仮面ライダーダークディケイド IFの世界   作:メロメロン

16 / 81
ジオウでのキバの扱いどうなるんだろ






ドント・ルーズ・ユアセルフ♪心火のメロディ

 Wイクサとリヴォル、対峙するライダー達。

 

 DDイクサはライドブッカーで、イクサはイクサカリバーでリヴォルに猛然と剣を振るう。

 イクサカリバーにライドブッカーが加わって合計2本もの剣がリヴォル1人に向けられていることになるが、巧みに大鎌を操ってそれらの剣先は届く前に絡め取られてしまう。

 同時に攻撃しようと、挟み撃ちにされようと、時にはリヴォルの手を離れてカバーする大鎌に逆にイクサ達が反撃されてしまうこともあった。

 

 大地の予想を上回った鬼塚の戦闘技術もさることながら、大地と名護の疲弊がこの状況を生み出した主な要因だろう。

 

 もし2人が本来の実力を発揮できていたならばまた違った戦局を迎えていたと思われるが、これも意味のない仮説だ。

 

 このまま膠着状態が続けば消耗の激しいイクサ側の不利は明白。

 そこで名護は一計を案じ、自身のイクサナックルをDDイクサに投げ渡した。

 渡された瞬間こそ困惑したが、名護の思惑を理解した大地も一旦ライドブッカーを収納して自身のイクサカリバーとナックルを召喚、カリバーをイクサに投げ渡す。

 

 これでDDイクサは両手にナックルを、イクサは両手にカリバーを備えた形になった。

 互いに付け焼き刃の戦法だが、名護にとって使い慣れた武器が2つに増えただけのこと。未だ優れた剣術を持たない大地も2つのモードを使い分けるイクサカリバーよりかはナックルの方が使い易い武器といえる。

 そしてイクサがブーメランとして襲い来る大鎌を迎撃、DDイクサがWナックルによるラッシュをリヴォルに仕掛ける。

 

「はああああああッッ!!」

 

「くっ……!」

 

 セーブモードへの変身で温存されていた体力を全て使い切る勢いで放つ拳の連打がリヴォルを襲う。

 DDイクサ単体であればリヴォルに返り討ちにされていただろうが、イクサが大鎌の対処をしつつ援護射撃を加えてくるため、次第にリヴォルの防戦一方となっていく。

 ここで一気に攻めたいところだが、リヴォルのガードは固く、DDイクサの攻撃は的確に防がれてしまう。アッパーは蹴り弾かれ、フックも受け止められるといった具合である。

 バーストモードでもないイクサの攻撃力などたかが知れており、このまま力任せにガードを崩そうとしても先に大地のスタミナが切れるのがオチだろう。

 

「ハアッ!」

 

 そこでDDイクサはリヴォルではなく、足元の瓦礫に向けて両手のナックルの衝撃波を放つ。

 粉砕され、粉微塵になった瓦礫と土埃にリヴォルの視界は阻害され、DDイクサ自身はナックルの反動で後方に飛ぶ。

 そしてイクサがカリバーで受け止めている最中の大鎌を後ろ回し蹴りで弾き飛ばして着地、両手のナックルを今度こそリヴォルに向けた。

 

 未だ視界を奪われているリヴォルへWナックルとWカリバー、その全ての斉射がリヴォルの装甲で火花を散らした。

 

「ガァアアアッッ!?」

 

 リヴォルの装甲はイクサやレイを超える強度で設計されているとはいえ、単体でファンガイアに絶大なダメージを与えうるイクサの装備が本来ありえない数の4つとなってその全てがリヴォルに向けられたのだから、その衝撃は相当なもののはずだ。

 さらに操作している本人の思考が乱されたせいか、上空で回転していた大鎌も先程までの勢いが嘘のように落下し、リヴォルの傍に突き刺さった。

 そうして息を荒げて膝をつくリヴォルに、DDイクサはナックルを下ろす。

 イクサは未だカリバーの照準をリヴォルに合わせているが、スーツの至る所から煙や火花を上げている彼女の姿を見れば勝敗はすでに決まったも同然だ。

 

