緑谷出久のハッピーアカデミア   作:nitchey

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 勝己が出久の部屋に来るのは実に幼稚園以来のことになる。

 オールマイトをはじめとしたヒーローグッズで溢れかえった部屋でかつてはヒーロー談義に盛り上がったものだが、今はそのポップな部屋の中心で勝己がまるで判決を待つ被告人のように青ざめた顔で正座をしていた。

 

 人格形成が完成していた高校時代の勝己はまるで自尊心という文字を人間にしたかのような存在だった。

 様々な事件を経て大人になるに連れ多少丸くなりはしたものの、角が取れたというだけでやはり自尊心の塊であることに違いはなかった。

 だが、小学生の勝己は違う。自尊心の塊ではあるもののそれが全てというわけではなく、まだ世間の常識や善悪というものを吸収しながら成長する段階にある彼にとってこれは紛れもなく人生を狂わせかねない大事件だった。

「今まで、悪かった。いろんなこと、全部……ごめんなさい」

 そう言って土下座にもなりそうなほど深く頭をさげる勝己の姿に、正直なところ出久の方が申し訳なくなった。

 かっちゃんとは二人で話したいから、と言い張って母親を交えてではなく出久の自室で話をすることになったのだが、はっきり言って出久にとって勝己のこの謝罪というのは現状の自分を把握するための判断材料だ。

 もちろん真面目に謝罪を受け取るつもりはある。勝己にとってもこれは必要なことであると思ってはいるが、それ以上に自分の都合のために利用しているような意識が先立ち罪悪感に胸がシクシクと痛む。

「謝ってくれて、ありがとう。なんだかすごい大変なことになっちゃったけど、僕なんともないよ」

 かつての出久はこんな時ついつい「気にしないで」と焦り早口で返していたが、考えてみれば真摯に謝っている相手に対して「気にしないで」と返すのはひどく失礼だと気付いたのはプロヒーローになってしばらく経ってからだった。気に病んでいるから謝っているのにそれを気にするなというのはその相手の気持ちを無下にすることになるのだ。許すつもりはないという意味合いでの皮肉としてなら使いようもあるかもしれないが。

「……急に倒れたって、うちのババアが言ってた」

「うん、僕も聞いた。だけどあんまり覚えてないんだ。あの時、オールマイトを見てたら急にすごく不安になって。ほら、いつもとちょっと戦い方違ったでしょ」

「お前、自分が大変な時にオールマイトの話かよ」

「う、ごめん。でも、かっちゃんが嫌じゃなかったら、僕は前みたいに二人でヒーローの話とかしたい」

 出久のその言葉に一瞬勝己の目がつり上がり、けれどすぐ怒りを飲み込むように深いため息を落とした。あるいは出久があまりにもいつも通りで気が抜けたのかもしれない。

「僕さ、かっちゃんにクソとかデクとか言われてもあんまり気にしてないよ。だって、そういうのはかっちゃんの持ち味っていうか、僕だけじゃないでしょ。おばさんには内緒だけど、時々先生にもクソセンコーとか言ってるし」

「っ……ババアにはいうなよ」

「言わないよ。あと、クソナードとかも言われたっけ」

「あ?なんだよ、それ」

「え?あ、ごめん!かっちゃんじゃなかったっけ。クソってついてるからかっちゃんかと思ってた」

 ごめんねと謝りながら出久は一つの確信を強め、困惑した。

 無個性・クソデク・クソナード。出久が爆豪勝己に散々罵られた三大ワードだ。デクと無個性に関しては幼稚園の頃に言われ始めたとはっきり覚えているが、日本においてどちらかといえばマイナーなアメリカンスラングのナードという言葉を持ち出すようになったのかがいつ頃かはあまり覚えていない。それだけ勝己に罵倒されていたということではあるが、基本全方位に向かって吠え立てクソモブと見下しているような性格だったので出久がその辺りを気にすることはあまりなかった。

 

 もしここが誰かしらの個性によってできた世界だったとして、それを形成するのは出久か個性の持ち主の記憶だ。その上で幼い勝己のことを知っている人物となるとかなり限定的となるため、もし個性なら出久は自分の記憶から形成された世界である可能性が高いと考えていた。

 しかし勝己はナードという言葉の意味を知らないようだった。少なくとも言った覚えはないというように顔をしかめたが、もし出久の記憶だけで形成された爆豪勝己だとすれば出久の思うような爆豪勝己になるはずなのだ。

 本当のところ出久は自分の部屋の中央で神妙に正座をする勝己の姿を見た時点でなんとなくわかってはいた。これは出久がかっちゃんと呼び続けた爆豪ではなく、まだ幼い柔らかな心を持った勝己少年であるということを。

