3つ目の世界編スタート。今回の主役は……?
新たな世界の異変とは何か
誰もいない暗い闇の世界でただ1人立ち尽くす大地。
不安を掻き立てる漆黒は方向感覚を狂わせ、まるで闇に拘束されているかのような感覚さえ与えてくる。
足を動かしても眼に映る景色が変わらないせいで、進んでいるのかどうかさえ曖昧になってしまいそうだ。
そんな気を狂わせる暗闇にぼやけた人型の輪郭が浮かび上がった。
目を凝らすまでもなく、その正体に大地は気づく。
闇に溶け込むそのライダーの姿を今後決して忘れることができない。
「お、鬼塚さん……」
闇に立つ仮面ライダーリヴォルは何も語らない。
物言わぬ骸ともとれる彼女の黒い姿はまさに死装束だ。
思わず後ずさる大地、だがリヴォルとの距離は一向に変わらない。むしろ近づいていってるようだ。
そしてリヴォルも近づいてくる大地には何もせず、目と鼻の先にまで到達してもその様子に変化はない。
何の感情も読み取れないリヴォルはやがて暗闇のとある一点を指し示した。釣られて目を向けた先にあったのは、血溜まりに横たわる人影。
それは紛れも無く鬼塚本人の遺体だ。大地が見た時とまんま同じ光景が暗闇をスクリーンのようにして再生されているのだ。
沸き上がるのは狂おしいまでの激情と、それに伴う違和感。
隣にいるリヴォルは一体誰だ?
瞬時にリヴォルに向き直って、そして違和感の正体に気づく。
こちらを見つめるこのライダーはリヴォルであってリヴォルではない。彼女の力と狂気の権現たるベルトがダークディケイドライバーになっているのだ。
つまりこれは鬼塚なんかじゃない、大地本人だ。
大地がそれに気づくと同時に目の前のDDリヴォルにまた変化が起こった。そいつは徐々に肩を震わせ始め、声もなく笑い始めたのだ。
その様子に無性に腹が立って、思い切りその仮面を殴り飛ばそうとするが、大地の拳は虚しく空を切る。
何度腕を振り切っても、まるでその場に存在していないかのようにDDリヴォルには触れることもできない。
そうやって足掻き続ける大地にますます肩を揺らすDDリヴォル。
苛立ちと憎しみを煽られ、されども大地にできるのは無意味な行動を繰り返すことだけだ。
歪な笑いを幻視させる相手の仮面目掛けて、衰えぬ勢いで空を切りながら叫ぶ。
「笑うな! 僕は悲しいんだよ! 可笑しくなんてないんだよ! だから、笑うなぁ!?」
「こりゃダメだ。しばらく寝かせておかなきゃな」
新しい世界に来て初日の朝、リビングで倒れていた大地に光写真館は朝から大騒ぎだった。(実際に騒いだのは瑠美1人であるが)
自室のベッドに運ばれた大地はずっとうなされながら眠り続けていて、病気というわけでもなさそうだが、ガイドの言う通りしばらくは安静にしておいたほうが良さそうだ。
「ほんじゃま、今日は休日ってことで瑠美ちゃんもまったり過ごしててよ。俺は買い出しとか行ってくるから」
「あの、今日は私がこの世界のこと調べてみます」
大地がこうなってしまった以上、瑠美はここで彼の看病をした方がいい。
自分自身でそう思っていたはずなのに、大地の今にも泣き出しそうな顔を見ていると自然と立ち上がってしまっていた。
これは言うまでもなく無謀な提案であり、案の定ガイドも目を丸くしている。
「本気? 可能性は低いとはいえ、怪人に襲われたらどうするつもりよ? 大地がその場に飛んできて、はい解決! ってのは無理だぞ?」
「わかってます。でも1日でも早く大地くんには記憶を取り戻してほしいから、私もできることはやりたいんです」
大地に命を救われて以来、瑠美はずっと恩返しの機会を待っていた。
幸か不幸か、彼との再会からこの写真館で雑用の手伝いをさせてもらっているが、この程度では恩返しになるはずがない。
ならば大地が不調の今こそ自分が大地の代わりに少しでもこの世界の情報を集めるというのが瑠美にできる大地の手伝いなのだ。
怪人と遭遇するかもしれないことへの恐怖だって勿論あるが、それだって普段から戦いに身を置く大地に比べれば大したことじゃない。
「どうせこいつが寝たままじゃ暇だ。俺が付いて行ってやろう」
「ありがとうございます、レイキバさん」
「れ、レイキバ………?」
昨夜大地に付いてきたばかりのレイキバットに妙な愛称まで付けてしまう瑠美は度胸があるのか、それとも天然なのか。
