それはそれとして、いつもの……な12話
石を投げられる覚悟の展開です。
支配されている側が支配する側を討つ。支配のバランスがひっくり返る。
これが革命だと言うのなら、イクサの世界での革命は目前に迫っている。
それもイレギュラーな存在として。
「どういうことだ。これは」
大地と出会ってからというもの、何度も驚かされる機会はあった。
だが今目の前で起きているのはその比ではない。
なにせそれは名護という男が戦場において、動きを止めて困惑するという致命的な隙を晒してしまうほどに信じられない光景であるからだ。
少し変わっているが聞き分けのいい弟子が最大の宿敵の鎧を着て、最大の宿敵と対峙している。
闇のキバ、そしてキング。
この2つを討ち亡ぼすことが戦士たる名護の使命だったはずだ。
ならばこの状況において名護が取るべき行動は何だ?
剣を向ける先に迷う名護の脳裏にふととある男の言葉がよぎった。
『心に余裕がない。張り詰めた糸はすぐ千切れる』
落ち着け。ここで敵を見誤ってはいけない。
かつての名護ならばサガとDDダークキバの両方に挑んでいたかもしれないが、今の名護には冷静に状況を見つめ直すだけの心の余裕がある。
「……そうだ。俺は正義のために、倒すべき相手を倒す!」
イクサカリバーを構え直し、標的を定めたイクサが再び戦場に突入した。
ヒュッ、と空気を切り裂く音と装甲を叩く激突音が大地の鼓膜を刺激する。
だが、その後に続く筈の衝撃はほとんど無いに等しい。
このダークキバの鎧は大地がこれまでに変身したどのライダーよりも優れた防御力を誇っているようだ。
あのサガの攻撃でさえも微かなダメージにしかならない。
あらゆる角度から叩き込まれるジャコーダーの唸りの中をDDダークキバはこの防御力を以って強引に接近し、飛び蹴りを繰り出した。
サガにとってそんな単調な攻撃一発を躱すのは容易いことだが、そのまま力任せに振るわれるDDダークキバのパンチラッシュは王といえど回避し続けることはできない。
何発目かに繰り出した拳がついにサガの肩部の装甲を捉えたのだ。
一瞬体勢を崩してしまえば回避のリズムも崩れ、さらに拳を見舞われる形となってしまったサガ。
サガの鎧の防御力もまたイクサや通常のダークディケイドとは比べ物にならない強度を誇るものの、ダークキバの攻撃力の前では心許ないようだ。
「チィッ……! 貴様、人間がどうやって闇のキバを模造した!? そのベルトは何だ!?」
「それは僕が知りたいくらいですよ!」
DDダークキバの重い攻撃がサガに少しずつダメージを蓄積させていく一方で、DDダークキバ自身の動きにも僅かな鈍りが生じ始める。
いくらダークキバの鎧とはいえサガの攻撃によるダメージを完全に殺しきれるというわけでもなく、DDダークキバの動きを鈍らせる一因にはなっている。
だが一番の要因はダークキバへのカメンライドが予想以上に大地への負担が大きいことにある。
(結構キツい……早めにキメないと不味いかも……!?)
