突然の決戦
この紅音也と名乗る男は一体何者なのか。
鬼塚が手を引かれながら優しく握りしめられるなんて経験は今までなかったことだ。この柔らかで温かい手があのチェックメイトフォーのルークとぶつかり合っていたとは到底信じられないが、ついさっき目の前で起こった光景なのだから事実である。
「ここまで来ればもう大丈夫だ。おっと、礼はいらない。このぐらいお安い御用さ。ただ! どうしてもお礼がしたいっていうんなら!」
「イクサ、何故私を助けた? 君にメリットなんてないはずだ」
話を遮られても気にしない。
これで相手がむさい男なら激怒ものだが、女性なら気にしない。それだけ聞けば酷く差別的にも聞こえてしまうが、紅音也というのはそういう男なのだから仕方がない。
この女性が妙に硬い口調なのも、命を狙われた恐怖から抜け出し切れてないか、はたまたこの大天才を前に緊張してしまったせいなのだろうと勝手に思い込んでいる始末だ。
「おやおや、今の顔も美しいが、そんなに緊張してちゃあお前の魅力が泣いてるぜ?」
「私は緊張してなどーーー」
今度は鬼塚が遮られる番だった。
唇に人差し指を当ててチッチッチと鳴らす音也は見ていて不愉快極まりない。
興味深い相手ではあるが、これ以上は時間の無駄だと判断した鬼塚は踵を返して立ち去ろうとする。
「待てよ。一曲聞いていってくれ。そうすれば緊張もほぐれる」
ガチャ、と何かを開ける音がした。
恐らく音也が持ち歩いていたケース中に楽器でも入っていたのかもしれないが、芸術には全く関心のない鬼塚にはそんなもの聴かせても無意味だ。
そう思っていたのだが。
「……………ッ!?」
これは音からしてバイオリンの演奏だ。しかし、重要なのは楽器ではない。
全身の感性に訴えかける、この魂を揺さぶる演奏。
ただ純粋に美しい。芸術に疎い鬼塚がこの旋律に捧げる言葉はそれしか見つからない。他の気取った表現を与えようとすれば、それはこの旋律への冒涜に他ならない。
考える間も無く自然と目をつむって音也の演奏に耳を傾けることにのみ全神経を集中させていた。例えこの場にルークが現れたとしても鬼塚は演奏から耳を離さないに違いない。
対面した誰もが無愛想だと感じる鬼塚の表情にもごく自然な微笑が浮かぶ。
いつまでもこの時間が続けばいいのに、なんて柄にもないロマンチックなことまで考えてしまう鬼塚はそんな自身の変化に驚きと心地良さを同時に感じている。その感覚が音也の演奏と溶け合って、至福の快楽をもたらしてくれるのだ。
何故こんなにも心奪われるのか、その答えは驚くほど単純だ。
鬼塚というただ1人の個にだけこんなにも素晴らしい音楽が奏でられているから、鬼塚は涙を流すのだ。
「紅音也……覚えておくよ」
1986
2008
大地がイクサの世界に来てから、すでに3日が経過していた。
名護からフィジカル面を鍛える訓練を今日まで施され、いよいよ実戦を行う時が来た。
今、大地は怪しげな店が立ち並ぶ裏街道の脇に立っている。
心臓の高鳴りが抑えられない。この鼓動音が聞かれてしまうかもしれない。落ち着け、落ち着くんだ。大丈夫、何度も練習したじゃないか。
大地はゆっくりと深呼吸して前方からやってきた、眼鏡をかけた男、三宅徹の前に立ち塞がった。
「み、三宅徹さんですよね。お話を聞かせてほしいんですが」
「どいてください。私は忙しいんです」
「誰かの夢を食い物にしに行くから……ですか?」
三宅の眼の色が変わる。警戒、不審の色だ。
この男は夢を持つ若者にまるでその支援をするかのように装って近づき、あの手この手で金を巻き上げる詐欺師だと聞いている。
そうしてたっぷりと金を搾取した最後にはーー
「……場所を変えましょうか。誤解を解きたいが、ここでは人が来てしまうかもしれない」
「わかりました」
大地は頷いて三宅の後に続く。
互いに無言のまま緊迫した雰囲気を漂わせて、2人は人気のないトンネルの中に入った。
まだ昼だというのに、トンネルの中は壊れかけた電灯がなければ何も見えないほどに暗い。
チカッチカッと明かりが点滅する一瞬の間に三宅の後ろ姿は暗闇に消える。
この雰囲気は正直かなり怖いが、この後の展開がわかっているぶんマシではあった。
「ここらへんでいいでしょう」
トンネルの中心部に至ったところで三宅は足を止めた。
「馬鹿な坊やだ。私の極上の食事の邪魔をするとは」
激しく点滅する光が視界を制限する。
その一瞬の点滅の後、三宅の姿は消えていた。
「その罪は坊やの命で償ってもらいましょう」
そこにいるのは三宅という人間の皮を脱ぎ捨てた怪人、ライノセラスファンガイアだけだった。
