マッハ the 仮面ライダー!
青年、詩島剛が変身する正義の戦士。悪の機械生命体、ロイミュードが起こす怪事件に立ち向かう!
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*
こんなにも気怠い目覚めは初めての体験だった。
寝汗が染み付いた衣服が身体にベッタリと貼りつく嫌な感覚と長時間の睡眠による重たい頭が寝起きの思考を妨げる。
窓から刺す夕陽から自分がどれだけ長く眠っていたのか察するも、睡眠時間と反して身体にのしかかった疲労は一層増しているように感じる。
「寝坊助さん、夕陽を見ながら目覚めのコーヒーはいかが?」
「……いただきます」
香りから予想された通りの苦味が思考の靄を薄れさせる。
よりはっきりとしていく感覚にコーヒーの苦味もまた舌に沁み渡り、半分以上中身を残したカップを机に置いた。
ガイドの淹れたコーヒーは美味に違いないが、ブラックの苦味は大地の好みとあわない。
「大人の味は君にはまだ早いかな? 今度からはココアか紅茶にするよ」
「別に甘党ってほどじゃないですよ。コーヒーだって嫌いじゃありません」
頭が覚醒すると共にうなされていた最悪の悪夢の内容まで思い出してしまう。
あんな夢を見た後の寝覚めが良いはずがなかったのだ。
しかし、だからといってさあこれから元気に行動しようとも思えない。
このままずっと寝ていたい気分に抗って起き上がろうとした時、何かがベッドの上に落ちてきた。
「今日は休んどけ。この世界のことは俺と瑠美で調べておいた。怪人とライダーの戦いも見れたしな」
「レイキバットさん……」
見れた、というのはつまり巻き込まれたということだろうか。
2人を危険な目に遭わせてしまったのは1日中ここで眠っていた自分の落ち度だ。
もうそんなことは絶対にしてはならない。
「あ、大地君起きてたんですね。具合はどうですか?」
声を聞きつけたのか、瑠美も大地の様子を確かめに部屋に入ってきた。
いつもなら怪我のない彼女を見て安堵しているところだったが、それよりも瑠美の言ったとある言葉に大地は違和感を抱く。
「今、大地君って………」
「? 何か変でした?」
ずっと「さん」付けだった瑠美からの呼び方が「大地君」に変わっていた。
それは瑠美にとって命の恩人から一緒に暮らす仲間への親しみを込めた変化に過ぎない。
しかし大地には「呼び方」を変えるだけの瑠美からのこの歩み寄りが何故口に出してしまうほどの違和感になったのか、自分でもよくわからなかった。
「いえ、なんでもないです」
「でも確かに同じくらいの歳で一緒に暮らす仲間にいつまでも苗字にさん付けは他人行儀な気がするよなあ。大地も呼び方変えてみたら?」
「えっ、でも………」
「機械の俺にまでさん付けするくらいだ。何か理由でもあるのか」
ガイドの提案に便乗するレイキバット。
そう言われてみれば誰に対しても苗字にさん付けで呼ぶ大地は他人から見ればいささか変に映るかもしれない。
だからと言って「レイキバット」と呼び捨てにしたり、「花崎ちゃん」、「瑠美さん」のような呼び方も何か違うと思ってしまう。(流石に敵にまでさん付けする気はないが)
「私は別に何て呼んでくれてもいいですよ。大地君の呼びたいように呼んでくれれば」
ガイドの意地の悪い視線を無視して、瑠美の好意に甘えることにする。
つまり当分は「花崎さん」のままだ。それが他人行儀とわかっていても。
次の日の朝、元々そこまで体調不良というわけでもなかった大地は1日の休息で身体の方は完全に回復していた。
