「爆豪勝己。折寺中3年。この頭ん中まですっからかんな木偶の馴染みだ」
顎を突き出し親指でクイと横に立つ愛弟子を指す少年に思わず俊典は「うわぁ」と溢れそうになった声をぐっと飲み込んだ。
グラントリノの元から一足先に日常へと戻っていった出久からの連絡で、話にばかりよく聞く「かっちゃん」が自分に会いたがっていると言うのは知っていたが、どう見てもこれは歓迎とはいえないだろう。俊典を出迎えたその面構えはヴィランすら裸足で逃げ出しかねないほど凶悪凶暴。あらかじめヒーロー志望ということを聞かされていなければ、うっかり愛弟子が恐喝被害を受けているんじゃないかと思いかねない程度には物騒な気配を漂わせていた。
「八木俊典です。出久少年のボランティア清掃と、個性訓練の監督指導をさせてもらっています。よろしくね」
ひとまず俊典は愛想よく笑って勝己へと握手を求めて見た。当然彼がそれに応えることはなく、代わりに返って来たのは殺意さえ滲んでいそうな舌打ちが一つ。
「もう、かっちゃん!今日は清掃の手伝いに来てくれたんでしょ!」
「ちげえわドアホ!!未成年につきまとう不審者見に来たっつったろ!」
「ふ、ふしんしゃ……」
勝己の言葉は尤もといえば尤もだった。ワン・フォー・オールのことを言えない以上、俊典の立場は善意だけで出久の面倒を見る通りすがりの中年男にすぎない。理屈ではわかっているが、予想以上にその言葉は深く突き刺さった。もしかして血を吐いてやしないだろうかと思うほどに胸が痛む。
「違いますよ!八木さんは不審者なんかじゃありませんから!僕の先生なんです!」
「ハッ、こんな昼間からふらついとるよーなおっさん、不審者以外の何者でもねえだろうが!大体仕事はどうしたよ!」
かわいい愛弟子のフォロー虚しく、さらなる追撃は世の中の一般常識のそれだ。ますます胸が痛む。
「一応はヒーロー事務所に勤めているよ。守秘義務ってことで、どこのヒーロー事務所かまではいえないけど」
「尚更怪しいわボケ!ヒーロー事務所に勤めとるような人間が昼間っからブラつくか!仕事しろや!通報すんぞ!」
通報されても一応八木俊典としての身分証があるため問題はない。問題はないが、ただひたすら信用されていない現状に俊典は笑うしかなかった。
「もちろんちゃんとした理由はあるとも。実のところ勤め先の事務所が閉まることになってね、今は半分休職中なんだよ。それで身辺整理をしつつ空いた時間で出久少年の様子を見に来ているというわけさ」
「ほぼ無職じゃねえか!」
「ハハハ心配ご無用さ!ちゃんと次の仕事も決まっているからね。ただ、実際に働き始めるのは早くとも来年の1月以降になるから、今はちょっとしたお休み期間って感じかな」
問えば問うほどは俊典の言動は怪しく見えるだろうが、一応のところ辻褄があっているためか勝己がそれ以上踏み込んで来る様子はなかった。しかしつり上がった赤い瞳は、俊典がほんの少しでも隙を見せれば食い殺してやると言わんばかりにギラついている。
「かっちゃん、八木さんのいうことは本当だよ。僕は八木さんの勤め先の事務所のこともちゃんと知ってるし、そこの所属ヒーローとも会ったことがあるから」
「……ちっ」
納得はしていないだろう。だが出久のフォローにひとまずは矛を納めることにしたらしい。ふっと視線を逸らすとともに先ほどまで漂っていた濃密な敵意が霧散する。そのことに俊典は素直に感心した。少なくとも勝己は見た目通りの直情的な少年ではないらしい。
しかし改めて考えてみれば当然なのかもしれない。俊典にとって初めての弟子となった出久は年齢相応の少年らしいヒーローに対する憧れを見せる一方で、ヒーローという職業に対する考え方や心構えはすでにプロヒーローのそれにも匹敵する。
そういう出久と対等であろうとするのであれば、言ってはなんだが並いる子供たちと同じような無邪気さや無謀さを抱えてはいられまい。
少しばかり、いやはっきり言ってかなり凶暴であるが、勝己は勝己なりにすでに自身のヒーロー像に対する芯と言えるものを見つけているのだろう。かつて俊典がヒーローに”平和の象徴”という形を見出していたように。
「さて、質問タイムはこれぐらいにしておこう。時間は有限だぞ、少年たち!Time is money!!話は切り上げてトレーニングに取り掛かるとしようじゃないか」
パンパンと手を打ち鳴らす俊典の言葉に「はい!」と出久の弾むような返事が返る。勝己はといえば一瞬俊典に視線を向けただけで応えるつもりはないらしい。いかにも子供じみた仕草に俊典は苦笑する。だが振る舞いはどうあれ出久にとって良き友人であり、互いを高め合うライバルとなるのであれば求められることがない限り俊典が口を挟む必要はないだろうと、俊典はこの日のために用意して来た二人用の特訓プログラムのカンペを取り出した。
そして勝己が俊典の前に姿を見せたのはこの日一度きりだった。
後から出久に聞いたところ、納得しないまでも俊典がボランティアがてら個性の指導をしていることだけは認めてくれたらしい。
とはいえ住所不定無職の疑いだけは晴れていなかったようで、身元不明男性として回覧板や掲示板でちょっとした注意喚起が出回っていたと聞かされたときにはあまりの衝撃に吐き出した血で溺れそうになった。
同時にやけに警察の警らや近隣住民のパトロールに遭遇する理由を知り悲しくもなったが、友人の身の回りに名前しか分からない不審人物がいた場合の対応としては実に的確である。通報ではなく注意喚起というところがポイントだ。数回に渡る職質を受けた結果、近隣住民や地元警察とも繋がりを持てたことを思うと悪いことばかりでもなかっただろう。
ともあれ、それからについてあえて俊典に語るべきことはない。ひとえに出久が若葉マークの指導者である俊典にとっていい生徒だったおかげである。出久にとってはやりづらいことも多かったかもしれないが、実に彼は根気強く俊典の指導に付き合ってくれた。子育てや教育は育てるべき子供たちから学ぶことが多いというが、俊典の場合は完全に勉強させてもらったという表現が正しいだろう。
おかげで俊典にとっては実りのある数ヶ月であったが、果たして出久にとってはどうだったのか。
そんなある日のことである。出久がいつもの朝のトレーニングに姿を見せなかった。雨が降ろうが槍が降ろうが一度も遅れたことのない出久がだ。前日に別れたときは別段具合が悪いということもなさそうであったが、何かあったのかと心配する俊典が、その日こそ出久の推薦入試の受験日当日であると思い出すのは悩み始めてから優に10分は過ぎた後のことであった。
>>20
としのりせんせーにとって出久くんはめっちゃ可愛い弟子です。
生徒として優秀で、素直でモチベーション高いし、質問などもちゃんとしてくる新米先生にとっては非常に扱いやすい生徒。
一応来年には雄英の先生になる俊典さんですけど、出久くんを弟子として公言してあげてほしい。
じゃないと原作みたいに完全に先生ポジションが相澤先生のものになっちゃうよ。
相澤先生めっちゃ好きですけど!
あの髪の毛がブワッてなってるとこめっちゃ好きです。
ぶっちゃけおっさんキャラが多い漫画っていうのがヒロアカ好きなポイントです。
おっさんはいいぞおっさんは!