泊進ノ介がドライブにならず、マッハだけがロイミュードと戦う世界。
進ノ介や霧子といった特状課の面々もマッハの正体を知らず、ロイミュードと仮面ライダーの戦いをほとんど把握できていない。
しかし、この世界にはマッハ以外のライダーもいたようだが…?
どうしよう。とてつもなく気まずい。
ミニカー達に運搬された大地が今いるのはどこかの地下施設らしき場所。
柱に縛り付けられ、その周りをシフトカー達に囲まれ、さらには中央部に停められたライドマッハーに腰掛けているマッハの変身者が敵意を剥き出しにした表情で視線をぶつけてくる。
仮に少しでも不審な真似をすれば、即座に撃ち殺されることは容易に想像できる。
この場所に連れてこられた時、持っていた2つのベルトは取り上げられてしまっているので抵抗だってできやしないのだ。
ミニカーに取り囲まれるこの光景はシュールそのものだが、その場に流れる非常にピリピリとした雰囲気がどうしようもなく大地の不安を煽り、緊迫した時間が過ぎて行く。
「おっまたせぇ〜! 君のベルト、すっごい興味深かったわ!」
そこに場違いな態度で現れたのは白衣を着た女性、沢神りんな。
取り上げられたベルトは彼女によって調べられていたらしい。
見るからに女性科学者の風貌のりんなを見て、大地の心にほんの一瞬だけ影が差した。
「私達やロイミュード、どちらとも違う技術で作られたベルトを2つも持ってるなんて、君が他の世界のから来たって言うのも信じるしかないわね! ほら、剛君もいつまで睨んでるのよ!」
渋々といった様子で大地を解放するが、剛と呼ばれたマッハの変身者は明らかに不満げだ。
不自然なくらい明るいりんなと相まって大地には余計に刺々しく感じてしまう。
ならばここは敵意がないことを示して信頼されるよう心がけるべきだ。
「いえ、僕も誤解されるような真似をして悪かったと思ってます。できれば仮面ライダーマッハと一緒に戦いたいと思ってます」
「029とだって一緒に戦ったんでしょ。だったら私達はもう仲間よ! よろしくね、大地君!」
同じ女性科学者でありながら鬼塚とは真逆の明るい性格のりんな。
詳しい話もしないまま信用してくれるというのは少々疑問に思わなくもないが、その好意は有難く受け取るべきだ。
しかし、好意的なりんなの態度とは裏腹に剛から受ける視線は冷たいままだ。
「俺は反対だね。こんな得体の知れない奴と一緒に戦えって? 面倒な立ち回りは抜きにして、とっとと目的を話したらどうよ」
「仮面ライダーマッハを記録する。僕の目的はそれだけで、貴方の邪魔をするつもりはありません。本当です」
「だったら新聞なりテレビなり見てればいい。俺はお前なんかに構ってられないくらい、忙しいんだよ。じゃあな」
ライドマッハーのエンジンをかける剛。
閉じていた通路が開き、外に走り出そうとする剛をりんなが呼び止めた。
「ちょっと、どこに行くつもり?」
「029を追う。あの損傷だったらそう遠くへは行ってないはずだ」
「そうかもしれないけど、今は休んだほうが」
「いつも言ってるだろ。俺には止まってる暇なんてない。そいつが何かしでかそうとしたら連絡してくれ」
その言葉を最後にライドマッハーは猛スピードで走り去る。
残されたりんなはさっきとは一変して若干憂いを帯びた表情を見せた。
剛がいなくなった途端にこれなのだから、不自然に思えたあの態度もわざと明るく振る舞ったためかもしれない。
「ごめんなさい。正直私も大地君を完全に信用していたわけじゃないの。仲間の存在が剛君のストッパーになればと思った末の賭けよ」
「ストッパー? どうしてあの人にそんな……?」
「その辺も含めて説明するわ。私にできる範囲でね」
そうして紡がれるりんなの説明はまさしく大地が知りたがっていたこの世界の概要とも呼ぶべき情報だった。
約1年前に起こったロイミュード達による一斉蜂起、グローバルフリーズが始まりだった。