普通の女性なら少しは訝しんだりしそうなものだが、本人がいいならガイドとしても必要以上に何か言うつもりもない。
「はぁ、まあレイキバットも行くならいいか。夕飯前には帰ってこいよー」
「はい! 早速準備しましょう、レイキバさん!」
「おう!………それとその変な名前はやめろ」
慌ただしく大地の部屋を出て行った1人と1羽。
ガイドの思っていたよりも瑠美は行動力のある女性のようだが、まあ特に問題はないと大して気にも留めない。
彼女達に続いて部屋を出て行こうとしたガイドはドアノブに手をかけたところでわざとらしく「あ、忘れてた」と声を上げる。
「この世界なら事件に巻き込まれる確率はそこそこ高そうだなぁ……まあいっか」
意気揚々と散策に出かけた瑠美とレイキバットは近くにあった人混みで溢れるショッピングエリアにまで足を運んでいた。
この世界も瑠美のいた「ビーストの世界」と比べて特に変わった風習などがあるなんてこともなく、ここが異世界であると忘れてしまいそうになる。
ショッピングエリアの案内板に一通り目を通した瑠美はどこに行こうか迷うが、やがてレディースのファッション中心のエリアへと向かって行った。
この世界の情報を集めるという主目的を忘れているわけではないが、ついこの間まで学生生活を謳歌していた彼女がついつい煌びやかな場所に惹かれるのも仕方のないことだ。
しかし、目を輝かせて旬の洋服を漁る瑠美を見ていると流石に釘を刺しておいた方がいいのではという思いがレイキバットの中にも湧いてしまった。
瑠美のリュックの隙間からひょっこり顔を覗かせると、ちょうど瑠美は真剣な表情でウエストポーチを品定めしている真っ最中だった。
「おい瑠美、普通に買い物を楽しんでていいのか。情報はどうした」
「あ、やっぱりそう見えちゃいますか? 一応これでも調べてるんですよ。ショッピングモールの人達はお洒落に気を遣ってると思って服装とか店とか見てたんですけど、多分この世界は春先くらいの季節だと思います」
瑠美と違い、初めて異世界にやってきたレイキバットは世界によって季節や年代が変わるという事実を知らないため、ちゃんと見るべきところは見ていた瑠美に素直に感心する。
「あ、それとこのウエストポーチどうですか? 大地くんにあげようと考えてるんですけど、どういうのがいいのかよくわからなくて」
「何故俺に聞く。俺が人間のお洒落なんて知ってると思うか?」
「えっと、大地くんってレイキバさんみたいな色んなアイテム持ち歩いてるじゃないですか。だったらこんな風にいつでも取り出せると便利かなって考えたんです」
なるほど、レイキバット自身も含めて既に3つの変身アイテムを所持する大地はそれらを常に持ち歩き、いざという時にすぐに取り出さなければならない。自在に飛べるとはいえ、人目につくと面倒なレイキバットからしても瑠美の考えは理に適っていると言えよう。
「俺としてはある程度の広さがあればいい。あまり大きくても大地の邪魔になるだろうがな」
「それだったらこれなんていいかも」
大地が使っているところを想像して似合いそうなシックな青色のものを、他より一回り大きいサイズを選ぶ。
瑠美には少々値が張るが、その程度なら大した苦でもない。
「ありがとうございましたー」
プレゼント用に包装してもらったポーチを大きい紙袋に入れてもらって店を出た瑠美の足取りは軽い。昨夜帰ってきた時からどこか元気のなかった大地が少しでも喜んでくれたらいいのだが。
店が立ち並ぶエリアを抜けると、フードコートのある開けた場所に出た。
次に調べる場所をレイキバットと話し合うために腰を落ち着けたいと思っていたため、一応レイキバットの分も含めてジュースを2つ買って適当な席に座った。
選んだのは居心地の良さそうな屋外席で近くの店や設置されている噴水などが一望でき、側で遊ぶ子供を見ていると瑠美の心に和みを与えてくれた。
「で、次はどうする。何か当てはあるのか」
「うーん、前から感じてたんですけど、異世界でも私のいた世界と全然違いがなくて正直よくわからないんですよね。帰る前にせめて手がかりの1つでも見つけておきたいです。レイキバさんは何かありませんか?」
「あるわけないだろう。俺は作られた研究所からほとんど外に出たこともないんだぞ。こんな街の風景だって知識としてインプットされているだけで、実際にこうして見るのは初めてだ」
