爆豪家両親やや捏造してます。
「ヨロシクオネガイシマス」って言いながらあっけらかんとした爆豪母好き。
気持ちのいい、しっかりしたヒーローっぽい性格の人じゃないかなって勝手に思ってます。
「出久君が?」
オールマイトとヴィランが戦う速報が流れて数分ほどした時だ。
電話が鳴り響き、テレビの音量を落とせと言われた時点で不機嫌だったのに、その電話の相手が勝己をもっとも苛立たせる相手に関することだと悟り、面白くない気持ちを表すように下げていたテレビの音量を最大にした。けれど母は特に勝己を叱ることもなく、一言二言で電話を切るなり慌ただしい様子で「ちょっと出てくるからね!」と叫ぶようにして飛び出して行ってしまった。
どう言うわけかは知らないが、目障りな奴のために自分が無視されたと思うと勝己はますます腹が立った。
緑谷出久は勝己の幼馴染で、無個性だ。
勉強は多少できるが何をやらせてもトロいしドジだし、いつもびくびくと勝己の顔色を伺っているくせに勝己に何かと反抗する。
嫌い、と言うよりはただひたすらムカつく。そんな相手だった。
とはいえそんな気持ちもすぐに吹き飛び勝己はテレビに釘付けになった。周囲に甚大な被害をもたらすヴィランにヒーローたちは苦戦。あのオールマイトですら手傷を追う姿に勝己は出久のことなど忘れてテレビ越しに声援を送り続けた。
それから、どれほど時間が経ったのだろうか。急遽始まった生中継の捕縛劇はついにオールマイトの手によって決着を迎え、レポーターや周囲にいたのだろう野次馬たちの歓声が響くのと玄関の扉が開く音が響くのはほとんど同時だった。
とはいえ母親の帰宅なんかよりもこの後に続くだろうオールマイトの勝利のインタビューの方が勝己にとってはよほど重要で、母親がリビングに荒々しく入ってきたところで見向きもしなかった。
「勝己!!」
そこを、唐突に母のビンタが襲った。
いつもポンポンとコミュニケーションとばかりに叩くのとは違う。勢いよく振り抜かれぶち当てられた手のひらに勝己はよろめきフローリングに転がった。そうしてようやく母に叩かれたことに気がついた。
「っ、何すん」
ババア、といつものように叫ぶつもりが、声にならなかった。
ライトを背に顔に影の刺す母はいつにない憤怒の表情で、泣いていた。
怒られることも叱られることもいくらでもあった。冗談交じりに叩かれることも、本気で尻を叩かれたこともある。それでもこんな勢いで叩かれ、こんな顔をする母を見るのは初めてで勝己は数年ぶりに恐怖という感情を覚えた。
そんな勝己の気持ちを知ってかしらずか、凄まじい表情で見下ろしてくる母は勝己を打った手を抑えながらワナワナと震える口を開いた。
「出久君がね、倒れたって」
「え」
「さっきの電話、引子さん。出久君が突然倒れて、今、病院から帰ってきた」
だからどうした、と思った。同時にどうして出久が倒れるのかもわからなかった。出久は泣き虫でビビリだが、根性だけはあるやつだと勝己は思っていた。
仮に他のクラスメイトに何があったとしても、勝己は無意識に出久だけは大丈夫だろうと信じていただけにその知らせは衝撃的で、雨のようにポタポタとフローリングを濡らす母の涙に何かとんでもないことが起こっていることだけは察した。
「さっきの速報、オールマイトが危なくなったのを見たのがショックだったんだろうねってお医者さんは言ってたけど、それはただのきっかけで、日常のストレスが原因だって。いろいろ辛いことがあったところに、絶対だって信じてたものが崩れそうになって、耐えられなくなったって」
心当たりは、十分すぎた。それでも思わず嘘だと呟いてしまった勝己の反対の頬を再び母の手が打った。
「私、自分が情けないっ。出久君が優しいのに甘えて!あんたがやってること、見ないふりして!幼馴染のじゃれ合いだって、そんな大げさな話じゃないって、あんた可愛さに出久君のこと知らないふりして!情けない、情けない!!」
母の中で何かが限界を迎えたのだろう。膝をつき顔を覆って子供のようにわあわあと泣き喚く母に、勝己はこみ上げそうになる涙をぐっと飲み込んだ。
勝己は頭が良かった。テレビのニュースも大人の話もきちんと意味が理解できる、そんな優秀な子供だった。そして今母が泣いているのは自分のせいで、出久が倒れたのも自分のせいだと、正しく理解した。
だが理解したところでどうすることもできず、出久が倒れたと言う衝撃と、母が自分を打って泣きじゃくるショックに呆然と頬を抑えて立ち尽くす。
それは父が帰宅するまで続き、泣きじゃくる母からどうにか事情を聴き出して落ち着かせるまで勝己は少しも動くことができなかった。
「……何が悪いか、もう分かってるね」
気弱な父が勝己を叱ったり説教したりすることはこれまでになかった。むしろ少しばかり言葉のすぎる母を諌める役回りがほとんどで、その父にまでこんなことを言わせているということがますます勝己の肩に重くのしかかる。
「僕は、出久君のことはあんまり知らないけど、昔はよく遊びにきてくれていたね。それがどうしてこんな風になってしまったのかわからないし、もしかしたら勝己にだって譲れない言い分だってあるかもしれない」
大した言い分などないし、出久にしていたのはただ自分の感情の押し付けだ。
にもかかわらず厳しい叱責でなく、むしろ勝己を理解し寄り添おうとする父の言葉がますます辛かった。
「だけど、これだけははっきり言うよ。今のままの勝己がヒーローになりたいと言うのなら、お父さんは応援できない。ヒーローは人を助ける人だ。ましてお前が憧れてるオールマイトは、いつだって笑顔で人を助ける人だ。オールマイトが強いのは人を助けるためで、むやみやたら自分の嫌いな人を殴るためじゃない。そのことをよく考えて、自分がどうするべきなのか、もう一度ちゃんと考えなさい」
「……ん」
父親と息子。10歳にもなれば徐々に反抗期と自立でコミュニケーションも薄くなっていくものだ。勝己の頭にを撫でる手はぎこちなかったが、今その手を跳ね除けるほど勝己も子供ではなかった。
そして翌日。
特に冷やさなかった勝己の両頬はひどく腫れ上がり、さすがにやりすぎたと言う母の謝罪に勝己は小さくうなずくだけで、代わりに出久の見舞いと謝りたいと言う気持ちを告げた。
父ほど優しくない母は「出久君は許さないかもしれないし、来ないでっていうかもしれないよ」と厳しく言ったがむしろその方が良かった。
出久が許してくれるまでヒーローにはならないと密かに決めた誓いを胸に秘めたまま、しっかりと頷く勝己に母は「一緒に頑張るからね」と言って勝己の肩をしっかりと抱きしめる。勝己もまた母に小さく謝罪を告げ、こみ上げる熱いものを押し殺すように目を伏せる。
そうして家族全員でやり直すことを決意した爆豪家に出久が目覚めたという知らせが入ったのは、それから二日後の夜のことだった。
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