カメンライドするライダーが強力であればあるほど大地にかかる負担が大きくなる体感はあったが、このダークキバの反動はトップクラスといって過言ではない。
今の大地の状態では下手をすればサガを倒す前に意識を失ってしまうだろう。
鎧のスペックだけで見ればDDダークキバの勝利は明白。そこに様々な条件が加わることで戦況はほぼ互角となった。
「キングから離れろォ!!」
DDダークキバのがむしゃらなラッシュに割り込んできたのはスワローテイルファンガイアだ。
先の戦闘で猛威を振るった鱗粉攻撃もDDダークキバ相手では有効打にはなり得えず、爆風によって後退させるだけに留まった。
それでもサガとDDダークキバの距離を引き離せればスワローテイルとしては十分だった。
纏わり付いた鱗粉をマントで払うDDダークキバ。そこへ鞭となったジャコーダーが飛来し、その腕に巻き付いた。
「やれ!ビショップ!」
すかさずスワローテイルの大剣がDDダークキバの鎧を叩き、火花を散らす。
硬すぎる防御を見越した敵の斬りつけるというよりも叩きつけるような斬撃に何度も見舞われては洒落にならない。
「人間の手で作られた紛い物の鎧など、存在することは許されん! 私が直々にスクラップにしてやるよ」
「くっ!?」
抵抗しようとしてもジャコーダー越しにサガに引っ張られているせいで、DDダークキバはあらぬ方向によろめくことしかできない。
無理矢理引き千切ろうにもジャコーダーはかなり頑丈で、スワローテイルの猛攻に晒されている今では脱出そのものが大地にとっては困難である。
このまま一方的な攻勢が続くかと思われたが、闇のキバに気をとられる余りもう1人の宿敵を放置してしまっていることを忘れてはならない。
「キングゥゥッッ!!」
「何ッ!?」
サガのジャコーダーを持つ腕を斬りつける赤い刀身、イクサカリバー。
その衝撃でDDダークキバを縛る鞭は解かれ、スワローテイルの大剣も瞬時に構えたライドブッカーに止められた。
単純な剣技ならばスワローテイルに軍配が上がるだろうが、内包する膨大な魔皇力を剣に纒わせればDDダークキバに負ける道理はない。
力押しでスワローテイルを捩じ伏せたDDダークキバが見たのは、果敢に追い縋るイクサを今にも貫かんとするサガの姿。
「ハァッ!!」
ライドブッカーに纒わせていた魔皇力をその刃の形のままに衝撃波として解き放つ。
「無駄だァ!!」
高速で飛来する斬撃波はジャコーダーの一振りで打ち消されてしまうが、その隙にイクサの斬撃がサガの背中を打つ。
イクサの攻撃もサガからすれば大したことはないにせよ、無視をするには余りにも鬱陶しい。
「邪魔をするな!」
サガの突きがイクサの装甲を削ぎ、内部の機械を露出させるが、イクサの動きは鈍るどころかますます激しさを増していく。
どんなに装甲を傷つけられようが御構い無しにイクサカリバーをサガに叩きつけるその腕の勢いだけならばサガに迫るほどである。
「勘違いしてもらっては困るな! 彼がどんな姿であろうと、俺の弟子であることに変わりはない! 彼を倒すのならば、まずは師匠である俺を倒してみせろ!」
「ならば望み通りにしてやる!」
ジャコーダーがイクサカリバーを弾き、肩部の装甲に縦の深い溝が刻まれた。
内部の機械がショートしたのか、視界を埋め尽くす火花が一瞬散ったかと思えば、彼等の足元に焼け焦げたイクサの装甲の一部が転がった。
「名護さん!」
DDダークキバがイクサを庇って割り込んだ頃にはイクサの白いボディはすっかり黒ずんでしまっていて、胸部の中心にあったマークも削り落とされていた。
いつ変身解除されてもおかしくないダメージが蓄積されているはずなのに、何故か名護の戦意は衰えるところを知らない。
この場で一番ボロボロのはずの名護が、この場で一番闘志を滾らせる道理などサガにも、DDダークキバにも理解できない。
「貴様、本当に人間か……!?」
「俺は青空の会の戦士、名護啓介だ!!」
DDダークキバがサガを抑えている間にその脇をすり抜けて、サガの腹部に刃を滑らせるイクサ。
しかし、そこが限界だった。
イクサカリバーの刀身は無残な音をたてて砕け散ってしまったのだ。
いくら名護がタフでもイクサは違う。
イクサのスペックを遥かに凌駕する敵と打ち合い、強固な鎧に何度もぶつかったイクサカリバーの刀身はその酷使の中でとうとう耐久の限界値に到達してしまったのだ。
システムの中枢部に異常をきたしたせいで銃として使うこともできないのは、絶えず火花を撒き散らすイクサカリバーを見れば察してしまう。
武器としての役割を終えたイクサカリバーはその場に投げ捨てられ、イクサナックルをベルトから取り外して、イクサはサガの顔面を思い切り殴る。
「人間風情が……!! 巫山戯るなぁぁ!」
イクサナックルで強化されたパンチであっても致命打には至らないが、下等な存在と見下している者から顔を殴られた屈辱はサガに計り知れない怒りと底力を与えてしまった。
無理矢理DDダークキバを跳ね除けて、サガは逆にイクサを殴り飛ばす。
「名護さん!?………グッ!?」
力無く倒れるイクサを助けに行こうとするが、急激に脱力感に襲われてしまい、思わず膝をついてしまった。
今の自分ではダークキバを扱える時間はそう長くはないとわかっていたが、ここで限界を迎えるとは。
これではサガを倒すどころか、名護より先に気絶してしまうかもしれない。
しかし今ダークキバの変身を解いては、サガの攻撃に耐えられない。
まさに絶体絶命の状況に陥ってしまった焦りから、大地の思考は掻き乱され、サガがフエッスルを取り出すのを見守ることしかできない。
「何故人間が闇のキバを模造できたのか、聞き出しておきたいが……お前は余りにも危険だ」
反逆者達が倒れた今こそ、王にとっては絶好の機会に他ならない。
(どうすればいい、どうすれば!?)