「じゃあ大地君についてきたのも……?」
「ああ、レイに変身できる大地となら面白いものが見られるかもしれない。あいつには見所があるからな。少なくともおかげで俺は外の世界を知ることができた」
リュックから可愛らしく顔を出しているレイキバットは時折興味深そうに周囲を観察していた。同行を申し出た主な理由もそこらへんなのかもしれない。
しかし理由はどうあれ、態々付いてきてくれたこの小さな蝙蝠にも何かお礼の品を送りたいと瑠美は思った。
「それならレイキバさんはどこか見てみたいところとかありますか? 次はそこに行ってみましょう」
「よせ。余計な気を回さなくていい、俺は今のままでも十分満足してる」
「そんなに謙虚にしなくてもいいじゃないですか、もしかしたら意外な発見に繋がるかもしれませんよ?」
まだまだ時間はある。
反論しようとするレイキバットをリュックに強引に押し込んで、彼が気に入りそうな店が周囲に並んでいないか視線を巡らせる。
(蝙蝠の好物って何でしたっけ……果物とか? でもレイキバさんは機械だから、どうなんでしょう)
気に入るかどうかは微妙だが、まずは近くの青果店でも覗いてみようと瑠美は席を立ったところで、自分をじっと凝視するフードを被った男がいることに気づいた。
まさかレイキバットを見られたのかと一瞬考えたが、男はすぐに視線を外して、また違う人物にその気味の悪い視線を向ける。
変な人もいるものだと大して気に留めることもなくその場を立ち去ろうとしたのだが、ふとその男をもう一度見てみると、男はフードを脱いで怪しげな笑みを浮かべていた。
そしてその瞬間、瑠美の身体に不可視の衝撃が降りかかった。
「きゃっ………!?」
たった今瑠美に起こった現象は奇妙という他なかった。
衝撃によろめいた彼女の身体は地面に倒れかかっているのだが、その速度が異常に遅いのだ。
「な、なにこ………れ……!?」
スローモーションで再生されているかのようなスピードで倒れていく自身の状態を自覚した瑠美は何故こんなことになったのか理解できていない。
手に持っていたジュースも宙を舞って、ゆっくりと飛散しているばかりか、視界に映る全ての人間、物体が瑠美と同じく異常にゆっくりとした速度で動いているのだ。
唯一通常と変化がないのは思考だけ。故にこの異常事態に対する恐怖が膨れ上がっていく。
周りにいる人に助けを求めることもできず、頼みのレイキバットも同じ状態なのか、リュックからゆっくりとした感触が伝わるだけだ。
そんな状況で唯一普通に動いている人物、あのフードを被っていた男がいることに瑠美は気づく。
何故あの人だけが動けているのかと訝しんだその直後、男の身体がモザイク状になったように見えた。
それが一歩踏み出す度に重厚な金属音が響く。特に目を惹く巨大な手甲を始めとする奇怪な装飾品が身体の至る所に散見されるその存在はどう見ても人間ではない。
生身の人間の皮を脱ぎ捨てた機械の異形がその場に存在していた。
瑠美は知らぬことだが、その怪人の名はロイミュード029ーーー又の名をアイアンロイミュードという。
(嘘………本当に怪人と出くわすなんて……)
「お前、中々頑丈そうな身体をしているな」
そう言ってアイアンロイミュードはガタイの良い男性の首元を掴んで締め上げる。
そこから起こった出来事は瑠美の恐怖心をさらに掻き立てることになる。
なんと掴まれた男性の皮膚が徐々に赤く変色していくのだ。スローモーションの速度で顔を苦痛と恐怖に歪める男性の目が周囲に助けを求めているかのように動いている。
しかし、瑠美にはどうしようもないのだ。
レイキバットが動けない時点で異世界から来たという事実は関係なくただの無力な一般市民となんら変わりない。
やがて男性が全身を毒々しい赤色に染められると同時にアイアンロイミュードは用済みとなった男性を乱雑に投げ捨てた。
何も知らない人には死体と思われてしまうほどピクリとも動かなくなった男性の姿は周囲の人々に次にこうなるのは自分かもしれないという恐怖心を煽り立てる。
そしてそれは瑠美とて例外ではない。
(助けて……大地君……)
身勝手だとわかりつつも大地に助けを求めずにはいられない。この場に来るはずがないとわかっているにも関わらずだ。
誰もが助けを乞う絶体絶命のこの状況。そこに意外な救世主が現れた。
(あれって……ミニカー?)
