緑谷出久のハッピーアカデミア   作:nitchey

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これは、もう一つの物語


√無個性ヒーロー
Ex:11


 

 桜舞い踊る4月。出久にとって運命の分岐とも言えるその日が来た。

 日付まできちんと覚えていたのはオールマイトとの出会いという鮮烈な記憶の為だ。

 そして出来事はほとんど出久の記憶通りに進んだ。

 朝の通勤ラッシュ時に発生したひったくり事件。巨大化の個性を持つヴィランを追い詰めるヒーロー。いよいよシンリンカムイが代名詞とも言える必縛でヴィランを取り押さえようとしたその瞬間にドロップキックで登場したマウントレディ。派手な登場で手柄も話題もかっさらう鮮烈なデビュー。

 学校では進路相談についての話が行われ、勝己がそこで盛大に周囲を煽り見下すのも変わりない。言動は記憶よりもほんの少し、わずかばかり、砂糖ひとつまみぶんくらいは丸くなっていたような気もしなくはない。出久の贔屓目でなければ、の話だが。

 その後口の軽い担任によって出久の進学先までバレるのもそのままで、ただそこでの大きな違いは勝己が出久を庇ったことか。感動のあまり「うちのかっちゃんがこんなにいい子!」なんて脳内でかつての爆豪に語りかけたつもりが、口からダダ漏れだったようで結局照れ隠しにブチ切れた勝己に教室の隅まで追い詰められるかつてと変わりない顛末を迎えたのだった。

 

 そして放課後。

「おいデク、帰んぞ」

 なんの違和感もなく、当然のように声をかけてくる勝己に出久も席を立つ。出久が倒れた10歳の頃以来の習慣で、席が離れていようがクラスが違おうが、勝己は必ず出久に声をかけた。

 これもかつてとは大きな違いだ。最初の頃は違和感があったものの、今ではすっかり出久も慣れたもので勝己が迎えにくるのを待つのが当然のこととなりつつあった。

 が、今日は少しばかり事情が違う。

「かっちゃん、ごめん。僕なんか先生に呼ばれちゃって……進路のことで」

「んなもんほっとけ。何言われようが受けるんなら時間の無駄だ」

「うん、まあそうなんだけど、やっぱり行かないわけにいかないし。今日は先帰ってて」

 ごめんね、と付け加えると勝己は手近な椅子を蹴飛ばした。

「待ってなくていいからね、時間どのぐらいかかるかわからないし。真っ直ぐかえ」

「るせえ!てめーはうちのババアか!!言われんでもお前なんか待つか!クソが!」

 しつこくすればするほど切れて、結局こちらのいうことを聞く。素直なのかひねくれているのかよくわからない勝己の性格を逆手に取れば、案の定勝己は荒っぽく教室のドアを開きドスドスと荒っぽくいかにも怒っていますという顔で出て行った。

「ごめんね、かっちゃん」

 それから数分。おそらく勝己も学校を出ただろうという頃合いを見計らって出久はカバンをひっ掴むと急ぎ駆け出した。目指すは、かつてヘドロヴィランに襲われた場所。高架下の短いトンネルだ。

 

 出久がそこへたどり着いた時、まだ何もことは起きていない様子だった。

 春の穏やかな日差しを遮る人工的な闇に薄ら寒さを感じるのは、その先で起こるだろう出来事を知っているせいか。

 出久は薄闇を見つめて小さく深呼吸をした。そうして態とらしく足音を立てて闇へと一歩踏み出し大きく深呼吸をして、叫んだ。

「僕は、絶対ヒーローになってみせる!!」

 その叫び声は小さなトンネルの中でくゎんと短く反響し、わずかな余韻と共に消え去った。もし他に人がいれば、なにをしているのかと訝しげに出久を見たことだろう。そうしてトンネルを通ることをやめるに違いない。

 急に叫んでドカドカと足音荒く歩く中学生になど、頼まれたところで近づきたくはないだろう。普通の人間であれば。

 そんな調子でトンネルを突き進み、トンネルの出口まであとわずか。陽光の差し込むその場所へ出ようとしたその瞬間、わずかに聞こえた水音に出久は全身に緊張をみなぎらせた。

「Mサイズの……隠れミノ……」

 耳元で囁くような、不愉快なその声に振り返ることなくアスファルトを蹴りつけ、前へと転がるように跳びのき素早く身を翻す。そこには出久の記憶の通り、ヘドロの姿をしたヴィランが不気味に揺らいでいた。

「出たな、ヴィラン」

「ちっ……なぁ、いい子だからよぉ、大人しく……ミノになってくれないかなぁ。ヒーローさんよぉぉ!」

 津波のように襲いかかるヘドロを横っ跳びに避け、壁を駆け上がり蹴りつけて背後へと回る。フルカウルほどではないが、狭いトンネルの中ぐらいであれば一般的なパルクールの技術でしのぐくらい、今の出久には容易い芸当だ。