大地よりもふた回りほど巨大な体躯を不気味に揺らし、荒い息遣いで爪を研ぐ。ファンガイアが人間のライフエナジーを吸い取る際に現れる吸血牙が出ないということは、大地は餌の対象ではなく、ただ痛ぶって殺すつもりのようだ。どちらにせよ、大地の行動は決まっているが。
乾いた喉で生唾をごくりと飲み込み、ダークディケイドライバーを腰にあてた。
今は敵への恐怖心よりも、夢を食い物にしようとする卑劣さへの憤怒が勝っていた。
「変身!」
KAMENRIDE DECADE
ライノセラスファンガイアの剛腕が大地の白く柔らかな皮膚を引き裂くより早く、黒い装甲がその進行を阻む。
ダークディケイドのスーツを身に纏った大地から膨大なエネルギーが衝撃波の形で放出され、至近距離にいたライノセラスファンガイアはそのトンネル全体を震撼させた余波を全身で受け止める羽目になった。
暗闇の奥に吹き飛んでいく敵を青い複眼で捕捉して、ダークディケイドは剣を手に駆け出す。
「やあッ!」
視界を制限された状況下でも、ダークディケイドの複眼ならば敵の位置はある程度把握できる。
脆弱な人間だと侮っていた相手が未知の変身を遂げたことに動揺するライノセラスファンガイアに容赦なく剣を振り下ろした。
ライドブッカーの一撃が巨大な角を備える肩を打ち、トンネルを照らす火花を散らした。
「ぐうぅッ!? 貴様、青空の会のメンバーか!?」
「見習いですがねッ!」
両手で握りしめた剣で体表をなぞるように振り抜き、続けて剣を振るっていく。
敵の反撃を許さずに脚を切り、腕を打ち、腹を叩く。それらの攻撃は全て敵への有効打となっている。
あの大地がカードもなしにここまで善戦できているのも、名護から基本的な身体の動かし方を学んだおかげである。
一旦剣を振るう腕を止めて、ダークディケイドは1枚のカードを取り出した。
好機と見たライノセラスファンガイアは飛びかかってくるが、残念ながら反撃は叶わない。
KAMENRIDE NECROM
「うわっ!?」
何故ならばベルトから出現した黒いパーカー状の浮遊物体、ネクロムゴーストがライノセラスファンガイアを弾き飛ばし、ダークディケイドに覆い被さった。
ダークディケイドとは異なる緑の単眼の輝きを放つその姿は仮面ライダーネクロムと類似したDDネクロム。
DDネクロムは頭部のフードを外し、着心地を確かめるようにパーカーを張った。
突如正体不明の物体に攻撃されたためか、その間にも敵は攻撃する様子はない。
「い、今のはなんだ!? 私は何に当たったというのだ!?」
「……なんて言えばいいのかな。あれ」
(知ってはいたけど、正直あんな幽霊みたいなパーカーはビックリしたよ……)
DDネクロムの仮面の下には大地の驚愕の表情があったのだが、幸いにもそれが知られることはなかった。
「クッ!」
「あ! 待て!」
自身の不利を悟ったライノセラスファンガイアは踵を返して逃げようとしている。
そうはさせじと追いかけ、瞬時に追いついたDDネクロムは背後から敵の後頭部を鷲掴みにして壁に叩きつけた。
さらに胴体に向けて拳の連打を叩き込めば、脱力したかのように崩れ落ちていく。
その隙にDDネクロムは次のカードを取り出した。
FORMRIDE NECROM SANZO
ネクロムゴーストは消失し、代わりに白いサンゾウゴーストがDDネクロムに覆い被さった。
サンゾウ魂へとフォームチェンジしたDDネクロムの手の中には既に金色のネクロムのアイコンのカードが握られていた。
FINALATTACKRIDE NE NE NE NECROM
DDネクロムから発生した金色のガスが倒れているライノセラスファンガイアごと足元に密集していく。
その巨体が完全にガスに飲み込まれると同時に雲状となり、DDネクロムの意思に従って宙に浮いた。
見た目に反してこの雲の足場はしっかりしており、落ちる心配もない。
「ハァッ!」
この筋斗雲と呼ぶべき雲を念じて、思い描いた場所へと飛行するDDネクロム。
この雲の中でライノセラスファンガイアがどういう状態なのかは興味はあるが、知らない方がいいのかもしれない。
そんなことを考えている内に目的地に到着したようで、DDネクロムを乗せた筋斗雲は下降を始めた。
その目的地とは今はもう使われていない廃工場。そこには2人の男女が待ち構えていた。
ファンガイアバスターを構えた恵と名護である。
これは名護の指示で、大地がこの場所まで敵を誘導するという作戦だったのだ。
「うわー…まさか、雲に乗ってくるとは思わなかったわ」
「今は戦いの時だ。無駄な雑念は捨てなさい」
「はいはい」
ガスが飛散し、中に閉じ込めていたライノセラスファンガイアが落下する。
静かに危なげなく着地したDDネクロムは、背中から地面に叩きつけられた衝撃で悶えている相手に肉薄して、背中に付いた武器であるゴコウリンを振るう。
しかし慣れない大型武器を使っているので、敵には中々当たらない。
