「これはトップシークレットだ。この秘密を知るものはごく限られたものしかいない。平和の象徴である”オールマイト”がナチュラルボーンヒーローであらねばならないというのとは別に、この力を持つものは、いずれ巨悪に立ち向かわなければならないからだ」
翌日の放課後、出久がこれまでのトレーニングメニューをまとめた資料を渡すとともに俊典から打ち明けられたのはオールマイトの個性の秘密だった。
すでに出久はその全てを知っている。だが改めて語られたその力の責任の重さに自然と身が引き締まる。
「聖火のごとく引き継がれてきた力の結晶。冠された名をワン・フォー・オール。一人が培う個性を次へと”譲渡”する個性だ。本来であれば、もう少し器を研磨してから君にこの力を渡そうと思っていたが、私の予想よりもはるかに時間は短い。よってプランを大幅に縮小して、個性のコントロールを中心にトレーニングを行なっていこう」
「はい!」
そこからの流れについては、お察しである。
プツンと俊典が自身から抜き取った髪を「食え」と差し出され、出久はなんともいえない微妙な心地になりながらそれを口に運んだ。
オールマイトマニアにしてオールマイト信者である出久だが、この瞬間だけは何度思い返してもどうにかならなかったのかと思わずにはいられない。ただ、ステインなんかは喜ぶかもしれないとちらりと思った。
「……出久少年、もう少し人の言葉は疑ったほうがいいよ」
「それ、あなたが言いますか」
髪の毛を飲むというのはなかなかに至難の技である。なお、出すのも難しい。口の中に張り付くそれに口をモゴモゴと動かし、最終的には水筒のお茶でどうにか流し込んだが喉の奥にまとわりつくような違和感はなかなか拭えない。
「いや、今の行為に意味はあったよ、もちろん!ワン・フォー・オールの譲渡は持ち主のDNAの摂取によってのみ行われる。つまり、後数時間。胃の中で私の髪が消化されるころには、もう君は無個性の少年ではなくなるというわけさ」
かつての出久は個性を得たというそれだけで歓喜した。無個性であるということを理由に夢を諦めようとしていたのだから、憧れのヒーローからその個性を譲り受けるのはさながら一生分のクリスマスプレゼントを誕生日に受け取ることにも等しい。
だが、同時にそれはオールマイトが力を失うということである。真に幼かった出久はそのことに気づけないまま、彼の秘密が暴露された神野の悪夢を迎えた。
「今日の夜にも君は個性を使えるようになるだろうが、私の監督なしにこの力を使わないと約束してくれ」
「え、」
「この力は、いわば成長する個性だ。私自身全力で戦ったことはほんの数度。少なくともメディアで見せてきた以上の力を秘めている。迂闊に使えば君自身が傷つくだけではない。君が守りたいと思うものさえ傷つける可能性もあるんだ」
ワン・フォー・オールが秘める力の大きさは出久自身がよく知っている。受け取ったばかりの頃は全くコントロールができずに、幾度も四肢を壊し歪ませてきた。地を跳ねるだけで足は砕け、振りかざすだけで腕がもげそうなほどに傷つく。
故に、出久としてはもちろん無理をするつもりなどなかった。第一、ここで四肢が粉砕するようなことがあれば、傷の治療だけで数ヶ月を費やすことになってしまう。まだ見も知らぬリカバリーガールを頼ることはできない。
ではどうするか。答えは一つ”地道に頑張る”しかない。その為にもできるだけ毎日トレーニングを行いたいところである。あいにく残念なことに出久は俊典や勝己のような天才型ではない。日々思考を重ねトライアル・アンド・エラーを繰り返すことでしか上昇できない努力型だ。
とはいえ、やはりワン・フォー・オールの力の大きさを思えば、俊典のいうことは尤もでしかなかった。
「そう、ですよね。それじゃあ、オールマイトがいない時は」
「うん、基本は今まで通りでいいと思うよ。何より、君がヒーローになるがためにこの海岸を放り出すというのは、それこそヒーローとして矛盾しているからね!筋トレやストレッチに関しては次回新しいメニューを持ってこよう。少しハード……いや、ぶっちゃけめちゃくちゃキツくなるだろうが、どうかな」
案ずるような口ぶりに反して、俊典の目はどこか挑戦的に煌めいている。そして出久もまた、望むところだとばかりに笑い返した。
「もちろんです!頑張ることなら、誰にも負けませんから!!」
「そう来ると思ったぜ!」
気合いは十分。阻む壁などすべてうちこわして見せると言わんばかりのやる気を見せる二人であったが、決定的に足りないものが存在しているという事実が発覚するのはその二日後の夕方のこと。
「えぇと、その……いえ、わかるんですけれど、」
「あのね、出久少年、はっきり言ってくれていいよ。うん。おじさん覚悟してる」
お揃いのジャージに身を包み向かい合う出久と俊典の間には奇妙な緊張感が横たわっていた。
前日は俊典の都合がつかず早朝にトレーニングメニューを受け取り、出久は個性を使用しないまま新メニューの筋トレやストレッチを行った。全体的にハードな内容になっていたため、個性を使用する前の準備運動と思えばちょうど良かったと言える。
そしていよいよ本日、軽い準備運動がてらストレッチやランニングなどの基礎メニューをこなしたのち、いよいよ個性を発動させようという段階に至って、二人のトレーニングは遅々として進まぬどころかほんの一歩すらも踏み出せないまま立ち往生することになった。
原因はすでにはっきりしている。だがはっきりしているからといって、それがすなわち即解決につながるというわけではない。
「いいんですか?」
「……うん、大丈夫。覚悟は、できてる」
恐る恐る尋ねる出久に対し、俊典も到底覚悟ができているとは思えない顔つきで頷いた。そこでまた躊躇しそうになる出久だったが、ここで踏み出せなければいつまでたっても個性のトレーニングなど始められはしない。
意を決して、出久はひどく辛そうに顔を歪め口を開いた。
「その、言いたいことはわからなくもないんです。本当に。ええ、わかります!わかるん、ですけど……」
「……わかりにくい?」
「すみません」
オールマイトの弟子として、俊典の生徒として言うべきとわかっていても出久にはどうしても言うことができなかった。
だが目をそらしたところでそこにある事実を覆すことはできない。
ワン・フォー・オールという個性で結ばれた師弟の間に真っ先に立ちふさがったのは、師である俊典の圧倒的な指導力不足という残酷すぎる現実であった。
>>16
【としのりせんせーのわんふぉーおーるこうざ!】
「じゃあ出久少年!早速個性を使ってみようか!」
「はい!」
「いきなり全力で使って身体を壊すといけないからね!ちなみに全力の時はケツの穴をグッと引き締めて心の中でスマッシュと叫びながら拳を全力で振るえばいい!」
「はい!」
「で、パワーを抑えるには」
「するには?」
「……」
「……?」
「ええと、とりあえず缶コーヒーを握り潰さないぐらいの感覚というか、持ったものを破壊しない程度の力加減なんだけど」
「えー、ああ」
「こう、そっと、ね?あのね。わかるかな、ジャンプした時にアスファルトにヒビが入らない感じで。腕をなぎ払っても風が起きないように」
「あの、八木さん、落ち着いて」
「……わかる?」
「……」(そっと目そらし)
最初っからある程度フルカウルできるかなと思う出久くんでしたが
全く参考にできないアドバイスにできるとは言えずじまいでした、っていうお話でした。
多分最初からOFA使いこなせたとかなんとか言ってたかつての俊典少年は
新しく得た力で力で自分が壊れるよりも、周囲のものを破壊してそうな気がします。