出血が酷かった傷口もすっかり塞がっている。これもダークディケイドのおかげだろうか。
「おはようございます。もう身体の方はいいんですか?」
「おはよう、花崎さん。もう全然平気……って何をしてるんですか?」
こんな朝早くだというのに瑠美は熱心にノートパソコンに向かっていた。
近くのコンビニで買ってきたらしい新聞紙を読みながら、ふんふんと頷いて文字を打ち込んでいるが、一体何の文章なのかはさっぱりわからない。
日常生活の基本的な知識だけは失っていないというだけで、精密機械に関する知識はまるで持っていないのだ。
「昨日わかったことをここに纏めてるんです。他にも私なりに考えたことも書いてるんで、ちょっとチェックしてもらえませんか?」
そう言って瑠美が見せてくれた画面には確かにこの世界についての情報がわかりやすく纏められている。
他にもダークディケイドに関する考察などもあって、短期間でここまでの資料を作成した彼女には舌を巻くばかりだ。
肝心のこの世界については瑠美が遭遇した異形と仮面ライダー、それに身体がどんよりとする不思議な現象についての情報が主に書かれている。
中でも目を惹くのはこの世界のライダー、マッハだ。
「仮面ライダーマッハ………あった」
ライドブッカーの色を失ったカード群の中にも「カメンライド マッハ」のカードはあり、ぼんやりとしていながら外見も瑠美の情報と一致している。
ここは「マッハの世界」とみてまず間違いなさそうだ。
他にも気になったのは
・マッハは声からして若い男性
・ミニカー? と一緒に戦っていた
・警察が来た途端に逃げた
というところだ。
「警察か……そういえば今まで警察が仮面ライダーと怪人の戦いに介入してるのは見たことないな」
「私の世界ではほとんどの人が魔法使いとファントムを知らなかったはずですし、もしかしたら警察も把握してなかったのかも」
「青空の会は警察とも繋がりがあったはずだ。余計な犠牲を出さないためにファンガイアの対処は青空の会に一任されるようにな」
いつの間にか肩に止まっていたレイキバットからの補足もあって、少しずつこの世界の状況がわかりはじめてきた。
さらに瑠美が広げた新聞には決定的な情報が記してある。
「この新聞にも仮面ライダーと怪物の記述があります。それに怪物の対処ができていない警察に対する批難の声もあるそうです。マッハの反応からして警察はマッハと怪物の両方を追っているんじゃないでしょうか?」
「多分そうかも。マッハが誰かもわからない以上、警察から話を聞いてみるのもありかもしれない。問題はどうやって話を聞くか……」
うーん、と考え込む大地と瑠美。
公的機関から情報を得るのはそう簡単なことではないし、下手をすれば仮面ライダーである大地も警察に追われるかもしれない。
ただほっつき歩いているだけでその世界のライダーと交流できたことがどれだけ幸運だったのか、大地は今になって痛感してしまう。
「警察も仮面ライダーも難しいなら、怪人の方はどうだ? 昨日マッハが仕留め損ねた奴が擬態した姿は俺が記録してある。これもまた探し出すのは難しいが、当てのない前者よりはマシだろう」
「そっか! あの怪人が暴れ出したらまたどんよりとした現象が起こるかもしれませんし!」
「問題はそれだ。あの空間ではマッハ、ミニカー、怪人以外動けない。仮に戦闘になったとしてもこちらは何もできんぞ」
大地は経験していないのだが、レイキバットがそう言うからには本当にほとんど動けなくなるのだろう。