グローバルフリーズとは全世界を重加速現象で覆うことで、人間社会をロイミュードの支配下にしようとした世界規模の大事件。
それを阻止したのがロイミュードの開発に関わった科学者にして、りんなの恩師、クリム・スタイン・ベルトが開発したロイミュードの原型であるプロトゼロとドライブシステム。
グローバルフリーズ以前にロイミュード達によって殺害されていたクリムはドライブシステムの中枢、ドライブドライバーに自身の精神を予めインストールされるように仕組んでおり、それをプロトゼロに装着させることで1人の戦士を誕生させた。
それが仮面ライダープロトドライブ。
プロトドライブの活躍でグローバルフリーズは妨害され、ロイミュード達も倒されたが、そのコアまでは破壊できなかった。
そして時を経て、力を蓄えたロイミュード達はプロトドライブを襲撃。その戦いでクリムとプロトゼロは命を落とす結果となった。
残されたのはプロトドライブのサポート役だったシフトカーだけ。
シフトカーだけでロイミュードに立ち向かうのは不可能だ。
しかし、クリムの残したデータを元にコアまで破壊できるネクストシステム、仮面ライダーマッハが開発され、適合者に選ばれたのがさっきの男、詩島剛。
「なるほど……だからあのロイミュードは僕を見て3人目のライダーと認識したんですね」
「恐らくそうね。ロイミュードは001から108まで全部で108体。その内私達が倒せたのはたったの7体。正直大地君が手伝ってくれるっていうのは凄くありがたい話なのよ。彼、詩島剛くんはロイミュードの殲滅に執着してて少し暴走しがちなところがあるし……いざって時には私じゃ止められないから」
だいたいの話は飲み込めた。
この世界に滞在している間は少しでも多くのロイミュードを倒しておいた方がいいだろう。
その過程でマッハを記録していけばいいのだ。
ダークディケイドライバーを始めとする装備を返してもらっている時、何気ないタイミングでりんなが疑問を零した。
「君の装備、短時間での解析ではあったけど重加速に対応できそうな装置は組み込まれていなかったわ。どういうことなの?」
「僕も詳しいことはよくわからないんですけど、このカードのおかげらしいです」
ライドブッカーから取り出した「カメンライド チェイサー」のカードをりんなに見せる。
まじまじとカードを見つめるりんなはどこか懐疑的だ。
「チェイサー……これって」
「えっと、どうかしましたか?」
「………ううん、まさかね。ありがとう」
りんなのこの反応、イクサの世界での嶋の反応と似ている。
直感的にそう感じたが、そもそも嶋の反応の意味すら大地には理解できていなかったため、何かあると思いつつもその場は気に留めておく程度にしか考えていなかった。
後に大地はこの時のことをこう振り返っている。
瑠美にダークドライブを渡したのも、手元にチェイサーを残したのも、運命の悪戯だったのかもしれない、と。
✳︎
久瑠間運転免許試験場。
一見すると普通の運転試験場にしか見えないが、ここの一室にはとある事情から警視庁のとある部局が存在している。
その名も特殊状況下事件専門捜査課、通称「特状課」。
主に機械生命体の起こす怪奇事件を専門として捜査しているのだが、目立った成果を上げていない彼等は本庁の鼻つまみもののような扱いだ。
そんな特状課の一室で瑠美は複数人の警察官に囲まれている状態に制服の威圧を感じずにはいられなかった。
「花崎瑠美さん、もう一度聞く。あの仮面ライダーレイの正体を知っているのか?」
「えっと……知ってはいるんですけど……その……」
そう瑠美に尋ねているのはアイアンに襲われていた刑事、泊進ノ介。
突然連れてこられて萎縮している瑠美を気遣ってか、なるべく優しい声音を心がけているようだが、瑠美はしどろもどろな回答しかできない。
喋る蝙蝠なんていう不可思議な存在を連れていた瑠美はあれよあれよという間に進ノ介とその相棒、詩島霧子にこの特状課まで引っ張られてしまった。