瑠美の視界の端から飛び込んできたのは宙に形成される小さな道路とその上を走行するミニカーの集団。
オレンジ、グリーン、パープルのカラフルな珍走団がこの空間の中を猛スピードで駆け巡り、機械の異形の進行を阻止しようとする。
その圧倒的に不利なはずのサイズ比のミニカー達は逆に自身の小ささを活かしてアイアンロイミュードを翻弄する。
しかもミニカー達には特殊能力まで兼ね備えられているらしく、炎や分身など様々な手段で足止めしている。
だが残念ながらミニカー達の攻撃も足止めこそすれど、アイアンロイミュードに被害を与えるとまではいかない。
このままではミニカー達が叩き落されるのも時間の問題だが、本当の救世主はすぐそこまで迫っていた。
背後から驚異の跳躍で瑠美を飛び越えた人影。
その正体を認識する前に軽快な音楽と電子音声が流れ、人影も白いスーツに身を包んだ。
シグナルバイク! ライダー!
「変身!」
タイヤ状の物質が人影の左右で分解、白いスーツと装甲の戦士を形成した。
胸部の右にはタイヤが、左に黄色い®️のマークが輝き、マスクはバイクのヘルメットのような形状をしている。
風にたなびくマフラーには身体にまで続く赤いラインが走る。
そして戦士が装着しているベルトがアイドリング音に混じってその名を高らかに告げた。
マッハ!
(これがこの世界のライダー……マッハ?)
どんよりとした空間でこの仮面ライダーマッハはミニカー達と同じく、動きの制限はかかっていない。
タイヤがそのまま銃になったような武器、ゼンリンシューターを構え引き金を引いた。
いくつもの光弾が着弾したアイアンロイミュードは自身を襲った銃撃の主に驚愕する。
「貴様、仮面ライダー!? いい加減しつこいぞ!」
「お前らこそ、いい加減人間を襲うのはやめたら? 一体残らず俺に殲滅されるんだからさぁ!」
ゼンリン!
ゼンリンシューターのタイヤ部分、ゼンリンストライカーを回転させるマッハ。
その回転は止まる勢いを知らず、打撃として当てられたアイアンロイミュードの体表を凹ませる。
さらにマッハがゼンリンシューターで勢い良くアッパーを繰り出せば、ゼンリンストライカーが敵の身体を下から上へなぞるように駆け抜け、体表に残された跡から猛烈な勢いで火花が噴き出した。
「グアアアァァッ!?」
たまらず悲鳴をあげるアイアンロイミュード。
見るからに頑丈そうなボディから噴き上がる火花の量からして相当なダメージだったに違いない。
「す、凄い……ってキャ!?」
「うごお!?」
仮面ライダーマッハの戦闘に夢中になっていた瑠美だったが、自分が倒れる途中だったことを彼女は失念していた。
ゆっくりと背中から地面に倒れたために痛みはなく、またリュックが身体のクッションになってくれたのはいいが、その中に入っていたレイキバットは無残にも押し潰されてしまった。
「な、何のこれしき……ぬう」
「ご、ごめんなさい、レイキバさん!」
怪人の狙いが仮面ライダーに絞られたのを見計らって周囲の人々はゆっくりとした動きのまま避難を開始した。
正直に言えば瑠美は避難したい気持ちでいっぱいなのだが、それよりも仮面ライダーと怪人の姿をこの目に収めることを優先する。
襲われたのは不運としか言いようがないが、仮面ライダー達に遭遇できたのは結果として好都合だ。
身近にあった看板の影に隠れ、巻き込まれないよう慎重に両者の戦闘を観察する。
「行くぜ!」
ズーットマッハ!