イクサも、自分も動けない。スワローテイルはすでに復帰し、サガはフエッスルをセットした。
「王の判決を言い渡す」
ウェイクアップ
「ーーー死だ」
サガのジャコーダーに流れる魔力が一段と膨れ上がる。
すると周囲の様子は一変して暗闇に包まれ、月光以外の光が消えた幻想的な空間が生み出された。
ジャコーダーの魔力が天にサガの紋章を描き、剣先がゆっくりとDDダークキバに狙いを定める。
この技を喰らってしまえば命はない。漠然とそう予感した大地は急いでカードを叩き込む。
「ッ! 一か八かだ!」
FINALATTACKRIDE DA DA DA DARKKIVA
この身体でどこまでやれるかは疑問だが、今は生き延びることが先決だ。
月光に照らされた右腕が魔皇力に満ち、大地の身体は悲鳴をあげる。
死への恐怖だとか、余計な事に思考を割けばこの技を出す前に変身が解除されるかもしれないほど右腕に込められたエネルギーは大きい。
この必殺技、ダークネスヘルクラッシュをサガの必殺技よりも先に当たることに全神経を集中させ、残った力を振り絞って高く跳躍しようとしたその時。
「1つ、チェックメイトフォーのビショップ」
聞き覚えのある声が、響いた。
「2つ、ファンガイアのキングとサガの鎧」
限られた光しかないこの空間に現れた彼女の赤髪はいつもより不気味に映った。
服装もちょっとシワのあるラフな格好じゃなくて、黒一色のスーツ……というよりも喪服。
この河原であのような格好はミスマッチもいいところだが、それは些細なことだ。
「3つ、ファンガイアの王の鎧。初陣としては十分」
「お、鬼塚さん……?」
そう呟く彼女の顔には裂けているのかと錯覚するほど吊り上がった笑みが浮かんでいる。しかも肩を震わせるほど興奮した様子で。
普段無愛想な彼女が、鬼塚がここまで感情を表に出す理由は何だ?
決まっている。彼女が言っていたじゃないか。
ファンガイアの殲滅。それにしか興味がないと。
「力の歴史に溺れた王よ。いよいよ貴様等の系譜に終止符を打つ時がきたんだ。この私の手でね」
「貴様、何者だ」
「青空の会のメンバーか……?」
鬼塚の並々ならぬ雰囲気はどう見ても研究者のそれではないのだ。
彼女を知らないはずのサガ、スワローテイルが注視してもおかしくはない。
よく見ると彼女の手には機械でできた蝙蝠が握られており、彼女の服装には不釣り合いな無骨なベルトが巻かれているではないか。
イクサも、サガもこの世界のライダーはベルトに何かをはめることで変身する。ならば鬼塚もまた、変身するということなのだろうか?
「私が何者か、お答えしよう」
不敵に笑う鬼塚は蝙蝠をベルトに収め、備え付けられたスイッチを押した。
チェンジ!