流石に警察に大地や異世界のことを勝手に話すのは不味いと判断してこんな発言しかできない状況になっている。
そんな風に全く進展のない会話を繰り広げる彼等の座るソファから少し離れた場所で、声を潜めて会話をする二人の人物。
片方は捜査一課の刑事、追田現八郎。もう片方は進ノ介と一緒にいた女性警察官、詩島霧子。
「おい嬢ちゃん、なんだってあんな娘をここに連れてきちまったんだ。それも本庁に何の通達もなく」
「あの娘は仮面ライダーと何らかの接点を疑わせるだけでなく、あんな機械の蝙蝠まで連れています。泊さんが珍しくやる気を出すのもわかる話です」
「つってもよお、俺は仮面ライダーなんて信じちゃいねえし、あの瑠美って娘もグローバルフリーズを知らないなんて怪しいこと言っちゃあいるが、それでも嘘を吐いているようにも見えねえ。第一、本当に怪しいんならそれこそ重要参考人として正式な手続きを踏んで取調室に連れていくべきだろ」
「泊さんだってそれぐらいは理解しているはずですけど……」
この特状課が設立されてから霧子と進ノ介はバディとして行動を共にしてきた。
しかし進ノ介ときたらいつもぼんやりとしているばかりか、「なんかエンジンかかんねえ」とかぼやいて仕事をサボる始末だった。
ロイミュードや仮面ライダー関連の事件になるとやる気を出すことはあるものの、それでも怠け癖は抜ける様子はない。
そんな進ノ介が真剣な表情で、しかも正式な手続きすらせずに一人の女の子に話を聞いているのだから現八郎も霧子も内心では困惑しているのだ。
また、その傍では鳥籠に入れられたレイキバットが特状課の課長、本願寺純と客員ネットワーク研究家、西城究に弄られていた。
そんな世にも珍しい光景、あの好奇心旺盛でカメラマンの弟が見たらなんて言うだろうか、と近頃連絡もよこさない自身の身内に、霧子はふと思いを馳せた。
「ほぉ〜ら、蝙蝠ちゃん! 泊ちゃん好物のひとやすミルクですよ〜!」
「いるか!んなもん!ガブリッ!」
「イテテ! 何で僕を噛むのさ!? そこは課長を噛むところでしょ!」
「あらら、今日の私のラッキーカラーは白だから懐いてもらおうと思ったんですけどね〜」
「貴様らぁ! 俺様を舐めているのかァ!?」
機械じかけの喋る蝙蝠なんていうロイミュードとの関連性を疑わせるレイキバットが完全に愛玩動物扱いだ。
警察組織としての緊張感がないようにも見えるが、専門の沢神りんなが不在であり、レイキバットも口が悪いだけで暴れまわったりする様子もないためこの扱いは不当というほどではなかった。
レイキバットとしてもこんな安っぽい鳥籠を破壊して暴れてやりたい気持ちはあるのだが、そうなれば瑠美の立場が不味いことになると理解しているので、この状況を甘んじて受け入れるしかないのだ。
「ちくしょう……華麗さも激しさもねえ!」
「それにしても驚きですね〜。ロイミュード以外にもこぉんな不思議な蝙蝠ちゃんがいるなんて。究ちゃん、何かわかんないの?」
「無茶言わないでくださいよ! こういうのはりんなさんの専門でしょ。あの人、まだ連絡がつかないんだから」
同時刻にてりんなは大地と一緒にマッハの秘密基地にいたのだが、仮面ライダーの正体や目的を知らない特状課の面々には知る由もなかった。
ロイミュードと戦う謎のヒーロー。それが特状課の仮面ライダーへの認識であり、重加速に対抗できる唯一の存在と密かに頼りにもしている。
しかし、泊進ノ介だけは違う。
「質問を変える。俺は仮面ライダーの戦う理由が知りたい。何故彼等はロイミュードと戦うのか、それを知っていたら教えてほしい」
「泊さん……?」
これは進ノ介と霧子の間だけの秘密なのだが、霧子はかつてのグローバルフリーズで仮面ライダーに救われたという経験がある。
特状課で最も仮面ライダーに信頼を寄せているのも彼女であり、その秘密を共有している進ノ介もまたそうであると思っていた。
仮面ライダーは人間を護るために戦っているとわかりきっているはずなのに、進ノ介は何故そんなことを聞くのか?