むしろ腹にカウンターを食らってしまう始末だ。
「ぐぅあっ!?」
ゴコウリンを取り落とし、倒れたところでさらに火花が散るほど激しく踏みつけられてしまう。
ただでさえ大きいライノセラスファンガイアの全体重をかけた踏みつけの衝撃は強く、肺から空気を無理矢理押し出されてしまうほどだ。
ベルトごと踏みつけられているので、これではカードを使うこともできない。
基本的な戦闘技術を少し学んだだけの大地にとって、これはテクニカルなサンゾウ魂になるという選択ミスを犯した結果なのかもしれない。
敵が愉悦の唸り声を漏らし始めたところへ、銀の銃弾と空気を圧縮させた衝撃波が側面から炸裂した。
「ファンガイア。その命、神に返しなさい」
ファンガイアバスターを構える恵の横で、名護はイクサベルトを腰に巻いた。
さらに右手で握りしめたイクサナックルを左手に打ち合わせ、そのままベルトに装着する。
レ・デ・ィ
「変身」
フィ・ス・ト・オ・ン
無機質な音声が変身への合図を告げると、名護の身体にベルトから生成された黄金の影が重なった。
名護と影が完全に1つになった時、純白の戦士、仮面ライダーイクサへの変身が完了する。
「あれが、仮面ライダーイクサ……」
ビースト、メイジと比べてメカニカルな印象のイクサはなるほど、確かに現代人が科学で作り上げたライダーといえるだろう。
その堂々とした佇まいは宿敵の出現にたじろぐライノセラスファンガイアだけでなく、大地までもが威圧感を感じてしまう。
だがそれ以上に感じたのは安堵の息を漏らしてしまうほどの頼もしさであった。
イクサはDDネクロムとファンガイアの間に立ち、黄金のフェイスマスクが開く。
金の十字架の中から見えた真っ赤な複眼はイクサがセーブモードと呼ばれる低出力状態から全力発揮のバーストモードに移行した証拠なのだ。
「大地君、君はそこで見ていなさい。俺が戦いの手本となろう」
「ここまでやったんです。僕も最後まで戦いますよ」
「わかった。なら君は後衛で恵とサポートだ。できるな?」
「はい!」
大地の返事を待たずに、イクサは駆け出した。
イクサの専用銃、イクサカリバーの掃射で牽制。一気に距離を詰めていく。
目的の距離まで到達すると、イクサカリバーを真紅の刀身が伸びるカリバーモードに移行させ、上段から何度も切りつけた。
がむしゃらな大地のそれとは違う、素早く的確な斬撃は敵の抵抗を一切許さない。
「あれ、援護とかいるんでしょうか?」
「大地君がある程度ダメージ与えてるみたいだし、ねぇ」
しかしまあ何もしないのもやはり気がひけるので、ささやかな手伝いくらいはしておきたい。
FORMRIDE NECROM GRIMM
サンゾウ魂から、深緑のグリム魂へフォームチェンジする。
グリム魂の能力は両肩部分の小さな、それでいて鋭いペン先型の角、ニブショルダーを伸ばして操ること。
単純な攻撃能力だけでみればネクロムの形態で最も低いフォームであると同時に、戦法の多彩さでは他に引けをとらない。
激しい乱舞を繰り広げるイクサに当てないように援護射撃をするのは、ただでさえ精密射撃を苦手とする大地にとっては至難の技だ。
だからこそ大地はこのグリム魂を選択した。
「……今だっ!」
イクサの脇を縫うように伸ばしたニブショルダーで攻撃する。
一撃一撃の威力は低いが、援護としては十分なものである。
使用者の感覚に従って動くニブショルダーならば誤射の危険性は少なく、仮にそうなってしまっても一撃ならばイクサの装甲には大したダメージは与えられないだろう。
未知の攻撃に一瞬の戸惑いを見せたイクサも、それが味方の攻撃であると理解した途端に再び剣を振るう。
そうした2人のライダーの猛攻が続く中、ついにライノセラスファンガイアが膝をついた。
イクサは腰に装備されたカリバーフエッスルをベルトに装填。必殺の体勢に入った。
イ・ク・サ・カ・リ・バー・ラ・イ・ズ・アッ・プ
イクサに内蔵されたエネルギーの奔流がイクサカリバーに迸る。
限界までチャージされたカリバーは太陽のような輝きを放ち、それを背にイクサは構えた。
「ハァァァァァッッ!!」
「グァアァァァァァァッッ!?」
その光景に危機感を覚えたライノセラスファンガイアが腕を交差して防御の構えを取る。
そこに真っ向から剣をぶつけ、一気に振り抜いた。
エネルギーを充填したイクサカリバーの強烈な必殺技、イクサジャッジメントが敵の硬い体表を切り裂いたのだ。
許容量を超えたダメージにライノセラスファンガイアの全身はただの硝子の塊となって、イクサが背を向けると同時に完全に砕け散った。
「かっ、かっこいい……最高です!名護さん!」
(この子、本当に名護くんにぞっこんね……)