ベルトを何度か叩いたマッハのスピードが格段に上昇する。
瑠美の目では追い切れない高速移動状態に突入したマッハはアイアンロイミュードの放つ光弾を掻い潜って攻撃を命中させていく。
このまま一方的に勝負が付けばいいのだが、敵はそれほど甘くはない。
アイアンロイミュードを中心に薙ぎ払われる2対の鋼鉄の鞭が加速状態にあったマッハを捉えて吹っ飛ばした。
突然現れたその武器の正体は怪人の腕に装備されていた巨大な手甲が変形されたもの。
その頑丈さに遠心力が加わった鋼鉄の一撃の前にマッハの加速状態も解除されてしまったようだ。
「ふむ、あの筋肉マシン、かなりのパワーだ。下手すりゃレイに匹敵するかもな」
「そんな、どうしましょう!? あのライダーが負けちゃうかもしれませんよ!?」
「落ち着け。あのライダーもそこまで柔な奴じゃないだろ」
冷静に観察していたレイキバットの言う通り、すぐに立ち直ったマッハは身軽なフットワークでアイアンロイミュードの伸びる手甲を空中で身体を捻りながらバク転を行う等して巧みに回避する。
加速状態でなくともマッハの動きはかなり軽く、敵の手甲は掠りもしない。
これは決して怪人が鈍重というわけではなく、マッハが速すぎるためだ。
怪人を飛び越えて背後を取ったマッハは容赦なくゼンリンシューターの近接攻撃を放つが、背後を取られた瞬間に手甲を元に戻したアイアンロイミュードの腕を交差したガードに阻まれてしまった。
敵への被害は微かな煙と火花に留まり、逆に強烈なカウンターがマッハを吹っ飛ばす。
そうして距離が空いた途端に再び伸ばした手甲がマッハに襲いかかり、それをまた回避するマッハ。
これでは同じことの繰り返しだとマッハは溜息をつく。
「全く、同じ芸しかできないのかね。そんならとっとと決めちゃうよ?」
「黙れ! 俺の邪魔をするな!」
「お、こ、と、わ、り!」
攻撃を躱しながらマッハが取り出したのはあのミニカー達と同じサイズの緑のバイク。
それを自身のドライバーに装填した。
シグナルバイク! シグナルコウカン! マガール!
音声と共にマッハの右肩についていたタイヤに交通標識が出現した。
さらにマッハは攻撃を掻い潜ってゼンリンシューターで射撃するのだが、放たれた光弾はアイアンロイミュードとは全く違う方向に飛んでいく。
誤射とも取れるその行動への疑問はドライバーを叩くマッハによって解消される。
シューター! マガール!
なんと見当違いの方向にあった弾がタイヤの標識の通りに曲がり、アイアンロイミュードに命中したのだ。
この不可思議極まりない攻撃にアイアンロイミュードは一瞬怯み、マッハはさらに射撃を行う。
なんとか弾が曲がる前にマッハ諸共弾き落とそうと伸縮した腕が殆どの弾丸を消失させ、残る弾は1つであった。
キュウニマガール!
しかし、その最後の一発はさらに急な軌道を描いたことでアイアンロイミュードの攻撃は外れ、見事に身体に命中した。
もんどりうって倒れたところにすかさず接近したマッハがラッシュを仕掛ける。
「そらそらそら! さっきまでの威勢はどうした!」
「おのれぇ……! こんなはずでは……!」
完全にスピードで勝るマッハが接近戦で苦戦する道理はない。
どれだけアイアンロイミュードのパワーが優れていようと、当たらなければ意味はないのだ。
そして防御力が優れていても、攻撃が当たり続ければダメージは蓄積していく。
もはや誰が見てもこの勝敗は決している。
「トドメだ!」
アイアンロイミュードの顔面に思い切り蹴りを入れて吹っ飛ばし、白いバイク、シグナルマッハをゼンリンシューターにセットする。
銃口に集中したエネルギーの照準をフラつく敵に合わせ、ためないなく発射する。
ヒッサツ! フルスロットル!
