信のなさからではない。これだけ散々周囲を引っ掻き回しておきながら、いざ目の前に突きつけられた自分以外の変化に怖気付いただけの話だ。

 今更、失った未来を取り戻すことはできない。あの日々は、何も知らず無力だった出久だからこそ手に入れられたものなのだ。

「そっか。そうだよね。そうだよ、僕がやることに何も変わりなんかないんだ」

 もはや、かつての彼らに出会うことはない。あの日、病室で眠りについたその時に出久はあの世界にも、あの世界の友人たちにも別れを告げたのだ。

 彼らと過ごしたかった日々に未練はある。けれど、それはまたこの世界で一から始めるものだ。それを手に入れるために、出久はかつてと同じ道を進むことを選んだのだ。

「まぁ、推薦受けたところで受かるとも限らねーけどな。そもそも個性以前に推薦何つーもんは世の中のエリート様向けのもんだ。没個性どころか、無個性庶民なんかお呼びじゃねえだろうよ」

「そんなの、やってみなきゃわからないよ」

「へーへー、せいぜいやるだけやって泣かされてこいや」

 かつての爆豪と同じく、勝己も口は悪い。けれどそこに確かに感じる絆のようなものに、出久はこみ上げる喜びを推し隠せず笑みをこぼした。

「ありがとね。やっぱ、かっちゃんはすごいや」

「はっ、俺がすげーのは当たり前だろうが、デク」

「ふふっ、そうだね」

 黄金色に染まる景色の中で、出久が見つめる金色はかつてとは違う。けれど、彼もまた出久が確かに憧れた人である。

 やはり自分という人間は今日という日から始まるのだなと、誰にも伝え難い感慨を覚えながら、出久は先を行く背中を追うようにゆっくりと足を進めた。

 

 

「本当に行くの?」

「ちょっと走ってくるだけだよ。1日休んじゃうと後が大変だし、落ち着かないから」

 心配そうな母の声を背に受けながら、足をなじませるように靴先でトントンと床を叩く。

 時刻は7時を回ったところだった。手の離せない用事があったりすればこの時間からトレーニングに出ることも珍しくはなかったが、さすがに昼間同じ学校の生徒が被害にあう事件があったためか引子は少しばかり神経過敏になっているらしい。

 気持ちはわからなくもないが、残念ながら今日はたまたま身近な人間が巻き込まれる事件だったというだけで、ヴィラン事件自体は珍しい話ではない。悲しい話であるが、それが今の超人社会である。

「走ったら直ぐに帰ってくるから」

「……気をつけてね」

 心配という表情を貼り付けたまま、けれどそれ以上引き留めることもなく頷く引子を安心させるように笑って頷き、出久は玄関の扉をくぐると街灯に照らされる夜の団地を走り抜けた。

 目指すはいつもの海浜公園である。

「推薦を目指すとしたらもう少し負荷を増やしたほうがいいかな。いや低負荷で筋持久力をのばすか。結局オールマイトほど筋肉つかなかったし、まあその分落ちにくかったのはよかったけど。最近体重もなかなか増えないし食事メニューも見直して」

「君、君!ちょっと、少年!」

 一口にランニングといってもそのペースは人それぞれだが、出久のペースは一般に比べるとかなり早い方である。そのため走っている最中は思考に没入することも多く、知り合いやすれ違う母に声をかけられても気づかないことがほとんどだ。

 そんな中、珍しく思考の中に割り込んできた声に出久は少しばかりスピードを緩め、その人物を認めるや否や急ブレーキでストップした。

「オールッる、る、ルイトさん!」

「誰それ?!ッケホ、いやもう私のことはおじさんでいいから」

「おー、にいさんは!おじさんじゃありません!!って、そんなことより、昼間はあの後どうでしたか?」

 小さく咳を挟みつつも自身をおじさんと称するオールマイトに出久が反論するのはもはや脊髄反射に近しいところがある。

「うん、おかげで私の方はなんともないよ。君があの少年を見張りにつけてくれたおかげでマッスルフォームにもなれなかったしね!」

「や、なんか、すみません」

「謝ることはないさ。正直にいって、あの場でオールマイトとして飛び出すのは難しかった。迂闊にも活動限界を超えてしまってね。……不甲斐ない話さ」

 言葉の合間合間に軽く咳き込むのは、やはり昼間の活動の際によほど無理をしたためなのだろう。顔色こそ少しばかりましなように見えるが暗がりでははっきりしたことはわからない。