「な、何故、イクサごときにこのリヴォルが苦戦する!?」

 

「鬼塚さん、もうやめましょう。貴女のやり方じゃ誰も救われない。きっと紅さんだってそんなことは望んでいない」

 

「君ごときに会ったこともない音也の何がわかる!? それに私の、ゴブリンの復讐はこんなところで終わりはしない!」

 

  ウェイクアップ

 

 吸い取られたレイの魔皇力を纏った大鎌にさらにリヴォルの魔皇力が上乗せされて、竜巻を錯覚させるほどの回転力を発揮する。

 2人のイクサを引き裂こうとする旋風、ファングスレイヤーは大地の言葉が鬼塚に届いていないれっきとした証だ。しかし、何度拒絶されようともう大地は挫けない。

 

 隣の師匠が示したように、意地でも己の意思を相手にぶつけるしかないのだ。

 

  KAMENRIDE

 

 空気を激しく切り裂く大鎌の嫌な音にドライバーの音声が掻き消されても、その装甲はしっかりと選んだ対象へと変わっていた。

 白いマントにローブと見た者に漠然とした「白」の印象を抱かせるライダー、白い魔法使いへとフォームチェンジするダークディケイド。

 DDイクサのカメンライドが解除されたことによってイクサの片方のカリバーも消え、DD白い魔法使いの手には新たにハーメルケインという笛型の剣が装備された。

 

 かつて一度だけ遭遇したこの白い魔法使いは強力な魔法を使用できるがしかし、以前食らった時ほどではないにせよ、2人のライダーの魔皇力を内包したリヴォルのあの技は容易く防げるような技ではないし、リヴォルの遠隔操作で機能している以上は躱すのも現実的ではない。

 今の大地がリフレクトなどの防御魔法を発動したとして、即座に突破されてしまうはずだ。

 

 だがその程度の事実は大地にもわかっていた。イクサを庇う形で一歩前に出て、ハーメルケインを仮面の口にあたる部分に構える。

 

「名護さん、僕に任せてください」

 

「わかった。頼むぞ、大地君」

 

 白い魔法使いの記録に従って指を操り、魔法の笛を吹き鳴らす。

 するとリヴォルのファングスレイヤーはDD白い魔法使いの目前で見えない魔法の障壁に阻まれて停止、さらには纏っていた魔皇力までもが跡形も無く消え去ったのだ。

 

 

 メイジの魔力と魔皇力は非常に似ていると鬼塚は言っていた。

 そしてメイジの技術を参考にしたあのリヴォルの魔皇力は逆に魔力を無効化する技で打ち消せるのではないかと考えたのだ。

 つまりこれは白い魔法使いの持つハーメルケインだからこそ出来た芸当なのだ。

 

「うぅ……これでも結構辛い……」

 

 しかし、セーブモードでいっぱいいっぱいだった大地の身体に白い魔法使いの変身はかなり堪えることであり、このたった数瞬の間でかなりの体力を削られてしまった。

 

「そんな技まであるなんて、そのダークディケイドにはつくづく驚かされる。だが、その様子を見る限りは連続での使用は不可能のようだね」

 

  ウェイクアップ

 

 再度発動されるファングスレイヤー、しかしハーメルケインに打ち消されたレイの魔皇力は大鎌には内包されておらず、リヴォル自身のみの魔力だけがその刃に込められている。

 今でも十分な脅威だが、それでもさっきのファングスレイヤーよりは随分と劣っているのは間違いないはずだ。

 

「ここだ……! ここで終わりにさせます! 名護さん!」

 

「ああ!」

 

  KAMENRIDE GREASE

 

 この黄金のライダー、グリスへのカメンライドもまた白い魔法使い同様今の大地には多大な負担をもたらす変身だ。

 だからこそこのカメンライドでリヴォルを無力化しなければ、もう後はない。

 DDグリスは通常のツインブレイカーに加え、さらにもう1つのツインブレイカーを召喚して両手に構え、一気に4枚のカードをライドする。

 