もしそのどんより現象がこの世界で頻発するのだとしたらまずはそれを何とかするのが先決だ。何せ動けなければどうしようもないのだから。
考えを思いつく度に悩みに当たってしまう大地達。そんな彼らに意外な助け船が出された。
エプロン姿のガイドだ。
「おはよう! お、早速仕事の会議ってところか?」
「へん! てめえもガイドって名乗るならガイドらしく案内でもしてみせればどうなんだ!」
口は悪いが、レイキバットの言い分には大地も瑠美も概ね同意見だった。
そもそもガイドが旅のガイドらしいことをしてるのを全く見たことがない。現状ではガイドというよりも家政婦だ。
しかし、ガイドの意味深な態度に慣れつつある大地はどうせ今回もほとんど教えてくれないと半分諦めに近い確信があったのだが、意外にもそれは裏切られることになる。
「そうだなー。じゃあ重加速、君達の言っていたどんより現象についてちょこっと教えてあげよう!」
「えっ!? 本当に!?」
「重加速はこの世界の怪人の機械生命体、ロイミュード達が持つコア・ドライビアによって発生する現象だ。重加速現象の中で動けるのは同じコア・ドライビアを持つ仮面ライダーと彼等の装備たるシフトカー、シグナルバイクだけ。つまりメイジ、レイに変身しても動けないことに変わりはない」
ロイミュード、シフトカー、シグナルバイク。
一気に飛び出してきた固有単語に混乱しかけた一同だったが、ガイドの言い方に大地はとある事に気づく。
「その言い方だと、ダークディケイドなら動けるってことですか?」
「はい大正解! 正確にはダークディケイドの持ってるカードのおかげでな」
「ちょいと借りるよ」とライドブッカーを開いたガイドはカード群の中から素早く2枚のカードを抜き出して大地達に見せる。
そのカードとは「カメンライド チェイサー」と「カメンライド ダークドライブ」の2枚。
何故その2枚なのか、その疑問もカードに記してあるライダーズクレストを見て納得する。
「そうか、そのライダー達もマッハと同じようにコア・ドライビアがあるから、そのカードを持っていれば動けるって理屈なのか!」
「これまた大正解! 恐らくはカードを持ってるだけで効力を発揮するはずだから瑠美ちゃんにどっちか1枚持たせておけばいい。さっきはああ言ったが、メイジとレイでもカードを持ってれば動けると思うぞ」
本当にガイドが教えてくれたのかと思うほどにこれは有意義な情報だった。
ガイドの様々な知識を有している理由なんてどうせ教えてくれないし、とりあえず助言に従って「カメンライド ダークドライブ」を瑠美に預けておいた。
受け取ったカードをまじまじと見た瑠美は感心したようにガイドを褒める。
「私、ガイドさんがガイドしてるの始めて見ました! 凄いです!」
「僕も………」
「単に放任主義なだけなんだがなあ。自分達の力で色々探し出すのがいいのにー」
優雅に旅気分を語られても、自分の記憶がかかっている大地にとっては堪ったもんじゃないと内心呆れるのだった。
またロイミュードに遭遇した時の危険性を考慮して全員一緒に行動するべきだという意見はすぐに一致した。
瑠美には写真館に残っていてもらいたいというのが大地の本音なのだが、彼女は一緒に行くと言って聞かない。
レイキバットまでもが瑠美に味方したせいで仕方なく大地は根負けする羽目になった。
(ありがとうございます、レイキバさん)
(気にするな。それより昨日買ったもんは大地に渡さなくていいのか?)
