ここで出久が自分のことを語る事に大した意味などなかった。
思惑があったとすれば、せめて知人程度にでも記憶にとどめおいて欲しいという気持ちがあったのは確かである。ファンとして、いつかの弟子として、その身を案じる者として。
「無個性か……。気持ちはわからなくもないが、ヒーローとは無個性でもできるなんて言えるほど生半可なものじゃない。正直私がこんな怪我を負ってでも生きているのは幸運だったからとしか言いようがないよ」
「そう、ですね。正直オールマイトだから生きていられたんだろうなって思います」
「否定はしないさ。伊達にNo.1ヒーローなんて呼ばれちゃいない。そんな私でも死の淵をさまよい、命を削るような傷を負ったんだ。そんな状態になっても立ち止まることはできない。君が目指したいと言うのはそう言うものだ。夢を見るのは悪いことじゃないが、人には相応の現実というものがある。私としては、助けてくれた君だからこそその夢は諦めて欲しい」
厳しい現実を見せつける言葉は、かつてよりも重みを増して出久へ突きつけられた。
最初からわかりきっていたことではあるが、それでも心を打ち砕くには十分すぎる威力を伴う言葉に胸が痛む。もっとも打ち砕かれた程度でへこたれる出久ではないが。
「……あなたの、言う通りなんだと思います。周りの人にもよく言われます。現実が見えてないって。母も、口では好きにしていいって言ってくれていますが、多分僕が無個性だから、叶うわけがない夢だから好きにさせてくれてるだけなんでしょうね」
「そこまでわかっていて、なぜヒーローにこだわるんだい。君ほどの賢さならヒーローでなくとも、関連する職業はいくらでも選べるだろう。警察はもちろん、ここまで私を運んだことを思えば消防士や救命士、ヒーローのサポート会社もある」
なぜ、と言う問いかけはオールマイトだけではない。幾度となく様々な人にも問いかけられた。口にはしない母の呆れた眼差しの中にも垣間見えた。
その都度、出久の中に思い浮かんだのはかつての友人から返されて以来、耳から離れず心にストンと落ちた短い一言。
「憧れちゃったものは、しょうがないんです」
憧れちまったものは、しょうがないだろ。
寂しげにそう呟いた彼は、その後ヒーローになった。
もっとも彼の場合はヒーローとしてかなり有用な個性を持ち合わせていたと言う強みもあるが、ヒーローになると言う夢を最初から否定されるその辛さは誰よりも出久が知っているつもりだ。
「限りなく不可能に近いとしても、やらないうちから無個性を理由に諦めたくない。何もせずに諦める前に、試せることを全部試してからでも、他の道を探すのは遅くないかなって」
出久の言葉にオールマイトが何を思ったのかはわからない。
とはいえ、出久にとってこの決意表明はとりあえず言葉にしたついでのような表明だ。今はただ、無個性の無謀な少年が雄英の付近にいると言う印象が残ればそれでいい。
「そうか……まあ、あまり応援はできないけど、頑張りたまえよ」
「はい!ありがとうございます!」
話も一区切りついたところで、オールマイトは億劫そうに腰を上げた。多量の出血のためまだ顔色は悪いが、動ける程度には回復したらしい。出久としてはできればタクシーなり、迎えなりを頼んで安静にしてもらいたいところだが、血濡れのヒーローコスチュームを着ている以上そう言うわけにもいかないだろう。
「さて、そろそろ私は行くとしよう。すまなかったね、少年」
「いいえ。困ってる人がいたら助けるのがヒーローですから!」
力強く答える出久の言葉にオールマイトは困ったように苦笑を浮かべた。
「……そうだね、ありがとう」
「またお近くまで来られることがあったらなんでも言ってください。僕、朝と夕方ならだいたいこの海岸にいるので」
「そうだな、その時はお願いするとしよう。……にしても、ずいぶんゴミだらけだな」
今更、と言うよりは最初から気にはなっていたのだろう。トゥルーフォームでもなかなかの高身長であるオールマイトより、なおもうず高く積み上げられたゴミ山へ向けられる呆れた視線に、出久も苦笑するしかない。こればかりは地道に続けて行くしかない話だ。
「もともと海流の関係でよくゴミが流れつくんですけど、誰も言わないのをいいことにゴミ捨て場みたいにされちゃって。まぁ、おかげで僕にとっては良い運動場所になってるんですけど。って、そんなことより。急がないとそろそろ通勤の人たちが来ると思うので」
「おっと、そうだった!」
ほんの一呼吸。それだけで目の前の骸骨のような男の姿が鍛えに鍛え引き絞られた筋肉の鎧を纏う巨漢へと変わった。
「それじゃあね、少年。いずれまた、改めてお礼をするよ」
その一言を最後にオールマイトは力強く跳ね上がると、上空高く舞い上がりビル群の方へと姿を消した。
まだ今日という日は始まったばかりだと言うのに、出久は妙な気疲れを覚えて先ほどまでオールマイトが座っていたそこにへたり込むようにして腰を落とした。
それなりに長く話していたはずが、いざ一人になってみるとあっという間の出来事のようでどことなく現実味の無ささえ感じる。
「やっぱり反対されちゃったなぁ」
諦めるつもりなど微塵もないとはいえ、何も思わないわけではない。とはいえ思うところがあればあるほど逆に奮起するのが出久である。
よし!と掛け声とともにソファから立ち上がり、気合一発自身の頬を叩いて深呼吸とともに胸を張る。
「大丈夫だって思ってもらえるよう、頑張らなきゃ」
始まりとなった春はもう目前に迫っていた。
>>10
師弟の話し合い
問答出久編でした。
ぶっちゃけ定期的にオールマイトの様子を見て健康管理をしたい出久くんが自分の印象をオールマイトにフルカウルで打ち込もうとしただけの話でした。
この時期のオールマイトって本当にどうしてたんでしょうね。
塚内くんは親友といっても刑事さんだから常に様子見もできないでしょうし
過保護1号であろうサーナイトアイとは一方的に疎遠だろうし
おっかない先生であるグラントリノとも時節の挨拶ぐらいしかしてないだろうし
活動時間ギリギリ範囲内でヒーローやって健康状態はギリギリに保ってたけど、
そんな自分にストレスマッハだったイメージです。