日の出前の白んだ空の下、春先のまだ冷たい空気に鼻を赤くしながら出久は粗大ゴミで溢れかえった浜辺を縦横無尽に駆けまわる。
出久にとって始まりとも言えるこの浜辺は、二度目の人生においても絶好の修行の場となっていた。
「おうい」
不意に聞こえた声に出久はゴミ山の上で足を止めた。辺りを見回せば犬の散歩をしているらしい男が手を振るのが見えて、出久も大きく手を振り返した。
「おはようございまあす!」
「今日も、精がでるねえ!」
「ありがとうございまあす!」
出久がここで駆け回るようになって数年、時々ゴミの清掃を手伝ってくれる顔見知りの男だった。
いずれはかつての未来のように綺麗な浜辺にしたいものだが、あいにく未成年の出久ではゴミの清掃まではなかなか手が回らなかった。粗大ゴミを運ぶ事はできても、ゴミ集積所まで運ぶ車がない。一度リヤカーで運んだこともあるのだが、トレーニングとしては効果的でもゴミ処理として言えばあまりにも非効率的だった。ついでに通行の邪魔にもなったためある程度ゴミを集めてから月に一度、人通りの少ない早朝に運ぶようにしている。
二度目の人生が始まって早くも5年。出久は今年、中学三年生になる。そしてもちろん、進路の希望先は天下の国立雄英高等学校だ。
すっかり特異的な個性の根付いたこの超人社会において、無個性というだけで差別を受けることはままある。ひどいのはそれが悪意によるものだけではなく、善意によるものが圧倒的に多いということだ。
出久がヒーローになりたいという夢を語るたび、バカにする人もいれば心から心配する人もいたが、そのどちらも「無個性はヒーローになれない」という結論は同じだった。
ならば本当に無個性はヒーローになれないのか。答えはノーだ。
法律や制度は無個性がヒーローになることを邪魔しない。ならばなぜ無個性のヒーローがいないのかと言えば、簡単なこと。本気でヒーローになることを望む無個性がいないのだ。
個性さえあればと言うなら世の中で没個性などと言われる人たちがふるいにかけられ狭き門からはじかれることはない。
出久も同じだった。爆豪やオールマイトの言葉を受けてヒーローの夢を諦めたような顔をしていたが、何の事は無い。諦めどころを見失った夢を終わりにするきっかけが欲しかっただけなのだ。
もし出久が幼い頃のまま本気でヒーローを目指し続けていたならヒーローについての考察をノートにまとめるだけでなく、本気で体を鍛えていただろう。誰よりも出久自身が自分を信じていなかった。そのあと、出久自身が引き金となった事件をきっかけにオールマイトが手を差し伸べなければ、出久は卑屈にくすぶったまま夢を諦めたのを誰かのせいにしていたに違いない。
では無個性でも鍛えればヒーローになれるか。前例はないが答えはイエスだと出久は信じている。だからこそ二度目の人生に気づいてから今日に至るまで欠かさずに鍛錬を続けているのだ。
皮肉にも、出久がそうだと信じられる根拠はヒーロー殺しのステインだった。
ステインの個性は凝血。血を舐めることで相手の動きを数分間封じることができると言うもので、便利そうに思えるがはっきり言ってヒーローとしてもヴィランとしても没個性だ。まず他人の血を摂取すると言う点からして難易度が高すぎる。
にもかかわらずステインが凶悪ヴィランとして長らく名を馳せたのは、ひとえにステイン自身の身体能力の高さによるものだ。
わずか一太刀浴びせるだけで優位に立てるとはいえ相手はプロヒーロー。その一太刀を許さない強さを持っている人々だ。まして最後の犠牲者となったのはスピードにおいては他の追随を許さないインゲニウム。
果たして二人の間でどのような攻防が繰り広げられたのかはわからないが、それでもステインはインゲニウムを追い詰めその血を口にすることができた。
ステインだけではない。ナイトアイの予知、マンダレイのテレパス。他にも戦闘においては決定打となる個性を持たないヒーローは数多くいる。それでも彼らは一流のヒーローであり、どんなヴィランが相手でも逃げることはない。個性はヒーローの一助であり、その全てではないのだ。
だから、この人生において出久はオールマイトからワン・フォー・オールを受け取るつもりはなかった。
出久がワン・フォー・オールを受け取るに至ったのは、ヘドロのヴィランに襲われた爆豪を無個性ながらに助けに行くと言うその行為を見て継承者にふさわしいと判断した為だ。そして、その事件は出久がオールマイトの行動を妨害したところに起因する。
前回と同じ方法でワン・フォー・オールを受け取ると言うことは、すなわち自分のために他人の犠牲を強いると言うこと。そんなものはヒーローではない。
故に、出久は今度こそ無個性のままで雄英へ入学する決意を固めていた。幸い実技試験の内容は知っているので、あとは無個性なりに戦うすべを身につけるだけだ。
とは言え、できればオールマイトとの接点は持ちたいと思うのは、彼の健康状態を案ずるが故である。
この時期、雄英へ教師として赴任すべくこの街へ来たオールマイトは一人暮らしをしていた。成人男性なら当然のことだろうが、オールマイトは健康状態に不安というだけでは物足りないほどの爆弾を抱えていた身だ。
もはや骸骨と言っていいほどガリガリに痩せた姿こそ真の姿であり、オールマイトの最大の秘密である為頼れる人間となると限りがある。しかしその中でも特に心を寄せてくれるだろうナイトアイとは疎遠、グラントリノとも縁遠く、親友だという塚内刑事は日々多忙。根津校長も同様だろう。
よくもまぁ死なずにいてくれたと思うとともに、正直まだ出会ってすらいない今も出久は不安で仕方がなかった。
今はどこにいるか知らないが、どうぞ今日も無事に健康的に過ごしていますようにと昇ったばかりの太陽に手を合わせて祈るのはもはや日課となりつつある。
だから、出久は心底驚いた。
まさかそうして想いを馳せた帰り道に、路地裏で血の海に沈む痩せた金髪の男を見つける羽目になるとは思いもしなかったのだから。
>>08
まきで行くよまきで!
ぶっちゃけほんとはもっと描写増やしたいけど、そんなことしてたら間違いなくダレる!
ちなみに現時点での出久くんはこんな感じです。
氏名:緑谷出久
学校:折寺中学3年
身長:158cm
体重:56kg
個性:なし
特技:パルクール・我流格闘技
備考:バイトをしている
原作の出久くんは身長166cm。
しかしハッピーアカデミアの出久くんはせいぜい160cm程度にしかならないでしょう。
なぜって筋肉つけちゃったので。体脂肪率は10%以下。
顔つきはあんまり変わらないので脱いだらすごいタイプ。しかし身長は伸びなかった。
学生時代の筋トレはほどほどにしましょう。