「あの、よかったら少し移動しませんか?近くに公園もありますし、そこなら自販機なんかもあるので」

「いや、長話をする気は無いよ。トレーニングの邪魔をしちゃってるしね。まあ、ここにいれば君に会えるとは思っていたが。まず、君には礼を言わねばならない。ありがとう」

「え、ええ?!いや、昼間のことなら、むしろ僕はヒーローの邪魔をしたようなものですし。お、あ、貴方やかっちゃんのことも、僕が勝手な判断で!ああ、もう、頭を上げてください!」

 ガバリと深々下げられた頭にうろたえつつ、どうにかその身を起こしてもらおうを肩に手をかければ、逆に出久の手はすばやく大きな手に捕まえられた。

 トゥルーフォームはマッスルフォームと比べるとひどく貧弱というだけで、骨格そのものなどが変わっているわけでは無い。背を丸めているせいで分かりづらいが身長もかなり高く、痩せた手は出久よりひとまわりもふたまわりも大きい。

「君の無茶に対して友人やヒーローが叱責するのは当然だ。あれは、あまりにも無茶だった。だが、君がその無茶な行動に出なければ、あの少女は死んでいたかもしれない。君が無茶をしたからこそ事態は動き、状況が変わったのさ。少なくともあの場において、君は間違いなくヒーローだったよ。誰が言わずとも、私がいう。君は、ヒーローだと」

 詰め寄るオールマイトの落ち窪んだ眼窩の奥で、鮮烈な青い瞳が輝いていた。その力強さと、かけられた言葉に出久は言葉を詰まらせた。

「そんな君だからこそ、伝えたいことがある。……本当のことを言えば、初めて出会った時から、予感はあったんだ」

「よ、かん?」

 こみ上げる感情を押さえ込み、オールマイトの言葉に問い返せば出久を掴む手は離れ彼は自らの胸元へ手を添えた。

「私のこの個性は、ずっと君を呼んでいた。君がそうなのだと私に訴えていた」

 心臓がどくりと高鳴る。覚えのあるその仕草に、言葉に、全身の細胞が期待するように騒めき、出久は息を詰まらせ食い入るように義勇の光を灯すオールマイトの瞳を見つめた。

「だから君に、私の力を受け継ぐ後継者になってほしい」 

 涙腺が決壊し、ボロリと涙がこぼれ落ちた。その涙の意味をオールマイトが知ることはないだろう。

 受け取ることはできないと、諦めていた絆だった。それを望むことは誰かが犠牲になることを望むことだと。そして実際、少女を一人巻き添えにし差し出された絆は、ずっと出久を呼んでいたなどという。

「そ、その、少年!嫌なら、あのね?え、そんなに嫌だった?その、変な勧誘とかじゃなくてね」

 同時にこみ上げる罪悪感と歓喜。押し殺すこともできずその場にうずくまりボロボロと涙をこぼす出久にオールマイトもうろたえながらしゃがみこんだ。

 涙で滲む視界の中、朧げに輝く月に金の髪と桜が踊る。

 時、場所が違えど結ばれる絆に、出久は涙を止められぬまま精一杯に笑って見せた。

「ぼく、緑谷出久って言います。ずっと、貴方みたいなヒーローになりたかったんです。貴方みたいな、最高のヒーローに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>14




知らない二人のお話

と、いうわけで悩みに悩んだ末の継承ルートに突入です!
何日か前の活動日誌じゃ書いてた気もするけど、とりあえずアンケートにご協力くださった皆様
ありがとうございました!

しかし、これいつまで中学編続くのかしら。
書きたいことありすぎて止まらんわ〜。はよ雄英行きたい。
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