  ATTACKRIDE SMAPHO WATCH UNICORN KABUTOMUSHI

 

 4枚のカードはそれぞれスマホ、ウォッチ、ユニコーン、カブトムシのフルボトルを召喚させた。

 そしてイクサが射撃でこちらに迫るファングスレイヤーの進行を微かに遅らせている間に4本のボトルを両手のツインブレイカーにセットする。

 

 左腕のツインブレイカー ビームモードにスマホとウォッチを

 

 右腕のツインブレイカー アタックモードにユニコーンとカブトムシを

 

  ツイン! ツインフィニッシュ!

  ツイン! ツインブレイク!

 

「ハアアアアアッッ!! ッッッツァァアアアアアア!!」

 

 4本のフルボトルの成分がツインブレイカーに充填、DDグリスは残された最後の気力を全て出し切る勢いで左腕、右腕の順に突き出した。

 

 発射されたツインフィニッシュのスマホのアプリ画面が実体化した無数のエネルギー弾がファングスレイヤーの勢いを押し留め、その内の時計のアプリのエネルギー弾が当たることで大鎌の回転が完全に停止した。

 

 そこにカブトムシとユニコーンのボトルで貫通力を強化したツインブレイクが静止した大鎌に衝突し、木っ端微塵に粉砕することに成功する。

 

 全身全霊をかけた必殺技の重ねがけでついにリヴォルの武器を破壊したのだが、これほどの技を放ったDDグリスもただでは済まない。

 ギリギリを保っていた体力の限界を超え、飛散したDDグリスのスーツの中から生身の大地が力尽きるように倒れたのだ。

 

 意識だけは残っているが、リヴォルは未だ健在でレイに再変身するのは難しい。しかし、絶望する必要もない。ダークディケイドとしてやるべきことは果たしたのだから。

 

「ハハハハハ! 厄介なダークディケイドはそこまでか! 名護啓介、君1人ではこのリヴォルには勝てない!」

 

「それはどうかな」

 

 鬼塚の知らぬ技を繰り出すダークディケイドの脱落にリヴォルは勝利を確信したようだが、それはイクサも同じだ。

 互いに切り札のフエッスルをセットしたイクサとリヴォルのエネルギーが極限まで高まっていく。

 

  ウェイクアップ

 

  イ・ク・サ・カ・リ・バー・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

 カリバーにエネルギーを充填させるイクサに対し、武器を失ったリヴォルは高まった魔力を右足に集中させる。

 

 睨み合う両者、先に動いたのはリヴォルだった。

 

 独特なステップを踏んでイクサとの距離を縮め、跳躍してその右足を突き出した。

 

 どことなくストライクメイジを連想させるこの必殺技を食らえばイクサの戦闘不能は免れないが、そんなことは百も承知だ。

 腰を低く落として構えるイクサは膨大な魔力の塊であるリヴォルのキックにも全く動じない。

 その仕草1つ1つが鬼塚にとっては滑稽としか見えなかった。

 

「無駄だ! 出力では私の方が上、結果は見えている!」

 

「ハアアアアア……!」

 

 確かにこのまま技をぶつけ合ったとして負けるのはイクサの方だろう。

 しかし、大地は名護の勝利を信じて疑わない。

 この世界で出会い、鍛えてくれた名護は出力の差で敗北を喫するような男ではないはずだ。

 大地なら諦めるような状況を何度も切り抜けてきた名護とイクサならきっと!

 

 そしてついにイクサが動いた。

 イクサ・ジャッジメントの発動準備を終えていたカリバーを一瞬で逆手持ちに持ち替え、振りかぶって投擲したのだ。

 

「何だと!?」

 

 エネルギーを纏った刃はリヴォルの右足と衝突するのではく、その装甲を斬りつけた。

 本来の想定とは違う方法で放たれた斬撃は当然必殺技と呼べる威力には至らないが、思わぬ攻撃にリヴォルの態勢が微かに崩れた。

 これはリヴォルには知るよしもないことだが、かつてビショップと戦った際に大地が咄嗟に繰り出した相手の技を潰す戦法であり、その有用性に名護も目をつけていたのだ。

 

 だが、あの時とは違い、リヴォルのキックが完全に潰されたというわけではなかった。

 

(中々驚かされたが、この程度なら大したことはない! このままいける!)