「………マッハってライダーのことは私はよく知りません。でもおまわりさん達が見た仮面ライダーレイは怪物に襲われる人々を守るために必死に戦っています。自分だって怖いはずなのに、それでも彼は戦ってくれるんです」
「そうか……ありがとう。信じるよ、君の話」
進ノ介の表情は複雑だ。
安堵と憂い。その両方が入り混じったモヤモヤが彼の脳内に漂っている。
そのモヤモヤの正体には未だ至れない。
✳︎
結局その後の問答でも進ノ介の疑問は晴れなかったようで、浮かない顔のままだった。
それでも強引に連れてきてしまったことを詫び、帰りは送ってくれるというので、瑠美は素直にそれに従う。
最初はちょっぴり怖かったけれど、話してみるとこの進ノ介という刑事は良い人だとわかった。もしかすると大地に協力だってしてくれるかもしれない。写真館に帰ってみたら大地に話してみよう。
「ったく! 酷い目にあったぜ!」
「結局その蝙蝠はなんなんですか? ロイミュードとは違うみたいですけど」
「レイキバさんはレイキバさんです。というか私もよくわかりません」
「はぁ……?」
進ノ介に同行している霧子の追求も半分本音で返す。
納得はしていない様子ではあるものの、それ以上は何も聞いてこなかった。正式な捜査でないこともあるのだろうが。
試験場の駐車場に停めてある車両に瑠美が乗り込もうとした時、ドアを開けていた進ノ介のポケットが軽快なメロディを鳴らして振動した。
「ちょっとごめん」と断って取り出した携帯の液晶を確認する進ノ介。
車両から離れていくのは瑠美に聞こえないようにするためだろうか。
「はい泊………なんだって!?」
進ノ介の顔が驚愕に染まり、すぐさま手帳を取り出してなんらかのメモを書き始めた。
物凄い速度で手帳に書き記した後、霧子に耳打ちし、彼女もまた驚きの表情を見せている。
何か緊急の用件が入ったとみて間違いないだろう。
「悪い、花崎さん。俺達はすぐに行かなきゃならなくなった。送るのは他の誰かに頼む」
「もしかして、ロイミュードですか」
まさかと思い言ってみたのだが、どうやら図星のようで、進ノ介の沈黙が肯定の印だ。
ロイミュードが現れたということはつまりそれを追ってマッハや大地も現れる可能性が高いということ。
肩に止まっているレイキバットを一瞥した瑠美は進ノ介に深々と頭を下げた。
「お願いします! レイキバさんも連れて行ってください! レイキバさんを届けなきゃいけない人がいるんです!」
「なんだって?」
「おい瑠美、あいつなら他にも変身はある。そこまで心配する必要はない」
「ダークディケイドは制限があるし、何か起こってからじゃ遅いんです。レイキバさんがいた方がきっと良いはずだから!」
「……仕方ない、わかったよ。人を呼んでおくから、特状課に戻っててくれ。いいな?」
「はい! あと、レイキバさんはこれを」
瑠美がレイキバットに渡したのは「カメンライド ダークドライブ」のカード。
瑠美の言わんとしていることはわかった。そこまでするのならレイキバットも応えてやろうという気になる。
その小さな体躯で頷き、レイキバットは進ノ介の背中をど突いて急かし始めた。
「そら! 行くぞ刑事カップル!」
「ちょ、ちょっと! 私と泊さんはそんな関係じゃありません!」
「そ、そうだよ! それにピコピコくんがないと重加速が」
「要らねえよんなモン! とっとと車出せぇ!」