(ええ、ちょっと)
「………2人とも何を話してるんですか?」
「いーえ、何も。ねー、レイキバさん?」
「うむ」
いつの間にか仲良くなっている2人に大地は首を傾げるが、まあいいかと流しておいた。
そんなこんなで大地、瑠美、レイキバットの一行は「昨日の現場に行けば手がかりがあるかも」という瑠美の提案に従って昨日のショッピングモールにやって来た。
「やっぱり昨日と違って人は全然いませんね」
「いるのは警察ばかり。現場を調べるのは難しそうだな」
「にしても……あの変なのも警察のものなのかな」
半ば予想していた通り、すでに戦闘があった現場は警察の手で封鎖されていた。
いるのも警察官の他は野次馬が疎らにいるだけで、怪しい人物も見当たらない。
それよりも不思議なのはちょうど戦闘があったらしい場所で男女の警察官が変な白黒のリュックを背負って何やら調べていることだ。
「一応ここら辺にいる人間の顔は確認したが、昨日の男と一致する奴はいない。振り出しに戻ったな」
「一応もう少し調べてみよう。まだ何か見落としがあるかも」
「あ、それなら私ちょっと近くを見てきます。もし危なくなったらすぐにあの噴水のところまで逃げてきますから」
瑠美のプライベートを縛るつもりもなく、大地はそれを了承した。
足早に駆けていく瑠美と別れて、特に探す当てもない大地はそのまま野次馬に混じって警察の捜査を見物することにした。
瑠美のリュックから抜け出したレイキバットは目撃されると面倒なのを考慮してか、大地の手の中に収まったまま微動だにしない。
「あれで何を調べてるのかな……」
その変な装置を背負っている、どことなくぼんやりとした男性警官を同じく装置を背負った婦警がドヤしている光景が見えた。
周囲の警官もスルーしているところを見るにあれは彼等にとっていつものことなのだろう。
しかしあんな調子では警官から情報を得るのは思っていた以上に困難かもしれない。
そのままぼーっと捜査を眺めていた大地の背中に悪寒が走った。
「あいつ、良い身体だな」
大地の近くでそんなことを呟いた女性が嫌な笑みを浮かべて現場に近づいていく。
何の躊躇もなくバリケードテープを乗り越えた時は警察関係者かと思ったのだが、周囲の捜査官の疑問の視線がそれを否定している。
まさか、と予感を抱くと同時に不可視の衝撃が大地を襲った。
不思議な感覚に見舞われた身体は一瞬で元に戻ったのだが、周囲の人間や物体の全ての動きがどんよりと遅くなっている。
初めて見る現象。しかし、この現象を大地は知っている!
「うわっ!? こ、これはーーー重加速!」
「間違いねえ! 大地、俺を離すなよ!」
「はい!」
大地の視界の中で通常と変わらぬ速度で動けているのは3人。
変な装置の警官2人と怪しげな女性。
誰がロイミュードか、なんて馬鹿げた疑問は火を見るよりも明らかだ。
大地の確信に違わず、怪しい女性は人間の皮を捨てて真の姿を現わす。
紫の筋肉質なボディと巨大な手甲の怪人、アイアンロイミュード。
その姿を見たレイキバットは驚愕の声をあげた。
「あれは昨日と同じ野郎だ!? 擬態先を変えてやがったとは……クソ!俺としたことが!」
「ロイミュード!? どうしてここに!」
ロイミュードの名称を知っていると思わしき2人の警官はすぐさま拳銃を取り出したものの、重加速現象で逃げられない人々を見て発砲を躊躇っている。
そして抵抗しないと知るや、アイアンロイミュードは人知を超えたスピードで接近して婦警を薙ぎ倒し、男性警官の首を締めあげた。
「仮面ライダー打倒のため、まずは貴様の肉体をいただくとしよう!」
「ぐ……は、離せ……!」
「泊さん!」
もはや一刻の有余もない。
バリケードテープを乗り越えた大地は握りしめたレイキバットを前に掲げる。
大地の意思を悟ったレイキバットもすでにベルトを出現させている。
「「変身!!」」
2つの声が重なり、白の旋風が止まった世界に吹き荒れる。
非力な生身の身体が一歩踏み出す毎にスーツと鎧を装着していく。
凍てつきの力を宿して急上昇していく身体能力を存分に発揮した脚力で障害物や警官達を飛び越えた大地は、ようやくこちらに気づいた怪人の顔面を殴り飛ばす。
咳き込む男性警官と彼を介抱する婦警が見上げたその戦士こそ、レイキバットと大地が一つになった戦士。
仮面ライダーレイ。
「仮面ライダー……!?」
「白い身体に、青い目……間違いありません」
「僕は仮面ライダー。仮面ライダーレイです」
この2人の警官は仮面ライダーを知っているようだが、話は後だ。
今は目の前の人間に危害を加える怪人を倒す。
待っていればマッハが来る可能性もあるが、今はこの場の人々を守ることを優先させるしかない。
突然殴られたアイアンロイミュードは正体不明のライダーが現れたことに驚きの様子であった。
そして彼は聞き捨てならない言葉を漏らす。
「貴様……3人目の仮面ライダーか!?」
「ん? 3人? マッハと、えーと?」
「おい来るぞ!」
3人目というのが引っかかるが、今は戦いが先だ。
襲いかかるアイアンの拳を受け流し、まずはカウンター1発叩き込む。
火花散らして苦悶の声を漏らしているところへさらにもう一発拳をぶち込み、それを起点にパンチラッシュを仕掛ける。
敵のボディの堅さよりもレイのパワーの方が勝っているようで、攻撃の一つ一つが確実にダメージに繋がっているのを拳から伝わってくる。
マッハが仕留め損ねたと聞いた時からしていた強敵の予感はそこまで正しくなかったようだ。
しかし、油断は禁物という名護の教えを忘れてはいけない。
(やっぱり来た!)
