「おはよー!なんか久しぶりだね!」
「今年の連休長かったもんね」
何処にいった?何をしてた?そんな少しばかり悠長な会話で盛り上がる教室の中、出久はぐったりと机に突っ伏していた。
普段の出久であれば始業前のわずかな時間をも惜しむかのごとくハンドグリップ片手に授業の予習復習をするところだが今はそんな気力すら湧かず、わずかな休息を貪るかのように周囲の喧騒に無関心だった。
だが出久が周囲に無関心だからとて、相手が出久に無関心とは限らない。ガツっと容赦ない振動が机に当てられたことで出久は机に突っ伏したまま首の角度だけを変えてその正体を確認した。概ね予想通り。不敵な笑みをたたえる幼馴染の姿がそこにあった。
「よぉ。いいツラしてんじゃねえか」
「……ぉはよ、かっちゃん。たのむから、せんせーきたらおきるから、ねかせて」
「はいそうですかっつーぐらいなら、最初から起こしゃしねえよ。えらくお疲れみてーだが、なにやっとったんだ」
出久は頭を上げなかった。とはいえそれで諦めるぐらいならいう通り最初から起こしたりはしないだろう。ガタガタと椅子を引きずる音にもまだ耐えた。
「まあ俺もジムの方に入り浸ってたが、大したことねーわ。どいつもこいつもやる気があんのかもわからねー口先ばっかの没個性しかいねえ。お前のゴミ掃除手伝っとる方がまだマシかと浜に行ってみりゃ何処にもいねーわ、連絡つかねーわ。おばさんに聞いてみたら、あのおっさんに何処ぞへ連れてかれたっつーしよ」
あぁ、これは。出久は突っ伏したまま煩わしげに呻いた。
声ばかりはなんとなく上機嫌なように聞こえるが、こういう時の勝己は間違いなくキレている。原因に心当たりは、あった。
自宅を訪ねたという時に、おそらく引子から色々と出久の近況について聞かされたのだろう。できれば出久の口から直接伝えようと思っていた諸々全て。
別に個性が発現したことについて知られること自体は問題ないのだ。
問題は、その話を誰から聞かされたかということだ。
「なあ、出久くん。ちょっとばかしお話しようや」
パチパチと火花の弾ける音に出久はとうとう諦めてノロノロと頭を上げる。同時に、教室のドアが開く音。黒板の上の時計を見れば、針は朝礼の時刻数分前を指し示していた。
「かっちゃん、かくすつもりとか、そんなんじゃないんだ。ちゃんと話すからさ、昼休みとか、ほーかご」
「ちっ……ばっくれたら爆殺すんぞ」
ボムッと小さく弾けた爆音に出久はおざなりに手を振り間も無く始まるであろう朝礼に備え、居住まいを正し大きなあくびを一つこぼした。
そして昼休みのチャイムが響くや否や、出久は素早く勝己に襟首を引っ掴まれ、校舎裏へと拉致された。
「かっちゃん、ぼく、おべんと……」
「逃がさねえっつったろ」
「…言ってない」
逃げたら爆殺するとは言われたが。ともあれ出久に逃げるつもりなど最初からない。ただ、今日は弁当を持ってきていないからせめて学食に寄って欲しかったと思えば、それを見透かしたかのように勝己が反対の手に持つ大きな風呂敷包みを持ち上げて見せた。
「今日おっさんのとこから直でくるっつーのはおばさんから聞いたからな。安心しろ、弁当はうちのババアが余分に作った」
「わぁ……」
正確に言えば今朝までグラントリノの事務所で世話になり朝一の新幹線に飛び乗って帰ってきたのである。実に勝己の見通しは素晴らしいとしか言いようがない。朝のうちに話を聞けないことすら想定済みとばかりのどや顔に半笑いで返した結果、校舎裏についたところで投げ捨てられた。事情を知らない下級生が見ればまるきりカツアゲかいじめの現場そのものだ。
「で、個性が出たっつーのはどういうわけだ」
「いきなり核心つくんだね」
「その為にわざわざこんな場所まで運んでやったろうが。感謝しろボケ」
ひっくり返った出久には見向きもせず、せり上がった校舎の基礎にどっかりと腰をおろして弁当包に手をかける勝己に出久ものそのそと身を起こしその隣へ腰掛ける。
「ん」と差し出された弁当にはご丁寧にもレストランで見るような使い捨てのおしぼりが添えられていた。こういう細やかな気遣いができるというのに、普段の言動で本当に損をしていると少し勿体無く思いながら出久は礼とともに弁当を受け取った。