メイジドライバーの音声に酷似した音声がその場に鳴り響く。
「変身」
それを合図にベルトから流れるのは美しくも、哀しいメロディ。
敵も味方も一瞬ここが戦場であるということを忘れて聞き惚れるほどの旋律が幻想的な空間と溶け合って、より一層その音楽の秘めたる荘厳さを演出する。大地に至っては必殺技の準備態勢であることすら忘れている始末だ。
「これは、バイオリン?」
DDダークキバがぽつり、と漏らした。
音楽に造詣が深くない大地でもこれがバイオリンの奏でる旋律とはわかる。彼が感じたのはこれと似た旋律をどこかで聴いたことがあるような既視感。バイオリンを聴いた記憶なんてないにも関わらず、だ。
(というよりも……これは僕の記憶じゃなくて、このダークキバの記憶なのか? それに、これを聴いてるとなんだか悲しくなってくるような……)
心奪われる旋律のフィナーレが、鬼塚の変身の終わりを告げた。
鬼塚の身体を包む黒のメカニカルな装甲はイクサに近く、アンダースーツの部分はどこか生物的な意匠がある。
背中にかけている、彼女より一回りも巨大な大鎌の存在感も抜群だが、中でも目を惹くのは凶悪な顔付きの仮面と二本の角。
一瞬の静寂を支配する旋律のフィナーレがその新たなる戦士の登場を告げた。
その姿は一言で言うならば、黒い鬼。
「私は仮面ライダーリヴォル。ファンガイアを滅ぼす者だ」
「その姿……貴様まさか、ゴブリン族の生き残りか!?」
「ゴブリン族?」
鬼塚の事情はよく知らないが、これはチャンスかもしれないと大地は思った。
もしかすると鬼塚が変身したあのライダーには状況を打開する一手があり、助けに来てくれたのかもしれない。
敵がリヴォルに釘付けになっている間にイクサの安否を確認しに行くべきか、それともサガ達を攻撃すべきか。鬼塚の実力は未知数だが、まさかサガを凌駕するほどとも思えない。
大地がそう思案してる間にも状況は進んでいく。
サガの標的がリヴォルに定められたのだ。
「闇のキバの模造品に、ゴブリン族の末裔までいるとは……青空の会は思ったいたよりも厄介な組織らしい。だがそれも今日までだ。死ねぇ!」
スネーキングデスブレイクの矛先はリヴォルに向けられてしまった。
このままではあの命を刈り取る赤き閃光がリヴォルのあらゆる防御を突き抜けて、鬼塚を葬るだろう。
そうはさせまいと最後の力を振り絞って駆け出したDDダークキバ。
「鬼塚さん!」
リヴォルが取るべき行動は回避以外他にない。そのはずなのに、彼女はフエッスルをベルトにセットするだけだった。
テイクアップ
その無機質な電子音声を認識した瞬間、DDダークキバの足が停止した。大地の意思に関係なく、だ。
リヴォルの目前で静止しているジャコーダーの先端も、スネーキングデスブレイクの体勢で微動だにしないサガも大地のように止められているというのか。
身体の自由を奪われた一瞬の後、サガ、DDダークキバの両者に異変が起こる。
「がぁッ!?」
「ぐううっ!?」
身体中から力が抜けていく。苦痛が絶え間なく襲ってくる。
姿勢を崩して悶え苦しむサガとDDダークキバの鎧から虹色のエネルギーがリヴォルに吸い取られていく。
リヴォルはサガとDDダークキバの魔皇力を吸収しているのだ。エネルギー源を失いつつあるDDダークキバ達の苦しみは単純な疲労などによるものではない。
装着者の命に関わる鎧が異常をきたしたのだから、与えられている苦痛は相当のものになる。
2人のライダーから吸収したエネルギーは集約され、リヴォルが背負う大鎌に集められている。それに伴って周囲を黒く染めていた夜の空間も晴れ、眩しい日差しがリヴォルを照らす。
「貴様! 何をしている!」
主を襲う異常事態にスワローテイルファンガイアが動く。
見上げた忠誠心だが、最強の鎧を一瞬で無力化した相手に突っ込むのは愚策でしかないと、リヴォルは小刻みに身体を揺らしてせせら嗤う。
深々と腰を低く落として構えるリヴォルの大鎌に宿る強大な魔力にスワローテイルがようやく気付いて足を止めても、すでに大鎌の長いリーチの中に侵入してしまっているのだ。