名護のヒーローのような立ち姿に感激していた大地は、恵の呆れを含んだ溜息に気づくことはなかった。
日が暮れかけて、蒸し暑さがほんの少しだけ和らいだ頃に大地は光写真館に帰ってきた。
出迎えてくれたのは、ガイドと瑠美だ。
「あ、おかえりなさい。大地さん」
「おかえり〜」
「ただいま」
あれから瑠美は研究所からこちらで暮らすようになった。
彼女が住んでいた「ビーストの世界」に戻るにはここにいた方がいいという判断から瑠美も遠慮しつつ了承してくれた。
ガイド曰く
『旅は道連れ。大地が仕事をこなしてくれるのなら後はどうしてもいいし、もしかしたら彼女の世界に寄ることもあるかもしれないからな。それまで一緒に楽しもうじゃないか。まだまだ部屋も空きがあるし』
だそうなので、今では(遠慮はしたのだが、瑠美はやると言って聞かなかったので)写真館の雑用をこなしてもらっている。
今すぐにでも彼女を元の世界に帰してあげたいのだが、写真館が移動する世界の行き先は自由に選べないらしい。
これもガイドが言っているのだから怪しいものである。
「今日の夕飯はナポリタンだ。なんと!瑠美ちゃんが作ってくれたんだぞ?」
ガイドが運ぶ大皿に盛られているのは具材がたっぷり入ったナポリタンだ。
ケチャップの芳しい香りが激しい戦闘をこなした後の空腹にとっては犯罪的な刺激を生んでしまいそうだ。
「い、いえ。いっつもガイドさんが美味しいご飯作ってるので、私なんかの料理で申し訳ないです。それにサラダとか副菜はガイドさんが作ってくれましたし」
「花崎さん、料理もできるんですね! すごいですよ!」
大地も手伝って3人分の食器を運び、全員が食卓についた。
「「「いただきます」」」
まずはナポリタンを一口、普通に食べてみる。
トマトの酸味が程よく抑えられたソースとよく絡まったパスタ、それに食べやすいサイズの野菜。
端的に言って、美味い。
「お、美味しい! 美味しいよ、花崎さん!」
「確かに美味い! なんかホッと安心する味だな〜」
ガイドの作る上品な味わいとはまた違った優しい味がする。
タバスコをかけても、粉チーズをかけても、味のアクセントこそ変わるが、根底にある味はそのままだ。
気がつけば大皿の半分ほどを大地1人で平らげてしまっていた。
(こういうのを……家庭的な味っていうのかな)
「おいおい、美味しいのはわかるけど、俺たちの分は残しておいてくれよな〜」
その日の食卓は終始笑顔が絶えなかった。
楽しい食事、風呂の後、それぞれが自室で就寝する時間。
大地はデスクライトだけをつけた部屋で1人カードを眺めていた。
名護との訓練でダークディケイドに変身する機会はほとんどなかったが、空いた時間で1人試していたことはある。
カードに秘められた記憶が補助してくれるとはいえ、今日のように経験不足から足元を掬われることだってありえないことじゃないのだ。
「エターナル、ソーサラー、サイガ……強力なライダーほど負担は大きいのかな」
ダークディケイドの変身からくる疲労感には少しずつ慣れてきた。
だがその負担はカメンライドの指定先によって微妙に異なるらしい。
例えばエターナル、ソーサラーなどのライダーは強力で多彩な能力が使える反面、他のライダーよりも負担が大きいように思えた。
今日のネクロムのような他のライダーも負担はあるにはある。しかし、そこまで大きいわけでもない。
無闇に強いライダーを使うのはやめた方がいいだろう。
「それと……このギルスってライダーは多分一番使いやすい」
理由は不明だが、ギルスへのカメンライドが一番負担が少なく、かつとても使いやすかった。
この感覚はうまく言い表せそうもない。
他にも何枚かの未だ使ったことないライダー、フォームは数多くある。
今後のためにも色々試しておきたいが、変身制限や体力の消費がネックになる。
何よりカードの記憶に頼らずに強くなることも忘れてはならない。
とりあえずここまで思考を纏めて、カードを片付け始めた時だった。
「おうおう、勉強熱心だねぇ」
「ッ!? ってガイドか……びっくりさせないでくださいよ」
いつの間にか部屋の入り口に立っていたガイド。
音も立てずにどうやって入ったというのか。それにしても心臓に悪いからやめてほしい。
「戦いに前向きなのは結構だがな、もう少し自分の存在の重要性について考えた方がいいんじゃないか?」
「どういうことですか? ファンガイアを倒すのが間違ってるんですか?」
「さあな。1つはっきりしてるのは、お前はこの世界にとっては異物ってことだ。それを忘れるなよ。じゃ、おやすみ〜」
それだけ言い残してガイドは部屋から出て行った。
彼の言っていたことの意味がわからないし、もっとわかりやすく言ってほしい。
それにしても異物、か。世界にとっては悪い存在ということなのか?