「なんなんだよこのコウモリ〜!?」
ギャアギャアと騒ぎながら現場に向かっていった進ノ介達の乗ったパトカー。
そのサイレンが見えなくなっても、言いようのない不安に駆られた瑠美はしばらくその場から動けなかった。
大地もレイキバットも進ノ介達も皆無事でいてほしい。
その想いが届くように、瑠美は胸の前で手を合わせて祈る。
祈ることしかできない自分への歯痒さを嘆きながら。
✳︎
ロイミュード出現の報せは大地達のいる秘密基地、マッハピットにも届いていた。
すぐにりんなは剛へと連絡を送り、ロイミュードの出現を知った剛は返事もせずに通信を切ってしまった。
はぁ、と溜息をつくりんなの仕草はもう慣れっこという感じだ。
そんなりんなから現場の大まかな位置を確認した大地はダークディケイドライバーを装着する。
マッハピットから現場に向かうにはバイクが使えるダークディケイドに変身するしかない。
「変身」
KAMENRIDE DECADE
この身を包む漆黒の装甲、ダークディケイドには鬼塚の件から未だ複雑な心境のまま変身する羽目になった。
それでも人間に危害を加える怪人がいるのなら、大地は変身を躊躇ったりはしない。
ATTACKRIDE MACHINEDECADER
ビーストの世界以来となるバイクの搭乗に緊張で高鳴る心を落ち着けてハンドルを握る。
教えてもらった現場の位置を脳内で反芻しながらエンジンをかけ、オープンしたピットの出口を見据える。
いよいよピットから発進しようとしたその時、思い出したかのようにりんなが呼び止めた。
「待って! このロイミュードの出現は本庁に匿名でタレコミがあったんだけど、場所や時間の報告等がやけに正確だったそうなの。もしかしたら」
「罠、の可能性はあると思います。でも詩島さんのマッハとこのダークディケイドならなんとかなるはずです。だから安心して待っててください!」
りんなの忠告が正しいとすれば、確かに恐ろしい。なにせ敵の罠の中に少ない情報で飛び込んでいくことになるのだ。
だが、ここで止まっていたらマッハは1人でその罠に突っ込んでいく羽目になる。それだけはごめんだ。
胸中の不安を振り切るようにスロットルを回し、マシンディケイダーがピットから発進した。
ピットから外に出たマシンディケイダーは大地の運転技術が許す限りのスピードで同一車線にいる車を次々と追い抜かしていく。
夕暮れ時で眩しい夕陽が射す道路を明らかな違反速度で飛ばしていくのは内心ヒヤヒヤするが、同時に心地良さもあった。
2度目の運転にしてこの感覚を味わうのだから自分は意外と運転が好きなのかもしれないと大地は思った。
「………! いた!」
教えられた現場の付近に到着すると、その道沿いに停まっているやけに悪趣味なバイクと紫のライダースジャケットの男、それに女性が目に留まった。
紫の方は見覚えが無かったが、女性の方は間違いなくさっきのロイミュードと同じ顔、格好なのだから取り逃がした奴に違いない。
彼等はなにやら会話をしていたようで、駆けつけたダークディケイドを見ると女性の方は驚きの声を上げている。
「な、なんだあいつは! まさか俺を探して!?」
「そのようだ。奴がお前の言っていた新しい仮面ライダーか?」
「いや、白いライダーだったはずだ」
「そうか、まあいい。アイアン、お前は逃げろ。奴は俺が始末する」
BREAK UP!