「で?」
「で、って言っても、多分お母さんから聞いたまんまだと思うけど、連休前に海浜公園でゴミ処理してたら、ゴミの山が崩れちゃってね。その時のことはあんまり覚えてないっていうか気絶しちゃったんだけど、その後病院で検査受けたら個性発現したことがわかったんだ」
「そこがわからねえ。なんで今頃個性が発現してんだ。個性の発現は漏れなく4歳、遅くとも6歳には発現するもんだっつーのが常識だろうが」
ビシリと割り箸の先を突きつける勝己に苦笑しつつ、その箸をそっとおろさせる。もちろんこの点についてもグラントリノは実に良い言い訳を用意してくれていた。
「うん、ただ個性の発現自体はしていても発動が遅れるケースっていうのは稀にあるんだって。僕の個性はリミッターって言って、脳のリミッターを外して許容限界を超えた動きができるようになるパワー系個性だったよ。今まで発動しなかったのは、脳のリミッターが外れるほどの動きをする必要がなかったからみたい」
そして肉体が耐えられる限界以上の動きをすれば四肢が砕ける。実際にそういう個性持ちが過去にいたらしく、もともとグラントリノは俊典のためにそういう言い訳を用意していたそうだ。とは言えオールマイトが日本でデビューした頃には学生時代とはまるで別人の画風になっていた為、その言い訳は無用のものとなったそうだが。
「火事場の馬鹿力っつーやつか」
「そう、それ!で、使いこなせないと怪我をしかねないからって、八木さんの知り合いのところで個性訓練をさせてもらってたんだ。結構なおじいさんで、訓練中はスマホの電源切っとけー!って言われてね、知らせるの遅くなっちゃってごめん」
合理的虚偽ってやつだ。貼り付けたような笑みで言ってのける未来の担任の顔が脳裏をよぎり、出久は内心「嘘は言ってません」と言い訳した。真実とも言い難いが。
前回は色々とあった末、勝己もまたワン・フォー・オールの秘密を知る協力者の一人であった。しかし本来であればワン・フォー・オールの秘密は誰にも打ち明けてはならないほどの秘密だ。打ち明けるとしても相手やタイミングは考えねばならない。隠しっぱなしというのもあまりよくはないが。
「個性訓練できる知り合いって、あの八木っておっさんほんと何もんだ」
オールマイトです。心の中でのみ返して「詳しいことはバイト関係の守秘義務で言えないけど、訓練してくれた人は一応プロヒーローだよ」とさりげなく答えておいた。
「プロヒーローだぁ?!おい、デク!まさかヒーロー詐欺なんてアホなもんにつられてんじゃねえだろうな!」
「つられてないよ!!本物だってば!あんまり表に出てこないっていうか、もう大分お年を召されてるから知らない人が多いってだけで」
「金は!アホみたいな授業料払わされてんじゃねえだろうな!」
「いや、授業料とか特には」
「はあ?!」
素っ頓狂な声とともに食べかすが出久の顔めがけて飛んできた。
「気は確かか!無償とかなお怪しいわボケ!!」
「もう!どう答えたら満足してくれるんだよぉ」
弁当そっちのけに肩に掴みかかってきた勝己に出久がお手上げだと情けなく声をあげれば「納得できるわけねえだろクソが!」とさらなる罵倒が重ねられた。
結局出久がどれだけ説明したところで勝己が納得することはなく、後日俊典が来るであろう日に監視をすると言いだしたことで出久はさらに頭を抱える羽目になったのだった。
>>19
出久の眼に映る世界
オールマイトとグラントリノの二人に指導を受ける贅沢環境。
かっちゃんの眼に映る世界
【24】幼馴染が謎の痩せたおっさんと無名ヒーローに個性指導受けてるとか言いだした件について【すべき?】
字面で見るとかっちゃん視点がほんとにやばいですね。
ちなみにかっちゃんが通うジムはヒーロー科志望の学生が個性訓練をするための場所というイメージです。
そう言う場所がないと個性伸ばせませんし、使ってみろって言われてもいきなりできないでしょうしね。
そのあたりのイメージ設定を本日の活動報告に書いてますのでよろしければのぞいてみてください。