一見扱いにくそうに見えるリヴォルの巨大な大鎌はスワローテイルの大剣が届かないギリギリの距離から仕掛けることが可能だ。
「はっ!!」
リヴォルは遠心力を加えた大鎌の一撃をスワローテイルに繰り出す。
己の立ち位置の危うさを悟ったスワローテイルの鱗粉による迎撃を掻き分けて、その脇腹に大鎌が突き立った。
しかし、如何に巨大な大鎌でもチェックメイトフォーのファンガイアを両断はできない。先端が僅かに突き刺さった位置で大鎌は停止していた。脇腹に鋭い痛みが走るが、致命傷には至らない。
「フッ、大袈裟な登場をした割にはこの程度か」
「果たしてそうかな?」
不敵に笑うリヴォルなどスワローテイルからすれば強がりを言っているだけにしか見えない。
未だに大鎌を突き立てた体勢のままのリヴォルの頭をかち割ろうと振り上げた大剣は、スワローテイルの手からするりと抜け落ちた。
落ちた剣を拾うことも、膝を曲げることも今のスワローテイルにはできやしない。
(な、何が……)
疑問を口にすることすらも、許されぬ奇妙な痛みに晒され、自身の肉体が徐々に壊れていくのをビショップは自覚した。
動かせない視界に映る自身の腕が美しく、色鮮やかにひび割れていくのだ。
紛れもなくこのスワローテイルファンガイアの最後だ。
(この私が……)
そうか。あの大鎌に宿る魔力が直接注入されているのか。サガとダークキバの魔皇力が一気に流し込まれて生きていられるはずがない。
もう自分は駄目だ。なら最後に敵の攻撃の正体をキングに伝えねばならない。
それこそがチェックメイトフォーのビショップに与えられた使命なのだ。
「キ………ン、」
「ふん」
止まっていた大鎌が、簡単に振り抜かれた。
仮面ライダーの装甲にも匹敵するはずのスワローテイルの身体に広がるヒビがさらに細かく刻まれ、ついに微動だにしないただの人型のガラスの塊として存在するだけになる。
斜めに空いた隙間の空間がその堅さの意味を失った証明であり、ステンドグラスの一瞬の煌きがそれが生きていたことの最後の証拠である。
そして裁断された衝撃で忠臣、ビショップの肉体はその遺言ごと粉々に砕け散った。
「ビショップゥゥゥッッ!?」
「凄い……あのファンガイアをあんなにあっさりと」
ビショップの死体とも言えるステンドグラスの破片を、まるでゴミのように足で散らして踏み砕くリヴォルが、大地には一瞬恐ろしく見えてしまったが、この状況でここまで頼りになる仲間もいまい。
残る敵のサガもリヴォル1人で倒せてしまうのではないだろうか?
「さて、仕上げといこうか」
ウェイクアップ!
リヴォルが挿し込んだフエッスルの効果か、その手を離れた大鎌は空中で高速回転を始めた。
リヴォルがくい、と顎を動かせばその通りに大鎌は移動する。これは鎌というよりもブーメランのようだ。
リヴォル自身の魔力が上乗せされてさらに回転力を増したブーメランの一撃ーーーファングスレイヤー。
万全の状態ならいざ知らず、今のサガにはこの単純な攻撃の直撃を防ぐ手立てはない。
身体が満足に動かなければジャコーダーで弾くことも叶わず、魔王の命を刈り取る革命の斬撃がついにサガの胸部に到達した。
耳をつんざく甲高い音とキングの悲鳴からファングスレイヤーの威力のほどが伺える。
「ぐああああああッッ!?」
サガの鎧を切り裂く音がキングの悲鳴と重なった。
許容範囲を超えたダメージを負って、変身を維持できなくなったサガは青年の姿を晒して吹っ飛んでいく。
そうして川の中に水飛沫をあげて落下したキングの身体は淀んだ流れに沈んで見えなくなっていった。
後に残されたのは煙をあげて(この表現が正しいかどうかはともかく)地面に横たわっているサガークだけだ。
勝敗は決した。
あの強豪達を相手に、無傷で撃退したリヴォルの完全勝利だ。
あまりに見事な手際に名護は言葉を失ってリヴォルを凝視している。
キングが言っていたゴブリン族というのも気になるところだが、今は勝利を喜んでいいはすだ。
いい加減に疲労が限界まで溜まっていた大地は歓喜の声をあげながら、変身を解こうとしてベルトに手をかけた。