紫の男性が手に持っているガジェット、ブレイクガンナーに掌を当てる。
音声を鳴らすブレイクガンナーの銃口から放たれた幾多のエネルギーが彼の装甲を形成し、ロイミュードの番人としての姿を現した。
死神 魔進チェイサー。
愛機、ライドチェイサーに跨った彼はブレイクガンナーの威嚇射撃でダークディケイドの視界を塞ぎ、その隙に擬態を解いたアイアンロイミュードが一目散に逃げ出した。
当然逃げたアイアンをマシンディケイダーで追いかけようとすれば、ライドチェイサーの巨体が道を塞ぐ。
手負いのアイアンよりもこの魔進チェイサーを先に倒すべきかもしれないが、あの伸縮自在の腕を巨大な足のように動かすアイアンを放置してしまえば道路上の一般車両にも危害が及ぶのは目に見えている。
進路を遮る魔進チェイサーを突っ切るため、ダークディケイドは一枚のカードを切った。
ATTACKRIDE ILLUSION
発動したディケイドイリュージョン。その効果は分身。
マシンディケイダーごと4人に分身したダークディケイドはライドブッカーの射撃でチェイサーを牽制しながらライドチェイサーを別々の方向から追い越していく。
対象が4人に増え、それらが別々の方向へ散らばれば対処は困難になるというのが大地の目論見であった。
が、それがなんだと言わんばかりに放たれる魔進チェイサーの的確な射撃がダークディケイド達を次々と撃ち抜いていく。
ある程度の耐久を持つ分身達はブレイクガンナーの射撃ぐらいで消滅はしないとはいえ、均等に降り注いだ射撃に分身に混じっていた本人もダメージを負ってしまった。
しかし、それでも魔進チェイサーを追い抜かすという目的は達成された。
役目を終えた分身達が消滅し、1人アイアンを追いかけるダークディケイドはバックミラーを頼りに銃口を背後へと向ける。
「貴方の相手は後にさせてもらいます!」
ATTACKRIDE BLAST
走行中、それも背後への狙いという精度がでたらめな射撃を数で補うディケイドブラスト。
殺到した弾幕に怯む魔進チェイサー、しかしそれも一瞬で持ち直してマシンディケイダーの追跡を開始した。
突然の分身への動揺も微かなもので、おまけに射撃の腕もあちらの方が上。
そんな難敵を慣れないバイクで相手取る羽目になった己の不幸を呪いたくなる気持ちを抑え、まずはアイアンの追跡を優先する。
いつの間にか彼らが発生させたであろう重加速によって周囲の車両がほぼ止まっているに等しいのが不幸中の幸いだ。
「止まれぇ!」
長い腕を地面に叩きつけて逃げるアイアンに標的を定め、間髪入れずに撃つも、中々当たらない。
背後からの射撃に気づいたアイアンが狙いを反らすために動きを激しくさせるものだから余計に銃弾は虚空に消えていくばかりだ。
マシンディケイダーの限界速度を出せば追いつけるとは思うが、大地には止まっている車両を避けながらそのスピードを出せる気がしない。
他のライダーへのカメンライドを視野に入れ始めたその時、さらなる乱入者の声が大地の鼓膜を刺激した。
「ヌゥアアアアアアッ!!」
「うああっ!? 別のロイミュード!?」
飛来した光弾にダークディケイドとバイクに衝撃を与える。
蝙蝠の意匠を持ったロイミュード 071が翼を羽ばたかせ、その足に掴まれた蜘蛛の意匠を持つロイミュード 042のエネルギー射撃が上空から降り注いだのだ。
進化体に至れていない下級ロイミュードと呼ばれる存在の彼らは損傷が回復しきらないうちに襲撃を受けたアイアンが呼び寄せた部下なのであるが、大地にとってはどうでもいい話だ。
アイアンと比べれば幾らか見劣りする新手のロイミュードの攻撃はその印象通りに大した攻撃力は無かったのはいいが、背後から迫る魔進チェイサーのことを考慮すると、継続して射撃を浴びせてくる新手の出現はダークディケイドにとって非常に厄介な状況になってしまった。
そうして新手のロイミュードに手間取っている内に背後からの追跡者との距離はどんどん縮まっていくことに大地は気づく。
そしてついにはライドチェイサーと並走する形となり、真横からの攻撃にも対処を迫られることになる。
他の3体とは明らかに規格外な実力と装備の魔進チェイサーに対し、大地は無駄とは知りつつも問いかけずにはいられなかった。
「くっ、貴方は一体!?」
「俺はロイミュードの番人、魔進チェイサー! 仮面ライダー、仲間を減らす貴様はこの俺が倒す!」
聞けば目的も含めて答えてくれた。律儀だ。
……なんて感心してる間も無く、魔進チェイサーの殺意に満ちた攻撃に晒される。
距離を離そうにも、残念ながら運転テクニックまでもが敵に軍配が上がっているのでどうしようもない。
ダークディケイドのままでは八方塞がりなこの状況を打開すべく、カメンライドのカードを取り出そうとした時、とある光景をダークディケイドの視界に捉えた。
見覚えのある白いマシンが対向車線から爆音を響かせて迫ってくる。
重加速の中で点在する車両を躱しながら猛スピードで爆音を響かせるのは、たなびくマフラーと青い複眼を光らせるライダー。
そう、あのライドマッハーこそはこの世界の頼れる味方の愛機だ。
シグナルコウカン! マガール!