「……寝よう」
考えても、さっぱりわからなかった。
「すまないね。こんなつまらない実験に貴重な時間を割かせてしまって」
モニターに食いつきながら放った鬼塚のその言葉からは、申し訳ないという気持ちはほとんど感じられなかった。
「いえ、青空の会のお役に立てて僕も光栄ですから」
今、大地は一人で鬼塚のラボに来ている。
突然の呼び出しで、その理由はメイジドライバーの実験に付き合ってほしいとのことだった。
こんな山奥に呼び出しておいて、かつこんな不愛想な態度をとられてもなお大地は特に機嫌を損ねることはない。
今の発言も社交辞令などではない、紛れもない本音である。
「よし、もう一度変身してみてくれ」
「わかりました」
チェンジ! ナウ
本日三度目となるメイジへの変身を行う。
メイジドライバーには鬼塚のモニターと繋ぐコードが刺さっており、そのモニターに変身のデータが数値となって送られている・・・らしい。
「やはり何度見ても素晴らしいテクノロジーだよ。特に君のメイジのエネルギー源である魔力を操る技術は青空の会はおろか、ファンガイアにも匹敵するかもしれない」
「ファンガイアも魔力を持ってるんですか?」
「微弱なものではあるし、メイジのように自在に操れはしない。だがファンガイアのキングが持つ「王の鎧」ならば話は別だ」
そもそもメイジが操る魔力と鬼塚が認識していた魔力は厳密には異なるものらしく、「魔皇力」と呼ばれているものらしい。
王の鎧はファンガイアの魔皇力を最大限に引き出す強力な兵器であり、一度は世界を滅ぼしかけたこともあるという。
「青空の会はその鎧を最優先撃滅対象に設定している。実際にそれを模した魔皇力を操るライダーシステムも私は開発したが、所詮は模造品だ。本物には遠く及ばない」
だが、と鬼塚は熱のこもった視線をメイジドライバーに向ける。
「そのシステムを応用すれば我々はさらなる力を手にするはずなんだ。ファンガイアを全て根絶やしにできるほどの力を……」
「……鬼塚さんって不思議な人ですね。冷たさの中に熱さがあるっていうか……時折情熱的になるっていうか」
「1つ、私はファンガイア殲滅のために生きている。2つ、それに役に立たないことに興味はない。3つ、それを態度に表している……纏めるとこういうことだろう」
最初の時もこんな風に言ってた覚えがあるが、これは鬼塚の癖なのだろうか。
「でも、僕はかっこいいと思いますよ。記憶を失う前の僕も鬼塚さんや名護さんみたいに何かのために必死になれる人だったらいいんですけどね」
戦っていても、誰かと話していても、いつも思考の片隅には過去の自分に対する考えはあった。
もし記憶を取り戻した時、今の自分はどうなるのだろう?
ただ思い出すだけなら、それでいい。だが、取り戻した記憶が今の自分にとって良くないものだとしたら?
どうしても拭えない記憶に対する興味と若干の恐怖。
明日のことは考えずに今日を生きるとは言ったが、完全に割り切れることではない。
「できれば、今の僕がかっこいいと思えるような人だったら……それとも今の僕とはそんなに変わらない、つまらない人間なのかな」
大地の身の上話には興味がないのだろう。
鬼塚は眠たげに「ふうん」と気の抜けた声しか返してくれなかった。
後日、大地はいつものように近くの河原で名護と合流した。ここは名護が普段ジョギングなどに利用している場所で、人通りもほとんどないため訓練にはうってつけだ。
それと、恵は今日はモデルの仕事かあるとかで来られないらしい。そんな多忙な職に就いているというのにこんな訓練に付き合ってくれていたのには申し訳ない気持ちになる。
「今日はまず先日のおさらいからだ。いくら能力が多彩だとしても、使いこなせなければ意味がない。多種多様な武器を使うことを想定した訓練を行う」
「はい! 名護さん!」
「うむ。ではついてきなさい」
恐らく名護が言っているのは先日の戦闘で一時劣勢に陥ったことだ。
30以上のカメンライドを司るダークディケイドを使い続けていれば、また使い難い武器での戦闘も必ずある。その時のための訓練は非常に有意義なものであると思う。
昨日のあの戦闘だけでそれを見抜いた名護はやはり只者ではない、頼りになる師匠だ。
「……ん?」
「ッ!?」
そこで2人は足を止めた。
理由は背後から来る、強烈な殺気。それも大地ですら感知できるほどの。