 

 そう、微かに態勢が崩れただけであって、リヴォルのライダーキックは未だに発動中なのだ。

 崩れた態勢のまま、リヴォルは技を続行してイクサにキックを炸裂させようとして、目撃する。

 

  イ・ク・サ・ナッ・ク・ル ・ラ・イ・ズ・アッ・プ

 

 太陽を背に跳躍したイクサの姿を。

 

(な……!? まさか、イクサ・ジャッジメントはただ私の隙を作るその為だけに使ったというのか!?)

 

 極限までエネルギーが充填されたカリバーの斬撃で微かとはいえ崩れた態勢のまま強引にキックを続行している今のリヴォルには、さらにその上を飛び越えるように跳躍して迫るイクサの拳を避ける手立てはない。

 

 それでもどうにかして足掻こうとするリヴォルだったが、眩しい光の中でナックルを構えるイクサの姿が、鬼塚の中でとある人物と一致してしまった。

 

「音……也……」

 

「ハアアアアアッッ!!」

 

 ガードの構えすら取れないリヴォルの腹部、ベルトにブロウクン・ファングが叩き込まれた。

 真上から垂直に叩き込まれた衝撃がリヴォルを地面に衝突させ、高エネルギーの楔を打ち込まれたリヴォルのベルトはファンガイアスレイヤーでできた傷から亀裂が見る見る間に広がっていく。

 自身の傷を気にせずにひたすらベルトを抑えて亀裂の広がりを止めようとするリヴォルの姿が見ていて痛々しい。

 

 誤作動でも起こしたか、ベルトからはテイクアップの旋律が不安定な音程で流れ続けていたが、大きな火花が弾けると共にそれも鳴り止んだ。それは亀裂が内部に到達し、ベルトが破壊されたことを意味する。

 

 それが、仮面ライダーリヴォルの最後だった。

 

 

 

 

 

「音也のライフエナジーが、ゴブリンの復讐が消えてしまう……」

 

 システムの中核を担っていたベルトの崩壊によってリヴォルの鎧も維持ができなくなっていく。

 紫色の粒子となって消滅していく装甲と共にベルトから虹色の球体らしきものが浮かび上がったが、それもやがて半透明となり見えなくなった。

 リヴォルの仮面が崩れ落ち、魂の抜けた表情の鬼塚が呆然と座り込んでいる。しばらくはベルトを撫でていたのだが、やがて放心状態のままにイクサに顔を向けた。

 

「イクサ如きに負けるとは……名護君の実力を見誤っていたよ」

 

「それもあるが、貴女の一番の敗因は紅音也の、イクサの本当の強さを理解していなかったからだ。イクサは過去から現在、そして未来へと受け継がれていく正義のシステム。そこには紅音也だけじゃない、イクサの開発や改良に携わった者達の魂がある。たった1人で強くなろうとした貴女に勝てるはずがない」

 

「……そんなはずがない。私は音也のライフエナジーと共にあった」

 

「ーーーだから、あんなに悲しい旋律が流れたんじゃないですか」

 

 瓦礫に寄りかかったままの大地に名護と鬼塚の視線が集まった。

 もし下手なことを言って鬼塚の怒りを買いでもしたらおしまいなのだが、どうしても言っておかなければならない気がしたのだ。

 

 ダークキバの記憶に訴えかけてきたあの旋律の意味を言葉にするのは難しい。

 慎重に言葉を選んで、感じたありのままを、希望に近い推測を話す。

 

「鬼塚さんに紅さんがくれた音楽って、あんなに悲しい音楽だったんですか? 彼が貴女が言うような立派な人だったなら、きっと鬼塚さんに……全てを敵に回すような戦いを止めて欲しかったから」