対向車線から急カーブを描いて飛んできた弾丸がアイアンを狙う。
不意にやってきた予測困難な軌道の弾丸を躱す術をアイアンは持っておらず、命中した弾丸によってアイアンは地面に落下。すかさずUターンとジャンプで同じ車線まで飛び越えてきたライドマッハーはその勢いのままにライドチェイサー、マシンディケイダーの横を並走する。
止まった時のカーチェイスに飛び入り参加したマッハにも魔進チェイサーは動じる様子はない。
前方の車両を飛び越えて、再び接敵した時には両者の手の中に武器が握られていた。
ゼンリン!
BREAK!
激突するゼンリンシューターとブレイクガンナー。
猛スピードで走るバイクの上であろうと関係なしにマッハ、魔進チェイサー、両者の攻防が始まり、それは図らずもダークディケイドとマッハで敵を挟み撃ちする形になっている。
「ッリャア!」
威勢のいい掛け声を上げて、ダークディケイドが半ば反射的に繰り出したキックがライドチェイサーの車体を揺らし、魔進チェイサーのバランスを微かに崩した。
バランスを整えようとすれば、そこには隙が生まれ、マッハがそれを見逃すはずもない。
シグナルマッハをゼンリンシューターに装填する作業を一瞬で終え、できる限りライドチェイサーに接近する。
ヒッサツ! フルスロットル! ゼンリン! キュウニマガール!
「ぉおりゃあ!!」
「何っ!?」
気合いと共にゼンリンシューターで殴りつけられたライドチェイサーに一瞬シグナルが浮かび上がったかと思えば、その車体が突然急カーブを描くという不可解な現象が発生した。
シグナルマガールの力が最大限に込められたゼンリンシューターの打撃、ビートマッハーマガールでライドチェイサーにそのエネルギーを流し込まれ、文字通り曲がった、いや曲げさせられたと言うべきか。
そうなったライドチェイサーは魔進チェイサーの思惑を外れ、マシンディケイダーとは反対方向のガードレールに衝突することになった。
厄介な敵を一時的に遠ざけたことを確認したマッハは前方へ逃げるアイアン目指して一気に加速させ、ダークディケイドも慌ててその後を追う。
「来てくれたんですね、詩島さん!」
「その声にそのベルト、やっぱりお前か。言っとくが、俺の邪魔だけはすんなよ?」
「わかってます! 詩島さんは逃げる奴をお願いします、僕は他の奴を倒します!」
「あ、おい! 俺に指図すんな!」
逃げるアイアン、妨害するロイミュード達、追うダブルライダー、さらにそれを追跡する魔進チェイサー。
止まった時の中で起こった追跡劇はここでさらなる展開を見せようとしていた。
✳︎
「ヒョーゥ! どうなっている!何だこの場所は!?」
「ケケケケケケケッ! 我々は富士山麓の要塞にいたはずだが……」
「報告します! 前方からこちらにやってくるバイクの集団が、仮面ライダーらしき姿もあります!」
「何っ! ようし、行くぞ! まずはライダーとその仲間、我々の邪魔をする者は全て抹殺するのだ! ヒョーゥ!」
現代においては古い型のオートバイを操るその集団のリーダーらしきジャガー型とサイ型の怪人。