これほどの殺気を向けられて気づかないという方が難しい。
互いに気づいていることを確信した上で同時に振り向き、背後に立っている1人の人物と対峙する。
黒いロングコート、丸眼鏡を着用しているその男は病的な、それでいて冷徹な面持ちであった。
(さっきまではあそこに誰もいなかったのに……いつの間に)
「貴方ですね……最近現れた、我等の同胞を狩る愚か者は。もはや捨て置くことはできない」
「貴様、ファンガイアだな」
「イクサの装着者よ、貴方もまたそんな愚か者だ。2人纏めて……あの世へ送ってやるよ」
やはりと言うべきか、男の正体はファンガイアだった。
蝶を彷彿とさせる美しく、気品のあるその名はスワローテイルファンガイア。
ファンガイアを総括するチェックメイトフォーの1人、ビショップであるが、それは大地は勿論のこと、名護ですら知る由もない。
しかし、皮膚に突き刺さるかの如く放たれている威圧感が相手は只者ではないことを教えてくれる。
わかっているのは強敵が目の前に現れた。それだけだ。
レ・デ・ィ
KAMENRIDE
「「変身!!」」
フィ・ス・ト・オ・ン
DECADE
「相手は強敵だ。油断するなよ、大地君」
「わかってます!」
ライダーシステムの装甲を身に纏ったイクサ、ダークディケイド。
それぞれの得物を油断なく構え、イクサが疾走を開始する。
ダークディケイドはライドブッカーをガンモードに変形させて、援護射撃に務める
このような2対1の状況では名護が前衛、大地が後衛に就くと事前に話していた。
経験、能力を考慮すればこの配置は当然のことであったし、並大抵のファンガイアが相手ならば難なく倒せたはずだ。
「フン……どこを狙っている」
スワローテイルは手に持っていた剣で銃弾を全て弾き、振り下ろされたイクサの斬撃を難なく受け止めた。
しかもイクサカリバーの刀身は止められた位置から微動だにしない。
この防御を押し切るためか、イクサカリバーの柄に両手を添えたイクサだったが、それでも微かな火花が散るのみで、スワローテイルからは蔑みの声が漏れる。
「軽過ぎる……所詮は人間の作った玩具に過ぎないということか」
「クッ……!?」
軽々と弾かれたイクサカリバー。
今まで葬ってきたファンガイアとは一線を画すパワーがイクサカリバーを介してイクサの全身に伝導した。
そこに横薙ぎに振るわれる剣がイクサの白い装甲を容赦なく削りとっていく。
「名護さんッ!」
通常の射撃では効果は見込めない。ならばより強力な射撃ではどうか。
ATTACKRIDE BLAST
しかし、名護を援護すべく放ったディケイドブラストですら、スワローテイルファンガイアが口から吹き出した炸裂鱗粉に迎撃されてしまった。
しかも炸裂鱗粉の勢いはそれだけに留まらず、イクサ、ダークディケイドの両者を飲み込んでいく。
ライダーの装甲に触れる度、小規模の爆発を起こす鱗粉。一度爆発が起これば、周囲の鱗粉の誘爆を伴って、多大なダメージを与える。
「「ぐあああああああっっ!?」」
ダークディケイドの装甲に守られてなお、大地の身を焦がす衝撃。
思わずライドブッカーを取り落として膝をつくが、イクサは未だ仁王立ちで剣を構えている。
名護の咄嗟の判断でイクサカリバーを振り払って鱗粉を跳ね除け、ダメージを最小限に抑えていたおかげではあったが、それでも無傷というわけにはいかなかった。
「大地君、君には奴の相手はまだ荷が重い。ここは俺に任せなさい」
「な、名護さん……!?」
「フン、まるで自分ならば倒せるとでも言っているようだが、まだ力の差がわからないのか?」
「この名護啓介がイクサの装甲を身に纏う限り、貴様らファンガイアに負けることはない!」
再度突撃するイクサ。迎撃するスワローテイルファンガイア。
名護はああ言ったが、両者の力の差は歴然だった。
互いに剣が交われば、傷つくのはイクサの方だ。
このままではイクサの敗北は時間の問題である。
かと言ってダークディケイドが加勢してもスワローテイルには及ばない可能性が高い。
仁藤以上の実力者の名護がここまで圧倒されるほどなのだから。
仁藤以上。その言葉を脳内で反芻して、とある事を大地は思いつく。
「ッ! そうだ、あのカードなら……」
地面に落ちているライドブッカーを開き、とある1枚のカードを取り出す。
戦う勇気を記録したカードを。
(僕と名護さんの2人で勝てないのなら……3人なら!)