その巨大な手甲を伸ばして行う長リーチのパンチ。
初見ならば大地が食らうこと間違いなしだったそれは呆気なくレイに躱される。
事前に瑠美のレポートを読んでいたおかげでこの怪人の攻撃はある程度知っていたので、この攻撃も避けられたのだ。
そして再び攻めに移ろうとしたレイは腰のパートナーに呼び止められた。
「大地、後ろの奴が危ねえぞ!」
振り返った先に広がっていたのは、アイアンロイミュードの伸びた拳が破壊した建造物の大小様々な破片があの2人の警官に降り注いでいる光景。
考える間も無くアイアンロイミュードを蹴った反動で、レイは彼等のいる場所まで跳躍した。
「ウェイクアップ!」
着地したレイの両腕に解放されたギガンティック・クローとレイキバットの発射した冷凍弾幕が降り注ぐ破片を粉々に粉砕し、背後の警官達が被害を被ることは避けられた。
呆然とした顔の警官達はレイに驚きの声を上げる。
「あんた、俺達を助けたのか」
「離れてください! あいつは僕が倒します!」
クローを研ぎ澄まし、獣の如き身のこなしで瞬時にアイアンロイミュードに飛びかかった。
アイアンロイミュードの近接戦闘用に変形した手甲とレイのギガンティック・クローが激突して互いの身体を揺らす。
その激突の度に傷付くのはアイアンロイミュードの方だった。
数値上のスペックだけならイクサを凌駕するレイの鎧に、ある程度の経験と特訓を積んだ今の大地が合わさればアイアンロイミュードの相手は十分過ぎるほど務まる。
アイアンがどんな攻撃を仕掛けようと、レイはその全てに対処し、反撃できる。マッハとの戦闘よりも明らかに劣勢だ。
しかも状況はとある乱入者によってさらにアイアンを追い込む方へ傾いた。
シグナルバイク! ライダー! マッハ!