「くっ、ちょこまかと!!」

 だいたい45秒。多く見積もって1分。オールマイトがここへ駆けつけたのはそのぐらいの時間だったはずだ。隠れ蓑を探しているということは、このヴィランはすでにヒーローに追われているということだ。仮にオールマイトでなくともそう時間をおかずに救助は現れるはずである。

「だから、僕はお前を逃がさない!」

 逃げればヘドロは出久をミノにすることを諦めてすぐさま逃亡するだろう。故に出久は前へと出た。付かず離れず。相手が捕まえることを諦めない距離を保ち続けヘドロを避け続ける。

 トンネル内を所狭しと駆け回り、飛び跳ね、時に壁から壁へと飛び移り続け数十秒。ゴウン!と金属の重く響く音と同時に出久は飛び上がり、コイントスのように打ち上げられたマンホールの蓋を捕まえヘドロから距離を取るべく一気に飛び退る。

 そして現れていたのは、待ち望んでいたヒーローの姿。マンホールから飛び出して来たオールマイトはマンホールの蓋を盾のように構える出久にすぐさま状況を把握したようで、力強く笑って見せた。

「よく耐えたぞ少年!もう大丈夫だ!」

 オールマイトとヘドロの距離は3mばかり。手加減はもちろんするだろうが、拳を引きしぼるオールマイトの姿に出久は迷うことなくオールマイトの後ろへと下がり、手にしたマンホールの蓋で身を庇いながら壁沿いにうずくまった。

「TEXAS」

 キリキリと筋肉の軋む音が聞こえて来そうなほど強く引き絞られる拳とその気迫に、ヘドロヴィランは身動きひとつできないまま、オールマイトを見据えるばかりだった。

「SMASH!!」

 その瞬間を出久は見なかった。だが、放たれたことが分かるほど鋭い風切り音と共にトンネル内で巻き起こる暴風が出久に何が起こったのかを如実に知らせた。

「ぎゃあああああああ!!」

 当たりはしなかっただろう。仮に当たったところでヘドロには何のダメージもなかっただろうが、流動する体がこの風圧に耐えられるはずもなかった。

 出久もまたその荒れ狂う風に耐えるのが精一杯で、ようやく風が収まったところで顔を上げてみれば、あたり一面にヘドロの飛び散る何とも言い難い光景がそこには広がっていた。

 

 

「いや、ほんと、あそこにいたのが君で助かったよ」

「いえ僕の方こそ、助けていただいてありがとうございます」

 ケホ、と小さく咳をこぼすトゥルーフォームのオールマイトに出久は笑みを返した。

 飛び散ったヘドロをかき集めるのは何とも困難な作業であったが、そもそも奉仕精神に溢れる出久とオールマイトにとっては苦でもなかった。

「何だか、君には助けられてばかりだな」

「そう思ってもらえたなら光栄です」

 力強く答える出久の言葉にオールマイトは少しばかり困ったように笑い、おもむろに手を伸ばすとくしゃりと出久の髪をかき撫ぜた。

「それじゃあ、私はこいつを警察に持って行くけれど、君はどうする?」

「あ、僕は帰ります。今日も海浜公園に行くので」

「……そうかい。まあ、こんなことは滅多にないだろうけど、気をつけるんだよ」

「はい。オールマイトもどうぞ気をつけて」

 No.1ヒーローに向かっていう言葉ではないだろうが、トゥルーフォームの彼は微笑みとともに出久の労りを受け取った。とはいえ、今のオールマイトには出久に正体を隠す理由もないため慌てて飛び去る必要はない。せめて大通りまでは送ろうというオールマイトの言葉をありがたく頂戴し、出久はゆったりと歩く彼の隣を歩き始めた。

 交わす言葉は他愛のない、ささやかな日常のそればかり。ふと見上げた桜に「綺麗なもんだね」としみじみつぶやいたオールマイトの言葉に「そうですね」と出久も穏やかに返す。

 もはや彼と並び立つ日が来ることはないだろう。夕暮れに染まる黄金の桜吹雪を出久がみることはない。代わりに、青空に映える柔らかな薄桃色を目に焼き付ける。

「ここまでで大丈夫です」

「そうかい。それじゃあ、気をつけて帰るんだよ」

 先ほども交わしたようなやり取りを繰り返し互いに背を向ける。そして数メートルほど足を進めた所で出久は振り返った。けれど、オールマイトが出久を振り返ることはない。

「……さようなら、オールマイト」

 届くことはないだろう別れの言葉とともに、こらえきれず湧き上がった感情がほんの一粒目尻を伝い落ちた。

 

 

 

 

 

 

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本当はこれも00:00揃いにしたかった。
まぁEXなので。
簡単な覚書はあるけど中身スカスカだった分に肉付けしました。

そしてやっぱりここにもコメディ&ギャグが見当たらない。
君達は一体どこへ言ってしまったんだい……
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