「仁藤さん、一緒に戦ってください!」
KAMENRIDE BEAST
黄金の魔法陣を潜り抜けて、金色のライオンの鎧が身を包む。
かつて共に戦った仮面ライダービーストに極めて類似したフォーム、DDビーストは記録の中の姿と同じように構え、高く跳躍した。
「名護さんから離れろォ!」
イクサを斬りつける剣をビーストと同型のダイスサーベルで弾き、着地と同時に渾身の蹴りをスワローテイルにお見舞いする。
カメンライドをすでに把握している名護は驚くこともなく、すぐに体勢を整えて後ずさったスワローテイルに銀の銃弾を斉射していく。
「無駄だ!」
「ならこれだ!」
ATTACKRIDE FALCOMANTLE
先ほどと同じく銃弾は迎撃され、DDビースト達に迫り来る炸裂鱗粉は突如巻き起こった強風に散らされて効果を失う。
それはDDビーストが装備したファルコマントが起こした風であった。
さらにファルコマントの能力でDDビーストは空高く飛翔し、スワローテイルに上空から突撃する。
ダークディケイドやイクサよりも手数に優れるビーストのラッシュは少しずつ敵に傷を与えていった。
「ヌウッ、ヒラヒラと目障りな……!」
「ハアアアアアッ!!」
DDビーストのヒットアンドアウェイの戦法に手を焼いているスワローテイルには迫り来るイクサに気づいてはいても、迎撃することはできない。
よってイクサの斬撃は妨害を一切受けずにスワローテイルの腹部を一閃。ついにその刃を届かせることに成功したのだ。
それはかなり浅いが、確かなダメージとなって動きを鈍らせた。
「グウッ!?」
「そこだッ!」
生まれた隙を突いて、DDビーストは空中に滞空した状態で高速突きを連続で繰り出した。
スワローテイル以上のスピードで放たれる突きの威力の前に、敵の身体に刻まれる傷は見る見る間に増えていく。
無理な体勢からこのような技を使えるのも、仁藤の戦い方を記録しているビーストのカードのおかげだ。
「な、何故人間ごときがこの私にここまで……!」
「人間だからって、弱いとは限らないんです! 名護さんも、仁藤さんも、どんな強い怪人にだって決して屈したりしない!」
フォー! ファルコ! セイバーストライク!
回転するダイスと、セットされる指輪。鳴り響く音声。
そうして至近距離で発射した必殺技のセイバーストライクがスワローテイルの頭部に次々と炸裂していく。
これで倒せれば良かったのだが、流石にそこまで事は上手く運ばない。
しかし敵は健在ではあるが、強烈なダメージを与えた上で一瞬の目眩しにはなったはずだ。
この間に背後でさらなる必殺技の準備が行われているのはすでに知っている。
イ・ク・サ・カ・リ・バー・ラ・イ・ズ・アッ・プ
鳴り響いたのは、数多くのファンガイアを葬ってきた必殺のイクサジャッジメントの待機音。
いくら強大な敵が相手であったとしても、これを喰らえばひとたまりもあるまい。
自身に迫る一撃が今までのような小技ではないことを悟ったスワローテイルは当然鱗粉での迎撃を試みる。
ここでイクサジャッジメントが不発に終わってしまえばイクサ達の勝率はグッと減ってしまう。
考える間も無く、DDビーストは逆手持ちにしたダイスサーベルを投合。
その剣先は鱗粉を噴出しているスワローテイルの口部に命中した。
「ガァッ!?」
鱗粉が、止んだ。
「今です名護さん!」
「その命ーーー神に返しなさい!!」
闇を切り裂く正義の斬撃が今まさに到達しようとしたその時だった。
DDビーストの視界の端に謎の白い円盤が飛行している姿を捉えた。
それと同時に、イクサジャッジメントは不発に終わった。
イクサを邪魔する者は既にいないはずだったにもかかわらず、イクサの胸部に何かが激突して吹き飛ばしたのだ。
その白い円盤がイクサに突撃したという事実に気づく前に、DDビーストを弾き飛ばしたそれはこちらに向かってくる青年の元で浮遊している。
白い円盤の外観はまさしくUFOに類似しており、側面には蛇のような顔がついていて、不可思議な言語を喋っている。
ビーストの記憶に存在する使い魔のようにも見えるあの生物はどうやら自分達を見下ろしている青年に付き従っているようだが、彼は一体何者だというのか。
「苦戦しているようだな、ビショップ」
「何だ、お前は」
「貴様、口を慎め!」
「もしかして、ファンガイア……?」
あの口ぶりからすると、間違いなく彼はスワローテイルの仲間だ。
だが、未だ人間の姿だというのに、今までの敵を遥かに凌駕するあの雰囲気はまさしく強敵の証。
青年の顔にファンガイアの模様が刻まれ、手袋を脱ぎ捨てた右手の平にはどこかで見覚えがある紋章が輝いている。
その紋章を目にした途端にイクサ、スワローテイルの両者の様子が一変した。
「まさか、お前は………!?」
「お待ちください! 貴方の手を煩わせるわけにはいきません。こんな連中は私1人で十分です!」
「下がれビショップ。これはほんの気まぐれだ。それにこいつらがどの程度のものか、興味が湧いた。サガーク!」
サガークと呼ばれた白い円盤は青年の腰に巻きつき、ベルトとなる。
ビースト、イクサと同じくベルトを装備したとなれば、彼がこれから言う言葉はただ一つ。
「変身」
専用武器、ジャコーダーをセットした青年の予想通りの言葉。
そして降臨する。
ファンガイアと同じステンドグラスの装飾が施された白き装甲、手に持つジャコーダーは細く鋭い剣。
蛇の意匠の仮面にある複眼はダークディケイドと同じ深い青色でありながら、ダークディケイドにはない美しさすら兼ね備えている。
これこそが絶対的な力の歴史の中に君臨する最強の王。
その王が身に纏うは受け継がれし運命の鎧。
又の名を。
「仮面ライダー……サガ!?」
大地が所持するカードにも目の前のライダーは記録されている。
あの青年の右手に浮かんでいた紋章もカードにあったサガのライダークレストであり、見覚えがあるのも当然だったのだ。
だが今はそれも些細なことだ。
この仮面ライダーサガは間違いなくドレイクやスワローテイルに匹敵どころか、それ以上の実力を持っているだろうことは対峙しただけでも察せられる。
果たしてそんな相手にイクサと2人で勝てるのだろうか?