 

 その刹那、殺風景な戦場には似つかわしくない音が響き始めた。

 

 それはリヴォルのベルトから流れた音也の旋律と似ているが、はっきりと違う儚くも美しい音楽。

 

「こ、この演奏は……!?」

 

「……渡君、か?」

 

 心当たりのありそうな名護の呟きで、この演奏の主はわかった。

 

 そしてそれと同時にリヴォルのベルトから鳴った悲しみの音の真の理由もわかった気がした。

 

 はっきりとした確信があるわけでもない。しかし、ダークキバの記憶の片鱗に触れた大地の直感と狼狽する鬼塚の姿が告げている。

 

 これが答えなのだと。

 

「違う……これは音也の演奏じゃない……それなのに、どうしてこんなにも心が踊る? あの時と同じ感覚にどうして至れる?」

 

「この音楽にかつて貴女が聞いたものと同じ何かがあって、リヴォルのベルトの、紅さんのライフエナジーの音楽にはそれが無かった………これ以上、上手く言葉にはできません。けど、これが答えなんです」

 

「はは………そうか。この音楽が……」

 

 もし大地が芸術という概念を完璧に理解できていたら、もっと納得のいく言葉を送ることができたはずだ。

 

 それでも、何か憑き物が落ちたように笑う鬼塚を見ればこれで良かったのだと思うことができる。

 

 もしかしたら鬼塚もリヴォルのベルトから鳴り響く旋律の違和感に気づいていたのかもしれないし、だとしても復讐の鎖に囚われた彼女は止まれなかったのかもしれない。

 

 ようやく一息つけると大地が安心したところへ、いつの間にかやってきたレイキバットが声をかけてきた。

 どうやらこの小さな蝙蝠は気を利かせてくれていたようだ。

 

「フッ、まさか本当に鬼塚を止めちまうなんて、意外とやるじゃないか」

 

「レイキバットさん……うん。僕も少しは成長できたのかもしれません」

 

 そして何よりも死んで欲しくない人達が死なずに済んだという結果に、ようやく大地も心から笑うことができた。

 

 

 

 

 

 鬼塚に抵抗の意思がないことを確信した名護はイクサの変身を解除した。

 その行為が鬼塚にとっては意外だったのか、若干驚いた様子で名護を見つめている。

 

「何だ。その顔は」

 

「いや、名護君は私にトドメを刺すと思っていた。君の正義に乗っ取れば裏切り者であり、ゴブリン族の私は許されないのだろう?」

 

「全ての異形は淘汰されるべきだ。例外はない……以前までの俺だったらそうしていた。だが、紅音也や大地君との出会いで俺も少し考え直す余地があると気づいた。貴女が今後一切人を襲わないと誓えるなら、俺は貴女を信じよう」

 

 それはかつての名護啓介を知っている者からすれば信じられない発言だった。

(知らなかったとはいえ)異形に恋し、遊び心を学んだ今の名護だからこそ言える言葉だ。

 だが、今鬼塚が抱いた疑念はそこではない。

 

「君は音也と会ったことがないだろう」

 

「俺を誰だと思っている。俺にとって卑しい偽りごとは最も忌むべき行為だぞ」

 

 答えになっていない。いないのだが、鬼塚は心の何処かでは納得してしまっていた。

 

 名護がそう言うのならそうなのだろうと。

 

 あれほど憎んでいた音也に代わるイクサの装着者なのに、どうして今はこんなにも穏やかになれるのか、鬼塚には理解できなかった。

 

「結果的に貴女が齎したのは微々たる被害だけだ。まずは嶋さんや他のメンバーにこれまでの非を詫びて誠心誠意謝罪しなさい。その上で今後も青空の会の研究員として人類の為に尽力しなさい。そのためなら俺も協力を惜しまない」

 

(説教臭いところは相変わらず、か)

 