レイと同じカラーリングのライダー、マッハの乱入によって。
「ノコノコと現場に戻ってくるなんて、大胆な野郎だね!」
「仮面ライダーマッハ!?」
アクロバティックな動きで突如現れたマッハはゼンリンシューターの強烈な一撃をアイアンに見舞った。
さらにマッハは拳の連打を叩き込み、敵に休む暇を与えない。
執念すら感じさせるラッシュの前に反撃もままならないアイアン。
レイに与えられたダメージの影響で動きにキレが落ちているせいもあり、もはやアイアンがマッハに勝てる見込みは無いに等しい。
「はあッ!!」
そこへマッハの攻撃の合間を縫って、レイの飛び蹴りがアイアンの胸部に突き刺さる。
そこから始まったギガンティック・クローとゼンリンシューターの波状攻撃に対応できるはずもない。
そして偶然にもクローとゼンリンシューターの一撃が同時に炸裂し、アイアンロイミュードは悲痛な叫びを上げて地面に伏すこととなった。
「こんはなずでは……!」
地面に這いつくばるアイアンの姿に思う所がないわけではないが、明確な悪意を持ったこの怪人は今ここで倒さねばならない。
自身の得物を構えてジリジリと距離を詰めていく2人のライダー。
そして両者の武器が振り下ろされようとしたその時、複数の紫の光がライダー達の前に煌めいた。
ライダー達からアイアンを遮るようにして降り注いだその光は地面に当たってライダー達の視界を眩まし、その装甲を焼いた。
そこまでの威力は無いにしろ、それが明確な妨害行為だと察した時にはすでにアイアンは影も形もなかった。
咄嗟に光弾が飛来した方向を確認しても、そこには人っ子ひとりいやしない。
早い話が第三者の手によってアイアンロイミュードは逃がされたということだ。
「はぁ〜〜〜!? まぁた逃げられたっつーのかよ! クソックソッ!」
「あのマッハとかいう野郎が乱入しなきゃ俺らで決められたんじゃねえか?」
「まあまあ、そう言わずに」
声を荒げて地団駄踏むマッハはちょっと近寄りがたいが、この世界での初戦闘は一応勝利に終わった。
「仮面ライダーが2人……霧子、あれがグローバルフリーズの時にお前が見たっていう奴か?」
「いえ、特徴が一致していません」
周囲の重加速も解除されたことがアイアンロイミュードがその場から離脱した事実を裏付けている。
人に危害を加える危険な怪人を逃してしまった己の不甲斐なさを悔やむ大地であったが、ここはひとまずマッハに話を聞くしかない。
どこかピリピリとした雰囲気を漂わせていることや、背後で仮面ライダーに関する会話をしている警官は気になるものの、これでこの世界の記録へ向けてまた一歩前進したのだ。
そうして呑気に手を上げながら近づいてきたレイに対してマッハが取った行動は大地からしたら意外な、しかし彼にとっては至極当然のものだった。
「アンタは一体何もんだ? なんで重加速の中を動ける」
「え………」
目前に構えられた銃口を見て、これが敵意でないと誰が言えるだろうか。
冷静になって考えれば突然現れた正体不明のライダーなんて存在は警戒されて当然であり、即時に信頼した仁藤や理解を示した名護達が本来イレギュラーのケースなのだ。
しかし、そのことを頭でわかっていようと実際に銃口を向けられた事実は大地に大きなショックを与え、言葉を失わせた。
「なに? まさかこの俺に黙秘を通そうってつもりじゃないよね? あんたに喋るつもりがないなら無理矢理………」
「やめてください!!」
何者かが一触即発の両者の合間に割り込む。
両手を広げてレイを庇っているのは重加速現象を察知して駆けつけた瑠美その人であった。
「花崎さん、危ないから離れて!」
「嫌です! 2人が争う必要はありませんから!」
「君は確か昨日の………」
生身で銃口の前に立つ彼女の身体は若干震えている。
だがその表情から読み取れる覚悟は堅く、マッハが銃を降ろさない限りは決してそこから退かないと思わせるのに十分なものだった。
自身を射抜く彼女の強い視線にたじろいだマッハは彼等を凝視する警官達の視線にも気づき、舌打ちしてゼンリンシューターを下に下ろした。
マッハとの戦闘という最悪の事態を避けられたことに安堵したのも束の間、彼は自身のベルト、マッハドライバー炎のボタンを連打している。
ズーットマッハ!