「やはり、ファンガイアのキング……! まさかこんなところで会えるとは」
「あいつが……キング!?」
つまりはあのサガこそがファンガイアの頂点に君臨するキングであるというのか。
仮面ライダーが怪人の頂点にいるというのは驚きだが、この威圧感もキングというなら納得せざるを得ない。
隣の名護もサガの威圧感は感じているはずだが、その闘志は先ほどより一層燃え上がっているようだ。
「俺はこの時をずっと夢見てきた……キング。お前を倒し、人類の未来を掴み取る瞬間をな!」
「ほざけ。人間はファンガイアの家畜に過ぎない。舐めた口をきくのもいい加減にしてもらおうか!」
サガのジャコーダーが鞭状となってしなり、イクサとDDビーストを打つ。
たったそれだけの一撃が、2人を吹き飛ばし、地面に背中を打ちつけた時にはビーストへの変身は解け、通常のダークディケイドへと戻ってしまった。
「うぁ……クッ、攻撃が見えなかった……!?」
「無事か!? 大地君!」
「は、はい……!」
レベルが違い過ぎる。
恐らく今の一撃はサガにとっては牽制程度だったのかもしれないが、この全身に響く痛みは間違いなくそれ以上の効果を発揮した証拠だ。
自身を遥かに凌駕する強大な相手を前にして、大地の中に潜んでいた恐怖が再び首をもたげるのを感じる。
息を吐き出す音が微かに震えたのを見抜いてか、イクサは抑えるようにダークディケイドの肩に手を置いた。
「いいか、これは命令だ。君はダークディケイドの力で離脱して嶋さんに報告するんだ」
「そんな、じゃあ名護さんも一緒に!」
「駄目だ。人類最大の敵を前にして、俺には逃げることはできない! それが使命なんだ!」
イクサはその言葉を最後に立ち上がり、イクサナックルとイクサカリバーによる遠距離攻撃の連射でサガへと突撃していく。
直撃すら意味を介さない攻撃を嘲笑うかのごとく、サガの猛打が中距離からイクサを叩くが、それでもイクサの駆ける勢いは少しも劣らない。
限りなく勝ち目が薄いことなど名護だってわかっているはずなのに、何が彼をそこまで駆り立てるというのか。
たった一撃で実力の差を見せつけられ、大地の戦意は萎えかけているのに。
「殺されるかもしれないってのはやっぱり怖い……だけど」
そうだ、言ったばかりではないか。
名護啓介はどんな強い相手にも決して屈しない。
ならば名護啓介に憧れる自分がここで挫けていいわけがない。
逃げたらビーストの世界の時と何も変わらない。
「決めたんだ……相手がどんなに強くたって、逃げずに戦うって!」
大地の決意は固まった。
後はどうやって戦うかだ。
敵の強力な攻撃は避けられず、しかも距離を選ばない。
こんな絶望的な状況に対応するカードのビジョンがドライバーによって示された。
「避けられないのなら、防御力を上げるってことか!」
単純だが、素人に毛が生えた程度の大地にとっては立派な戦略だ。
迷わずそのカードを選び、ドライバーに叩き込んだ。
KAMENRIDE DARKKIVA
ダークディケイドが変身したのは、サガとは対照的な黒い装甲とワインレッドのスーツ。
その身体中に漲るパワーは衝撃波という形で周囲に放出される。
そのエネルギーに晒された野原は爆発が起こり、絶滅の炎を撒き散らす。
カードを介した技ですらないその衝撃波はサガとスワローテイルの強敵にすら凄まじい威力の攻撃として炸裂した。
味わったことのない痛みに狼狽する王はその攻撃の主を視認すると、驚愕の声をあげた。
「馬鹿な……何故奴があの鎧を……!?」
サガと同じく選ばれし者にのみ力を与える筈の鎧を目の前の人間が装備している。
サガと同じく王にのみ許された鎧が王である自分の敵として存在している。
あり得る筈がない状況に王とその臣下は困惑するしかできない。
そしてその困惑はサガの猛攻から解放された名護にもあった。
記憶のない、どこか知り合いに似ている気弱な大地が、世界を滅ぼす闇のキバの鎧を身に纏っている。これを流すことなどどうしてできようか。
最強の闇のキバの鎧、DDダークキバはそんな彼らに構わず雄叫びと共に疾走を開始した。
闇のキバと運命のサガ。
対峙する筈のない両者の激突が今、始まったのだ。
お知らせの方にも書きましたが、旅行のため1週間ほどお休みさせてもらいます。
その代わり明日の0時にまた更新しますので、どうかお待ちください
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