 ここは記憶による世界ではなく正真正銘の過去かそれに近しい世界であるということを。

 

「そのクソなんとかって誰に言われたんだ」

「さ、さぁ?あんまりよく覚えてないや。だけど、僕本当にそういうのは気にしてないんだ。だからそのためにかっちゃんが変わることなんてないけど、一個だけ言って欲しくないことがある」

「……んだよ」

「僕がヒーローになるの、やめろって言わないで」

 それは、出久がずっと抱き続けていた本当の気持ちだった。

 無個性なのもヒーローオタクなのも事実。そして勝己が口汚いのが出久に限った話でないことも事実。お前なんかがと見下されるのも、勝己の方が実力が上という事実があるからで、これも出久に限った話じゃない。まだ同じ地域の小学校という狭い世界でしかないが、なんでも一番になりたい勝己はその世界で一番になるための努力を重ねて、誰にも自分の前に立たせないよう常に前だけを見据えていた。出久が勝己のそんな背中に憧れていたのもまた事実だった。

 ただ、無個性がヒーロになんてなれるわけがないと言われるのだけが辛かった。

 無個性がヒーローになってはいけないなんて決まりがないのも、そもそも無個性がなれるわけがないという世論あってのことだとわかっているが、それでもどうしても出久はヒーローになりたかった。

 オールマイトに言われたように人を助けるだけなら警察官でもいいし、他にも消防士や医者など、人を救う職業はいくらでもある。

 それでも出久はヒーローになりたかった。誰かの言葉を借りて言うなら「憧れちまったものは仕方がない」のだ。

「僕はヒーローになりたい。なれるかわかんなくても、だけどヒーローになれないって決めるのはかっちゃんじゃない。確かに今のままの僕じゃなれないだろうけど、なれるように頑張るから、ヒーローになるなって言わないで」

「っ、わか……った」

 苦虫をかみしめるような凶悪な顔で、それでも勝己が頷いてくれたことに出久はほっと胸をなでおろす。

「その代わり!俺のことは助けるな!デ、っ出久に助けられるほど俺は弱くねぇ」

「ごめん、それは無理」

「はぁ?!」

 出久の即答に今度こそ勝己は声を荒げた。が、この件に関しては勝己だけではない。出久は生涯を通じて怒鳴られ叱られ怒られ続けたが、それでも譲ることができなかった。

「困ってる人がいるなら、僕はそれがオールマイトでも助けに行くよ」

 もはや、そういう性分なのだ。仮にヒーローになれなかったとしても、ならなかったとしても、目の前で困っている人間を見てしまったら飛び出さずにはいられない。それが緑谷出久という人間だった。

「バッカ!お前、オールマイトはNo.1ヒーローだぞ!仮にお前が奇跡的にヒーローになれたとしても、オールマイトがお前の助けなんかいるわけねぇだろ!」

「それでも、僕は行くよ。それにおせっかいはヒーローの専売特許だから」

 すっかり出久に根付いてしまった受け売りを語れば、勝己は目を見開きそして顔を伏せた。勝己がどんな気持ちでいるのか、出久は想像することしかできない。けれど何かしら自分の中で折り合いがついたのだろう。顔を上げた勝己の表情はすっきりと落ち着いているように見えた。

「わかった。もう、いわねぇ。そんでお前が俺を意地でも助けるっていうなら、俺はもっと強くなる。デ、出久が助けようなんて気がおきねぇぐらい、強くなる」

 出久の助ける助けないは相手の強さには別に関わっていないのだが、せっかくの決意表明に水を差すほど野暮ではない。

「一緒にがんばろーね!」

 言葉とともに笑顔で拳を突き出す。その拳に、勝己もぎこちなく拳を突き出しコツンとぶつかる。

 こうして勝己は数年ぶりに、出久は数十年という時を遡って幼馴染との仲直りを果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>05





例えばいろんな二次創作のように出久君に何かしらの個性があったとしても、それが没個性だったとしても、
イズク君はヒーローを目指すんだろうなという妄想。
あるいは早々に無個性の自分を認めて警察官を目指したとしても、多分真っ先に飛び出して行っちゃう。
あ、むしろそんなSS読みたい。なんか頭脳面で言えば出久くんはかなり優秀なようなので、もう中卒で公務員試験受けちゃって警察学校入っちゃえばいい。んで塚内くんと三茶さんに可愛がってもらえばいい。

というか三茶さんを私が可愛がりたい。
頬ずりしてモッフモッフしたい。まず間違いなく怒られるけど。わいせつ容疑で逮捕されそうだけど。
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