 処罰は覚悟しているが、許されるならば青空の会に戻ろうと鬼塚は思う。無論、ファンガイアへの恨みが消えたわけではない。

 でもあの時鬼塚の世界に救いをくれたあの音楽を忘れない限りは、この不思議な人間達の力になりたい。

 音也がくれた音楽を、感謝として人間に返したい。

 

 

 

 

 そんな感情を抱いた矢先に、鬼塚の身体を虹色の光弾が貫いた。

 

「鬼塚さん!?」

 

 鬼塚の致命傷を負った身体が瓦礫の山に倒れこみ、そのまま身じろぎもできなくなった。

 

 世界が遠く感じる。失われていく血液、冷たくなっていく身体、聞こえなくなる大地の叫び声。

 初めての感覚のはずなのに、何故だかこれから自分が死ぬのだとはっきり理解できてしまう。

 

(………ここらが潮時か)

 

 何が起きたのか、なんて考える余裕は鬼塚にはもうない。ただこれから訪れるであろう永遠の眠りに思いを馳せるだけだ。

 しかし、死への恐怖は微塵もない。何も聞こえなくなったにもかかわらず、鬼塚の中で音也の音楽はしっかりと響いているのだから。

 

(すまない、ゴブリンの同胞達よ。しかし、これで良かった。最後にまた私の世界に音楽が訪れた)

 

 唯一の心残りといえば、あのお節介で人を疑うことを知らない不思議な青年に心からの礼を言えなかったことだ。

 もし彼がこの世界にいなければ、自分はいつまでも復讐に囚われて鬱屈とした世界に独り生き続けていたに違いない。だとすればこの結果にも後悔はなかった。

 

(大地君……ありがとう)

 

 それが最後の思考だった。

 

 22年の時を超えて蘇る最愛の音楽に包まれて、ゴブリン族最後の末裔の復讐の生涯は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 いくら呼びかけても鬼塚は返事をしてくれない。

 安らかな笑顔のまま、胸に穴を開けた鬼塚の命の鼓動は停止してしまっている。

 

「よし! キングに刃向かった愚か者は始末した!俺は俺にご褒美を与える!」

 

 鬼塚を貫いた光弾の主、革ジャンの大男に湧き上がる怒りと憎しみも悲しみに塗り潰される。

 衝動的にカードを叩き込んだダークディケイドライバーは反応してくれない。

 涙すら出ない。出るのは嘔吐に近い、嗚咽だけ。

 

 どうしてこうなるのだと問いかけたい。だが、誰に問いかければいいのか。

 

 鬼塚の命を奪った張本人、やるせない表情で立ち竦む名護、 それとも無言で大地の肩に止まっているレイキバットか。

 

 そして鬼塚が初めて見せた笑顔を思い出した瞬間、堪えきれずに感情が爆発した。

 叫んで、叫んで。行き場のない激情を喉から絞り出す。

 

「ぐぐガが………うわあああああああーーーッッ!! アアアアアアアアアアッッ!?」

 

 

 

 

 

 

 それからどうしたのか、具体的には覚えていない。

 

 確か放心状態のまま写真館に帰って来て、ボロボロの自分を見た瑠美が仰天したり、名護が写真館までメイジドライバーとリングを届けに来てくれた覚えはあるが、その記憶も曖昧だ。

 そして大地は瑠美に傷の手当てを受けている最中にようやく我に返ったが、心に巣食う悲しみの傷は癒える気配がない。

 

 結局、自分が何もしなければ鬼塚は死なずに済んだのだ。

 死んで欲しくないと言っておいて自分で殺したも同然なのだ。

 

 明らかに異常な様子の大地に瑠美も何かを察したのか、口数は少ない。そんな中で瑠美がポツリと漏らした言葉だけは鮮明に覚えていた。

 

「もうこの世界ともお別れなんですね。せめて、鬼塚さんにはお礼を言っておきたかったです。あの人、私に言ってくれたんです。

 

『世界で独りぼっちというのは寂しいだろう。せめてこの研究所を家と思ってくれ』って。

 