その時飛び込んできたのは、すでに標的が存在しないはずのブーメランだった。
「や、やった……凄いです鬼塚さぁッ!?」
「大地君!」
何度かバウンドして地面に落下するダークディケイドライバーとライドブッカー。胸に手を当てて倒れ伏したのは、生身の大地。
胸を焼く痛みに大地の理解が追いつかない。
変身が解除されたのもファングスレイヤーのダメージが原因であって、自らの意思では決してないのに。
鬼塚の真意を確かめようにも、もう大地の身体には自力で起き上がる力は残っていない。
名護の声、鬼塚の笑い声、それらが聞こえても答える余裕もない。
(何でこんなに痛いんだよ。僕達は勝ったじゃないか)
状況を理解できずとも、反射的に伸ばした右手がライドブッカーを掴み取った。
左手でダークディケイドライバーも掴もうとしていると、不意に大地の身体が持ち上がった。リヴォルが彼の襟首を掴んで引っ張り上げたのだ。
錆びれた機械のような挙動で首を動かして、目と鼻の先にリヴォルの仮面があることを認識した。間近で見るとリヴォルの仮面は酷く恐ろしい表情に見える。
「ありがとう大地君。君のおかげで、私は魔皇力を自在にコントロールする技術を手に入れることができたよ。今の私にはどんな鎧も敵ではない。ファンガイアを殲滅する戦士、君の言う仮面ライダーになることができたよ!」
このリヴォルの仮面の下に鬼塚がいるのが、大地には到底信じられない。それほどまでに目の前のライダーは嬉々として語りかけてくるからだ。
確かにリヴォルの姿形は仮面ライダーそのものだ。だが、不気味なほどに狂気の喜びを露わにするリヴォルがどうしても仁藤や名護と同じ正義のライダーと重ならない。
「どっ、ど…どうしてぼくを」
「1つ、リヴォルが闇のキバにも通用することを確かめたかった!」
「やめろぉ!」
リヴォルは大地を片手で持ち上げたまま、向かってきたイクサを払い除けた。
すでに限界に近いイクサはたったそれだけで鉄柵に激突して力無く項垂れた。
「2つ、私は君の持つもう一つのベルトにも興味がある!」
大地の襟首を持つ力が強くなる。
「3つ、大地君。君自身にはもう興味がないよ」
鬼塚の言葉を聴き終えないうちに、大地の世界が一転した。
初めて経験する浮遊感と、視界が著しく回転して上下の判別もつかなくなっていった大地の身体がキングと同じ川に落ちていく。
傷口に染み込む泥水の不快感と冷たさ、そしてどうしようもない息苦しさで大地の意識は失われ、流れに任せて沈んでいった。
(僕は……ま、だ………)
「大地くーーん!!」
川に沈んで見えなくなった大地には名護の叫びは届かない。それがわかっていながらも、叫ばずにはいらない。
彼を投げ入れた当の本人はその行方に目もくれずに大地が落としたダークディケイドライバーを眺めている。これに怒りをぶつけられずにいられるものか。
「鬼塚さん! 何故!何故こんなことを!」
「それはさっき説明したろう? 相変わらず名護君は鈍くて不愉快な人間だよ」
「何だと……!」
鬼塚の棘のある発言に刺激された名護の激情が顔を見せる。
これ以上の会話は必要ない。早急に鬼塚を拘束し、大地を救出するべきである。
イクサナックルを構え突撃するイクサであったが、リヴォルは溜息を漏らすだけだ。
イクサナックルの一撃は容易く躱され、リヴォルの腕はイクサベルトに伸ばされた。
「イクサは君なんかの物じゃない。渡してもらおう」
イクサベルトを掴まれたまま、破損箇所の目立つ胸部を思い切り蹴飛ばされたイクサ。
リヴォルの手の中に握られたイクサベルトはその変身機能の維持も果たせなくなり、苦痛に顔を歪めるボロボロの名護がその場に転がった。
イクサナックルだけはベルトから取り外していたために未だ名護の手の中だが、リヴォルがそれを見逃す道理はない。
「イクサナックルも渡してもらおうか」
「くっ、させるか!」
このままではイクサナックルも奪われてしまう。
最悪の状況を回避するために名護がとった行動は至ってシンプルなものだ。