彼らの名は仮面ライダー1号と激闘を繰り広げたショッカーの改造人間、ジャガーマンとサイギャング。そして彼らが率いるはショッカー戦闘員で構成された「殺人ライダーチーム」だ。
本来この世界には存在しないはずの彼らはダークディケイド達の対向車線からそれぞれのマシンで出撃する。
そして彼らとはダークディケイド達を挟んだ反対方向にもまた別の異形が姿を見せていた。
「ゾボビ・ビゲダ! クウガ!(どこに逃げた! クウガ!)」
「バゲ・ギギデギス・ギャリド……? (ギャリド、何故生きている?)まあいい、ゲゲルを再開する!」
大型トラックを運転するグロンギのヤドカリ種怪人、メ・ギャリド・ギ。
専用バイク、バギブソンを操るグロンギのバッタ種怪人、ゴ・バダー・バ。
仮面ライダークウガの宿敵であるグロンギの彼等もまた本来ならこの世界に存在するはずのない怪人達。
その条理を無視して、己に課した殺人ゲームを達成するべく、グロンギ達もそれぞれのマシンを発進させた。
誰もが予期せぬ展開の最中、離れた場からその戦闘の様子を窺う者がいた。
その姿形は下級ロイミュードの042と同じ蜘蛛型であったが、宿している感情には底知れない野望が秘められている。
「仮面ライダーに魔進チェイサー。役者は揃った」
ダークディケイドを初めとする現れたイレギュラーの存在も彼にとっては好都合。
胸に「019」のナンバーを持つ彼は混沌を極めていく戦場を静かに観察していた。
改造人間、グロンギ、ロイミュード、仮面ライダー。
交わるはずのなかった彼等の運命の交差点はすぐそこまで迫っていた。
ジャガーマン
仮面ライダー(初代)に登場したショッカーの改造人間達。初登場は53話で、多分史上初のバイク戦を仕掛けた怪人。
動物を操る能力を持ち、動物園の動物を人間に襲わせようとしていたが、ジャガーの癖に「ヒョーゥ!」とか、象に「人間を食い殺せ」と言ってるので動物そのものには詳しくなかったのかも。
新1号の記念すべき初の相手なのだが、その後も頻繁に蘇り、最近の春映画にも出演してる。ショッカーのお気に入り疑惑がある。
ライダーに倒された時、「動物達よ、ライダーを殺せぇ!」みたいな遺言を残した。他力本願はよくない。
サイギャング
これもショッカー怪人。63話に初登場で、やはりこれも何度か蘇ってるけど、こいつには致命的な欠陥があった。
サイの怪人らしく大きな角があるのだが、なんとこれが弱点なのだ。何故こんなわかりやすいところに……ショッカーのセンスかな?
パワータイプっぽい見た目に反して、初手で目潰ししてくるセコさ、死体確認を怠る等なんか頼りない。(後者はショッカーには割とある)
武器は口から吹く火炎放射。もうサイじゃなくてよくね?
彼等の共通点はバイクでの戦闘を得意とすることであり、劇場版「仮面ライダー対じごく大使」ではタッグを組み、富士山麓の要塞防衛のため戦った。
66話での謎特訓シーンは必見。
当然ながらショッカーの改造人間である彼等に世界を渡る能力はなく、この世界にいる理由は未だ謎だ。
長くなるのでグロンギの解説は活動報告でします。
ついに始まってしまったライダーグランプリ!(違う)。果たして勝つのは誰なのか、そもそもこんな乱戦をきちんと書けるのか!?
その答えは次回を読もう!