 無愛想だったけど、本当に優しい人だったんですよ」

 

「………」

 

 

 それから夜が更けて、暗いリビングのテーブルの上にダークディケイドライバー、ライドブッカー、メイジドライバーとレイキバットが鎮座している。

 ダークディケイドライバーのレンズに映る大地の姿が一瞬ダークディケイドに重なり、湧き上がった激情のままにダークディケイドライバーを床に叩きつけた。大きな音をたてて迷惑だとか、そんなことを考える余裕すらなかった。

 ライドブッカーから飛び出した「カメンライド リヴォル」のカードすら衝動的に破り捨ててしまいそうになる。

 

 自分が鬼塚の何を理解して、記録したというのか。彼女の孤独を、音楽をもっと早く知っていればこんなことにはならなかったかもしれないのに。

 30人以上のライダーの力を使えるのに、たった1人救うこともできない自分へのやるせなさに俯き、座り込む。

 

 ドライバーが当たった衝撃で新たな背景ロールが下がり、その光景を呆然と見ていた大地はあまりの気分の悪さに気を失って床に伏せてしまった。

 

 眠りに落ちた大地を無言で観察するレイキバットだけが、その背景ロールに描かれた絵の内容、座席にカメラが置かれた白いバイクに気づくことができた。

 

 

 

 

 

 大地達が去った後も人類はファンガイアの脅威に晒されている。

 

 数えきれないほどの人々が命を奪われ、それを守る青空の会のメンバーの多くも戦いの中で散って行った。

 

 この血で血を洗う種族間の戦争とも言うべき争いの中心に身を投じていながら、なおも名護の感情が憎しみに支配されることはない。

 復讐の末路に果てた知人とその今際に見せた本当の笑顔を知っているから。

 

 いつか誰もがあんな風に笑えるような恒久的な平和を目指して、名護は今日も戦い続ける。

 そのために人の命を脅かすファンガイアは殲滅されるべきだが、人を襲わないファンガイアがいたとすればどうするべきか。

 

 絶対的な審判は下せない。故に名護は考え続ける。

 

 共存か、絶滅か。この世界に訪れる未来がどちらなのか、今はまだわからない。

 

 だが、これだけは言える。

 

「その命、神に返しなさい」

 

  ラ・イ・ジ・ン・グ

 

 彼の弟子が見せた揺るぎない優しさの救いを名護は決して忘れない。

 

 

 

 

 

 

  2008

  1986

 

 

 

 鬼塚と音也の出会いから時が流れ、今紅音也は生涯で最も愛した女性の膝元に横たわっていた。

 これから彼は過ぎた力を使った代償故に死ぬ運命にあった。

 

 しかし、音也に後悔はない。

 この身が朽ち果てた後も、魂の中の音楽は愛する女性、そして何れ産まれる子供のなかで生き続けると知っているからだ。

 

 父親として接してやれないのは残念だが、その子供には託した母と友がついているのだから何も心配はいらない。

 

(俺がブラッディローズに込めた祈りは子供に受け継がれ、人の中の音楽を守り続ける。それでいい、それが俺の真の音楽なんだ)

 

 この瞬間が紅音也の生涯の幕引きにして、運命の始まりだった。

 

 そして彼の音楽は祈りに導かれた彼の息子によって今も守られているのだ。

 

 そんな未来を夢想しながら、愛おしげに手を添えられた音也は温もりの中で静かに息を引き取った。

 

 

 

 

 

 




イクサの世界編、終了。色々書きたいもの詰め込んだら、ラストがちょっと変な感じかも。

カメンライド リヴォルはその時になってようやく鬼塚という人を理解できてしまったからこそあのタイミングでゲットでした。わかりにくいかな。

ハンミョウ獣人、仮面ライダーリヴォルなど色々な出来事が起こったイクサの世界。次もまた白い人の世界ですね。

お知らせとなりますが、1週間か2週間ほど更新をお休みします。そのため次の更新は10日か17日になります。申し訳ありません。

感想、質問はいつでもどうぞ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。