イクサナックルの衝撃波を足元に放ってリヴォルの目を眩ませ、その隙に名護は川の中に飛び込んだ。思っていたよりも激しい流れに揉まれて、名護の意識も薄れかけようとしていたが、イクサナックルを握る手だけは決して緩めなかった。
「ナックルだけ死守しても何の意味もないというのに……。やはり馬鹿な男だよ。まあ、結果は上々といったところか」
リヴォルとしてはこのまま名護を追いかけてもいいのだが、どうせいつでも取り返せるのだから、今は戻ってシステムのメンテナンスとダークディケイドライバーの解析を優先すべきだと判断した。
リヴォルの変身を解いた鬼塚はサガークも回収し、持参したリュックの中に今回の収穫を全て放り込む。サガークが起きてしまうと面倒であるため、なるべく早くラボに帰らねばなるまい。
「キングを仕留めきれなかったのは失敗だったが……まあいいだろう」
流石にあの程度でキングが死ぬ筈がないし、名護もなんだかんだ生きてはいるだろう。だが、普通の人間ならいつ死んでもおかしくない傷の大地は流石に死んだ筈だ。
それにしてもあのキングの情けない悲鳴といったら! あれは久し振りに心から笑えた気がした。
(大地君、重ねてお礼を言うよ。君の力は私がもっと有意義に使わせてもらうよ)
水の底に沈んだ大地へと最後の礼を心の中で短く述べて、鬼塚の思考から哀れな記憶喪失の青年のことはすっぱりと抜け落ちた。
「確か……この辺りだと思うんだけど」
首にストールを巻いた童顔の青年が必死に何かを探している様子で、息を切らして走っている。
その探しているものが一向に見つからず、それでも諦める気にもなれず闇雲に走り回る青年。その探しているものとは目に見えるものではない、音楽なのだから見つからないのも当然であった。
突然聞こえてきた旋律に導かれるように足を運んだのはいいが、今は聞こえるはずのないその旋律がどこから流れたのかすらわかっていない。
そんな風に走り回って川沿いの道にやってきた青年は川岸にあるものを目にする。
「え? あ、あれって太牙君!?」
見間違いかと思ったが、何度見てもそれは親友の登太牙であった。
慌てて駆け寄った青年は大牙を川岸から引き上げようとする。見た目通り非力な青年では自分と同じ背丈の男を引きずるだけでも精一杯といった様子であったが、それが幸いしてか、青年は太牙のそばに流れ着いていた男に気付くことができた。
青年は一旦太牙を離れた場所まで運んでから、急いでその男も引き上げて安否を確認する。
「だ、大丈夫ですか!? ええっと、こういう時は、救急車でいいのかな………ああ! 忘れてきちゃってる!」
その男は、仮面ライダーリヴォルに敗北して流れ着いた大地は悲壮的な表情のまま気を失っていた。
青年、紅渡はそんな男の表情に気付くことなく、あたふたと慌てふためいていた。
仮面ライダーリヴォル
青空の会の研究員、鬼塚が変身したライダー。
スペック自体はイクサと大差はないが、特筆すべきはその能力にある。
テイクアップフエッスルを使用することで他のライダーが持つ魔皇力を吸収し、さらに攻撃に転用することができる。
本来ならばイクサの世界に誕生しないライダーであったが、大地の持つメイジドライバーの魔力を制御する技術を発展させ、完成してしまった。
武器は背中に背負った巨大な大鎌。鬼塚の意思で自在に操ることもできる。
必殺技は魔皇力を注入した大鎌を回転させてぶつける、ファングスレイヤー。
ゴブリン族である鬼塚が独自に開発したライダーであり、青空の会すらも存在は把握していない。
ゴブリン族
ファンガイアによって絶滅したはずの魔族のひとつ。
凶暴で攻撃的な気性の一族であるためか、ファンガイアと真っ先に敵対していたという。
まさかのオリジナルライダー登場。苦手な人はごめんなさい。
今後もオリジナルライダーは数人ほど登場するかもしれません。
イエティ族を模した仮面ライダーレイをヒントに、他の種族で開発したら? と考えてみました。描写だけだと完全にネガタロスになっちゃっいましたが。
ご質問、感想はいつでもどうぞ!