打ち出された弾丸は巨大なシグナルマッハとなって飛んでいく。
迎撃を試みたアイアンロイミュードのしなる腕にも止められることは叶わず、鋼鉄のボディに到達する。
「ググッ……ガァァァァッ!?」
巨大なエネルギーの塊が直撃した敵の身体はスパークの後に大量の火花を散らす。
蓄積されたダメージの大きさにおぼつかない足取りで一歩、また一歩とよろめくアイアンロイミュードの身体はその場に倒れ伏した。
そしてその場から大気を焦がす大爆発が起こり、仮面ライダーマッハの勝利を知らせたのだ。
無事勝利を収めたマッハ。
人々の窮地を救った彼はまさしく瑠美の知るヒーロー、仮面ライダーで間違いなかった。
「や、やった! 勝ちました!」
「いや待て瑠美! まだ終わってねえ!」
「え?」
どう考えてもマッハの勝利であるにも関わらず、レイキバットが警戒を飛ばした意味が最初は理解できなかった。
だが、怪人が倒されたはずなのに動きがゆっくりなままの自身に気づき、何故レイキバットが爆炎を睨むのか理解する。
「もしかして……」
怪人が葬り去られたはずの爆炎の中からゆらり、と蠢く影があった。
当たって欲しくない予感の通り、その影の主は未だ健在のアイアンロイミュードだ。
一目でわかるほど身体の各部が損傷していながら、二本脚でしっかりと地を踏みしめるその姿は撃破された怪人とは到底思えない。
つまりはあのマッハの必殺技を耐え切ったことになる。
だがそれでも大ダメージを負っていることには違いなく、損傷した箇所を押さえている敵はかなり辛そうだ。
「フゥゥ……やはり詰めが甘いな、仮面ライダー。この決着はいずれ着ける」
「はぁ!? 逃すかよ!」
こんな状態の敵を逃すつもりなどサラサラないマッハは追い討ちをかけようとするが、アイアンロイミュードが放つ光弾が足元に着弾した。
それは目眩しの効果を発揮し、マッハが思わず目を背けた隙にアイアンロイミュードは空高く跳躍してその場を離脱。
その場を支配していた動きを遅くする感覚も消え、マッハが気づいた時にはすでに敵の姿はどこにもなかった。
「あぁ〜! 嘘だろ! また逃げられた!?」
1人憤慨しているマッハに声をかけるべきか悩んだが、やがて意を決した瑠美は恐る恐る彼に近づいた。
勿論側にはレイキバットを伴っている。
「これで何度目だよ………ったく! どーしてこうなるかなぁ!」
「あのー……仮面ライダー、マッハ? さんですよね」
「………ん? あれ、逃げ遅れた人? ってか何!?その変な蝙蝠」
「ええ、助けてくれてありがとうございました。こちらはレイキバットさんです」
まずはお礼を言う。瑠美にとって忘れてはならない大切なことだ。
「誰が変な蝙蝠だゴラァ!」
「しゃ、喋ったぁ!?あ、い、いや別にそこまで改まらなくてもいいよ………ってわざわざ礼言うために声かけてきたわけ?」
「それが少しお話があって……」
いきなり深々とお辞儀をされて若干面食らった様子のマッハもぎこちなく手を振る。
この様子だと話は聞いてくれそうだ。
とりあえずは場所を変えて話そうと提案しようとしたところに、日常ではそこまで聞く機会のないサイレンが遠くから瑠美達の鼓膜を刺激した。
「あら、警察も来たんですね。マッハさんはこの後」
「うわ!? もう警察来たのかよ! 悪いね、俺はこの辺で!!」
ズーットマッハ!