「あっ!?」
一瞬の瞬きで集めていた視線を置き去りにして、仮面ライダーマッハは姿を消す。
そこに残された白い残像が彼の超スピードを物語っていた。
余りの速さに呆けていたレイもはっ、と我を取り戻し、すぐに彼の後を追う。
「花崎さんをお願いします!」
「うお!?」
大地は内心申し訳ないと謝りつつレイキバットを瑠美へ軽く放り、レイの鎧が消失した瞬間にメイジドライバーを装着する。
その変身の行程の合間も決して足は止めない。
「変身!」
チェンジ! ナウ
魔法陣を潜り抜けて仮面ライダーメイジに変身。だがメイジのスピードではあのマッハの加速には追いつけない。
そこで取り出したのはリフレクトの指輪。
リフレクト! ナウ
防御用の魔法をここで使う意味は皆無に思えるが、これは選択ミスでもない。
駆けるメイジはほんの少し先の地面にリフレクトの魔法陣をイメージした通りに出現させ、それを渾身の力で踏みつけた。
微かな痺れが足先に走り、メイジの動きは一瞬だけ停止。
そして次の瞬間には空高く跳躍していた。
「よし……上手くいった!」
自分で発動したリフレクトに自分で衝撃を加えればその方向に跳ね返るという咄嗟の思いつきはどうやら功を成したようだ。
青い空、白い雲、ビルの群。視線を下に移すと、重加速から解放されたばかりで停車している車でごった返す道路を白いバイクが猛スピードで疾走している光景が見えた。
フレキシブル! ナウ
出現したフレキシブルの魔法陣は何の反発もなくメイジの腕を受け入れる。
魔法陣を通った腕はゴムのように伸縮自在の状態へと変化し、白いバイクを標的にその腕を伸ばす。
自分の腕がグネグネになってる光景は見てて気分が悪いのはこの際我慢するしかない。
(掴んだ!)
伸ばした腕が硬い何かを掴むと同時に、宙に投げ出されていた身体がその方向に向かって凄まじい勢いで引っ張られた。
変身していなければ腕がもぎとられていたに違いあるまい。(そもそも変身しなければ魔法も使えないのだが)
爆走するバイク、ライドマッハーに空中斜めから迫り、隙を見計らってマッハの背後に着席した。
なるべく運転手に気を使って静かに着席したつもりなのだが、突然背後に不審な存在が座ってきたマッハからすれば心臓を鷲掴みにされた心境であるのに変わりはない。
慌てて振り返ったマッハが目撃したのは巨大な爪と真っ赤な顔面なのだからむしろ余計に驚かせてしまっている。
「おわぁ!? なんだお前、どっから来た!?」
「さっきの誤解を解きたいんです! 僕は敵じゃありません!」
「さっきぃ!? お前、もしかしてあの白いライダーか!?」
そう言われてようやく今の変身がマッハには初見だと思い出した。
変身できるライダーが多過ぎてたまに感覚が麻痺しそうになっている自分には呆れるしかない。
「紛らわしくてすいません!今はメイジで、あれはレイ………って前!前!」
「あぶねあぶね!!」
前の車に追突しそうになって慌てて前に向き直るマッハ。
すんでのところで衝突は回避できたが、この調子ではいつ事故を起こすか、大地には気が気ではない。
「ちゃんと前見て! 僕何もしませんから!」
「突然バイクに乗って来た野郎なんか信用できるか! とっとと降りろ!」
「じゃあ変身解きます! ほら解いた!解きました!」
「見えねえよ!お前が前見ろつってんじゃん! って揺らすな揺らすな!?」
ギャーギャー騒ぎながらいつ大事故になってもおかしくないコントのような珍走は都市部から離れた人気の無い場所まで続いた。
その頃にはマッハも大地も静かなものだったが、単に騒ぐだけの気力が残っていないだけだ。
「あー、もう限界だ………」
オツカーレ
バイザーを展開したマッハの仮面から熱い煙が排出された。
余剰エネルギーが排出されたマッハの変身も解除され、白いジャケットの若い男性が疲れ切った表情でアスファルトに倒れ込む。
ようやく顔を合わせられた、と喜びたいところだったが命知らずのツーリングで疲弊し切っているのは大地も一緒だった。
むしろ生身でいたぶん、辛いのは大地の方かもしれない。
「本当になんなんだよお前………俺を事故らせて殺したかったのか?」
「だから違いますって………僕は別の世界から来た仮面ライダーなんです。この世界のライダーに話を聞きたくて」
「はあ? 嘘ならもっとマシなもんつけよ。レッカー!」
その名を呼ばれた緑のシフトカー、フッキングレッカーがどこからともなく飛来し、座り込んでいる大地にロープを巻きつけた。
疲弊し切った大地は抵抗する間も無く拘束され、その下にシフトカー達が集合。そのまま大地を運び始めた。
「ちょ、ちょ! どこ行くんですかぁ!?」
「お前の身体は洗いざらい調べてもらう。処遇を決めるのはその後だ」
シフトカー達の統制がとれていないせいか、宙をガタガタと揺れながら運ばれる感覚は正直気持ち悪くて堪らない。
なるべく早めに目的地にたどり着くことを願うしかない。
(レイキバットさん連れてくるんだった……)
それも後の祭りだ。
かくしてその青年、詩島剛とシフトカーに連れ去られた大地は乗り物(?)酔いに耐えながらどこかへと運ばれていった。
時は遡り、メイジがライドマッハーに搭乗した頃。
「大地め……急に投げやがって……華麗さが足りんぞ」
文句を零しながら瑠美を探すレイキバット。
確かにレイではあのスピードに追いつけないと思うが、この扱いはあんまりなのではないか。
雑な扱いを受けようと、律儀に瑠美の元に向かう自身も結局はロボットに過ぎないということか。
そうして周囲の人間に見つからぬよう気を配って飛んでいる内に、ようやく瑠美を見つけることができた。
「瑠美、無事か」
「レ、レイキバさん……その、私は大丈夫なんですけど……」
「んん?」
どうも歯切れが悪い返事だ。
それにレイキバットとは違う方向をチラチラ気まずそうに視線を泳がせているのはどういうことだ。
「仮面ライダーを知っている様子で、しかも喋る蝙蝠……」
その声はレイキバットのものでも、瑠美のものでもない。
レイキバットを凝視する泊、と呼ばれていた男性警官のものだ。
「………ああ。そういうことか」
最悪だ。
あれほど警戒していたはずが、よりにもよってあの2人の警察官に見られるとは。
「華麗さが足りないのは俺もか……」
「ど、どういう意味なんです? それ」
怪物騒動に騒ぐ人々を建物の屋上から眺める存在がいた。
彼の名はチェイス。
反逆したロイミュードの粛正を行う死神にして、誇り高き追跡者。
アイアンの逃走の際、目眩しを放ったのも彼であり、そのままハートから与えられた仕事を達成するつもりだった。
だが、レイの存在がチェイスの警戒心の他に、モヤモヤとした感覚を煽る。
「仮面ライダーが2人……マッハの他にも仮面ライダーがいたというのか」
レイから感じた自身に似た奇妙な反応、人々を守るレイを見た瞬間の苛立ち。
どちらも初めての感覚、故にチェイスは追撃を躊躇った。
この感覚の正体はわからない。それなら戦って見つけるしかない。
「関係ない……2人とも倒すだけだ。ロイミュードの番人として」
BREAK UP!
バイクのエンジンを連想させる紫と黒の輝くボディ、対象をどこまでも追い続ける追跡者の相棒 ライドチェイサー。
彼の名は魔進チェイサー。
ロイミュードの番人にして、仮面ライダーの敵。
魔進チェイサー
ハートの意向に沿わず、人間社会で目立ち過ぎたロイミュードを処罰する死神。仮面ライダーに対して並々ならぬ感情を持っているが、その意味については自身でもわかっていない。
また人間に直接的な危害は加えない。殺す価値もないから、と本人は判断しているようだ。
シフトカー
本来ならば仮面ライダードライブのサポートを行うミニカー達。この世界では彼等はマッハのサポートに徹している。
2人組の警官、色々表現ボカしたけど、ドライブ視聴済みの人にはバレバレですよね。
感想、質問はいつでもどうぞ!