「予定は……ってあれ?」
サイレンを聞いた途端に挙動不審になったマッハは慌てて加速状態になり風のように去って行く。
そのあまりのスピードに自分が取り残されたことに気づかない瑠美にレイキバットは本来ならしないであろう深い溜息をついてモゾモゾとリュックの中に戻る。
「どうしましょう、これ」
「俺が知るか」
初めて観る街や体験は非常に興味深かった。
ファンガイア以外の怪人に遭遇したのも危険ではあったが、割りかし楽しめた。
しかし詳しい情報が手に入ると思った矢先にこれなのだからやってられんとレイキバットは急激にやる気を失っていく。
それはレイキバットの全くもってメカらしくない、飽きっぽい性格がそうさせるのだが、瑠美には「眠くなっちゃいました?」と勘違いされてしまう。
(その方が好都合か。とにかく今日はもう飽きた)
青空の会がレイを実戦投入させなかった理由の一端が自身のこの性格だと自覚はしているが、治すつもりなどレイキバットには一向にないのであった。
「グフッ………! 仮面ライダーめ、次こそは……!」
人気のない場所まで逃げ延びたアイアンロイミュードはそこでようやく傷ついたボディに修復に専念することができた。
しかし激しい損傷を受けた自慢のボディを見るたびにマッハへの増悪がふつふつと湧き上がってくる。
もしもボディが万全の状態だったならすぐにでも重加速を起こして暴れ回っていたところだ。
そんな苛立ちを募らせる彼の元に3人の男女が現れる。
いや、この表現は適切ではないかもしれない。
何故なら彼等もまたアイアンロイミュードと同じ人間に擬態した機械生命体なのだから。
赤いロングコートを着た男、ハート。
眼鏡をかけた男、ブレン。
黒いドレスに身を包んだ女、メディック。
機会生命体、ロイミュード達を束ねる幹部達とそのリーダーである。
「仮面ライダーにしてやられたようだな。アイアン」
「進化体ともあろう貴方が情けない……あんな下品で脆弱で軽薄な人間にやられるなんて」
「そう言うな、ブレン。メディック、アイアンを治してやってくれ」
「わかりましたわ、ハート様」
ハートに命じられたメディックがアイアンに手を添えれば、自己修復とは比べ物にならない速度で損傷箇所が修復されていった。
優れた修復能力を持つメディックの手でアイアンはすぐに回復することができたのだ。
「おお……! ハート、恩にきるぞ!」
「友達のためなら当然さ。だが、あまり羽目を外し過ぎるなよ。人間だって馬鹿じゃない」
「心配は無用。より強い身体を手に入れ、今度こそ仮面ライダーを始末する!」
修復を終えると同時にどこかへと去るアイアンの姿を見送ったハートの表情はどこか物憂げだ。
それは過剰な自信に驕るアイアンではなく、またしても自分達に刃向かうマッハから来る表情であることに側近のブレン、メディックは気づく。
「仮面ライダー、ですか。あの程度の力で我々の邪魔をしようとは」
「仮面ライダーは敵ながらかつてのグローバルフリーズを阻止してみせた偉大な戦士だ。だが今のマッハとかいうライダーは……つまらん奴だ」
「ハート様の気に触るようでしたら、私が始末してみせますわ」
「いや、奴の始末はチェイスに任せる」
チェイス。
その名に顔を曇らせるブレンとメディックとは対照的にハートは絶対の信頼を置いているようだった。
やがてその場に接近するバイクのエンジン音を耳にして、ロイミュードの長は最も信頼を寄せる友の1人を笑顔で出迎えた。
「来たか、チェイス」
骸骨の装飾が施された紫と黒のバイク。
そこに搭乗していたのはチェイスと呼ばれた紫のライダースジャケットを着た男。
彼はいつもと変わらぬ無表情のまま、ハートが下す命令を待っていた。
ロイミュード
108体存在する機械生命体。それぞれ001〜108までのナンバーが振られている。重加速と呼ばれる現象を引き起こし、人類の支配を目論んでいるが、ハートが放任主義のため基本的には勝手に行動している。
大地達がこの世界に訪れた時点でNo.010、017、018、024、037、088、093がマッハに撃破されている。
仮面ライダーマッハさんの変身の掛け声等、本編と違う部分が多々あります。どうしてそうなっているのか、疑問ですね。
そしてまさかのヒロイン回。この世界での瑠美ちゃんの出番はあとどれくらいかな
それと諸事情でいつも通りに更新しましたので、次回更新は17日です
感想、質問はいつでもどうぞ